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31.公爵夫人、フル回転

 大まかなイメージが決まると、そこからの準備は早かった。

 会場設営物資や提供される料理、衣装の手配はあっという間にポーリーンが済ませてしまい、ベルタは「はい」「いいえ」と言うだけの首振り人形になっていた。それでも目が回りそうなほどに決めることが多く、首が筋肉痛になるのではと心配になってくるほど。


 息つく暇なくてきぱき動き続ける公爵夫人には本当に頭が下がる。

「すみません、ポーリーン様にお任せしっぱなしで……」

「あら。伝えておりませんでした? わたくし、こういうの大好きなんですのよ! 心配しなくても大丈夫ですわ、主役が自分で選んだほうが良いもののリストはあちらに用意してありますの」

 こだわらないからすべて任せたい、と言い出せない勢いに呑まれ、ベルタはきれいな字で綴られたリストを上から読んでいく。


(ウェディングドレス、ベール、ブーケ、……わたくしのセンスより、ポーリーン様かマティアス様の好きな物にしていただいたほうが映える気がするけれど)


 そんなわけにもいかないだろう、でも悩むところではある。


 社交界でも、お茶会や夜会の主催を精力的に行っていた公爵夫人の人脈と手腕を見せつけられたようだった。鮮やかな采配は学ぶところが多々あり、貴族の妻とはこのようにあるべき、という理想の姿を見ているようだった。


 思えば、自分の母もそうだ。テキパキと家の事や諸事何でもこなす。フリーダムな父の手綱を握り、堂々とした貴婦人だ。

 そう考えると、リュカは母に似ている。フィオーネは父親にそっくりだ。次兄も母似だろう。長兄は祖父に似ているかもしれない。ベルタも、祖父似だ。


「あ」


 そういえば、ここに来てからリュカには会ったが両親に連絡を取っていなかった。嫁に出る身でもあるし、ここは実家に一度顔を出しておくべきかもしれない。


 とは言っても、ポーリーンを置いていく訳にも行かない。いつオクレール公爵がここに乗り込んでくるのかも分からないし、匿うことを決めた以上は彼女が帰る気持ちになるまでは守る義務がある。このまま何事もなく公爵の元にポーリーンを返すのも嫌だった。

 で、あれば。


「ポーリーン様」

「なぁに?」


 マティアスが用意した品を丁寧に確認しながら、ポーリーンは顔を上げずに返事をした。

「わたくしの実家に、一緒に行っていただけませんか?」

「ホイットモー邸に?」


 びっくりしたように顔を上げて、ポーリーンは目をぱちぱちさせた。

「しばらく実家に帰っていないので、」

「ホームシック?」

 優しく笑むポーリーンに、ベルタは笑って首を振った。

「そういう訳ではないんですが、両親の顔も最近見ていないので」

「そうね……お邪魔でなければ、ご一緒したいわ」


 快く引き受けてくれたポーリーンに礼を言い、実家に一度戻る旨をマティアスに伝えた。


 マティアスは少し寂しそうな顔をしつつも、「ちゃんと戻って来て。……親孝行してくるように」と送り出してくれることになった。



◇ ◇ ◇



 翌日、ポーリーンとリタと共に実家に戻ると、母が屋敷から駆け出てきた。


「ベルタ!」


 満面の笑み、けれど目にうっすらと涙を浮かべ、母はベルタをきつく抱きしめてくれた。

「ただいま戻りました」

「2時間の距離よ、ベルタ。もっとマメに戻ってきなさい。マティアスの所がそんなに気に入ったの? うちよりも?」

「苦しいです、お母様」

 ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、思う。母にこんなに抱きしめられた記憶はほとんどなかったのに、なぜか懐かしい。


「シンシア様、お久しぶりです」

「ポーリーン様、いらっしゃいませ……あら、少し痩せられました?」


 かすかに心配を滲ませた声音で問い、母、シンシアはポーリーンを見つめた。


「前回お会いした時は、少し美味しいものを食べすぎていましたの」

「ふふ、でも相変わらずの美しさですわ。ベルタに良くしてくださってありがとうございます」



 母に促され、久しぶりの実家へと入る。

 少し静かに感じるのは、姉の気配がしないからだろうか。



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