表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万能でない神様  作者: まつだつま
13/23

フリーの神様

「てめえ、なに考えてんだ」

 わしが勝野神社に出社すると、勝野神が飛んできてえらい剣幕で怒鳴ってきた。頭から湯気が出ているんじゃないかと頭の上を見ると本当に湯気が上がっていた。

「は、はあ、何のことでしょう?」

 勝野神の頭の上の湯気に視線を向け、首の後ろを掻きながら返事すると、湯気が一段と激しくなった。

「なぜ、昨日、宴をサボったんだ」

「ああ、すいませんね。反省します」

 宴をサボったことになっているようだった。東の神は勝野神に少年のことを伝えてくれてないようだ。まあいい。わしは言い訳するのも面倒だと思った。

「今さら反省しても遅いんだよ」

「じゃあ、反省しないでおきます」

 わしは、頭ごなしに怒鳴る勝野神に腹が立ってきた。

「な、なんだとー。お前、俺に喧嘩売ってんのかー」

「いえ、そんなつもりはありませんが」

「もういい。どうせ、お前は神様協会からすでに追放されているからな」

「追放?」

「そう、追放だ。もうお前は俺の部下でもなければ、協会の神様でもない。ただのフリーの神様だ」

「そうでしたかー」

「今さら謝っても遅いぞ。協会長がご立腹だからな。許してもらえるわけない」

「それなら、今日はここに出社しなくてもよかったんですね」

「なんだ、その態度は。もういい、さっさとここから出ていけ。お前の顔なんて二度と見たくない」

 勝野神を一段と怒らせてしまい、言われた通り、わしは勝野神社を後にした。

 今思えば、大人気ない態度だったなと思う。勝野神には申し訳ないことをした。

 しかし、宴に参加せず、少年の後をついて行ったことは、今でも間違いなかったと思っている。

 あの少年を放ったまま宴に参加し、後で少年が自殺でもしてしまっていたら、わしは落ち込んでいただろう。神様としてやっていく自信を失っていただろう。自己嫌悪になり、そのまま神様をやめてしまっていたかもしれない。

 その後、わしはフリーでやっていけるように人間について必死で学んだ。その甲斐あって人間の幸福度をドンドン上げることが出来た。

 そして、上がった人間の幸福度は協会に吸い上げられることがないので、有り余るほど増えていった。わしは、それを出来るだけ人間に還元することにした。

 それでも、わしの手元に残る幸福度は有り余っていった。それを使って、本当に困っている人間を助けることも出来た。すべてがうまくいった。

 わしは協会から追放され、フリーになった神様が浮浪の神や疫病神になっていくのを食い止めようと思った。わしが成功したように、フリーになった神様にも成功してほしい。そして人間の幸福度をいっしょに上げていこうと考えた。

 わしの得たノウハウや心得を多くのフリーの神様に伝授するため、フリーの神様のための塾を作った。そして、ありがたいことにそこから優秀なフリーの神様がドンドンと誕生してくれた。

 ある日、協会からわしのところに協会へ戻ってきてほしいと連絡が入った。追放しておきながら、今さらとも思ったが、その時の協会長が、一緒に勝野神社で過ごした東の神と知り、一度話を聞くことにした。

 協会長になった東の神は、現状の神様は人間界の幸福度を上げることを疎かにしているので、南の神のように人間の幸福度を上げることに長けた神様に戻ってきてほしいと訴えてきた。

 わしは、若い頃に協会で学ばさせてもらったおかげで、今の自分があるわけだし、今の協会長は同じ釜の飯を食った仲間だから神様協会に戻ることにした。

 そして協会長といっしょに神様協会を盛り上げようと約束をした。

 協会に戻って、野々神社で南の神として働くことになった。

 それから、南の神はフリーの頃と同様に人間の幸福度を上げていった。手応えもあった。充実した日々が続いた。

 しかし、ある時、おかしなことに気づいた。野々神社の人間の幸福度はドンドンと上がっているはずなのに、すぐに下がってしまっていた。

 おかしい、こんなはずはないと思い、独自で調査してみることにした。

 すると、やはり野々神社の人間の幸福度は一度は急激に上がっていたが、すぐに元に戻っていた。

 その原因を調べてみると、人間の幸福度の吸い上げは、当時三十パーセントだったはずなのに、わしが幸福度を上げた野々神社の人間に対して、協会が勝手に三十パーセントとは別に七十パーセントも吸い上げていたのだ。

 わしが上げた幸福度を全て協会が吸い上げていたのだ。

 南の神は神様協会に戻る条件の一つとして、人間の幸福度の吸い上げの比率を今の三十パーセントより十パーセント下げてほしいと協会長にお願いしていた。

 その時、協会長も、その方がいいと言って、これから調整すると言っていたはずなのに、考えられないことが起こっていた。

「約束が違うじゃないですか」

 独自で調査した資料を協会長の座る机の上に叩きつけた。

「何だ?」

 協会長は眉間に皺を寄せ、わしの目をギロリと見た。協会長の目は完全に濁っていた。協会長はわしが机に叩きつけた資料を手に取り、一瞬、視線を落としたが、すぐにその資料をわしに返してきた。

