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「ようこそ、この国の、この世界の裏側へ」


ヘイズルは極めて真面目な表情でそう言った。

エイルは尚更混乱することになる。


「第9師団…?」


アングスト王国の師団は第五師団までのはずだ。

9つも師団があるなんて聞いたことは無い。


「まず、ここで見たこと、聞いたことは第9師団関係者に伝える事は禁止としている」


「故に知らないのは当然だろう。万が一漏洩が有ればそれに応じて厳正な処理を行なっている」


エイルはそれを聞いて勢いよく首を縦に振る。

要するにバラせば死がやって来る。という事なのだ。


「賢明な判断だ。ここで質問をしよう。サークライ調査補。君は恐怖とは何だと思う?」


エイルは突然の質問に面食らうが、少し考える。


「モンスターでしょうか、幼い頃街に侵攻があった際の記憶は今でも鮮明です」


「死への恐怖、そして大切な物を喪失することへの恐怖ということかな」


ヘイズルは頷いている。


「後は…幼馴染を怒らせた時は怖いですね…」


エイルの脳裏には世話焼きな幼馴染が映る。

1月ほど経つが、元気にしているだろうか。


ヘイズルは口角を上げて笑みを浮かべている。


「クク…それも大切な物を喪失する事への恐怖としておこう」


「さて、答え合わせといこう。サークライ調査補の述べた回答も正解だ。私も嫁を怒らせるのは怖い」


ヘイズルは肩を竦めながらそう言った。

ここ数時間でやっと人間味のある人物と会話しできている事にエイルは内心安堵した。


「だが、ここで1つ君の恐怖に付け足して欲しい。それは【未知】への恐怖だ」


「未知…ですか?」


「そうだ。とある人物の言葉だ。【恐怖とは常に未知から生まれる】我々第9師団の目的は未知の解明、対処だ」


エイルは理解しかねた様子だ。


「スコープを掴みかねているようだな。私の言った恐怖は、この国を脅かす恐怖を指したのだよ」


「ゴブリンの大群であろうと、巨躯を誇るドラゴンであろうと、我が国を脅かす事は出来ない」


「ドラゴンを倒す事は容易いと言うのですか?!」


エイルは率直に言って信じられなかった。

通常の矢や剣は歯が立たず、魔術を使ってようやく小傷をつける事が出来る。それがドラゴンだ。


「それは後々嫌でも理解するだろう。世界とは君が思っているより遥かに広いのだよ」


「話を続けよう。サークライ調査員、この国を脅かすのはゴブリンの大群でも、ドラゴンでもない。他の国ということもあるが、率直に言ってこの大陸の覇権を握っているのはこの国だ」


「では何がこの国を脅かすのですか…?」


エイルの問いかけにヘイズルは何でもないように答える。


「わからん」


「は、はい?」


「言ったであろう、我々の目的を。この世界は君が考えるよりもずっと広く、深い。我々の知らない事柄に溢れているのだよ」


エイルは納得が出来ていなかった。

ヘイズルの話は全体的に曖昧に聞こえるのだ。


「残念ながら詳細な全体像の話をする事は私の機密階位では出来ない。故に君に求められる役目を教えよう」


ヘイズルはテーブルに置いていた紙に目を通す


「まず初めに君にお願いする事はシンプルだ。新人騎士として訓練を積めば良い」


「まずは基礎を学ぶという事ですね」


「その通り。表向きは第9師団以外のいずれかに配属される事になる。故に初めの訓練への参加で騎士としての基礎能力をつけてもらう必要があるわけだ」


第9師団配属となっても騎士団所属である事にかわりはない。

任務が発生していない期間は他の師団に配属された騎士として器用に立ち回る必要がある。


「ま、長く話しても忘れてしまうだろう。今日はこれくらいにしよう。入団処理はアイラ、頼むよ」


ヘイズルはアイラに視線を向けながら立ち上がる。


「今後の連絡は先程のリーマン事務官を通して行うのでそのつもりで。では私は失礼するよ」


そう言ってヘイズルは部屋を出て行った。

入れ替わるようにアイラがヘイズルの座っていた席に座ると、書類をいくつか机に広げた。


「それでは入団処理に移らせていただきます。いくつか書類にサインを。それと訓練期間の説明、最後に第9師団としての注意点をご説明します」


アイラに促され入団処理が始まるのだった。


---


「お、ヘイズル副統括、お疲れ様です。新人の面談っすよね?どうでした?」


通路を歩くヘイズルに小柄の女性が話しかけた。

溌剌とした雰囲気を醸し出している。


「オーレイン上級調査員か。素直そうな青年だったぞ、彼は。君も使いやすい事だろう」



ヘイズルは思っていた通りの感想を話すと、オーレインは顔を顰める。


「うーん、ヘイズルさんの使いやすいってあんま当てにならないんすよねぇ…ま、期待しときますよ」


オーレインの態度は仮にも上司に向けるものにしては随分と気安い。

側から見ると父と娘ほどにも見えるが、オーレインが上級研究員である事から、見た目通りの年齢では無い事が分かる。


「そんな事を話に来たのでは無いだろう?君の担当している件で報告があるのでは?」


ヘイズルが軽口を流すと、オーレインの表情が引き締まる。


「"新種"の件で進捗があります。判断をお願いしたく思いますのでお時間いただきたく」


「分かった。君の執務室まで行こうか」


そう返事をするとオーレインの後に付いて彼女の執務室に向かうのだった。





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