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19.アーニャを探して

 おなかに優しい昼ご飯を食べ終わると、リタに布団をはがされた。

「食欲も出たみたいですし、ちょっと身体を動かされた方がいいですよ! 筋力が衰えると寝たきりになってしまいますよ!」

「ちょっとおおげさ……」

「お布団干しますよ!」

 と、半ば強制的に寝所から追い出された。


 これ以上は寝ていられない。

 であれば、しなければいけないことは一つ。再度、探検だ。屋敷中をくまなくさがして、アーニャがいるかどうか、いた形跡があるかどうかを確認したい。

「さすがにわたくしの部屋に潜んでいるなんてことは……」

「何がです?」

「いえ。お散歩してきます」


 寝込んでいる間に何があったのか、ベルタには分からない。

 離れを取り壊す理由は聞いたけれど、それが本当の理由なのかどうか、と思っている。嬉しいこともたくさん言ってくれるし大事にしてくれるしとても幸せだと思うけれど、やっぱりあの女性のことが頭から離れない。


 書庫のドアを開けて中を覗いてみる。特に変わった様子はない。というか、そういうところに潜んでいるわけがないか。空いている客室とか、あとは、……。

「屋根裏とか」

 確かあったはず。


 屋敷内をゆっくり歩いていく。すれ違う使用人に「もう大丈夫ですか」と声をかけられ、やさしさに顔がほころぶ。

「ありがとう」

「無理しないでくださいね。結婚式前に倒れたら大変です」

 自分以外の誰かの口から結婚式の話が出る度に、少しずつそれが現実味を帯びていくような気がした。



 ベルタの部屋から一番離れたところにある、のぼり階段。この上は屋根裏になっているはず。ここに関しては入るなと言われた覚えもなかったから堂々としていられる。

 一つ深呼吸して、薄暗い階段を上っていく。天井が少し低くなっているが、ベルタの背よりは高くかがむ必要はない。


 屋根裏には部屋が2つ。空気は少し埃っぽい。

 手前の扉の前で一つ深呼吸して、控えめにノックした。どくどくと心音が高鳴るのが分かる。

コンコン、と乾いた音が響いた。が、中は静まり返っている。

 もう片方のドアも同じようにノックしたが、反応は同じだった。ゆっくり細く開けてみたが鍵はかかっておらず、カーテンも閉め切られた室内は人の気配はまったくしない。しばらく誰も踏み入っていないのがありありとわかる。

 掃除は行き届いているようで、さすがに床に足跡が残るというようなことはなかった。

「いない……」

 ほっと息をつく。


 探してはいるけれど、見つけたところでどうするという考えがあったわけでもない。

 ただ、もう出て行ってほしいと言おう、と決めた。少なくとも、今までマティアスはベルタに、アーニャの存在を語ったことはない。ということは、妻に話すべき存在ではないということを示しているのかもしれない。

 だったら、ベルタが嫌だと言えば出て行ってくれるはず。ここにいてほしくないと言えば、 アーニャが出て行くことに対してマティアスは反対しないはず。


 そこまで考えたら、楽になった。

 いたら、出て行ってもらう。

 いなかったら、忘れる。簡単なこと。そして、落ち着いたら「そういえば結婚前にね、」とマティアスに話をしてみよう。それがいい。


 屋根裏部屋を出て階段を下りていくと、聞きなれない女性の金切り声がした。

 何を言っているのかまではわからない。アーニャの声でもないし、知らない声だ。それに、掻き消されるようにマティアスの声もする。


 足音を立てないように、そっと騒ぎの方へと近づいていく。どんどん大きくなる声。

 曲がり角から顔を覗かせて見てみると、仕立ての良い服を纏った、高貴な雰囲気を漂わせる女性だった。年のころは30前くらいの、美しい女性。どこかで見たことがあるような気がする。


「ここにいることはわかっておりますのよ!!」


 よく通るソプラノが、廊下中に響き渡る。


「クロードをお出しなさい! 今! 早く!」


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