表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/84

45話 たとえ異能を知られても

 次の日の午後。


 シュゼットは実家から持ってきたリメイク品のサロペットを身につけ、ベールの上に麦わら帽子を被って宮殿の脇にある庭園にやってきていた。


 先にきて薔薇の手入れをしていたリシャールは、その姿を見て驚く。


「お、王妃様?」

「こんにちは、リシャール様。今日はとってもいい天気の農作業日和ですね」


 リシャールは、麻のズボンをはき、軍手をはめて枯れた葉や茎を集めていた。

 陽に当たった黄金色の髪はまばゆく輝いて、彼が泥に汚れていても王子だと教えてくれる。


「こんな服装ですみません。王妃様はどうしてここに?」

「薔薇を育てるお手伝いしたいと思ってきたのです。やはり、咲く前につぼみがしおれてしまっているようですね」


 晩餐会で生けられていた薔薇は一見すると綺麗だったが、近くで見ると花びらの端が変色していた。


(庭に咲いている残りの花も同じような状態だと予想していましたが、けっこう深刻なようです)


 薔薇の木には多くのつぼみがついていた。しかし、その大部分は咲くことなく変色して枯れてしまっている。


 シュゼットは、リシャールのそばにあるバケツをのぞき込んだ。

 摘み取ったつぼみと、小さな脇芽が入れられている。


「余分なつぼみや脇芽を摘んでありますね。この作業をしないと栄養が取られて綺麗な花が咲かないと、庭師に教えてもらったことがあります。それなのに、どうして枯れ落ちてしまうのでしょうね」


 リシャールは、がっかりした様子であまり花が咲かなかった薔薇の木を見下ろした。


「手を尽くしたんですけど、僕ではもうやりようがありません。ラウルに相談したら、木にも寿命があると言われてしまったんです。お母様のように、この木ももうすぐ死んでしまうんでしょうか?」


 木にも寿命があるのは事実だ。

 長生きする薔薇の木で十年から二十年ほどである。


(リシャール様が十歳ですから、そろそろ寿命ということも考えられますが……)


 今にも泣き出しそうな義弟の姿を見たら、シュゼットはもう黙っていられなかった。


「聞いてみましょうか」


 物と話せる能力は秘密にしなければならない。

 そうしないと実家で〝おさがり姫〟と虐げられていた頃の自分に逆戻りしてしまう。


 でもシュゼットは、自分の未来を犠牲にしてでもリシャールの心を救いたいと思った。


「え? 聞くって、薔薇にですか?」


 混乱するリシャールに頷いて、シュゼットは問いかける。


「薔薇さん、上手に咲いてくれないのはなぜですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