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12話 誓いの言葉はいつわりなく

 困惑していたら、ラウルはスッと視線を下げて聖書を開いた。


「第十八代国王アンドレ陛下にお聞きします。隣に立つシュゼット・ジュディチェルリ様にフィルマン王族の一員に迎えることに異論はありませんね?」

「ない」


 迷いなく告げられた言葉に、シュゼットの胸が高鳴った。

 アンドレもまた今日を心待ちにしてくれたようだ。


 少女らしく頬を染めるシュゼットに、ラウルは再び鋭い目を向けた。


「シュゼット・ジュディチェルリ様、病めるときも健やかなるときも、生涯を陛下に捧げると誓えますか?」

「誓います。私の一生をかけて陛下を支えていきます」


 王妃としての新たな人生は辛さの連続だろう。

 しかし、おさがり姫として虐げられてきたシュゼットには耐えられる自信があった。


 血のつながった家族に一員と認められない日々に比べたら、ありとあらゆる責め苦が軽く感じられるはずだ。


 シュゼットが嘘偽りない声を響かせると、ラウルの表情がふびんそうに変わった。


(何か問題があったのでしょうか……)


 シュゼットは不安になる。

 しかし、誓いの言葉の途中で問い詰められるはずもない。


「……そうですか。これにてお二人を夫婦と認め、シュゼット・ジュディチェルリ様の名をシュゼット王妃殿下と改めて儀式を進めさせていただきます」


 式典は次の段階に移った。

 新たに王妃となったシュゼットを披露するのだ。


(この顔を、みなさんに見ていただくのですね)


 メグが化粧してくれたから大丈夫。

 シュゼットはそう自分に言い聞かせて体をひるがえし、参列者の方を向いた。


 正面に回ったアンドレは、シュゼットの顔を隠していたベールをめくる。

 傷跡のある辺りを見て眉をひそめたのは、この古傷をつけたのが自分だと思い出したのかもしれない。


 彼に辛い思いをさせないため、シュゼットは彼の腕に軽く触れた。


(大丈夫です。私は今、幸せですから)


 アンドレに腕を下ろしてもらい、前に出て参列者に微笑みかけた。


「ほう、これは」

「なんと美しい花嫁だ」


 参列者たちは、初めて見るシュゼットの姿に感嘆の声をもらし、盛大な拍手を送ってくれた。

 特注のファンデーションのおかげで、遠目に傷跡は見えなかったようだ。


 両親とカルロッタがさらに驚く顔を見て、シュゼットの胸がすいた。


(お父さま、お母さま、そしてお姉さま。私は幸せになります)


 今まで虐げられた分を取り返すくらい、幸福で満ち足りた人生を歩んでみせる。

 これまで苦しんだ自分には、その資格があると思った。


「これにて、シュゼット様は王妃と認められました」


 ラウルの合図でアンドレがベールを戻してくれた。

 二人揃ってラウルの方へ向きなおる。


「お二人の行く道に、そしてこのフィルマン王国に、祝福があらんことを……」


 結婚式を締めくくる声には、ほんの少しだけ不安が残っていた。

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