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35話 事故の記憶

 礼拝をつつがなく終わらせて執務室に戻ったアンドレは、遅れてやってきたラウルに大目玉を食らっていた。


「陛下、いいかげんにしてください。貴方が王妃殿下をないがしろにしているせいで、王太后の従者たちにまで舐められるようになっているんですよ」


 目を吊り上げたラウルは仁王立ちで、アンドレの方は床に座らされている。自分は国王なのにと、アンドレは唇を尖らせた。


「なんで僕のせいなのさ。お前だって王妃の姿は見てるだろう。いつも顔を隠していて、何を考えているのか分からない女だよ。嫌になるのは当然じゃない?」

「彼女が顔を隠しているのは貴方のせいでしょう! 幼い彼女に怪我を負わせたのを、忘れたとは言わせません」


 不幸な事故が起きたとき、ラウルも園遊会に参加していた。

 当時からアンドレの監視役としての役割を国王と父親に期待されていたのだ。


 アンドレは子どもの頃からやんちゃだった。

 貴族の令息たちを相手に、木の棒を振り回して騎士の真似事をするくらいに。


 令息たちは、決して王子に怪我をさせてはならないと親に言い含められていたので、誰一人としてアンドレとやりあう者はいなかった。

 一方的に追いかけられ、叩かれ、泣く羽目になる。


 いじめのようなごっこ遊びを止めるよう、ラウルは何度もアンドレに言った。

 アンドレは言われたときだけ素直に頷き、少し目を離すとまた棒を振り回す。


 それが五回も続くとさすがに馬鹿らしくなって注意するのを止めた。

 いっそ大怪我をして痛い目をみろと思ったのだ。


 ラウルは、暇つぶし用に持ってきた医学書を開いて、庭園のすみで紅茶を飲んだ。


 うるさい監視役がいなくなったアンドレは、男爵家の気弱な男の子を追いかけだした。

 男の子は木の上に逃げたが、その後を追ってアンドレも登っていく。


 太い枝の上に立ち、ぶんぶんと棒を振り回すアンドレを、ラウルは冷ややかに見た。


(何をしているんだ)


 呆れた視線を本に落とそうとした、その瞬間、アンドレが足を踏み外した。

 ラウルは、落下地点によちよち歩く赤ちゃんがいるのを見て叫んだ。


「あぶない!」


 その声でアンドレがわずかに背を丸めたおかげで、体は直撃しなかった。

 しかし、手に持っていた棒は赤ちゃんの頭に叩きつけられた。


 ガツン。

 人体から聞こえるはずがない、固い音がした。


(助けなければ!)


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