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第五話 二度の夢と二度の『異変』

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 最近は以前にも増して夢を見る頻度が増えたと思う。


今のところ『三夜』連続で見ている。以前は多くて三日に一回程度で、少ないときだと二週間に一回程度だった。しかも起きてから夢を記録するためにメモを取ろうとスマートホンを探しているうちに忘れてしまうこともあった。


 夢を見る頻度以外にも変化はあった。


 夢を見ているときに意識がはっきりしている気がする。初めに『異変』が起きたときの夢の中では、意識がはっきりしている場面もあれば、記憶が飛び飛びで意識もおぼろげだった場面もあった。それでも『異変』が起きる前と比較すると、かなり意識ははっきりしていたと思う。二回目の時は、体の自由こそなかったものの意識ははっきりとしていて、『ここは夢の中』だと認識することが出来た。


 『三回目と四回目』の夢の中では、意識は二回目の時と同じ……いやそれ以上にはっきりとしていたし、ある程度体の自由もあった。何せ、自分の意思で『夢の中の登場人物』と受け答えをすることが出来たのだから。


(少しずつではあるが、夢の中で出来ることが増えている気がする……)


 夢から覚めた後、換気扇の下で煙草を吸いながらそんなことを考えていた。


 私が立っている後ろの棚にはお菓子が置かれている。


――『アル〇〇ート』というお菓子だ。


 チョコがかかったビスケットで、パッケージには帆船のイラストが描かれている。昔からあるお菓子で結構有名だと思う。まだ封は切られていないが、ファミリーサイズの袋の中には小分けのチョコビスケットがたくさん入ってるのだろう。このお菓子は昔からたまに食べたくなることがある。ちなみに、日本の刑務所の中の様子を描いた映画の中で、このお菓子が模範囚への褒美に出されていたのを見たことがある。あとで食後のおやつにしようと思う。今から楽しみだ。


「ふぅ……」


 自宅で煙草を吸うときは台所の換気扇の下に移動するのだが、暖房が効いていないこともあり寒い。もともと何処かから隙間風が入ってきていることもあわせて冬場は特に冷える。真冬で気温が零度以下になる日は手足をプルプル震わせながら吸うこともある。

 『そこまでして吸いたいか?』と思う人もいるだろうが、私自身も同じ気持ちだ。ずっと前から止めたい気持ちはあるが止めることが出来ずにいる。子供の頃の『ダメな大人』像にばっちり当てはまってしまっている。


 本来なら今も寒さで震えながら煙草を吸っているはずなのだが、今日はそこまで寒さを感じない。いや、寒いには寒いのだが、今着ている服が寒さを軽減してるうえに、その入手経路が『夢の中産』なこともあり、気分を高揚させて体を暖めていた。


(あったけぇ……)


――着ているのは『MA-1』と呼ばれるジャケットだ。


 ナイロン生地のジャケットであり、一目見ただけで冬用のジャケットだと分かった。

 ただ、おそらく私が着ているものは本物ではないと思う。本物のMA-1はもともと軍用に生産されたものらしく、軍用機内で操縦の妨げにならないように余計なものを省いた機能性重視のものらしい。

 私が着ているものは胸ポケットこそないものの、左右にジッパー付きのポケットが付いており、なによりやたらとワッペンが付いている。こういったものは操縦中に引っかかったりするおそれがあるため付いていないことがほとんどらしい。


 とはいえ、本物ではない=偽物というわけでもないらしく、民間向けにファッション要素を取り入れたものもあるらしい。厳密にはMA-1ではないのだが、ナイロン生地で丈が短めのジャケットは全部MA-1っぽく見えるので通販サイトだと普通に本物ではないにも関わらずMA-1という単語が乗ってたりする。

 私が今着ているものは大手通販サイトで検索すると意外なほどあっさり見つけることが出来た。値段を見ると三万円前後するものらしく、それを見たときは思わずニヤけてしまった。寝起きだったこともあってさぞ気持ち悪かったと思う。ちなみに本物のMA-1は値段はバラバラだが、高いものだと十万円以上するものも珍しくないみたいだった。


 着心地は悪くなく、見た目以上に暖かい。パッと見た時の第一印象はちょっと薄めのナイロンジャケットでしかなく、少しだけ厚めのウインドブレーカーといった感じだった。だが実際は、ナイロン生地の中に中綿が入っていることもあり結構暖かく、見た目より少しだけ重量感がある。とはいえ、真冬の外出着としては心細く、外で着るなら秋の終わり頃がピークだと思う。室内だと若干重さが気になる人もいるかもしれないが、私はまったく気にならなかった。そもそも年々寒さに弱くなっている気がして、最近は今まで愛用していた室内着だと少し心細かった。


 どちらも夢の中で登場したもので、夢の中から現実世界へと現れたものだ。

 相変わらずなぜこのような不可思議な出来事が起きているのか原因は分からないままだが、ある種の法則性は少しだけ分かったかもしれない。


 ちなみに今回夢は一晩のうちに二回見たのだが、『異変』もしっかり二回起きた。


「『異変』というか、『不思議体験』か? まぁいいや」


 思わぬ形で届いた『夢の中からのプレゼント』に普段よりも気分が良くなっているのがわかる。もともと、『夢』そのものが最高のプレゼントだったのに、最近じゃおまけに夢の中で出た物までもらえるサービスが付いている。サービスが行き過ぎているだろう。以前何かの雑誌の付録に折りたたみ傘が付いているのを見かけたことがあるが、あれに近いものを感じる。


 ただ、今回見た夢はどちらも短く、内容的にもかなり意味不明なところが多かった。前回以上に意識もはっきりしているうえに、体の自由もあっただけに残念だ。起きてから『異変』に気付いたときはテンションが上がったが、『異変』の良し悪しと夢の内容が反比例しているのであれば悩み物だ。


「いや別に好きな夢を見られるわけでもねーしな」


 もともと夢を見られるだけで満足していた身である。高望みをしてはいけない。期待し裏切られる気持ちはそう何度も味わいたくはない。


 煙草を吸い終わった後、手洗い、洗顔、歯磨きと済ませていく。ちなみに夢の中産のジャケットを着たままだと若干やりづらかったので歯磨きを済ませるまでは一端脱いでおいた。


「何食うかな」


 冷蔵庫と食品が入った棚をあさりながら、今日見た夢を思い出していた。



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