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62話 王太后の舞踏会にて

 振り向けば、大勢の紳士に囲まれたミランダが歩いてくるところだった。


 今日の彼女は一段と大胆だ。

 ホルターネックのドレスは、胸の中央に入ったスリットから豊満な胸の谷間がのぞく。

 体に沿ったデザインは腰から臀部にかけての曲線を美しく見せて、彼女の妖艶さを引き立てていた。


「王太后様、ご機嫌麗しく存じます」


 シュゼットがドレスをつまんでお辞儀すると、ミランダは、紫のアイシャドウを塗ったまぶたを半分下ろして見回してきた。


 どんな難癖をつけられるかと身を固くしていたら、つまらなさそうに息を吐かれる。


「文句のつけようがないくらいお可愛らしいこと。今日は楽しんで行ってくださいませ」

「ありがとうございます」


 シュゼットは足早にその場を後にした。


(今日は嫌みを言われませんでした……)


 それだけで幾分かほっとする。


 主催者への挨拶が済んだシュゼットに、貴族たちが挨拶をしようと近づいてきた。

 愛想笑いの大群に、体がすくむ。


(こんなに近づかれたら、お化粧で隠した傷跡を見られてしまいます)


 シュゼットはおもむろに会場へ目を向けた。


「陛下のもとへ行かなくては。皆さんはどちらにおいでかご存じでしょうか?」


 すると、貴族たちは足を止めて同じ方向を見た。

 人だかりの向こうに、国王夫妻のために用意された壇上の席がある。


「こちらにおいでですよ」


 親切な初老の紳士が名乗り出て、シュゼットを席までエスコートしてくれた。

 傷跡には気づいただろうが、直視せずにいてくれてありがたい。


 席にはすでにアンドレがいた。

 シュゼットとお揃いの宮廷服に身を包み、金の椅子にもたれている。


 見るからに面倒くさそうだ。

 集まった招待客は貴族がほとんどで、彼がいつも宮殿に呼んでいるような遊び慣れた女性はいないため、興が乗らないのだろう。


 シュゼットは、彼に一礼してから隣に腰かける。


「陛下、今日はダンスをよろしくお願いいたします。新しいお衣装、とてもよくお似合いです」

「……そう?」

「はい。さすがはフィルマン王国を治める国王陛下です」

「下手なお世辞だね」


 そっけないながら返事をしてくれるアンドレに、シュゼットは感動していた。

 この調子なら、他の話題を出しても怒られないかもしれない。


 たとえば……。


(なぜいつも私を避けられるのですか?)

(どこを直せば私を見てくださいますか?)


 問いかけたい。


 けれど、問いかけたら隣にいるアンドレが魔法のように消えてしまう予感がした。

 ぐっとこらえているとミランダの挨拶が始まった。


「わたくしが主催の舞踏会によく起こしくださいました。本日は普段のしがらみを忘れて楽しみましょう。まずは主賓である、国王ご夫妻に踊っていただきます」


 盛大な拍手と衆目が、アンドレとシュゼットに送られた。

 アンドレが立ち上がったので、シュゼットもそれにならう。

 彼の腕に手を絡めたら、はぁとため息が降ってきた。


「ラウルには我慢しろって言われたけど、君じゃやる気が出ないんだよなぁ」

「……申し訳ありません」


 いきなりのダメ出しに、シュゼットの胸がもやもやした。

 嫌われているのは感じていたが、ダンスを踊る直前に言うことだろうか。


(この方は、まるで子どものようです)


 人を傷つけることに躊躇なく、衝動的に行動してしまう。

 国王の身分に甘んじて、自らを律することもない。

 権力にのせた我がままを振りかざす大きな子どもだ。


(こんな人とどうやって夫婦になれと言うのでしょう)


 シュゼットがもやもやを必死に咀嚼しようとしている間に、アンドレは会場を見回す。

 礼装の群れの中に、チュールを重ねたひときわ華やかなドレス姿の令嬢を見つけて、パッと表情を明るくした。


「カルロッタ!」


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