遊戯と書いてゲームと読みたい
3side
翌朝 ローマ字表記するとAsa。 ちょっと変えるとASa。 なんかプロジェクト感半端ない。 ヒロインの顔芸が凄そう。
「ふわぁ〜」
大口を開けながら欠伸をする千聖が、部屋から出てダイニングへと向かう。
「あ、会長おはようございます」
「……おはよう」
先客の紅葉と出会う。 2人とも寝間着のままだ。 千聖は何故かカメラを首に下げているが。
「どうしたんですかボーっとして」
「……あれ」
「あれ?」
紅葉が指差した先には、蠢く何かが。
「……なんですか、あれ」
「……知らない」
その何かは、よく見れば奏士だった。 虚ろな目をした奏士がフラフラと徘徊していた。
「おはようございます」
と、日課のジョギングから帰ってきた莇も合流した。 奏士素通りで。
「あ、おはようございます」
「……おはよう」
莇はそのまま蠢く奏士を手で退かせて冷蔵庫から牛乳を取り出す。 パックに口をつけて飲み、冷蔵庫にしまって奏士を元に戻す。
「では、私はシャワーを浴びてきますので」
そう言って莇は自分の部屋に戻っていった。
「あれ無視するとか凄いですね」
「……いつもと大差ないと思ってそう」
2人が呆気に取られている間も、奏士はフラフラと徘徊し、壁に当たってはゴンゴンと頭を打ち付けては突然動きを止めて向きを変える。
そしてまたフラフラと、まるで壊れたNPCの様な動きで徘徊する。 それを何も知らぬ人が見たなら、顔色も含めて薬物の末期症状か、それともゾンビの成れ果てかと勘違いするだろう。
「お、おはようございます……」
「泉ちゃんおはよー」
次に現れたのは、長いくせっ毛が寝起きで少し爆発している泉。 桜色の半袖パジャマが可愛い。
「……おはよ」
「あ、紅葉さん。 おはようございま────す?」
紅葉と挨拶をした瞬間、奇妙なものを見たような表情をする泉。 その目線の先には、床にうつ伏せになって事切れてる奏士の姿が。
「えっと……奏士、さん?」
「ヴぁぁぁぁぁぁ………あ、あ………(ふわぁ)」
「あ、先輩の魂が」
「……名無」
「お2人とも受け入れ過ぎです……」
あっさりと奏士の死を受け入れて手を合わせる2人もそうだが、それを見て一応は手を合わせる泉もだいぶ染まってきた。 奏士の悪影響は純粋無垢な少女すらこれ程までに汚染していた。
「ふぁぁぁぁぁ……おはよーデース」
次に起きてきたのはベル。 千聖と同じく、大口開けての大欠伸付きだ。
「おはようごぉぉぉぉぉっ!?」
1番近くに居た泉が挨拶しながら振り返────った所で顔を真っ赤にして固まる。
「な、何何どうしたの泉ちゃん!? ……うっわぁー ヤッバ」
泉の声に驚いて千聖も声のした方を向く。 紅葉も同様に。
「……絵の参考に1枚」
……紅葉は少し反応が違うが。 そういえば、紅葉は美少女好きだった。(百合的な意味は含まれない)
「ん〜 2人とも朝から大声出してどうしたデース……」
「い、いやいやベルさん見えてます! ぱぱぱ、下着が見えてます!」
「胸も零れそう……やっぱ規格外だなぁ」
「……良き」
「ふわぁぁぁぁぁぁ……」
例えパンツが見えていたとしても、それを気にしないのがベルである。 何故なら今のベルは寝不足だから。 もしくは、ベルが家では下着を着けないタイプだから。 又は、この場には同性しか居ないから。
「アオバー? コーヒー入れてクダサーイ!」
「莇先輩は今シャワーです」
「……じゃあ、寝る、デス……」
「いやいや今からご飯ですから!」
「……どこにもご飯は無い」
紅葉は当たりをキョロキョロと見回す。 普段なら皆が起きる時間に合わせて(と言うより奏士が皆を起こす時間に合わせて)朝食が用意されているが、今日はその影も無かった。
「…………」
ついでに奏士の息も無かった。 調理担当が死んでいるなら当然朝食も用意されていないはずである。
「……奏士、蘇生?」
「え〜 先輩生き返らすの面倒なんですけど」
「お2人ともそんな事言わずに……」
