14話 夫は姉と愛し合っていた
一目散に国王の部屋へ向かう。
いきおいよく扉を開いて、控えの間の絨毯を踏んだ、そのとき。
「本当に悪い王様ね」
聞き覚えのある声がして、シュゼットは凍り付いた。
私室へつながる扉がわずかに開いていて、声はそこから聞こえてきていた。
隙間にそっと目を当てる。
部屋の中には親密そうに抱き合っている一組の男女がいた。
片方は夜着に着替えたアンドレ。
そして、長椅子に座った彼の頬に手を当てて、食らいつくようなキスをしている紫ドレスの女は――。
(お姉さま)
心臓が止まる心地がした。
なぜカルロッタがここにいるのだろう。
シュゼットの両親と姉は、今晩は客間に滞在することになっていた。宮殿にはいるが国王の私室に入る許可は下りていないはずだ。
混乱するシュゼットの耳に、姉の笑い声が突き刺さる。
「今頃シュゼットは泣いてるでしょうね! 初夜なのにいつまでも国王がやってこないなんてかわいそうだわ。今からでも行ってあげたら?」
「嫌だね。どうして国王の僕が、あんな傷物を抱かなくちゃならないの?」
心の底から面倒くさそうな声でアンドレは答えた。
シュゼットのベールをまくり上げたときのように眉をひそめているが、手はカルロッタの腰をしっかりと抱きとめていた。
「式のときに初めて顔を見たけど、たいして美しくもないし、体つきも貧弱だし、物静かで暗い。最悪な女と結婚したと後悔したよ。お父様が死んでやっと婚約破棄できると思ったのに、ラウルが許してくれなくてさ。あいつは口うるさいから、仕方なく結婚するよりなかったんだけど」
アンドレは、カルロッタの白い首筋に甘えるように口づけた。
「どうせ結婚するなら君とがよかったな。スタイルもいいし、ジュディチェルリ侯爵家の血も流れてるし。どうして妹の方なのかなあ。怪我させたのは大昔のことなのにさ」
カルロッタに触れるチュッチュッというリップ音がおぞましくて血の気が引いた。
頭が真っ白なのに、シュゼットの腹の底では黒い思考がぐるぐると渦をまく。
(仕方なく結婚した?)
この結婚に、アンドレは乗り気ではなかったのか。
面会をすっぽかすこともなく、結婚式の打ち合わせも順調だった。
しかし、よく思い返せばいつも不機嫌そうだった気がする。
政務が忙しくて寝ていないのだろうと、のん気に考えていた過去の自分は馬鹿だ。
アンドレは、カルロッタの方が良かったのだ。
怪我を負わせた償いにシュゼットを愛してくれる気なんて、さらさらなかったのだ。
新郎の気持ちを置き去りにして決められた婚約と、彼の好みには合わない花嫁。
こんな組み合わせでは、結婚まで駒を進めたとしても幸せになるはずがない。
(夢は、しょせん夢なのですね)
絶望に襲われて、シュゼットはその場に倒れ込んでしまった。
ガタッという物音に、むつみあっていた二人は振り返る。
「誰かいるの?」
王妃様は見た…!
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