海と言えばなんですか。 知りませんよそんなの
前略 おじいちゃん。 地獄なう。 ねぇジジイ今どこー?
そんなこんなで前回に引き続き地獄旅行。 地獄温泉なら喜んで行くのになぁ……
短期間で三度目の地獄だし、そろそろ獄卒にあだ名つけられたりしてんのかな。 コンビニの学生バイトかよ。 作者は毎回メビウスPPP5を3箱買っていくおじいちゃんに『PPP』ってあだ名付けてた。 作者裏話とか誰得だよ。 喜ぶのは天の川銀河に2~3人は居るであろうファンくらいだろ。
こうも短期間に地獄を訪れるとなると、なんだか少し店員じゃなかった、獄卒に会うのが恥ずかしくなってくる。 近所の店に買い物に行って帰宅した瞬間に買い忘れ発覚して再び行くけど店員に「あ、さっき出てったのにまた来てる。 買い忘れかな?」って思われたくないのと同じで。 実際の店員はそんなこと考えてないしそもそも常連もしくは迷惑客じゃない限りは客の顔覚えてないってのにね。 でもそれとこれは別。
今生き返ってもまたなんやかんやあって再度来店するだろうと思って川沿いをぶらつく。 この白装束は着心地が悪い。 そして地面がゴツゴツした岩肌なのに裸足、そして若干濡れてるから歩きにくい。 今更だけどなんで普通に地獄観光してんだ俺。
でもこの経験はなにかに活かせそうだから旅行を続ける。 カメラとかがあったらパシャって保存するのになぁ。
以前、三途の川についての書物を読んだことがある。 幅の広い川で、渡る箇所が3つあるとか。 善人・中人・悪人とそれぞれ渡る難易度が変わっていたり、六文銭持ってれば悪人でもそれなりに楽できたりと書によって様々だが、共通してるのは「奪衣婆」の存在。 懸衣翁はほとんど記されてなかったり、そもそも登場すらしなかったり。
「三途の川と奪衣婆」は言ってしまえば「ナゲットとBBQソース」レベルでセットのはずなのに俺は1度も目にしたことがない。「マスタードソース派」に慈悲は無い。 BBQこそが至高。
「へい毎度」
川沿いの露天でサンダルを借りる。 店員のおっちゃんに聞いたところ、地獄の気温はとても暑いと聞くが、実際は現実世界と差程変わらないらしい。 ただ、八大・八寒は別でクソ暑いクソ寒いの文字通り地獄環境らしい。
あ〜サンダルって素敵。 靴履いてるだけで安心感が違うな。 あのおっちゃんは川沿いでサンダルのレンタルとかどこ向けの商売かと思ったが、俺みたいに臨死系の商売なのかもしれない。 さらば俺のなけなしの六文銭。 こんなこともあろうかと用意しておいて助かった。 いや六文銭用意してる時点でおかしいしそもそも死にかけてるから助かってないし。
白装束にトイレサンダルとかいう不思議スタイルの見た目亡者男が1人、川沿いを散歩する。 これあれだよテレビ番組とかやったらいいんじゃない? ちい散歩みたいにさ。 じい散歩とか。 それボケ老人の徘徊。
あるけどあるけど特に景色は変わらない。 というか川しかない。 これ川の先どうなってんだ?