ちなみに、全員今の今まで奏士の蘇生を考えてすらいなかった事は黙っていた。 紅葉と千聖は勿論、泉ですら。
「……てな訳で、先輩の蘇生は御三方にお任せします!」
「……私?」
「わ、私ですか?」
「ふわぁぁぁぁぁ……ソージの蘇生デぇ〜ス?」
ベルは目を擦りながら奏士の死体に近付くと、上半身を起こしてそっと────
「ギュ〜♡」
奏士にハグ。 顔は当然のように胸に埋めて。
「あー先輩良いなぁ」
「ひゃわっ…………す、凄……」
千聖はいつも通りカメラを構え、泉は顔真っ赤にして手で目を覆っているが隙間からガッツリ見ている。
「……………………」
紅葉はベルの抱擁を無言で受け入れた奏士をじっと見ている。 正しくは『受け入れた』ではなく『拒絶不可』だが。
「おや会長さん。 もしかして嫉妬してますか?」
「……千聖、冗談は程々に」
「別に冗談じゃないんですけどね」
ベルは3分ほど奏士を抱き締めたが、当の本人はピクリとも動かない。 逆に、先程までと比べるとより生気が失われた様に見える。
「ん〜 目覚める気配が無いデース」
「それよか、先輩顔青くなってきてますけど大丈夫なんですか?」
「……窒息?」
「は、早く奏士さんを離さないと!」
「こうなったら人工呼吸で!」
なんて建前のキスをベルがしようとした瞬間、脱衣所の洗濯機のアラームが鳴った。
「……!」
それと同時に、奏士が目を見開いて起き上がった。
「おお! 本当にハグで生き返った!」
「……どうせ、おっぱいの感触に未練が生まれただけ」
「あ、あはははは……」
紅葉の辛辣な言い分に愛想笑いで返す泉。
一方奏士は、フラフラとダイニングを出て数分後、洗濯物の入ったカゴを持って戻ってきた。
そのままフラフラとサンルームへ向かい、そのままボーっと虚ろな目で洗濯物を干し始めた。
「…………」
無言で黙々と洗濯物を干す奏士の姿を、少女4人がポカーンと見る。
「例え死んでも日々のルーチンのために生き返るとは……」
「いえあの……最初から死んでいませんから」
「ていうか、あれ会長とベル先輩の洗濯物も混じってますけど大丈夫なんですか?」
「……? 洗濯物を干すのは奏士の仕事」
「何故かワタシ以上に女性服の扱いが上手いからソージに任せた方がいいデス」
「なんであの男、女性服に精通してるんですか」
後輩から引かれているなんて先輩は知らず、黙々と洗濯物を干す。 まともな判断力が有る様には見えないが、しっかりと洗濯物のサイズ・生地・男女別に仕分けして干す場所を変えている。
「で、あの人女性下着を普通に持って普通に干してますけどいいんですかあれ」
「……いつもの事」
「ソージに見せるための下着だからセーフデス!」
「えっと……少し恥ずかしいですけど、奏士さんですし……」
「えぇ……泉ちゃんまで……」
ちなみに、奏士は千聖の下着も干しているがいつも通り微塵も動揺する気配が無い。 そして、千聖はあまりにも奏士が自然体過ぎてそれを指摘するのも忘れていた。
マトモな意識は無くとも無駄な手際の良さで洗濯物を干し終えた奏士は、今度は逆にノロノロとカゴを戻しに行く。
「あ、戻ってくるのは早いんだ……」
その呟きはその場にいた皆が聞いていたが、誰が言ったのかは誰にも、本人にも分からない。
ひと仕事終えてスッキリしたのか、顔に生気が戻った奏士は、フラフラとソファに後ろから近付くと背もたれ越しの宙返り着席。
「…………」
ドカッとソファに力無く座ると、「ヴー……」と息を吐いて横に倒れた。
「…………ご飯は?」
「今日はワタシが作るデスカ?」
「はいはーい! 私、朝食はパンよりお米が食べたい派でーす!」
「あ……え? あの……今の奏士さんについては無視するんですか?」
「もう今更デース」
「……別に、私でも出来る」
「え、会長あの無駄な動きできるんですか」
「……おっぱいが揺れて痛くなるからしないけど」
「はあはあそうですか。 だってさ泉ちゃん」
「千聖さん……何故ここで私に話を振るのか聞いてもいいですか?」
