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天国へスキャットを披露しにいった男

その後は!どうなったんですか?

「デビューシングル「スキャットマン」のレコーディングには6時間もの時間がかかったよ。この曲は『吃音に悩む子供達が逆境を乗り越えるため、元気を与えよう』という考えをもとに作ったからね。最初のころはこのシングルの勢いは鳴かず飛ばずでね、だけど少しずつ人気を伸ばしはじめ、最終的にはほとんどの国のチャートでトップを飾って、全世界で約600万枚もの売り上げを記録するに至った。そしてその瞬間に僕は象使いになれたんだ。吃音という象を飼いならす象使いにね。」

 すごい!・・・そこまで上の世界に上ったらさぞやすごい生活を送れたのでしょう?

そんな人が僕のような底辺の人間の前に来て励まされても自分にはどうすることもできませんよ。

「何をそんなに卑屈になって・・。そもそもそんな豪勢な生活を送った記憶はまったくないなあ。」

 嘘だ。世界中のトップアーティストがそんなことあるもんか。

「おいおい最初に言っただろう。僕は君の妄想だとね。」

・・・えぇ?

「そもそも今までの僕の説明なんかどっかのウィキのペディアとかに載ってそうな門限だっただろう?これは君の記憶さ。君がかつて自分の吃音を気にして何気なく調べた過去の自分の記憶の集大成さ。だからそこに載っていたこと以外僕は知りようがない、だって知らないからね。」

 私の・・・記憶が・・そんなのあるわけない。私の記憶が私を励ますための妄想に具現化するなんて!

「なってしまったものは仕方ないだろう。ここまで長々と話をしてしまったがだ。私が言いたかったことはだね、吃音症はなおすだけじゃないってことさ!隠すだけじゃないってことさ!飼いならすんだよ!そうすれば君も君だけの象使いになれるのさ!」

 簡単に言ってくれるっ。僕の記憶なら僕がどんなみじめな過去があったか知ってるくせに!

「要はほかの道があるってことを伝えたかったのさ。僕が現れるってことは君が精神的に相当参ってしまっているからかもしれん。そんなときはスキャットマンを口遊んでみなよ、少しは前向きになれるはずさ。」

 そんなの・・そんなことで・・。

「それは君が聞いた時の記憶だったり他人が情報源だったりの不完全の君の記憶さ。だけれどもみんな吃音症という巨大な象に挑んだチャレンジャーたちが君を君の不完全な記憶で応援する!きっと君が参った時僕のような存在がいっぱい君の周りに現れるはずさ!」

 そう言い切ったジョン・ポール・ラーキンは私の前から消え去った。初めからいなかったのように静寂な部屋の中を電球の光が照らす。

 


・・・その後の、というか数分後のことなのだが自分はパソコンの前で彼のことをウィキなペディアで調べていた。

 彼は数週間にわたって全英トップ10に留まり続けスキャットマン・ジョンの名は一躍有名となった。

日本では1995年、「スキャットマン」や「Su Su Su Superキレイ」の大ヒットで日本国内でもアルバム売上が250万枚[7]のミリオンセラーを記録し、一躍時の人となった。

『日本の国営のニュース』や『ミュージックのステーション』にも出演していたらしい。アメリカよりも日本での楽曲の売上が多かったことから、前述の「Scatman」のヒット以降はプロモーションのために毎年のように来日していたようである。

我が国の吃音者の団体とも深い交流があり、1996年の日本での音楽大賞の賞金を同団体に全額寄付、さらに同団体の全国大会にビデオ出演なども行っていたが、当時の日本でのプロデュースは、ジョンの真摯な姿勢、深い歌詞などを真剣に広めようとしていたとは言い難かった。また「スキャットマン」は前述の通り吃音の問題を歌っているのだが(歌詞にも吃音という単語が多く出る)、吃音の社会的な認知にはつながらなかった。

彼の担当だったスタッフは、ジョンのことを「贅沢を言わない、人一倍仕事をする、周りにいつも感謝するとても優しいおじさまでした」と語っている。あと、巨峰が大好きだったという。

晩年喉頭癌を患っていたためにて最後のアルバム『Take your Time』のほとんどを女性ボーカルが歌い、彼自身が書いた歌詞も「Dream again」のみであった。

 死後は妻に火葬と海上への散骨を望んでいて、没二年後に希望通りカリフォルニアのマリブ沖のヨットから、多くの友人とジョンのジャズ・トリオのメンバーに見守られながら散骨を行ったことを明かした。

 彼は晩年スキャットマン基金という吃音者を支援するために設立した基金を設立した。彼はこの活動に非常に熱心であり、先ほど述べた日本の音楽大賞の賞金を全額寄付するなどする等、精力的に活動した。

 当初ジョンは日本と同様「スキャットマン基金は吃音者の自己受容を教えることに使用するべき」という、技術革新よりも吃音者の心身のケアに重点を置いた意見を持っていたが、アメリカとドイツは「技術革新も重要である」とインターネットを通じて議論を展開した。二つの意見に分かれ、白熱した展開を見せたがジョンはこの議論の中で考えを徐々に改め、最終的に『自己受容と流暢に話す技術のどちらが優先するか』という例を出し、

 「もしあなたが、現時点で流暢に話す技術を身につけたければ、技術が最も優先される」

 「もしあなたが、現時点で自己受容をしたければ、自己受容が最も優先される」

 「この我々の議論から得た結論は、自己受容も技術も両方とも特有の意見であり、今を生きるその人が回復のどの段階にいるかによるものではないか。もし、ある吃音者が他の吃音者のための答えをもっていると思うなら、その吃音者に対しても、また他のもっと多くの吃音者に対しても、不当に扱っていることになるのかもしれない。心を開くことと、他の意見を尊重することは、私たち吃音者全員が心の安定を得るのに不可欠である。 私たちひとりひとりの通る道は違っているし、それゆえに尊重されるべきである」

「吃音者の人数だけ、回復についての意見がある」

と回答を答え彼の妻もこの活動に理解を示していて、ジョンの晩年には

「私たち家族に寄付をするなら、それよりも『スキャットマン基金』に寄付し、吃音症に悩む人たちに貢献してあげてください」というメッセージを残していた。

 ここまで調べて僕は何とも言えない気持ちになった。自分の妄想が具現化したこともだが自分の知らないところで少しだけ、でも確実に吃音症のために世界が変化したことを、それをたった一人の音楽家の天国にスキャットを披露しにに行った男が成し遂げていたのである。

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 とりあえず病院行ってハローワーク行くか・・

 それぐらいの前向きさを僕は手に入れた。

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