18話 探しものなら役に立つ
シュゼットは鏡台の前でしゅんとした。
自分付きの侍女しかいないので、ベールを被らずに傷跡を夜風にさらしている。
落ち込むシュゼットを、ブラシを片付けていたメグが鼓舞する。
「今晩こそいらっしゃるかもしれませんよ。たずね人は油断した頃に来るって相場が決まってるんですから。ねえ?」
しかし、侍女たちは話に乗ってこなかった。
シュゼットの身支度にはメグの他に四名の女性がついているが、今日は顔色悪く足下を見つめながら部屋を出たり入ったりしている。
「どうかしましたか?」
シュゼットに呼びかけられたソバカスの多い侍女は、ふにゃと泣き顔になった。
「申し訳ありません、王妃様! わたしの不注意でイヤリングの片方を落としてしまったみたいで!」
侍女たちが忙しなく動いていたのは探し物をしているせいだったらしい。
どうりでみんな、下を向いて歩いているわけだ。
(今日付けていたのは、蝶々の形をしたイヤリングでしたね)
細く伸ばした銀を折り曲げて作った銀線細工の蝶に、シュゼットの瞳と同じ青い宝石をはめ込んで作られたイヤリングは小さい。
明かりのとぼしい夜に見つけるのは難しい。
侍女は震えている。シュゼットに叱責されるのが怖いのだ。
シュゼットが身につけている宝飾品は、代々の王妃に受け継がれてきた物である。
なくしたら始末書を書かされるだけでなく、場合によっては弁償しなければならない。
すでに自分を責めている彼女をこれ以上包ませないよう、シュゼットは優しく励ました。
「小さな物でしたから落としても仕方ありませんよ。私が見つけますから安心してください」
「王妃様が!? 探し物なんてそんなことさせられません!」
慌てる侍女をメグが制した。
「静かに。王妃様にはお考えがあります」
すると、みんなピタリと動きを止めた。
静かになった部屋で、シュゼットは目を閉じて耳を澄ます。
「今日のイヤリングさん、どこにいらっしゃいますか?」
視界がさえぎられた分、感覚が研ぎ澄まされた。
集中すると、それまでは気にならなかったいろいろな音が聞こえる。
わずかに開けた窓から入る夜風がカーテンを揺らす音。
侍女の誰かがわずかに身じろぐ音。
廊下を巡回する衛兵の鎧が立てるカチャカチャという音――。
『ここよ! 早く拾いなさいよ!』
甲高い声が足下から聞こえた。
ぱっと目蓋を開けてドレッサーの下をのぞき込むと、ちょうど猫足の辺りに無くなったイヤリングが転がっていた。
「その足のところにあります」
「本当だ!」
泣き顔だった侍女はキーキー騒ぐイヤリングを拾い上げて、ほっとした風に笑った。
「見つけてくださってありがとうございます、王妃様! 耳を澄ますだけで、どうして落し物の位置が分かったんですか?」
「それは……」
シュゼットは、器物の声が聞こえる異能について話すべきか悩んだ。
幼い頃は自分の異常性がわからなくて失敗した。
正直に伝えることで人生が一変するだなんて、考えつく子どもの方が少ないだろうけれど……。
当時と同じことをすればどうなるか、分別のついた大人になったシュゼットには分かる。
王妃様がご乱心だと大騒ぎになるのは確定だ。
メグのように、言われたままを受け入れて「すごい力ですね」と感心してくれる人物が宮殿にいるとは思えない。
こっそりメグをうかがうと、彼女も首を横に振っている。
(そうですよね。みなさんには悪いですが秘密にしておきましょう)