「あ、いやその〜…………ほら! 泉ちゃんって生徒会メンバーの中では小柄というか平坦というか……うん、未来が有るよ!」
「フォロー下手なら言うなよ」
泉は終始にこやかハッピースマイルだったが、対面していた千聖も、周囲に居た紅葉やベルも凍るような恐怖を感じた。
「お? なんだなんだお前ら朝っぱらから集まって。 暇人か?」
唐突に現れたのは悠。お気に入りのぬいぐるみ、通称『覇王シリーズ』No.04《天覇空王 デストリアーデ》を連れて。 ちなみに3年前に奏士が悠の誕生日に贈ったオリジナルであって、某侍戦隊の某トラ・カジキ・カブトムシの合成と似てる気がするのは気の所為。
「あ、ユウ。 それがカクカクシカジカSQUARE Deer」
「私は突っ込まんぞ」
「oops! という訳でクレハ、説明パス!」
「…………要するに、奏士があれしてそうなった」
「会長説明下手すぎませんか」
「……泉、パス」
「え、ええっ!? えーっと……せ、説明するより見た方が分かりやすいと思うから、お姉ちゃんはちょっとこっち来て見て」
言葉での説明を放棄した泉は悠を連れて奏士の目の前まで移動する。 奏士は横になったままピクリとも動かない。
「なんだこの粗大ゴミは。 おいお前ら。 ゴミはちゃんと棄てないとダメだろう」
「お姉ちゃんこれ奏士さんだから」
「というか、その漢字だとソージの死体遺棄になるデス」
※ この主人公は残念ながらまだ・しぶとく・いけしゃあしゃあと生きてます
悠は奏士の死体をゲジゲジと足で蹴る。 普段の奏士なら殺られる前に殺る精神だが、今の奏士は全く反応しない。
「ふむ……やはりこうなったか」
「やはり?」
「ユウ、どういう事デス?」
「……何かの病気?」
悠はこの状況が想定内であるかのように冷静に話す。
「奏士がこうなったのは────猫不足だ」
「「「猫不足?」」」
「……猫?」
その場に居た全員が予想外の答えに首を傾げる。 猫不足とな。
「猫不足ってあれですか。 猫飼ってる人がよく発症する不治の病」
「それだ。 奏士のはより深刻だが」
「……猫」
話を聞いた紅葉が横たわる奏士を無言でじっと見る。 奏士はまだ息をしている。
「えー……でも猫不足ってこんなに重症になりますかね。 これもう猫不足とかそういうレベルじゃなくて何かの精神疾患とかですよ」
「まぁ、奏士の場合そこらは特殊でな」
悠は普段とは違う、少し重い空気で口を開く。
「奏士が人と虫を除いた動物好きなのは知ってるよな?」
「それは勿論。 先輩の動物好きは取材の過程で嫌ってほど出てきますし。 噂も聞きます」
「チサト、噂って具体的にどんな感じデス?」
「えっとですね……『サッカー中に指笛を吹いてカラスを召喚。 そのまま皇帝シリーズの模倣』『捜し物に鳥を招集』『普通に種族を越えて会話』『動物園に行くと動物達が騒ぎ出すから出禁』『野生の熊とも仲良くなれる』『呼べば何処でも大勢の動物が集まる移動式動物園』エトセトラ……言ってて思ったんですけど、これ動物好きじゃなくて別の何かですね」
「ソージはもしかするとビーストマスターの可能性があるデス」
「……そういう問題?」
紅葉はピクリとも動かない奏士の頬を16回/Fでつんつんと啄く。 その速度で「つんつん」なんて可愛い擬音かは兎も角。
「……おー」
普段なら即やり返されるか避けられる奏士が、今日は無言で受け入れるのが面白いのか紅葉は手を止めない。
「ちょっ、クレハその速度はマズイデス! なんか削岩機みたいな音出てるデス!」
「奏士の頭蓋骨と頬の皮膚が異常変形しかねないからそこら辺にしておけ」
「……むう」
紅葉は渋々手を止める。 が、時々そーっと手を伸ばす。
「で、先輩の話に戻りたいんですけど」
「ああ、そうだったな。 正直奏士が死のうがどうでもいいから忘れてた」
「「あっはっはっはっはっ!」」
「えぇ……今の笑うところデス?」
「毎度毎度お姉ちゃんがすみません……」
