表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

路地裏の呼び声

作者: 髙橋祐貴斗

呼び声は、遠くから木霊する鈴の音によく似ている。


 にゃあ、と何処からか猫の鳴き声が聞こえた。聞き覚えのある声。路地裏に住んでいる親子の、親猫の声だ。

 遠くから響くような泣き声に、少年はきょろきょろと周囲を見渡した。

 声の主は、いない。

 首を傾げて視線を路地から離した瞬間、路地の陰に消えていく黒いしなやかな影が視界の端に映った。

 親猫。

 路地の陰に浮かび上がる金の瞳が、明確な意思を持って少年を見上げる。

 突如猫は身を翻し、にゃあ、と一声鳴いた。

 路地に消えた猫の姿を、少年は慌てて追った。ついて来い、と呼ばれたような気がしたのだ。


 にゃあ

 少年に道案内でもするかのように。

 にゃあ

 時に姿を見せながら、時に声を発しながら。

 にゃあ

 少年が追いついてしまわないように、少年が姿を見失わないように。

 にゃあ

 枝道で立ち止まった少年の頭上で、親猫は塀の上から少年の死角へと身を滑らせるように降りていった。

 少年は、その後を追って、細い路地の角を曲がる。そこに、親猫の姿は無かった。


 みゃあ、と路地の奥からか細い鳴き声がした。

 聞き覚えがあった、子猫の鳴き声だ。

 子猫の声を頼りに、もう少し奥へと、路地を進んだ。


 そこに、親猫の亡骸に寄り添う子猫の姿があった。


 みゃあ、みゃあ、と必死に呼びかけても、顔をいくら舐めても、親猫はぴくりとも動かない。それでも、子猫は、その亡骸に呼びかけ続けていた。

 少年は、しばし痛ましげにそれを見つめ、やがて意を決したように、沈痛な面持ちで、親子の傍に寄った。

 子猫は近づいてきた人の気配にも気づかず。親へと身体を擦り付けていた。

 その亡骸を、少年は手近な割れた煉瓦で掘った簡素な墓穴に丁寧に葬って、ゆっくりと手を伸ばして、そっと鳴き続ける子猫を抱き上げた。

 腕の中でなお、幼い子猫は親へと呼び続ける。


 にゃあ、と何処からか、別れを告げるかのような親猫の声がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 死んでからも子を思う親心ですね。静かな雰囲気が素敵です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