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25話 とつぜんの出会い

「いきなり来てすみません、ガストン先生。少し息抜きがしたくて……。個人的な訪問なので、王妃ではなくこれまで通りシュゼットとお呼びください」


 シュゼットは手土産の果物をガストンに渡した。


 木の本棚を並べただけの簡素な図書館は、乾燥した本の独特な匂いがする。

 お日さまのような、土のような、お菓子のような、落ち着く匂いだ。


 利用客は、この周辺に住んでいる決して裕福ではない人々で、今日も数名しかいない。

 ここは、孤児院に来た時は必ず立ち寄るシュゼットのお気に入りの場所だった。


(もう来ることはないと思っていました)


 しみじみ感じ入るシュゼットに、ガストン先生はなるほどと頷く。


「王妃というのは気が抜けないじゃろうな。好きなだけ息抜きしていきなさい。そうだ。シュゼット様が好きな恋愛小説の新刊が何冊か入ってきておるよ」


「本当ですか。私、棚を探してきます!」


 シュゼットはカウンターを離れて本棚の間に入っていった。


 家で好きな本を買うことが許されなかったシュゼットは、ガストン先生にお願いして蔵書に恋愛小説を入れてもらっていた。

 ガストン先生には書店を営んでいる幼馴染がいて、店に出す前に本を確保してくれるので、いつもシュゼットが一番乗りの借り手だった。


 ダーエの新刊がないときは、リクエストして取り寄せてもらうこともあった。

 シュゼットがこれまでのエリック・ダーエの作品を制覇しているのは、この図書館とメグのおかげだ。


 恋愛小説がある奥の方へ進んでいくと、ちょうどダーエの本が取りそろえられた棚の前で、一人の青年がたたずんでいた。


 窓から差し込む光に照らされて、ざっくりと下ろした金髪が輝いている。

 まるで天上から降りてきた天使のような美貌に、シュゼットはぽうっと見とれた。


(なんて綺麗な方でしょう)


 鼻筋の通った横顔は、宮殿に飾られた賢者の像に似ている。

 少し顔を傾けて立つ姿勢は棒のようにまっすぐで、頭一つ抜きんでた長身を際立てていた。この辺りの住人ではないと分かるのは、ラフな服装ですら礼装のように感じさせる高貴さがにじみでているから。


 近寄りがたい雰囲気はあるものの、怖くはなかった。


 並んだ本に注ぐ視線が温かいからだ。

 読書家の目はみんなこうだ。


 青年は、立ち止まっているシュゼットに気づいて、碧色の瞳をしばたたかせた。


「失礼。今よけます」

「いいえ、よけなくてけっこうです! 男性で恋愛小説を見ている方が珍しくて、じろじろ見てしまっただけなので……。こちらこそ失礼しました」


 シュゼットは深く頭を下げた。

 動いた拍子に傷跡が見えたらしく、青年はすぐに視線を外してくれた。


 よく見ようと直視する人が多い中、見ないように配慮してくれるとは、いい人だ。

 さりげない気遣いに、シュゼットの胸がトクンと騒いだ。


(この人も、ダーエの小説で胸を焦がしたりするのでしょうか?)


 本棚を見るふりして横目で青年を観察していると、ガストン先生の声がした。


「ダーエさん。エリック・ダーエさん!」


(え……?)


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