相変わらず朝から喧しい集団だが、現在ツッコミ役不在の為それを指摘する人は居ない。
「で、だ。 奏士と重政の仲も知っているだろう?」
「……奏士の溺愛っぷりは凄い」
「種族を超えた絆ってやつデス」
「重政も奏士さんを大切に思ってます」
普段から奏士と重政のことを見慣れてる紅葉とベルは勿論、泉もそれに全肯定する。 奏士と重政の仲を疑う者は一人もいない。
……好感度や親密度で猫に負けるヒロインとはこれ如何に。
「それでだな。 奏士のイカれた精神構造をギリギリで人間に保ってるのが重政というか、要するに精神的支柱が重政なんだ。 最後の砦、唯一の兵糧とも言う」
「理事長、先輩のことすっごいボロくそ言いますね」
「事実を述べたまでだ。 今までの話を噛み砕いて原子の塵に変えて話すと、『奏士は重政と1日離れるもしくは1日触れないと精神不安定になってこうなる』以上!」
「最後かなり端折った!?」
千聖の反応は無視された。
「ユウ、だとしたらどうするデス? ソージが今にも崩壊しかけてるデス」
ベルが指さした方を全員が振り向く。 そこには、国籍どころか惑星不明、とても難解な言語らしきものを発しながら身体がぶれて崩れかける奏士の姿が。
「安心しろ。 こうなることは予想出来たと言っただろう。 対策はある」
そう言うと、悠は欠伸をしながら部屋に戻り、紙袋を持って帰ってきた。
「これだ」
皆が紙袋を覗くと、中には猫耳カチューシャとクリップ式猫しっぽが。
「……なにこれ」
「名付けて「奏士君救出大作戦。 にゃんにゃんマキアート」だ」
「……Sky○sh?」
紅葉の反応に全員がポカンとした。 奏士なら伝わる反応も紅葉1人だけなら誰にも分からない。
「これを装着して奏士の気を引け。 上手く行けば残りの3日間はこれでなんとかなる」
「先輩そんなに単純ですかね……」
千聖の呆れ声はまたしてもスルーされた。
「じゃあこの中で1番ネコっぽい人が着けるってことで良いですかね。 私除いて」
「私もやらんぞ。 お前ら生徒会役員でやれ」
「……全部丸投げ」
颯爽と降りた千聖と悠。 千聖は何やらカメラの準備をしている。
3人は猫パーツを中心にうーんと悩み顔。
「ワタシ達3人の中で1番ネコっぽい人デスカ……」
「……ベルはネコっぽくない」
「イズミはネコっぽいデス」
「わ、私ですか? 私よりも紅葉さんの方が猫っぽいと思いますけど」
「……私?」
「いやークレハはどっちかと言うとタチデスよ」
「あの……ネコってそっちの意味じゃないです」
「タハーッ! これは失敬w」
「……私猫っぽい?」
「え、えと……前に奏士さんが
『……紅葉の目の前に猫じゃらし垂らしたら飛びつくんじゃなかろうか』
と言っていたので」
「……失敬な」
「でもクレハって『ソージの美味しいご飯』っていう猫じゃらしに食いついてるデス」
「……なんと」
いつも通り無表情で驚きつつも「む〜」と唸る紅葉。
「でも、この猫キットはクレハ専用みたいデス」
「……そうなの?」
「ほら、毛の色が銀色デス」
「……成程」
正確には銀ではなく灰色に近いが、これを着けて違和感が最も無いのが紅葉であることは確かだ。 色的にも、イメージ的にも。
「ほらほら、カチューシャ着けて、しっぽを────大変デスユウ! クレハはワンピースだからしっぽ着ける箇所が無いデス!」
「じゃあパンツにでも着けろ」
「そもそもしっぽまで着ける必要あるんですかね」
「……確かに」
そんなこんなで猫耳カチューシャを着けた紅葉が、石化したように動かない奏士の元へ寄る。
「…………」
紅葉がしゃがんで目線の高さを合わせるが、奏士は未だ虚ろを見ている。
ちなみに、角度的に他の人には見えていないが奏士の位置だと少し目線を下げるとしゃがんでいる紅葉の下着が見えている。 勿論、紅葉はそんなこと気付いていないし奏士も気にしていない。
「……にゃー」
「………」
奏士の肩が動いた。 未だ虚ろな目で声のした方、紅葉を見ている。
「あ、少し反応した」
