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13話 初夜なのに一人きり

 結婚式の夜、シュゼットは巨大なベッドの前に立っていた。


 ここは国王と王妃の寝室だ。

 ビロードの天蓋や鳥の彫刻をほどこされたサイドテーブル、金の椅子などどれもきらびやかで、屋根裏暮らしが長かったシュゼットは落ち着かない。


 湯あみを終えた体は、メグが刷り込んでくれた香油のおかげで花の匂いがする。

 長い髪を丁寧にとかされたのも、リボンを引けばするりと脱げるネグリジェを着せられたのも眠るためではない。


 これからやってくる初夜のためだ。


「ここに国王陛下がいらっしゃるのですね……」


 式で見たアンドレの姿を思い出してシュゼットは胸を熱くした。

 心臓の上に手のひらを当てると、ドキドキと弾む鼓動が伝わってくる。


(前に陛下にお会いしたときは、こんな風にならなかったのに)


 年に数度ある面会や婚儀の打ち合わせでは、シュゼットは必ずベールを被っていた。

 アンドレは薄布をへだてた向こう側にいて、夫婦になると言われても現実感がなかった。


 本当に結婚するんだと実感したのは、婚儀の最中。

 マリアベールを彼の手でめくられて、アンドレの顔をじかに見たときだった。


 思えば、年頃になってから男性の顔を近くで見たのは初めてだ。


 少し眉をひそめて見つめてきた彼の、アメジストのような紫の瞳が揺らぐ様に、シュゼットは心を打ちぬかれた。

 そして、この人に尽くしたいと思った。


 傷物のシュゼットをこころよく花嫁に迎えてくれて、大怪我を負わせた過去にいまだ心を痛めている優しい夫に、もう大丈夫だと一生かけて伝えていきたい。


(今晩はまた辛い思いをさせるかもしれませんが、慣れていただかなくては)


 今、シュゼットはベールも被っていなければ傷跡を隠す化粧もしていない。

 ありのままの自分をアンドレに見てもらいたいから、彼の前でだけは取りつくろわないと決めた。


(早く会いにきてくださらないかしら)


 侍女たちが去った寝室で、シュゼットは置時計を見つめながらアンドレの訪れを待った。

 しかし、二時間が経っても国王の支度部屋につながる金の扉は開かなかった。


(何かあったのでしょうか?)


 金の扉に手をかけるが開かなかったので、シュゼットは小声で問いかけてみる。


「ドアノブさん、こんばんは。私はシュゼットと申します。開かないのはどうしてですか?」


『ごきげんよう、新しい王妃様。開かないのは、国王陛下が内鍵をかけておられるからですわ。こんなことは、第十三代国王フェリペス陛下がお倒れになった際、うっかりかんぬきを閉めてしまったとき以来ですことよ』


「そんなことがあったんですか!?」


 シュゼットは両手で口を覆った。


 もしかして、アンドレも急に倒れてかんぬきを閉めてしまったのでは。

 シュゼットを寝室に入れたら侍女や世話人が去ったように、彼も部屋に一人きりの可能性がある。


 今、アンドレを助けられるのはシュゼットしかいない。


(こうしてはいられません)


 シュゼットは、近くに置いていた短いベールを被り、寝室を駆けだした。

 廊下に出たが、人気がない。まるで人払いでもしたかのようだ。


 嫌な予感がした。


(陛下……!)


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