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宦官になるには

 ブツを切り取るための手術とは、いったいどういうものなのか。

 麻酔はあるのか? 術後の薬物治療はどうなっているのか? もしかしたら、丹薬に至るヒントが何かあるかもしれない。

 そういう意図での質問だったのだけど、突然の質問に七淫子は目を丸くした。


「えっ。……というか、海里さんも受けたんだから知っているでしょう」

「あっ!」


(しまった! つい好奇心が先走ってしまった……!)


 自分も宦官だという設定なのを忘れてしまっていた。慌てて話を取り繕う。


「もっ、もちろんそうだよ! でも、地域によってやり方が違うって話を聞いたんだよね。だから、七淫子はどうやったのかなあ~って。あはは……」

「そうなんですか……?」


 訝し気な表情だが、しょせんは子ども。それ以上追及することもなく自身の体験談を教えてくれた。


「僕と兄さんは大きな町に出て刀子匠にやってもらいました。やり方は……まあ、手足を縛られて、まず胡椒湯で洗われました。それであっという間に全部切り落として、白蝋で栓をしました」

「蝋で栓をしたの!? な、なんで!」


 そんな発想、一体全体どこから出てくるのか!? わたしは医者ではないから詳しくないけど、傷口に使うものといったらガーゼとか綿を想像する。


「海里さんは違ったんですか? 栓をしないと、肉が盛り上がって尿道を塞いでしまうからと言われました」

「あ……。確かにそうだねえ」


 尿道が塞がると体から尿が排泄できなくなり、感染症や腎不全を引き起こす。どうにかできなければ、最終的に命を落とすことになるだろう。


 それで蝋を使うというわけか。確かに綿より蝋の方が塞がりを防げそうな感じはある。でも、今度は体温で溶けないかが気になってきた。

 しかし、七淫子に聞いても分からないだろうと思って、ぐっと質問を飲み込む。


「……続けて」

「いいですけど、この話面白いですか? その後は三日間水を禁じられました。水を飲むとどうしても尿が出るので、駄目だそうです。痛みもすごかったので、ずっと寝て過ごしていましたね」

「麻酔は? 痛み止めはなかったの?」


 聞けば聞くほどすごい話である。そもそも女であるわたしには想像を絶する体験だ。

 そしてようやく、薬関係のところを聞いてみる。


「代金を上乗せすれば阿片(あへん)をかがせてもらえましたが、僕たちは貧乏だったのでやりませんでした」

「ええっ! 無麻酔だったの!!」


 いやいやいや。そんなの自分じゃ絶対無理だ。

 この世界の人はすごいなあと、心から思った。貧困層が置かれている環境の過酷さ、そして覚悟の据わり方が現代とは比べ物にならない。生きるために体の一部を失うことが、ある意味当然の選択として行われていたのだから。


 七淫子は特に悲観することもない様子で淡々と話している。一回り以上年下なのに、すごく大人に見えた。


「海里さんは麻酔を使ったんですか?」

「あっ、うん、そう。阿片を少々ね! それで、術後は何か薬を飲んだの?」

「いいえ、特に。こまめに包帯を取り替えたり、時折酒をかけて消毒したりした程度でした」

「ほ、ほほぉ~~~~!!」


 これは参った。結局、無麻酔無薬剤である。

 人間が持つ自然治癒力と根性によって宦官は誕生するということだ。すごい、すごすぎる。


「結構、亡くなった人もいるんじゃないの?」


 みんながみんな、耐えられるとは思えない。出血や感染症によって亡くなる人も多かったんじゃないだろうか。


「そうですね。だいたい、半分の人は駄目になるそうです」

「だよねえ……。七淫子と六淫子は二人揃って成功して、本当によかったね」

「はい。それは本当に幸運でした」


 七淫子はそう言って頬を緩めた。大人びた彼の、初めて見せた子どもらしい笑顔だった。


(そうだよなあ。不真面目な兄でも、やっぱり一緒にいれば心強いよなあ)


 とはいえ、わたしはきょうだいがいるものの、離れ離れになった今別に寂しさは感じない。一人の方が気楽に感じるけど、七淫子はまだ子どもだから一人は寂しいに違いない。


「色々話を聞かせてくれてありがとう。これから一緒に頑張ろうね、七淫子」


 そう言って左手を差し出す。

 七淫子は目を丸くした後、はにかみながら同じように左手を差し出す。


 ――ぎゅっと握った手は小さかったけれど、すごく温かかった。



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