「良し! クレハもっとデス!」
「…………にゃーお」
次の瞬間、ソファで横たわっていたはずの奏士の姿が消えた。
「先輩が消えた!?」
「いや、クレハの後ろデス!」
一瞬で、紅葉の動体視力を超えた速度で背後に移動した奏士は、そのまま両腕に力を込めて限界まで引き絞ると目の前の紅葉に向かって伸ばす。
「危ない!」
その声は誰のものか。 しかし時既に遅し。 奏士の手は既に紅葉に到達していた。 そして────
「…………違う。 サラサラし過ぎ」
紅葉の頭上の猫耳、そして髪を撫でたり。 頬をクニクニ揉んだり少し引っ張って伸ばしたり喉をコロコロ触ったり。 一通り感触を試すと、そう呟いてフラフラと離れた。
「?????」
紅葉は今自分がされたことがよくわかっていない様子。 奏士が触れた部分を自分で触って確かめている。
「こ、これは一体……」
「ふむ。 どうやら重政とは毛並みが違ったみたいだな。 花伝の猫っ毛ならいけると思ったんだが……」
「え、それだけで?」
「奏士がどれだけ重政と一緒に居ると思ってるんだ。 毛並みどころか匂い、果ては足音と気配ですら判別するぞ」
「それはもう何か別のヤツですよ」
「次どうする。 泉、お前行くか?」
「わわわ、私は無理無理無理無理無理ィィィィ!」
なんて会議をしている間、一旦紅葉から離れた奏士だったが、これはこれで良いのかスンスン匂いを嗅いでは撫で回している。 紅葉も、これはこれで落ち着くのかされるがまま奏士の膝の上に座っている。
「ハイハーイ! 次鋒はワタシデス!」
「バレンタインか。 なら、お前にはこれだ」
悠がベルにもう1つの紙袋を渡す。 ベルが覗くと、中には金色の毛の犬耳と犬しっぽが。
「ワタシはワンコデスカ」
「ワンコってサイズじゃないがな」
ベルはワンコというより大型犬だろう。 ゴールデンレトリバーの様な。
ちなみに、ゴールデンレトリバーは日本で大型犬として扱われているが、海外では中型犬の範囲らしい。 民族的体格の違いだろうか。
「準・備・完・了! ベル、行くデース!」
耳かきを着けたベルが奏士に突撃する。
「絶大なる〜〜ラーーーブッ!!」
ベルが背後から奏士に抱き着こうと飛びつく。 ソファに座っているので、背もたれ越しかつ首から上だけだが。
しかし────
「あれっ!?」
奏士の形はその場に残っているのにベルの腕はすり抜けた。
「こ、これはっ!」
千聖が叫んだ瞬間、奏士の姿が湯けむりのように掻き消えてベルの後ろに立っていた。 紅葉を姫様抱っこしながら。
「……残像だ」
そう呟いた。 奏士の『人生で言ってみたい台詞第3位兼やってみたいシチュ第2位』が叶った瞬間である。
「なんて無駄な技術を!」
ベルは諦めず奏士に飛びつきハグを繰り出すが、その全てを奏士は避ける。 時に残像、時に空中、時に最低限の動きで。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……何故避けるデスカー!」
息を切らすベルと、全く乱れぬ奏士。 そっと紅葉を下ろして大欠伸。
「いや……身の危機を感じたから」
「蘇ったか奏士」
主人公惜しくも復活! はよ○ね復活! さっさとくたばれ復活! …………残念だ。 ガソリンとエンジン熱を原料とした火葬機能────はちょっと勿体なかったから、超大型オーブングリル付き霊柩車まで準備したのに残念だ。
「……なんか記憶があやふやなんだが……いつからコスプレ大会開いてんだ?」
「全部お前が原因だよ」
「なんと」
紅葉と同じ驚き方をする奏士。 主人公の目覚めにより、これにて第三者視点役の私はお役御免でサヨナラバイバイです。
───────────────────────────
俺! サイドォ! なんか電車乗ってそう。 特殊仕様になってそう。 ライダーバイクは序盤だけ。
詳しい話を聞くと、俺の重政不足の処置をしていたらしい。 成程。 で、そこで何故ケモっ娘コスになるのか分からん。 悠ちゃんおバカ?
