30.主役の二人にお似合いの結婚式を
自室へ戻り、結婚式の準備の手伝いをしてほしいと伝えるとポーリーンは喜んで引き受けてくれた。公爵夫人だけのことはあり、社交界にも顔が利き、パーティや式典にふさわしい品物を扱う店にも詳しい。また、意外なほどに世話焼きだった。
「ベルタ、早くマティアスが用意したものを開けましょうよ。それで、何が足りないか、好みじゃないものはないかを確認して、……買い足すのであれば業者のリストを用意させるから、? ベルタ?」
手際よく従者に指示を出しながら、ベルタが箱を開けるのをキラキラした目で見ているポーリーンに、しばし見とれてしまった。
覚えがある、この感じ。
「ポーリーン様は、わたくしの姉に似ています」
「姉……フィオーネね! そうかしら?」
社交界の集まりにまめに顔を出していたフィオーネのことは、よく知っているらしい。クロードを出せ、と乗り込んできたときの勢いが嘘のように、今のポーリーンは無邪気で可愛らしい。こちらが本当の彼女の姿なのだろう、と思うと嬉しかった。
「そういえば、フィオーネはいないのね? こちらには来ないの? 妹の結婚式の準備なんて、彼女が一番喜んでやりそうなのに」
わたくしも結婚式は大好き、とポーリーンは微笑んだ。
「姉は今、ちょっと……どこにいるのかわからなくて」
「あら。わたくしが言えることでもないけれど、家出?」
「だと、思います。だといいな、と」
事件や事故なんて考えたくはない、けれどあれからずっと連絡は途絶えたまま、目撃情報もない。幸せになる、と残されたメモを信じるのであれば、自分の意思で出ていったのだろう。では、どうしてその後の連絡はないのか。
連絡を絶つ、というのも姉の意思なのか。
それとも、連絡が出来ないような状況下におかれている?
考えるほどに、不安が増していく。
ポーリーンは、うつむいたベルタの肩を撫でて、「心配いらないわ」と笑った。
「フィオーネとは何度も話したことがあるわ。彼女は周りに自然と人が集まってくるのよね」
美しく優しい自慢の姉。ポーリーンに褒められて、ベルタは小さく笑った。
「わたくしも、幼い頃はよく姉の部屋で過ごしていました」
「誰からも好かれるかただもの、どこかで楽しくしているわ。何日も経っていることに気が付いていないのかも」
その想像は、とても姉らしい。
「家を出てからだいぶ経っていることに気付いたら、びっくりして帰ってくるわよ」
「そう、ですね」
「それで、家にあなたがいないことに気付いて、慌ててここに飛んでくるのではない?」
そうだといい、とベルタは笑った。
ポーリーンは、どこかでフィオーネがこの結婚のことを聞きつけてくるように結婚式を盛大にしようと張り切っている。
盛大な結婚式、の、花嫁としての自分。
影の薄い、存在感のない自分の結婚式が盛大なものであったとして、違和感はないだろうか。
パーティが独り歩きして、主役はどこ? みたいなことにならないだろうか。
ベルタは、おずおずとポーリーンに言った、
「あんまり、華々しい式は。……わたくしには不似合いかな、って思うのですけれど」
「一生に一度よ? 華々しくていいじゃない?」
「はい。でも、マティアス様の相手として、わたくしは、……」
どうやって説明したらいいか。
自虐とかではなく、自分を卑下しているのでもなく、事実として釣り合いが取れないということを伝えたいのだけど、どう言っても上手く伝わらない気がする。
華やかで凛としていて、精悍そのものの花婿に対し、花嫁としての自分は。
ポーリーンは、少し考えて、にこっと笑った。
「そう言えば、あなたは控えめなのが好きなのよね。社交界にも出てこなかったし、そんな気がしてたわ」
では、と彼女は紙とペンを用意して、さらさらと何かを描き始めた。
薔薇の中庭から、屋敷の門。楽しそうに歌うようなポーリーンの声が、ペン音に乗る。軽やかなタッチで描かれていく絵に、自然と目が吸い寄せられていく。
「みーんな呼んで、ガーデンパーティにしましょう!」