「おっと」
等と考え事をしながら歩いていると、前から歩いてきたであろう人物(地獄だから人かどうかは知らんが)とぶつかってしまった。 俺としたことが気配探知を怠った。
「すんません考え事してて……」
「あ、いえいえこちらこそボーっとしてて……」
どんな人かと顔を見ると、くせっ毛にメガネとどこがで見たようなパーツが。 あれ、こいつって────
「あれ、柳か?」
「何やってんだお前」
禍塚のおフレンド、不知火でした。 何してんだこいつ。
「俺は見ての通り、なんか死んじゃったみたいだから川を渡る前に観光でもと思ってな。 そっちは?」
「俺は……俺も観光だな。 まだ死なんが」
「そっかー」
不知火はこんな時でもヘラヘラと笑っている。 こいつ案外タフだな。
いや、皐月さんとかいう下手したら殺されかねない存在相手に毎回半殺しにされてる男だ。 これくらい慣れっこなんだろ。
「柳はなんで死んだんだ?」
「まだ死んでねえって……えっとだな。 生徒会メンバーで海に来て、紅葉にぶん殴られて、今なう」
「??? 一体何があったっだ?」
「詳しいことは前回を読めばわかるがかくかくしかじか」
俺は不知火に経緯の詳細を話した。 俺が紅葉を不機嫌にさせたことだとか、紅葉に即死コンボどころか某ワンパンキャラみたいなことされたこととか。 ちなみにその時の拳跡が今俺の腹にあります。 見る? 俺の割れた腹筋とか折れた肋骨とか破裂した内臓とか。 最後のは冗談。 肋骨は2、3本逝ったかもしんない。
「はー、そりゃ柳が悪い」
それを聞いた不知火の最初の一言は俺への悪評でした。 あらまあ。
「女の子がオシャレしたんだ。 前に見たとしても毎回感想言ってやるのが男だろ」
「俺そういうこと求めてくる女もそういうことしなきゃならない男も嫌い」
俺は主人公ムーヴ無理だから。 女の子を褒めるなんてはじゅかちいシャイボーイなの。
……おい、今鼻で笑ったそこのお前。 そうそうこれ読んでるお前だよ。 疑問があるなら聞こうじゃないか。 但し聞き流すがな。
「で、実際どうだったのよ」
「何が」
「そりゃあもちろんみんなの水着姿よ」
そう言いながら不知火は顔を近づけてくる。 距離の詰め方が陽キャのそれ。 シャドウな俺は年中無休でソーシャルディスタンスだからもうちょっと離れて欲しい。 具体的には対蹠点くらい。
「柳的にはどうだったん? 誰が1番可愛いとか、似合うとか好みとか」
「知らん。 俺の彼女は次元が違うんだよ」
「文字通り次元が違う話されてもなぁ……」
言うまでもないが1番は泉ちゃんである。 人生初というビキニ。 それに立ち会えた俺は多分俺の漫画がアニメ化するより幸福。 いやアニメ化した方が嬉しいな。 泉ちゃんの初ビキニは嬉しいとかそういう次元じゃないし。 尊の次元。
「俺の話はいい。 お前はなんで死んでんだよ」
「俺? 俺は……えーっと、なんで死んだんだっけ?」
「記憶力死んだんか?」
「いやそうじゃないんだが……衝撃でまだごっちゃになってる」
こいつひょっとして衝突系の事故にでもあったんじゃなかろうか。 というか学園行って最初に知らされるニュースがクラスメイトの悲報とかシャレにならんぞ。 掃除の時毎回机の上の花瓶退かすの億劫だし。
「あ! 思い出しそうだそうだ!」
不知火、LED点灯。 スイッチオンでハングリーなエブリデイだ。
「えっと、俺は確か遥ちゃんの手料理を食べて────」
「もういいわかった死ね」
「早くね!?」
不知火が何を言おうとこいつを殺すには十分すぎる理由を見つけた。 このまま川に投げ込むか?