今は朝飯も食べて皆リビングで食休みの寛ぎ中。 俺は洗い物中。 お前どこ中だ? 宇宙だよ。 中学の時のこととか覚えてねー
ちなみに作者は厨二病真っ盛り。 今はもう成人してるのにまだ治ってない。 発症は小六。 いや俺じゃなくて。 俺はもう大人だから厨二病じゃないしそもそも発症してない。 マジで。 いやマジで。 だからマジだって。
本日は悠ちゃんのありがたーいお言葉「各自自由」を承ったので俺は一日引きこもる。 大洗とかしょっちゅう来るから目新しさとか無いし。 未だ釣りは解禁されてません。 雑誌付録のカードをスキャンすれば解禁されるかしら。
悠ちゃんは飯食って人に後始末させてどこかへ消えた。 まさかこの街に男が? いやーそうだったらひと夏のアバンチュールですわ。 従姉の幸せくらいは祝ってやろう。 でもそれはそうと人の幸せは憎いから呪う。
洗い物終えてお手々フキフキ。 ゴム手袋使いたいんだけど、それだと汚れ落ちたか触って確認しにくいのが悩ましい。 俺のお手々は商売道具なのに。 職業では無いけど。 何故なら趣味だから。 職に就かず、何色にも染まらない俺は言うなればエターナル無職。
「ソージは今日何する予定デス?」
冷蔵庫からアイス(モース硬度9以上のアレ)を取り出した所で、涼し気なタンクトップシャツとハーフパンツ姿のベルが近寄って来た。 なんというか、ベルがまともな服着てるの久しぶりって感じがする。 昨日もちゃんとした服着てたけどね。 大体がコスプレかTシャツのイメージしかない。 このキャラ服装が極端過ぎる。キャラとか言っちゃった。
「クソ暑いし昨日ので疲れたから今日はオール部屋。 絶対に外に行かんぞ」
まず年齢で負けた。 少年の若々しさと無限の体力そして爆速の回復力は俺には無い。
「ソーオージークーンー アーソービーマーショー!」
「か・え・れ♡」
「つまり遊んでくれると?」
「日本語でおk」
どうしよう発音が日本語に似てるだけの別言語だよこれ。 あれか、異世界転系あるある「言葉は音声翻訳で通じるけど文字は読めない」的なやつか?
「俺今日はやること山盛り激盛りキング盛りであるから。 構って欲しいなら泉ちゃんか頼金にでも遊んでもらえ」
ちなみに莇はここに居ない。 街観光に行ってくると言って既に出ていった。
「え〜 ソージとデートしたいデースー」
「嫌です」
「美少女からのデートの誘いを即答で断るってなんかいつものソージ感あって最近は安心してくるデス」
「色んな意味で大丈夫かこいつ」
もうそれヤバめの疾患じゃない? あ、もう頭は手遅れ。
「仕方ないデス……明日は一緒に遊ぶデス!」
「気が向いたらね」
ちなみに気は絶対に向かないから遊ばないのであーる。 まーたフラグ建てちゃう一級建築士の奏士君。 解体屋の異名もあるから安心だね。 解体屋と書いてなんと読むか。 普通に読むかスクラッパーか。
ベルを追い払った所で部屋に戻り、鍵をかける。 これで俺は自由だ。
アイスを咥え、ノーパソを立ち上げ、ゲームをテレビに接続してソフトを入れる。 クーラーボックスからドクペ缶を取り出してプルタブを開ける。 手が汚れない菓子は午後のお楽しみ。
「……宴だ」
1人なのにそう呟いてしまうくらいに俺は内心ワクワクしている。 1人の時ってテンション上がるよね。
「ハァァァァァァァァァッ!!」
軽く両拳を握って丹田に力を貯めるイメージで腰を落とし、全身から謎のオーラを出す。 気分はデッド戦士。 死んどるやないか。 まぁ割と死んでるし間違いじゃない。 家の蔵になんかの玉が7個ほどあった気がする。
「ァァァァァァァァ「……ドクペ以外にジュースは無いの?」んなもんある訳────ちょっと待て」
気合い溜めを中断して声のした方を見る。 銀髪の女が居る。 人のクーラーボックス漁ってる女が居る。 なんだ幽霊か。 特に理由は無いけどシャワー浴びてパンツとズボン変えてくる。
「余りにも自然に居るから今までつっこまなかったけどもう言うわ。 お前何故いる」
部屋に入った時から居たね思い返せば。 自然体過ぎる。 人の部屋でそこまで図々しくできるの凄いね帰れ。
「……私ドクペは好みじゃないのに」
「は? 分かる」
「……この流れで争い起きないの珍しい」
だってドクペって好き嫌い両極端だし。 俺も何飲んでんのか分からなくなってくるよ。 味も行方不明だし。
