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1:男嫌いの聖女様(2)

誤字報告下さった方ありがとうございました!

 そんなアイラを落ち着かせるように、まあまあと宥めながら国王が話し始めた。

 

「それなら簡単な話だ、バレンシナ家に流れる聖女の血筋と力が欲しいとはっきり言われているからな」

「えっ」


 そんなざっくばらんに伝えられているのかと驚き、アイラからは素っ頓狂な声が出た。


「今までガナンシェ王国は、魔物を倒せても浄化はできなかったようでな、浄化は全て他国に依存していたのだ。しかしなあ、昨今の世界情勢を見るに、いつまでも他国依存では不安定だと、今回の話が来たのだよ。そしてそれは、我が国も然りだ」


 国王は、如何にも一国の王ですと言わんばかりに生やされた髭を撫でながら、うんうんと勝手に納得した様子だ。


「そんな……」


 こうもはっきりと言われてしまうと、アイラもただ愕然と項垂れるしかない。


 しかしながら、父親の言っていることも理解はできた。魔物が蔓延るこの世界は、出現する魔物を倒して浄化するを繰り返さなければならないが、それらを全て一国の力だけで賄うのは難しい。


 今までは他国と、討伐と浄化を交換条件に交渉してきたが、それ故にどうしても綱渡り状態になっていたのは否めなかった。王としてそれを安定させることができたのならば、たしかに国民からの信頼度も増すだろう。


「で、でもお父様、私が嫁いだからと言って、ガナンシェ王国が確実に我が国の魔物討伐に協力してくれる確証はないのでは……?聖女の力を手に入れたらこっちのものだと、約束が守られない可能性も……」


 アイラはまだ食い下がる。どうにかして、それもそうだなと両親を納得させたいからだ。


「そんなはずないだろう。我が国だって魔物討伐は軍事力を上げればできないこともないが、浄化は別だ。土壌浄化ができるのは選ばれた聖女や僧侶、神官の血筋を引く者だけ。そしてお前は、その力を強く受け継いでいる。そんなお前の反感を買わないためにも、先方も約束は守るだろう」


 うう、とアイラはより一層項垂れる。最早ぐうの音も出ない。たしかに魔物討伐は、国の軍事力を高めれば賄えないこともない。しかし浄化となると、生まれ持っての力が必要になってしまう。


 そしてその力は、どの国も喉から手が出る程欲しい代物だ。それを手に入れることができたら、恒久の平和のためにも、それはそれは丁重に扱うだろう。


「そう言うことだ。いつまでも我儘を言っていないで、お前も身を固めなさい。どこも悪い話ではないぞ?一国の王妃になれるのだからな」


 国王は少し悲しそうな表情を浮かべながら言った。わざとなのかもしれないが、それにはアイラの胸も多少なりとも痛んだ。


「それは、そうなのですが……」


 アイラはまだまだ食い下がる。どうしてもこの結婚話を無かったことにしたいようだ。


「だって……お父様もお母様も、ご存じじゃないですか……!私が、私が、どうしようもない男性不信なのを!家族以外の男の人と一緒にいるなんて、もう、恐怖でしかないんです!」


 アイラはとうとう本音を言った。その目には涙が浮かんでいるようにも見える。


 そもそも、アイラの男性不信の原因は幼少期まで遡る――


 幼い頃からアイラは、それはそれは麗しい子どもだった。シルバーの髪はどんな装飾品にも負けない程輝き、白い肌は何色のドレスを着せても似合った。


 一度社交界に出れば、幼いながらにパーティーの主役を食ってしまうほど、恵まれた、いや、恵まれすぎた可愛さだった。


『お父様、お母様、わたしいつか、運命のおうじ様と結婚するの!白馬に乗ったおうじ様が、迎えに来てくれるの!』

『そうかそうか、アイラならそんな夢も叶えられるだろう』

『そうね、そのためにも、ちゃーんとお勉強して、立派な姫になりましょうね』

『うん!わたしがんばる!いっぱいお勉強する!』


 幼い頃は、こんな可愛らしい夢を語る女の子であった。しかし、そんな夢を打ち砕きたくなる出来事が、何度も起こされたのだ。


 幼い頃は立て続けに誘拐されかけ、年頃になると暗がりに引っ張られたり、押し倒されかけたり、他国王子からストーカーされたりと、各国貴族がアイラを手に入れようとありとあらゆる手段を使ってきた。


 理由はたった一つ、一目見た瞬間から脳裏に焼き付いて離れない程愛してしまったから。


 そう、アイラはその恵まれすぎた容姿のせいで、知らず知らずのうちに男性を虜にしていた。それも、罪を犯してまで手に入れたいと思うほどに。


 アイラが男を怖いと思うまでに時間はかからなかった。はじめは、手は繋げなくとも食事を共にするくらいはできた。ダンスはできなくとも、社交界で表面上の会話をすることもできた。


 しかしそれも、度重なる嫌がらせ紛いの告白や愛情表現により、最終的には男を見ると吐き気がし、同じ空気を吸うと気を失いそうになるところまで悪化した。


『ごめんなさい、私、結婚はできません。この城から出ることも致しません。お城の地下の一室で構いませんので、そこに居させてください。食事も最低限で結構ですので、もう私はいないものと思ってください』


 どうしようもないところまで重症化したアイラは、そう言い残し城の地下に引きこもった。いや、引きこもろうとした。


 他でもない、母親である王妃がそれを許さなかったため、引きこもりは未遂で終わった。アイラを煩わしく思ったとかではない。もちろん憎かったわけでも、嫌いだったわけでもない。せっかく可愛く生まれたのに、女の楽しみも知らずに死んでいくのは、もったいないと思ったからだ。ただひたすらに、アイラのためを思ってのことだ。


『男の人と会わなくてもいいから、お城の中とお庭くらいは自由に歩きなさいな。あと、必要かどうかは別として、お妃教育は続けなさい』


 アイラの肩を優しく抱きしめ、聖母の様な笑みを浮かべた母親の行いにより、なんとかアイラは王女として必要な知識と振る舞いは身につけることができたのであった。

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