「今生の別れの前に聞いておこう。 なぜお前は遥さんの手料理を食った」
「待て! それを言う前に不穏なワードが聞こえたぞ!」
ちなみに俺はドッキリスタッフ宜しくスタンバイOKです。 1秒もかけずに川に投げ込む準備はとっくにできてるぜ。
「いいから吐け。 1度とはいえ同じ班だったんだ。 せめて苦しまずに死をくれてやる」
「じゃあ同じ班の好で殺さないって選択肢くれない?」
「選択肢は『死ぬ・くたばる・滅ぶ』の3択だ。 今も昔も道は3本と決まっている」
「そんな決まり今知ったんだけど……」
さて、しかし苦しまずに殺すにはどうしたものか。 溺死は割と苦しいと聞くし、三途の川に住む化け物に食い殺されるってのも消化中は割と苦しいと聞く。 というか痛覚がヤバい。
そもそも地獄で死んだ場合はどうなるんだ? 呵責を受ける亡者は直ぐ蘇生するらしいが、川のこっち側は地獄と言ってもまだ裁判中の亡者に過ぎない。 その場合は生き返るのか? 色々知らんことばっかだな。
「殺すのは後回しだ吐け」
「……なんかもう一周まわって愉快になってきたぜ……」
やれやれといった具合で不知火が口を開く。 とりあえず生き返ってから考えよう。 殺したらまた生き返らせればいい。
「遥ちゃんが料理の勉強してるのは知ってるよな?」
「そりゃベルが時々教えてるからな」
定期的に開かれるベル先生のお料理教室。 生徒は皐月さんと遥さんの2人。 月謝は不要で入る資格は恋する乙女であること。 はーい閉店ガラガラ。
「で、試食会に呼ばれて1口食ったらこれよ」
「…………なるほど。 すまん」
つまり遥さんは1口で男一人が死にかける劇物を作ったってことか……それを食った不知火に少し同情。 判決は変わらないが。
「事情は分かった。 で、いつ投げ込んでいいんだ?」
「永遠にやめてくれると助かる」
「そりゃ残念だ」
なんて話をしていると、何やら身体が軽くなったような気がする。 心做しか生気が無くなってきた様な……
「あれ、これマジで死にかけてね?」
「長い時間地獄に居るから身体が引き寄せられてんじゃね?」
不知火は笑う。 いや笑い事じゃねー。
「そうか、じゃあそろそろ帰るわ」
「俺もそろそろ帰らねーと遥ちゃんに怒られそ」
こいつほんまマジで川に突き落としたろか。 と思ったけど俺も以前紅葉の劇物を食して死にかけたからやっぱり踏み切れない。 遊園地の後、食ったのよ。 あれは天に昇る味だね。 地に落ちてるけど。
「んじゃなー」
「うい」
そう言って不知火と門を潜る。 今回は送迎サービスが無かったのが残念だ。
あー目が覚めたらイタズラされてるとか無いといいなぁ……
─────────────────────────
「……ん」
「……目覚めた」
目を開けると再び紅葉の顔。 なんか2度目は飽きる。
「……大丈夫?」
「気絶した俺を甲斐甲斐しく見守って膝枕までどうもと言いたいがマッチポンプご苦労さまとしか言いようがないな」
「……奏士の自己責任」
紅葉はジト目で答える。 世間一般で言う殺人未遂をマッチポンプに抑えてやった俺の寛容さをありがたく思うところだと思うんだよね俺は。
「お前、あんな技何処で身に付けた。 この作品に有るまじきファンタジー要素マシマシだったぞ」
「……ちょっと何言ってるか分からない」
「分かれよ理論が非現実だつってんの」
「……過剰な詮索は危険」
「なんだこいつ」
まぁ言いたくないなら別にいい。 正直な話、興味はたった今失った。
いつまでも膝枕というのは正直気まずいのでさすがに起きる。 俺の身体の耐久値はもう0に限りなく近い。 小数点の世界。
「……あっつ」
さすがに寝てばっかだと悠ちゃんに怒られそうだからとパラソルの影から出る。 足先が出た瞬間に引き返す。
「……おかえり?」
「ただいまも言えねぇよ」
悠ちゃんに怒られようとクソ暑い外界に出るのは無理だとわかった俺は大人しく荷物番、もしくはシートウォーマーをしていよう。 後夏の海で遊ぶ体力は俺に無い。
毎日の鍛錬でいい身体してるし家事に庭いじりもしてるからか体力あると思うでしょ? 残念俺の体力は外で遊ぶ仕様にはなっておりません。 出かけ先で歩き回るのは疲れないんだけどね。
「お前は遊び行かねぇの?」
つーかあいつら何やってんだ? 悠ちゃんを砂に埋めてサンドアートでもやってんのか? も助は相変わらず不在。 マジで解雇しろ。
「……荷物番」
「本音は?」
「……奏士のお世話」
「と見せかけて?」
「…………外、暑い」
「だな」
紅葉も同じ理由で影から出ないらしい。 パラソルの下が俺たちに許された生存領域。 インドアは生活圏が広くて狭い。
「…………」
「…………」
お互い無言で外の景色を見る。 右見ればリア充左見ればリア充(と紅葉)上見ればパラソル下見ればブルーシート前見れば海。 上下は見る必要あったか?
