表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/84

48話 再会は降りしきる雨の下

 シュゼットは一礼してミランダから離れた。

 そうでもしないと、みっともなく泣き叫んでしまいそうだった。


 早足で廊下をゆく。

 シュゼットのただならぬ様子を感じて、廊下に飾られた彫刻や絵画が心配そうな声をかけてくる。


(聞きたくないです)


 耳を塞いでがむしゃらに走る。

 足がたどったのは、いつか宮殿を抜け出すために通った道だった。


 脇門に行くと、例の門番がぽんぽんのついた帽子を被って立っていた。


「やあ、この前の……。今日はずいぶんと汚れてるな。それに、そのベールは?」

「っ、なんでもないです」


 シュゼットはベールを外して、サロペットのポケットに突っ込んだ。

 陽が落ちて暗くなってきたおかげで、泣き顔は見られずにすんだようだ。


 そもそも門番は、シュゼットを見ていなかった。

 手に持った鏡に帽子を映してデレデレしている。


「これ、誕生日にあげた手袋のお礼にって彼女がくれたんだ。冬用なんだけど嬉しくって被ってきたんだよ。これから外出かい?」


「はい。また許可証はもらえてないんですけど……」

「いいよ、通りなよ。悪人じゃないって分かってるから大丈夫。おれはもう交代時間だけど、次のやつにも女の子が来たら通してやってって言っておくから」


「ありがとうございます。あと、伝言を頼めますか。王妃様付きのメグという侍女に、少し息抜きをしにいってくるから大騒ぎしないでほしいと」

「わかった。必ず伝えておくよ」


 シュゼットはありがたく門を通らせてもらった。


 暗い細道を、街の明かりを頼りに進んでいると、ぽつぽつと雨が降り出した。

 傘はないので濡れながら進む。


 だいぶ気温が上がってきたとはいえ、夜の雨は冷たかった。

 頬を伝った雨粒をぬぐいもせずに、シュゼットは街灯のともった煉瓦の街を歩く。


(どこに行きましょう……)


 ジュディチェルリ家には戻れない。

 シュゼットが姿を見せたら、さんざん罵倒されて宮殿に連れ戻されるだろう。


 宿を取るにもお金がない。この都には人さらいも出るし野犬もいるという。女性がこの状態で歩いていたら、まず間違いなく標的になってしまう。


 いっそ、そうなった方がいいかもしれないと思い始めていた。


(もう、この世からいなくなりたいです……)


「シシィ?」


 呼ばれてはっとした。顔をあげると、傘をさして鞄を下げたエリックが、驚いた顔でこちらを見つめていた。


「ダーエ先生……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