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万能でない神様  作者: まつだつま
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挨拶にいく

 自分のライヴの時に緊張することなどほとんどないのち、今はすごく緊張している。

 今日は恋人の麻耶との結婚の許しを得るため、麻耶の両親に挨拶に行くのだ。

 足が地につかないというのはこういうことかと、フワフワとした足に意識を集中させて歩いた。そうしないと、すぐに転んでしまいそうだった。

「大丈夫?」

 隣で歩く麻耶が訊くので、大丈夫、と答えたが、自分でも大丈夫なのか、どうかがわからなかった。

 摩耶の父親は医者をしていて、真面目で優しい父親という印象だ。摩耶のことを本当に愛していることが、摩耶がたまに話してくれる父親の話題でわかった。

 そんな父親が自分のようなフワフワした生き方をしている男との結婚を認めてくれるのだろうか。自分はすごく不安に思った。

 反対されたらどうしたらいいんだろう。ねばって食らいついてお願いしようか。それでもダメなら、出直すしかない。

 諦める気は全くない。自分は摩耶を誰よりも愛している。摩耶を幸せにしたいと本気で思っている。

 そんなことばかりを考えて歩いていると、頭の上から清んだ声が聞こえた。

『今日も、きっとうまくいきますよ』

 自分は顔を上げたが誰もいない。天から聞こえたように思ったので天を見上げた。太陽がキラキラと自分を照らしているだけだった。

 空耳にしてははっきり聞こえたなと首を傾げた。

 きっと神様が応援してくれてるのだと、勝手にそう思うことにして自分に勇気をつけた。



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