夏の海水浴場というものはこうも騒がしいものなのか。 俺は事実上の初海水浴だから初めて知った。 海にはよく来るんだけどね。 海水浴はしたことが無い。
イチャつくリア充を見ると吐き気がする。 仲良し家族を見れば嫌悪感。 紅葉を見るメリットは特に無い。 なので前方の海をぼーっと見る。 クソ暑い太陽の真下ではしゃぐベル達は元気だなー。
生徒会役員+理事長が炎天下ではしゃぐ一方、生徒会トップ2は並んでお絵描き。 海に来た意味は?
以下、絵描き中の会話である。
「機体何使ってる?」
「……プロとペンシル」
「世代は?」
「……第2」
「ふーん」
「……奏士は?」
「同じ」
「……海用に防塵は?」
「ちゃんとケース入れてる」
「……」
はい、水着姿の男女とは思えないほど色気の無い会話です。 海に来てお絵描きしてるどころかお互いに機種の話しかしてませんからね。 ちなみに俺は推し絵師の生描きが見れて感動。 今だけ神に感謝。
「あー!」
サラサラとお絵描き中にベルが現れた。 ちょっと景色見えないから目の前に立つな。
「2人ともなんで海に来て絵なんか描いてるデスカー!」
「絵なんかってなんだ。 こちとら本職だぞ」
「えなんか言ったデス?」
「何も言ってない」
あっぶね。 ついばらすところだった。 ちなみに俺の本職は無職なので無い。
「……外は暑い」
「そんなの、遊んでいる内に気にならなくなるデース」
「遊ぶ気にもならんからこうして引きこもってるんだがな」
ということを言っても生粋の陽キャリア充アウトドアなベルには効果は無いだろう。 インドアってのは「やってる内に〜」とか「やってみたら〜」とか言われてもそもそも始める気すら起きないものだ。 知らんけど。
「ほーらー 2人とも立って出るデースー」
ベルが俺と紅葉を立たせようと手を引っ張る。 だがインドアを舐めるな。 意地でも出たくないインドアは大樹が根を張るが如く動かんぞ。
「……仕方ない」
どうやら真のインドアは俺だけだったらしい。 紅葉はしょうがないなぁと道具をしまって立ち上がった。
「ほら、クレハちゃんは立ち上がったわよ? 後残ったのはソージちゃんだけよ?」
「子どもを言い聞かせるオカンみたいなこと言うな。 俺は嫌だぞ荷物番する」
「そっちこそ子どもみたいな駄々こねをするんじゃないデス!」
引っ張って意地でも俺を引き出そうとするベル、大地とひとつになって意地でも引きこもる俺。 血で血を洗い、手に汗握る攻防は呆気なく終わった。
「……立つ」
「あああ」
紅葉ちゃんやっぱパワータイプとして欠陥レベルでステ振り間違ってるよ。 軽く手首掴んで引っ張っただけで俺軽く浮いたんですけど。
強制的に外に放り出された俺は渋々遊ぶことにした。 いいか! 鳥籠の中に入れられた鳥を「可哀想」なんて言って逃がそうとする輩が居るけどな! 人の手によって飼い慣らされた鳥は自然界じゃ生きていけるのはほんのひと握りなんだからな! だから俺も外に出すと死ぬ。
「ところで全員日焼け止めは?」
苦肉の策として日焼け止め塗ってる間に逃げ出せないかと思って聞いてみた。
「当然塗ってあるデス」
「だ、大丈夫です」
「既に」
「当たり前だ。 ……この歳で日焼けするとシミがなぁ……」
最後の悠ちゃんの呟きは聞かなかったことにするが、策は無惨にも消し飛んだ。 みんな用意周到。
くそっ……どこで間違えた。 俺の作戦は完璧だった筈だ。 成功率はちゃんと1桁あるのに。
でも俺は何も間違えないから他の何かが悪かっただけなんだ。
Q. 一体何が悪かったんだ。
A. 頭が悪かったんだね。
なるほどね。 はーなるほどね。 今これで納得したお前後で消す。
「……まだ塗ってない」
はいやっぱり俺は何も間違えてませんでしたー! 今だけは塗り忘れた紅葉に感謝。
「じゃあ全員で塗ってこいよ。 俺はちょっと手洗いに……」
そっと退散。 さーて何しようか。
「待て。 お前はトイレ行く前にスマホと財布・その他の道具を置いていけ」
「ちぃ!」
悠ちゃんに退散道具を没収されたので渋々シートに戻る。 俺、旅行は皆が楽しむべきだと思うんだよね。 海に出たくない人もいるんだからさ、その人はその人で遊べばいいんじゃない? 具体案としては俺はここで荷物番しながらネトゲしてるからみんな遊んできていいよ。 防塵カバー装着済みのノーパソもポケWiもあるから楽しめる。
