28.公爵、叱られる
オクレールは、真剣な目で自分を見つめてまっすぐな言葉を投げかけてくるベルタを、驚いた顔で見つめ返した。
「ベルタ嬢、それは、」
「アーニャや他のことは関係なく、ポーリーン様のことだけを考えてみてはいただけませんか」
屋敷に来た時のポーリーンの様子を思い返し、胸が痛む。
家柄だけで決められた結婚だからと言って、そこに愛がないわけではないのだ。ベルタにしたって、自分の思いとは無関係にマティアスとの結婚を決められた。が、今はマティアスへの想いが生まれ、刻々と育っている。
きっと、ポーリーンも同じだったのだと思う。では、オクレールは?
じっと卿を見つめたままで何か答えが返ってくるかと待ってみたが、オクレールは瞳の奥を揺らすだけで口を閉ざしていた。
だめか、と目を伏せたベルタに、マティアスは優しい声で言った。
「ベルタ。さっき荷馬車が届いてね。挙式の準備の品が入っているから、見てきてくれるか? ベルタの部屋に運ばせて、中の確認をお願いできるかな」
あとはマティアスがオクレールの相手をしてくれる、ということだろう。
女の前では言いにくいこともあるだろうし、ベルタは言いたいことは伝えたし。
「はい、分かりました。……オクレール様、失礼いたします」
「あぁ。――ありがとう」
意外にも礼の言葉を口にして、弱ったような笑顔を浮かべるオクレール。会釈して、ベルタは部屋を出た。
(あんな態度を取ってしまって、マティアス様が困った立場にならないと良いけれど)
今さらながらそんなことを思ったが、言ってしまったことは戻らない。あとは旦那様に任せて、自分は言われたことをしっかりやろう、と前を向いた。
◇ ◇ ◇
「いい女性を選んだね」
オクレールに言われ、マティアスは笑顔で頷いた。
「えぇ。見た目よりもしっかりしているでしょう?」
「妻も、……ポーリーンも、そうだよ」
弱り切った声でオクレールはそう言ってうなだれた。
「オクレール卿は、他の女性に心を奪われていたのでは?」
「ポーリーンを愛していないわけではない」
はっきりとそう言い、弱く「決して」と続けた。
「離縁したいと思ったことなど一度もない」
理解できないわけではなかった。
赤い薔薇が好きだが、白い薔薇を飾りたい日もある。そういう気持ちなのだろうとマティアスは思う。それと妻はまったく違う話だとも思うけれど。
「アーニャを匿ってほしいとお願いしたのは、ポーリーンに見えるところに他の女性をおくのを憚られたからだ」
「分かっていますよ」
「ポーリーンのそばではポーリーンのことだけを考えているんだ」
「分かっています。だったら、」
小さく息をついた。
「オクレール卿のいないところでポーリーン様が他の方と楽しまれてもよい、と?」
「それはだめだ」
きっぱりと言うオクレールに、マティアスは首を振った。
「自分はいいけど妻には許さない、など子供のようなことを……」
「では、お前は許せるのか? ベルタ嬢が他の男と、」
「許しませんよ。私は、自分が他の女性に心を奪われることを許しません。ベルタを妻にするのですから」
さりげなく惚気られて、オクレールは笑った。
「幸せだな、マティアス」
「幸せですし、幸せにしますよ」
「……私も、結婚の時にはそう思っていた」
「私は、死ぬまでそう思っています」
「もういいもういい。妻に出ていかれて傷ついている友人をかわいそうに思わないのか」
「自業自得です」
軽口を叩き合い、二人は笑った。
「もし、ポーリーンがこちらに来たら、連絡をくれるか」
「そうですね、ベルタに許可を取ってから」
頼んだぞ、ベルタ嬢にも私は悪い人間ではないとよく言っておいてくれよ、と。
何度もそう念を押してオクレールは帰っていった。他にポーリーンが行きそうな場所にも行ってみるとのこと。
今この時間だけは、妻ポーリーンのことだけを考えているんだろうな。
皮肉な気持ちで、戻っていく早馬を窓から見送った。
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