「何が、じゃないですよ。これは何ですか? 野々神社の人間から幸福度を通常の三十パーセント以外に七十パーセントも吸い上げてるじゃないですか」

 わしは資料を協会長の目の前にかざしながら訴えた。

「ああ、その件か。すまん」

「すまん、じゃありません。ちゃんと説明して下さい」

 協会長は口元を歪めてから話しはじめた。

「君が野々神社の人間の幸福度を大幅に上げてくれたからね。ちょっと多めに吸い上げさせてもらったんだ。そうでもしないと、協会の運営も厳しくてね。まあ、わかってくれ」

「これまでも、こうしたことをやっていたのですか」

「こうしたことって?」

「三十パーセント以外に、幸福度を無断で吸い上げるということですよ」

「幸福度の高い神社には、そこの神社の長に内密でお願いして吸い上げていたことはある。神社の長にはお願いしているから無断ではない」

「そんなの、無茶苦茶だ。せっかく苦労して人間の幸福度を上げたのに、それを協会に全て吸い上げられたら神社としては、たまったもんじゃない。いや、神社だけじゃない。人間がたまったもんじゃない。やってられないですよ。こんなことしていたら、みんな黙っていないですよ。そのうち反乱が起きますよ」

「そんなこともないぞ。神社の長のなかには、余分に吸い上げられることが成績優秀の証だと勲章のように喜ぶ長もいるぞ」

「信じられない。この協会は腐ってる」

 わしは何度も首を横に振った。

「今だけだ。協会の利益が安定したら、そんなことはしない。君の言ってたように吸い上げ率は下げる」

 その後も協会長と話し合ったが、やはりわしとは考え方は違った。

「協会の利益? バカバカしい」

 わしはそう言って椅子を蹴飛ばして出ていった。

 それ以来、わしは野々神社で人間の幸福度を上げることをやめた。

 協会に所属して、人間の幸福度を上げたところで、協会に全て吸い上げられるだけだ。

 協会から脱会してフリーとして活動することも考えたが、協会長はそれを許さなかった。

 多分、わしがフリーになったとしても、協会長が邪魔をしてくるだろう。そうなると、当時フリーで頑張ってくれていた神様に迷惑がかかってしまうと思った。

 協会長はわしのことを目の上のたんこぶのように思っているから、わしは目立たない方がよかった。

 なので、わしは野々神社の南の神として幸福度を上げることには力を入れず、出来の悪い神様を演じながら、陰でフリーの神様を支援することにした。

 こっそりと、フリーの時代に始めた塾で、指導したりアドバイスしたりし、優秀なフリーの神様を育てることに注力した。

 フリーの神様たちは、協会の神様とは違い、自分の成績に固執せず、みんなで人間の幸福度を上げることに協力をした。

 幸福度の吸い上げる比率を自分たちで決められるのだが、誰もが自分たちで上げた幸福度の二十パーセント以下におさえていた。出来るだけ人間に幸福度が残せるようにと考えていた。わしの教えを守ってくれた。神様協会の幹部よりフリーの神様の方が常識があるのだ。

 今日も新しいフリーの神様を育てるために、一柱の神様を教えている。

 こいつは、わしのせいで神様協会を追放されたのだ。追放されたというか、神様協会の神様として認定される前に処分されたのだ。

 こいつが神様協会のテストに出席するのをわしが邪魔をしたから神様協会に入れなかった。

 なぜ、わしが邪魔をしたかというと、こいつが優秀だったからだ。

 優秀で実直な奴なので、協会のドス黒い色に染まってほしくなかった。きっとフリーの神様で頑張った方がこいつの為にもなると思った。

 神様協会のテストの当日に、こいつを試してみた。テストに行く寸前に、不審な少年が現れたら、こいつは少年を見捨ててテストに行くのか、それとも少年を心配してテストに行かないのか。

 テストに行けばそのまま協会の神様としてやっていけばいいし、テストに行かずに少年の後をついて行ったら、神様協会に入ることが出来ずフリーになるしかなくなるだろう。

 その時はフリーで成功出来るように育て上げるつもりでいた。案の定、彼はフリーの神様になった。

「いいか、習の神。耳の穴、かっぽじってよーく聞けよ。大事な話だぞ」

「はい、ちゃんと聞いていますよ」

「なんだ、その態度は! 教えを乞う態度じゃないぞ」

 わしは習の神に対し、丁寧に優しくそして時には厳しく教育した。習の神は、わしの見込み通り覚えがよくドンドン吸収していった。

 こいつは近い将来、カリスマと呼ばれるフリーの神様にまで成長するだろう。そして、ここのリーダーになれると確信した。わしの後を継いでくれるはずだ。こいつがリーダーになってくれれば、わしはいつでも神様を引退出来る。

 わしと習の神の師弟関係は周りから見ても羨ましいくらいの関係のようだった。

 わしも習の神に教えている時はすごく楽しかった。

 しかし、この関係は長くは続けられないかもしれない。わしにはやらなくてはならないことができた。

 それをすることで、協会長の逆鱗に触れるだろう。そうなると、協会長はわしを本気で潰しにくるだろう。わしは協会に所属しているので、協会長のサジ加減で潰されてしまう。目立ってはいけないのだが、ここはやむを得ない。

 だから、わしが潰される前に少しでも早く習の神を一人前に育てなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