「…………」
隣の紅葉は自分の荷物をガサゴソ。 それがどうした僕どざえもん。 死んどるやんけ。
「……無い」
「日焼け止め忘れたのか?」
紅葉はその問いに無言で頷く。 ほーんそうかそうか。
「…………」
「…………」
なんか紅葉が無言で見てくるんですけど。 俺何かした? 色々やった覚えはあるけど全部チャラ(俺の命と引き換えに)にしたから何も無いはず。 むしろ俺は色々やられた側。
「……日焼け止めが無いと、白い私は真っ赤に焼ける」
「そうか、それは災難だったな」
「…………」
「おい、無言で頬を抓るのは辞めろ。 俺のイメージアニマルが栗鼠になる」
「……烏滸がましい」
このアマぶち殺してやろうか。
「…………」
紅葉は無言で頬を引っ張ってくる。 そろそろ皮がビロビロに伸びそうだから手を離せ。俺がリスみたいにになったら今後はキュート路線に変更する必要があるだろ。
「遊びに行かないのか?」
「……塗らないと、焼けちゃう」
「日焼け止め無いなら借りればいいだろ」
「…………」
「無言で見つめても貸さないからな? 『貸して』の一言も言えないやつに貸す程俺は寛容じゃない」
「……塗って」
「飛躍し過ぎだ」
「……間違えた。 貸して」
「嫌です」
「は?」
「言ったら貸すとは言ってねぇ」
「…………」
「おい。 無言でアイアンクローは辞めろ。 そろそろ俺の頭蓋骨がお前の手にジャストフィットする形状に変化する」
「……今後はやりやすくなっていい」
「そういう問題じゃなぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
骨が軋む音が聞こえる。 そうか、紅葉の手は小さいのに万力なんだな。 じゃあ今度からお前のことを『バイサー・デス』と呼んでやる。 もしくは『心変わり』
「……離して欲しかったら貸すと吉」
「脅しか? 俺は脅されようと貸さ────」
「あと5秒で奏士が全国アイドルになる」
「貸さないとは言ってないな喜んで使わしてやる」
怖い。 紅葉ちゃん僕のことどうする気? ファンクラブの会費は年1500円だよ。 脱がないからな!
解放された俺は、自分の荷物から日焼け止めを紅葉に渡してついでにゲーム機も取り出す。 ネトゲは今の時間メンテ中でした。
「…………」
紅葉は日焼け止めをじっと見て動かない。 あれ、紅葉だけラグい? それとも日焼け止めジャムってる?
「どうした。 成分がアウトか?」
俺の日焼け止めはメンズタイプだから、レディースタイプとはちょっと違う効果だったりする。 具体的には、男用は楽塗楽落の機能性、女用は化粧前提だから保湿とかそういった成分入。 その違いで無理ならベル辺りに借りろ。 悠ちゃんはメンズ用使ってるから意味無いぞ。
「……塗り方が分からない」
「は?」
紅葉ちゃん知能が退化しちゃったのかな? 借りる対価は知能の退化そんな姿見たいか? つってな。
「……日焼け止めは塗ってもらうのが常識と聞いた」
「どこ情報だそれは」
「……2次元」
「あの塗り合いっこは創作だからな」
「……マジか」
紅葉は本気の衝撃を受けてる様子。 どうでもいいけど「様」に「よう・さま」って読み方あるのクソややこしいよな。 「〜してる様」って一瞬頭バグるわ。
「塗る時は普通に手に少量を広げて全体に塗っていけばいいんだよ。 OK?」
「……ばっちこい」
「構えてないで自分で塗れ」
紅葉は渋々といった感じで日焼け止めを塗り始める。 俺はゲーム再開。 最近は新ハードで旧ハードの過去作リメイクが出てたりするけど、やっぱりあれだよね。 3DSならではのグラフィックが良いよね。 ウォッチは。 初回確定鬼時間とかいう鬼畜仕様を耐えれば後はなんとかなる。 作者は真打にデータ移行したらバグかなんかでデータが消えて泣いた過去がある。
やっぱあれだよね。 なんだかんだ初期に手に入れたキャラは育てちゃうよね。 後なんかよく分からないけどパーティになまはげ入れちゃう。 パーティバランスとか分かっててもSランクアタッカーとして使っちゃう。 というか脳死で編成すると自然とパーティがSランクだらけになる。
「……(チョイチョイ)」
ゲーム中に肩をトントン突かれた。 ちょっと今トンネル中だから後にしてくれない?
