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34.家族のだんらんと

 久しぶりに家族とともに囲む夕食は、とてもおいしかった。

 普段はいない長兄も戻っており、母はやたらと機嫌がよく、リュカもいつも以上によくしゃべる。みんなポーリーンを歓迎し、ポーリーンも楽しそうに過ごしていた。

「マティアスも連れてきてあげたらよかったかしら」

「里帰りに旦那連れとか! 俺、追い返すわー」

「あら? マティアスのことが嫌いなの?」

「ん? んー……」

 リュカは眉を寄せて首を傾げた。

「マティアスは、悪い人間じゃない」

 静かにそう言い、長兄は穏やかな目でリュカを見、それからベルタを見つめた。

「そうだろう?」

「はい、お兄様。マティアス様は……きっとおいおい分かります」


 どんな人柄か伝えようとしたけれど、ベルタはそこで言葉を切った。

 これから長く親戚づきあいをしていくのだから、自分たちの目で見て判断してもらうのがよいと思った。それから、ベルタから見たマティアスを伝えてしまえば、先入観を与えることにもなる。

 それに、なんだか惚気になりそうだったのも、口をつぐんだ理由だった。


 そんなベルタの思いを知ってか、シンシアが笑った。

「ベルタ、どうしたの。急に大人のように」

「わたくしはもう大人です、お母様。結婚するのですから」

「そうね……」

 ちらりと長兄、テオドールに視線を送り、シンシアはわざとらしくため息をついた。


「……うちで一番早く結婚するのが、ベルタだなんてね……」

「ど、どういう意味ですかお母様!」

「立派な長男も、なかなか美形の次男もいるというのに、まだ嫁の来手がないものね……」


 黙り込んだテオドールとヴァルターに、ポーリーンは声を立てて笑う。


「そうだよね、まさかのベルタだよ。フィオーネ姉さんもまだなのにさ」

 リュカがからかう様にベルタを見てそう言うと、シンシアが首を振った。


「フィオーネにも、山ほど縁談は来ているのよ? テオにもヴァルにもね」

「私はまだよいです」

「兄さんがよいなら、私もいいです」

「血が絶えるわよ」


 ベルタが子を産んだところで、それは伯爵家の子供。

 早く兄達にも良い方が出来ればいい、とベルタはしみじみ思うのだった。




 ◇ ◇ ◇




 客間で、ポーリーンは一人静かに書類を眺めていた。

 旦那であるクロードが世話になった、マティアスの結婚式の計画書だ。クロードの妻としては、マティアスが憎くもある。が、夫が公爵の身分を笠に着て、上から命令したのであれば断ることなど不可能であることも分かり切っている。

 問題は、思い出が深いであろう建物まで壊すことになるほど、マティアスを追い詰めてしまったこと。

 あの場所をつらい思い出の場所にするわけにはいかない。幸せなウェディングで塗り替えられれば、と思う。


「……ふぅ」


 今までの自分のことを振り返り、今日の食事会でのホイットモー家の雰囲気を思う。

 自分は、あんなに和やかで落ち着いた、穏やかで温かい食卓を作ることが出来ていただろうか。

 子供の有無ももちろん関係あるだろう。けれど、クロードにとって、居心地の良い空間を作ることが出来ただろうか。


 声を出して笑うクロードを最後に見たのはいつだっただろうか。


「向いていなかったのかもしれない」


 独り言がやけに大きく響くように感じる。

 疲れているはずなのに、まったく眠くならない。最近はずっとそうだ。


 自分の企画している式の式次第を見つめる。必ず成功させて、マティアスの恩に報いる。それから、ベルタに、幸せな結婚生活を夢見ていてほしいという気持ちはとても強い。


 フィオーネ。

 どこにいってしまったのかしら。

 わたくしも、彼女ほどに勇気があれば、もっと遠くに逃げられれば。


「逃げ出したって、こんなにすぐそばにいたらすぐに見つかってしまうでしょうに」


 見つけてほしい。見つけてほしくない。自分の気持ちもよくわからない。

 ただ、目の前にやるべきことがあるということは幸せだと思った。



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