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6話 未来は明るいと信じていた

 その日を境にジュディチェルリ家は一変した。


 カルロッタからシュゼットの様子がおかしいと聞いた両親は、すぐに侯爵家専属の医者に見せた。

 ふさふさの髭をたくわえた初老の医師は、シュゼットに聴診器を当て、熱を測り、十分に話を聞いた。

 時間をかけてくだされた診断は、「周りの気を引きたくて作り話をしているのでしょう」というものだった。


 カルロッタはシュゼットを嘘つきと罵りだした。

 幽霊を怖がるような子どもだったから、急に不思議なことを話すようになった妹への拒絶はひときわ強かった。


 医師の診断を聞き、おびえるカルロッタを目にしても父と母は半信半疑だった。

 しかし、シュゼットがとうてい知り得ないことを話すと、どうしてそのことを知っているのだと青ざめ、やがて激しく叱責するようになる。


「馬鹿なことを言うのは止めなさい!」


 叱られたシュゼットは思った。


(本当のことを言っているだけなのに)


 シュゼットにしてみれば、物に聞いたことを知らないふりをしている方が嘘つきだったが、それを両親やカルロッタが察してくれるはずもない。


 虚言症の妹と、素直な姉。

 両親がカルロッタばかり可愛がるようになるまで、さほど時間はかからなかった。


 使用人たちも主人にならい、シュゼットをぞんざいに扱った。

 家族にすら虐げられる変わり者だから、貴族令嬢であっても敬う必要のない相手だと認識されてしまったのだ。


 シュゼットはあっという間に孤立して、屋根裏に追いやられたが寂しくはなかった。


 人間が話してくれなくなっても、物たちは変わらず話をしてくれたからだ。


 不思議なもので、中古の品ほどよくしゃべった。

 物は多くの人に使われていくうちに言葉を覚えるので、新品はうんともすんとも言わないことが多い。


 だから、カルロッタに与えられたおさがり品は、シュゼットのいい話し相手になってくれた。


「私はおさがりが好きなんです。みなさんは私の家族みたいなものです。売り払えるはずがありません」


『たまにはカルロッタのお手付きじゃない物も欲しいじゃろう。わしらを売った金で新しい品を買ったっていいんじゃよ』


 同情してくれる本棚に、シュゼットはにこりと微笑みかける。

 強がりではない。笑えるのにはちゃんとした理由があった。


「新品はいりません。もうすぐ、手に入りますから」


 シュゼットは、白く細い左手を黄昏る空にかざした。

 オレンジ色の光に照らされて、薬指にはめた婚約指輪が光る。


 ――シュゼットはもうすぐ花嫁になるのだ。


 しかも相手は国王。

 この広大なフィルマン王国を治める若き君主、アンドレ・フィルマンなのである。


 結婚すれば、ジュディチェルリ家を出られる。

 息苦しい〝おさがり姫〟の身の上から抜け出せる。


 それが分かっているから、辛い仕打ちにも耐えられた。


「私、自由になります。新しい夫のもとで幸せになるんです」


 シュゼットの夢見る表情は、残念ながらベールに隠れて見えなかった。

 しかし屋根裏部屋の物たちは、彼女がこの結婚にどれだけ期待しているのかを感じ取って、その先が幸せであるように祈った。

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