そう思いながらも突かれた方を見ると紅葉が日焼け止めの容器を持って座っていた。 何? あ、これ距離記録更新するかも。
「どした? 用がないなら後にしろ。 用があるなら後にしろ」
「……手を借りる」
「話聞け」
紅葉は俺の都合ガン無視で容器を渡してきた。 何? 塗り終わったん?
「……背中が塗れない」
「で?」
俺に塗れと? セクハラで訴えられたら社会的に終わるから勘弁してください。 漫画家の不祥事は色々でかいんよ。
「……?」
「いやそんなキョトン顔されても」
そんな「何を言ってるのか分からない」みたいな顔されてもさぁ……塗らんぞ? たとえ頼まれても塗らんぞ。 獄中でも性犯罪者に対する当たりは強いんじゃい。
「……背中塗って」
「嫌です」
「……何か問題?」
「問題だらけだと思うぞ」
まず俺は男です。 性犯罪って女性側(被害者側)の意見が強いんです。 俺が何もしてなくても紅葉がやったと言えば俺は色々怒られちゃう。
「……訴えないから大丈夫」
「○○しないから〜 は信用できるか」
「……生涯生殖機能を失うか、塗るのを手伝うか選ぶといい」
「何その2択」
奏士君の奏士君が葬式君になるってこと? やめてよね俺の相棒を。
「……しまった。 この選択肢は意味が無い」
「そうだぞ」
紅葉もさすがに間違いに気付いた様子。 そうだよ脅迫はやっちゃダメだよ。
「……使う機会の無いものを奪っても意味が無かった」
「喧嘩売ってんのかテメェ」
あるわ。 具体的な事は言えないけど多分使うから。 マイサンは使い道あるから。 嫁の次元が違くとも、それだけは認めたくない男の維持。
「……(プススー)」
「何わろとんねんコラ」
こいつの顔面を俺の拳で陥没させたい。 俺の拳はバリバリだぜ。 炎纏っちゃう。
「……奏士は敗北者」
「ハァ……ハァ……ハイオク車?」
「……は?」
お前のノリに乗ってやったんだよ何バカを見る目で見てくれとんねん。
「2人とも早く来るデース!」
「……ベルが呼んでるから早く塗らないと」
そう言うと紅葉はシートにうつ伏せになる。 問答無用で塗れと? このままベルがこっち来るまで待とうかな……
でも紅葉の言う『柳奏士不能化計画』が本当だったらシャレにならんしやりかねないから大人しく塗る。 神よ……なんでこんな試練を与えんの? 神への言葉遣いか。
「じゃあ塗るから、セクハラとかで訴えるなよ」
「……奏士の触る場所次第」
怖い。 女怖い。 人間不信なのに女性不信にまでなったら男性不信が最後の砦。 というかこれじゃあ俺が男にしか興味無いやつに見えるだろ。
「じゃあ塗るから、ビキニの上外せ」
「……早速セクハラ?」
「塗るつってんだろうが」
「……冗談なのに」
紅葉がビキニトップを外した事を確認して、恐る恐る背中に触れる。 俺は法に守られてる。
「……っ」
触れた瞬間、紅葉の肩が震えるが気にせず続ける。 こういうのは一瞬でも緩めたら色々と終わりだ。
「つっ……んっ、っ!」
手を動かす度に変な声が聞こえるけど鼓膜破っといたから何も聞こえません。 そういうことにしておく。
「んっ……ひゃんっ」
「お客様当店はそういう店じゃ無いので声抑えてくれません?」
「……そう言っ、ても……出る……んっ」
近くを通る皆さんこれは日焼け止め塗ってるだけで海来ておっぱじめたとかそんなんじゃないですからね? 違いますから。
「んうっ……ひゃっ……、あ、んんっ……」
……当店は健全なお店です。
「んぁっ、ひゃっ……んっ……あっ、んぅ……っ、っ……」
お客様当店でおっぱじめないでください。 当店は18歳未満も楽しめるお店です。
というかこれなろう君18禁認定したりしないよね? これくらいはまだセーフだよね?
