6.ひとの心は
黒だと思って見た世界では
白さえくすんで見える
ただ心のままにみることができたなら
「どうも話が見えない。君は何か支援が欲しいんじゃないの?それか俺の力が」
――そうですね。私の一族の安寧のため、協力を願いたい。
「それならそういってくれ。金はないが、能力ならいくらでも使ってやるから自分を安売りするんじゃない」
いいこと言った俺!こんな美人なら当然いてほしいが、彼女の心が悲鳴を上げるのは聞いてられないからな。
――私、他人を否定する人、嫌いなんで。押し付けやめてもらっていいですか?
俺また地雷ふんだの?めっちゃ怒ってるよ。より怖いね美人のにらみは。
「わかったから、もう怒らないで?……俺は何をすればいい?」
――我が一族の次期当主である兄と同盟を結んでもらいたい。我々が平穏に暮らせるように後ろ盾になってほしいのだ。
「そうは言っても、俺の一族はもう俺しかいない。俺の後ろ盾のじーちゃんも死んだから俺に政治的な力はないぞ」
それを得るための、悪役搾取作戦、だ。それがいきなりこうなるとは。
――あなたが生きている以上その存在だけで十分力になります。そう考えているものも多いでしょう。だからこそ。
彼女の心の声が大きくなる。
――私があなたの妾にと送られてきたのです。正妻ではないのであなたに迷惑はかけません。
彼女は本気だ、それは伝わってくる。でも。
「やっぱりだめだ。俺は協力ならするから「妾に」なんて言わなくていい。君は美人だからこんな所はもったいないよ。また日を改めて、今度は話し合いをしよう」
――私言いましたよね?否定する人・命令する人・ほめる人が嫌い、って。もしかしてわざとですか?
「いやそうじゃなくて――」
つかつかと彼女がこちらに近づいてくる。
バンッ。
俺の前の机に手をつきながら彼女の口から言葉が発せられます。
「私は、あなたのモノになる覚悟を決めてここに来ました。帰るつもりはありません」
――兄の役に立ちたい。妹たちに平穏に暮らしてほしい。みんなの期待を上回りたい――
彼女の精一杯出した大きな声はウィスパーボイスで。それより大きく聞こえたのは心の声。
俺には彼女が必死になる事情が未だによく分かっていない。多分世間知らずなのだろう。
「それでも自分のことをモノだなんて言わないで。協力はする、って言っただろ?」
次の瞬間彼女が俺と鼻が当たるくらい近づいて――
「私、他人の主観を破壊する人が一番嫌いなんです。……すみません、また来ます」
そういって彼女は去っていった。
目に涙を浮かべて。
ブックマーク、感想等いただけるととてもうれしいです。励みになります。
評価の方もよろしくお願いします。
前作等の読者の方、お待たせしました!(いるかな?)
関連作からきていただいた方、本当にありがとうございます。
今日初めて読んでくださった方、いらっしゃいませ。