あれだ、エナドリ飲んでるのと同じ感覚。 飲んでる時はそうでも無いんだけど、後から味を思い返すとよく分からない現象。 俺はあの現象を「SAN(そういや・あの味・なんだったんだ)現象」と名付けた。奏士くんのネーミングセンスはイマイチ。 でも作者よりはマシ。 キャラの名付けセンス壊滅的だから。 運はバチくそに良いみたいだけど。
紅葉は遠慮無く人のドクペを飲む。 俺まだ口付けて無いし、紅葉が飲むことを予想して多めに持ってきてるから良いけどさ。
「……やっぱり変な味」
「お前口付けたなら全部飲めよ」
「…………あげる」
「俺回し飲み無理な人だから」
丁重(-丁重)にお断りしてコントローラーを握って座る。 ノーパソの画面は俺の部屋に設置してある「何時でも重政見れるよカメラ」略してカメラから送られる映像が映されている。 そんなに略す意味ある? 世界に意味が無いんだから今更無意味を指摘されてもねぇ。
「……おー」
紅葉はその映像を興味津々で見てる。 よしよしこれで大丈夫な訳ない。
「おいお前出てけ。 ここは俺の部屋だ」
「…………?」
「そんなキョトン顔されても」
俺何か間違ってる? 間違ってないよねドクペ飲んで出てけ。
「……昨日、ゲームするって約束した」
「記憶にございません」
「……朝まで付き合うって」
「……記憶に、ございます」
んもーなんであんな約束したかな俺。 全てはベルが悪い。 俺悪くない。 よしじゃあちょっと落ち着いてタイムマシン探すか。 昨日のアレ無かっとことにする。
「……やろうぜ」
「…………やらせていただきます」
現実は非情。 丸書いてチョンしてうみ出せば行けるかな。 丸書いてチョンだけでダえもんは描けるって凄いね。 ドラちゃんを発音よく言うとダえもん。
紅葉にコントローラー(2つ目)とクッションを渡してゲームを起動する。 紅葉ってゲームする時正座なのよね。
「……何する?」
「いつも通り」
いつも通り(その場のノリ決)だから、今は大人気なアクション格ゲーが入ってる。
「……ボコボコのボコにする」
「言ってろ」
最近は勝率3割だがな、こちとら成長速度と対応力には自信がある。 だいぶ紅葉の癖も分かってきたし、番外戦術もある。 まぁその場合俺がリアルでもスマッシュされるだけだが。 股間はやめてよ股間は。 ミーのサンがノットライジングしちゃう。 カタカナに変えるだけでクソムカつくの不思議。 やっぱり意識高く見せたい系は嫌い。
お互いにいつも通りの持ちキャラを選んで戦闘開始。 カチャカチャとコントローラーの音とスピードからゲームの音だけが聞こえる。 隣に座っているのに息遣いすら聞こえない。
聞けば、紅葉は格ゲー(タイトルは言わないが)の世界ランキングで1位の座に座っていた事もあるそうな。 というか今も1位だってさ。 そりゃ強い訳だ。 俺は広く深くだが、紅葉は狭く底知れぬタイプだな。 深くやる事だけは一致してるが、深度が違う。
「…………」
お互い無言。 紅葉の集中力は凄い。 俺は逆にマルチタスクでより集中するタイプだから対極だ。
お互いに残機は残り1つ。 だが俺は既に30%のダメージを負っている。 あれこれ勝てるんじゃね? 俺が劣勢ということは俺が優勢ということ。 俺は追い詰められると超覚醒するタイプだから。 でも締切は絶対守る。 瑠姫さんが怖いから。 チンパンジーの握力って300キロ近くあるらしいぞ。
落ち着いて一昨日家に届いたゲームのキャラ攻略順を熟考しながらコンボを繋げる。 ぶっちゃけコンボ決めるよりも徐々に蓄積させればパワータイプなら普通に吹っ飛ばせるから悩みどころ。
「あっ」
一瞬コマンド入力が早過ぎた。 別コマンドとして認識した俺のキャラはあらぬ方へ飛び立った。 空中じゃガード出来ねぇぞ。
「……!」
どうにか回避とジャストガードで対応するが、紅葉の連撃に少しずつ押されていく。 女王の座は伊達じゃないってか。
そもそもの話として、俺はどうにも掴みとガードが苦手だ。 基本回避かキャラ耐久力に任せたゴリ押し。 ガードはキャラパワーで打ち砕くスタイルだからそこで実力の差が出る。
そして相手が上級者ならその差は微々たるものでも大きな差になる。
「ぬっ」
最後の抵抗虚しく紅葉のキャラに吹っ飛ばされ、残機ゼロ。 俺の負けだ今回はな!
