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騎士団駐屯所内
会議室と思われる部屋で複数の人影が座って話し合いをしている。
テーブルの上には書類が積み重ねられており、それらを見ているようだ。
「フォイル上級騎士が太鼓判を押したのがこちらのエイル・サークライになります」
話題は先日入団試験を受けたエイルのようだ。
「精密な魔術操作に加え創意工夫された戦闘スタイル。是非第一師団へ加入させたい。とのことです」
進行を行っている人物から説明がされる。
「対面した限り人柄にも問題が見られない事を受付を行った事務官からも報告を受けています。」
「そして射撃試験の結果を鑑みるに、″非常に目が良い″とのことです」
その言葉に今まで反応の無かった人影が反応する。
「ほう、それは″調査員″の適性を持っていると、お前はそう考えているわけだな?」
「はい。先日の事象で人員に欠員が出たこともあり、人員増加は必要かと。本人次第ですが戦闘要員としての兼任も見込めるでしょう」
質問した人影が満足そうに頷いている。
「分かった。では本人の身辺調査を行え。問題が見られなければ第一師団への″仮配属″とする」
「承知しました。それでは次の…」
会議は続く。
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2週間後。
エイルは再び駐屯所に来ていた。
入り口の前には大きな人だかりがあり、
先日は見られなかった大きな看板に張り紙がされている。
「番号があった奴は中に入れ!」
どうやら看板に受験結果が張り出されているようだ。
先日の騎士の言葉はあるが、この2週間は心ここにあらず、といった状態だった。
少し後ろの方から眺める。
…893…905,906…908…
「あった!」
エイルは人目も気にせずガッツポーズを取る。
幼い頃に見たあの背中。
憧れ続けた背中に今届いたのだ。
騎士の指示に従い、先日受付を行った建物へ向かう。
エイルと同様に建物に向かう他の受験者も、表情が緩んで見える。
当然と言えば当然だ。
王国騎士になる事は危険が伴うが、その分待遇は他の職業に比べて非常に良い。
活躍をすれば給金は上がる。殉職、ないし名誉除隊の場合でも年金が配布され本人、家族が食に困る事はない。
「もうすぐ説明が始まる。中に入って待っていてくれ」
建物では合格者が一定数集まるごとに説明を行なっているらしい。
中に入ると合格者が立った状態で整列して待機している。
既にお客様扱いは終わったようだ。
しばらく待っていると前方に1人、騎士が壇上に向かって来てきた。
「注目!」
どうやら説明が始まるようだ。
「諸君、入団試験の合格おめでとう。
これから入団に関しての説明を行う、第一師団付属訓練課のケルネン騎士だ。今後の訓練などでも一緒になる事があるだろう。その際はよろしく頼む」
ケルネン騎士から説明が始まる。
訓練開始の日時やそれまでに行うべき事などが話されていく。
「尚、寮では1部屋8人、男女4人づつが入ることになる」
男女問わずどよめきが上がる。
王国騎士団の男女比率は半々に近い。
種族の違いや、魔術の行使によって性別による長所短所は無意味と化すからだ。
だがまさか訓練期間中とは言え男女同室となるとは思っていなかったようだ。
「これは異性を含めた多人数での共同生活に慣れることを目的としている。遠征などの任務の中で編成によってそういったこともあり得るからな」
ケルネン騎士の話を聞いて、合格者の表情は大きく3つだ。
不安そうな表情をしているもの。
ニヤついた表情をしているもの。
特に反応を見せないものだ。
エイルは戸惑っていた。
今までの訓練や狩りでは同性の少人数又は1人で行っていたからだ。
そもそも男女同じ屋根の下、といった経験が無かった。
ケルネン騎士はその様子を見渡すと満足したように頷いて話を続ける。
「諸君。様々な思いを持っているだろう。だが心配は無用だ。そんなことを気にする余裕は無いからな」
浮き足立っていた合格者達の表情は一斉に固まるのだった。
その後も15分ほど説明が続いた後、
「説明は以上だ。この後奥の部屋に入団の手続きを行う。右端の列から入室しろ」
そう締め括りケルネン騎士は壇上から降りて行った。
それにすれ違うように壁際で待機していた別の騎士が促して移動を始めた。
合格者は部屋に40名ほどだろうか。
エイルは待ち時間になった所で少し周りを眺めていたが、
「失礼、エイル・サークライはいるかな?」
後ろの方からエイルを探す声が聞こえて来る。
振り返ると、ローブを羽織った男性が辺りを見渡している。
それを見たケルネン騎士がそちらに向かって行く。
「訓練課のケルネン騎士であります。如何されましたか?」
「本部研究室のリーマン上級騎士だよ。合格者の中にエイル・サークライという子がいたら連れて来て欲しいんだよね」
上級騎士、と聞いたケルネン騎士は右手を胸元に持っていき敬礼を行う。
「リーマン上級騎士でありますね。わざわざお越しくださり恐れ入ります。確認いたしますのでお待ち下さい」
そういうとケルネン騎士は他の事務官に声を掛けている。
「あ、あの、僕がエイル・サークライです…」
手を挙げながらそちらに身体を向けると、リーマン上級騎士は笑顔を浮かべた。
「おぉ、君か!いやぁ、気分で来てみたけど偶然だなぁ。無駄足にならなくて済んだよ」
そのままこちらに向かって来てエイルの手を取った。
「僕はリーマン、一応上級騎士をやっているよ。君に話があってね。あ、サークライで良いかな?」
リーマンは笑顔を浮かべたまま話している。
体格は細く、口調と表情が相まってどこか軽薄に感じる雰囲気を醸し出す男だ。
エイルは少しその雰囲気と状況に押されながら頷く。
「ありがとう。とりあえず詳しい話は場所を移してから、ついて来てね」
「あ、後彼の入団手続きはこっちでやっとくから気にしなくて良いよ〜」
そう付近の騎士に声をかけた後、踵を返して部屋から出て行く。エイルはそれについて行くのだった。