48話 再会は降りしきる雨の下
シュゼットは一礼してミランダから離れた。
そうでもしないと、みっともなく泣き叫んでしまいそうだった。
早足で廊下をゆく。
シュゼットのただならぬ様子を感じて、廊下に飾られた彫刻や絵画が心配そうな声をかけてくる。
(聞きたくないです)
耳を塞いでがむしゃらに走る。
足がたどったのは、いつか宮殿を抜け出すために通った道だった。
脇門に行くと、例の門番がぽんぽんのついた帽子を被って立っていた。
「やあ、この前の……。今日はずいぶんと汚れてるな。それに、そのベールは?」
「っ、なんでもないです」
シュゼットはベールを外して、サロペットのポケットに突っ込んだ。
陽が落ちて暗くなってきたおかげで、泣き顔は見られずにすんだようだ。
そもそも門番は、シュゼットを見ていなかった。
手に持った鏡に帽子を映してデレデレしている。
「これ、誕生日にあげた手袋のお礼にって彼女がくれたんだ。冬用なんだけど嬉しくって被ってきたんだよ。これから外出かい?」
「はい。また許可証はもらえてないんですけど……」
「いいよ、通りなよ。悪人じゃないって分かってるから大丈夫。おれはもう交代時間だけど、次のやつにも女の子が来たら通してやってって言っておくから」
「ありがとうございます。あと、伝言を頼めますか。王妃様付きのメグという侍女に、少し息抜きをしにいってくるから大騒ぎしないでほしいと」
「わかった。必ず伝えておくよ」
シュゼットはありがたく門を通らせてもらった。
暗い細道を、街の明かりを頼りに進んでいると、ぽつぽつと雨が降り出した。
傘はないので濡れながら進む。
だいぶ気温が上がってきたとはいえ、夜の雨は冷たかった。
頬を伝った雨粒をぬぐいもせずに、シュゼットは街灯のともった煉瓦の街を歩く。
(どこに行きましょう……)
ジュディチェルリ家には戻れない。
シュゼットが姿を見せたら、さんざん罵倒されて宮殿に連れ戻されるだろう。
宿を取るにもお金がない。この都には人さらいも出るし野犬もいるという。女性がこの状態で歩いていたら、まず間違いなく標的になってしまう。
いっそ、そうなった方がいいかもしれないと思い始めていた。
(もう、この世からいなくなりたいです……)
「シシィ?」
呼ばれてはっとした。顔をあげると、傘をさして鞄を下げたエリックが、驚いた顔でこちらを見つめていた。
「ダーエ先生……」