「……(ムフーッ)」
ドヤ顔がウザイ紅葉だがこの際無視して第2ラウンド。
「くっ……もう1戦だ」
「……いいけど、負けたから奏士は1枚脱ぐ」
「は?」
これ脱衣システムなの?
「そのシステムだとお前不利じゃね?」
俺は服上下とパンツと肌着の4枚。 最悪俺は全裸でも良いとして、紅葉はワンピースだ。 つまり上は1枚だけで、その下は下着ということになる。 2回負けたら単行本修正になっちゃう。
「……奏士にハンデ」
「よし分かったお前素っ裸にしてやる」
安い挑発? 俺の最後の意地だこいつに負けたままは普通に悔しい。 僅かに残ったプライド的なやつが許さない。
青年誌だろうと成年誌だろうと知ったことか。 直ぐに勝ってお前の裸体見下してやる。 俺はもう見られてるからお相子。
─────────────────────────
「……感想は?」
「パンイチになると色々吹っ切れる」
「……無様」
負けました。 俺の青い最後の砦が全国公開しております。
「……ハンデにもならなかった」
「お前今下着姿なの自覚してる?」
紅葉はワンピースを脱いで白いブラとパンツ姿で正座してる。 シュールだ。
ともあれ、次負けた方が実質的敗北者になるわけで……これ人に見られたら色々とマズイな。
「おいさっさと次やるぞ」
「……そんなに私の裸見たいの?」
「いやお前の身体に興味は無い」
「は?」
紅葉さん痛い。 人の膝コントローラーの角でグリグリしないで。
「はよ選べ」
「……分かった」
紅葉も選択してファイナルラウンド。 まずは初手下Bで突進。 からのキャンセル切り返し。
「……」
紅葉はどんな状況でも冷静に対処してくる。 やり込み特有の全知の余裕だ。
「……」
俺は予想はしてもある程度は見てから反応する。 1Fだろうと俺には余裕で反応できる。 出なきゃ残像残せないって。
掴み下、弱ジャンA2回ジャン右A右Aからの復帰メテオ。 俺の持ちキャラの有名なコンボだからこそ考えずに入力できるし、紅葉は対応してくる。
「くっ」
紅葉のターン。 弱ジャン下A下A掴み下タマゴロール。 対処するがキャラの行動フレームの差でいくらか食らう。
なんとか撃墜するも撃墜され、それの繰り返しで勝負は拮抗している。
「……っ」
予想外の2連撃墜を食らって少しだけ紅葉の肩が動く。 俺の学習力を舐めるな。
そして────
「オーッサァゥ! おーっすぁッ! 俺の完璧WINNER!」
紅葉の最後の残機を消して俺の勝ち。 勝率3割をここで引いた。
「……負け」
「よっし脱げ。 言い逃れのできない結果だやっぱり無しは認めんぞ」
よく考えたら年頃の娘に向かって半裸の男が脱げと言うこの状況。 脳死でもやばいと分かるがこの時の俺は思考回路が麻痺していた。
「……仕方ない」
紅葉が背中に手を回してホックを外す。 締めつけから解き放たれた胸が揺れてサイズ増大するが、そんなことはどうでもいい。
「なっ……」
「……(ドヤ)」
問題は紅葉の胸。 丁度乳首があるであろう辺りにあってはならないものが。
「き、貴様それは……ニップレスシール!」
「……対策はバッチリ」
胸に貼られたハート型のシール。 それはつまり────
「てめぇハンデとか言っておいて自分が1番ハンデマシマシじゃねぇか詐欺師がよ」
なんか色々と残念。 見たいとかじゃなくて、純愛ゲー買ったら皮被ってた陵辱ゲーだったような気分。 こっちは完全なノーガードでやってるのに二プレスとかなんか萎えるわー
「……乙女がそう簡単に肌を見せるわけが無い」
お前の言い分はおかしくないけどお前の頭はおかしい。
「無効だ無効! ルール違反でお前の負けで試合は無効だ!」
「……元々私の負け」
「クソがァ!」
どうするかと考えていると、部屋の扉がノックされた。
「ソージー ユウがお昼の相談を────2人とも何してるデスカー!」
「……おっと」
「面倒なのが来た」
ナチュラルに部屋の鍵を外から開けて入ってきたベルにお説教(俺ら下着姿)をされるという意☆味☆不明な状況に陥った。 それもこれも全ては昨日の俺か香水のせいだ。
作者風邪悪化
咳不止
ちょっと長くなったから次回続く
2連チャンで時間すぎてごめんなさい




