21話 贈り物は自分の手で
落ち込むシュゼットに、後ろに連なるメグが囁いてきた。
「そんなにうつむくとベールが落ちてしまいますよ。こういうときは楽しいことを考えましょう。そういえば、先日ダーエの新刊が出たそうです。店ではすぐに売り切れになってしまったらしくて、わたしはまだ手に入れてないんですけどね」
情報通のメグが手に入れられなかったとは珍しい。
彼女は発売日がわかったら休暇を取って、開店直後に買い求めるような熱狂的なダーエファンなのに。
(恐らく私のせいで買いに行けなかったんでしょう)
メグは王妃として多忙なシュゼットをそばで支えてくれていた。
一カ月もの間、一度も休みを取っていないので、当然ながら本を買いに行く暇もなかったはずだ。
大好きなダーエの小説より自分を選んでくれて、嬉しさがこみ上げる。
ぽうっと火が灯るような温かさに身をゆだねると、じめじめしていた気持ちが乾いていった。
(メグは太陽のようです)
ぽかぽかした明るさに、シュゼットはどれだけ救われてきたか分からない。
「メグ、ありがとうございます」
「私は何もしていませんよ?」
優しいメグはきょとんとする。
自分がどれだけすごいことをしているのか自覚していないようだ。
(お礼がしたいです。メグが喜びそうな物は、やはりダーエの新刊でしょうね)
発売日に買いにいけないまま売り切れた傑作だ。
もしもシュゼットが手に入れて渡せたら、彼女は飛び上がって喜んでくれるに違いない。
店頭にはないというが、シュゼットはあるかもしれない場所を知っていた。
いわゆる穴場だ。
そこなら、手付かずのダーエの新刊が保管されている可能性が高い。
新刊を手に入れるには、まずはそこに出向かなければならない。
(とはいえ、私は王妃です。外出するとなると大がかりになりますし、正当な理由も必要です)
どうにかして、メグや周囲の者に知られずに出かけられないだろうか。
一計をめぐらせたシュゼットは、メグに耳打ちした。
「屋根裏部屋から持ってきたおさがり品はどこにありますか?」
「王妃様がリメイクされた洋服のことでしたら、支度部屋の奥にしまってありますけど……」
どうしてそんなことを聞くのだろうと不審げなメグに、シュゼットは穏やかに笑いかけた。
「久しぶりに、彼らとお話してみたいと思っただけです」
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引き続き「おさがり姫の再婚」をよろしくお願いいたします。