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63話 夫婦なのに姉と踊るの?

 呼びかけられて振り向いたのは、赤い髪を巻いて、唇に真っ赤なルージュを塗ったシュゼットの姉だった。


「僕は彼女と踊るから」

「えっ?」


 シュゼットは、アンドレに手を振り払われてあ然とした。

 アンドレはカルロッタの方に向かっていく。


「待ってください。陛下!」


 叫んでも彼は立ち止まらない。

 うっとりした表情で待っていたカルロッタの手を取って、うやうやしくキスをする。


「今日は無礼講だっていうから、君と踊ることにするよ。みんなも美しい令嬢が躍っていた方が嬉しいだろう」

「光栄ですわ、国王陛下」


 笑顔で応じていたカルロッタが、一瞬、シュゼットの方を見て表情を歪めた。


 それは勝者の表情。


 貴族が集まった社交の場で、王妃よりも国王に気に入られているのだと見せつけて悦にひたる女の顔だった。


 姉の意地悪な表情を見たら、シュゼットの頭から血の気が引いた。


 脳裏には、以前カルロッタから浴びせかけられた言葉がよみがえる。


 ――あんたの夫はあたしのおさがりなの。あんたは一生、あたしの手垢がついたものにすがって生きていくのよ!――


「そうでした……」


 シュゼットは〝おさがり姫〟なのだ。


 婚約しても、結婚しても、この先の未来で奇跡的に国王の子どもを産んだとしても、永遠に姉よりも幸せにはなれない。


 シュゼットが手に入れられるものは、何もかもが下げ渡されたもの。


(さびしい)


 誰一人として、シュゼットを一番に選んでくれないこの人生が。

 でも、こうなったのは自業自得でもあった。


 シュゼットは、こんな自分を愛してくれるたった一人の男性を自ら突き放したのだから。


 アンドレに傷つけられた胸に手を当てる。

 心臓の辺りがズキズキ痛い。


(ラウル、会いたいです……)


 大好きな人を思い出したら、じわっと涙が浮かんできた。


 華麗に踊るカルロッタとアンドレが、水面越しで見るように揺らめく。

 吊られた大きなシャンデリアの明かりがギラギラ目を刺す。


 いけない。

 このままでは涙があふれてしまう。


(人前で泣いては、王妃らしくありません)


 シュゼットは顔をうつむけて壇上から下りた。

 そして、人目をはばかるように廊下へ出た。


 幸いにも、衆目は踊るアンドレとカルロッタに引き付けられていて、シュゼットが下がったことに気づかない。


 たった一人、扇で口元を隠したミランダが見ていた以外は。



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