というかヤバいドキドキしてきた。 これあれじゃん。 エロゲなら乳首見えてるやつじゃん。 夏の海で日焼け止め塗るなんてこんなクソリア充イベントやるなんて思わなかったな。 そしてやりたくなかったな。
どうしようドキドキが治まらねぇ……訴えられたらどうしよう。 勘違いで通報されたら俺二度と大洗来れない。 気に入った釣りスポットあるのに……
…………今更異性の半裸とかアレな声に動揺する程ウブじゃないんだけど、やっぱり男としては興奮くらいはした方がいいのかしら。
「んっ……んんっ……あぅっ……んっ……っっ!」
興奮かぁ……ダメだ全くしない。 脳より正直と言われる男のジュニアですら無反応。
そもそも2次元以外無理だし恐怖でいっぱいのこの状況で興奮しろってのは無理。 ここが無人島で俺と紅葉の2人だけでも無理。
「んあっ……ひうっ……んっ……んんっ……」
紅葉って背中弱いんだなぁ……前も背中なぞったら声出して震えてたし。
「っっ〜!」
……そろそろこの作業辞めたくなってきた。 さっきから隣の家族がチラチラこっち見てるんだもん。 見せもんじゃねーぞ。
「はいもう終わり! 背中は塗ったから後は自分でな!」
塗り終わったと自己解釈して即座に紅葉から離れる。 なんとか作品のレーティングは保たれた。 初期は作者がやりすぎて大人の玩具とか出てたからね。 まぁどうせ後々出るだろうけど。
「はぁ……はぁ…………ん、ありがと」
紅葉は息を整えながらビキニを直す。 平然としてるあたりくすぐったかっただけみたいだ。 あっちの方じゃなくて本当に良かった。
「…………」
あ、いやちょっと顔が赤い。 さすがに恥ずかしかったか。
「俺はここの片付けするから先行ってろ。 あ、足は塗ったか?」
「……塗った」
「足裏も塗ったか? 腕も脇まで塗らないと変な焼け方するぞ」
「……奏士はママみたい」
「奏士マミーと呼んでいいのよ紅葉ちゃん」
「…………」
「おい何バカを見る目で見てんだ。 お前に乗ってやったんだろ」
「(プススーッ)」
こいつの顔面を陥没させたい。 あれ、なんかデジャブ。
「いいから行ってろ。 ほらほら掃除の邪魔だ」
「……分かった」
そう言って紅葉が立ち上がる。 俺はキッチンペーパーを取り出してシートに付着した日焼け止めを拭く。 ふっきふきふき不均衡がきっとある。 これ誰のセリフだったっけ。
拭き終わったついでに軽い片付けと荷物が盗まれないようにと『不審者自動探知君(製作者:ワイ)』をパラソルの骨組みに擬態させて設置しておく。 人が荷物に触れたら音が鳴る仕組み。
そうしてやることやった俺も外界に出ようとした時、先に出た紅葉がパタパタと近付いてきた。 炎天下の外界は無理だったか?
「……さっきのは、秘密」
紅葉はそう耳打ちした。 秘密って紅葉が背中弱いこと? それともさっきの奴? どっちにしろ人に言えんが。
紅葉は言い終わると直ぐに去っていった。 なんだアイツ。
まぁいいや。 俺も行こ。 俺のモットーの1つは「住めば都、道府県でも都」だ。 どんなクソ環境でも慣れれば楽しいし、いざやればなんとかなる。 産む易だ。
いざ、灼熱の大あっつ! 砂浜あっつ! これフライパン置いたら炒飯作れないかな。 よりにもよって目玉焼きじゃなくて火力要する中華をセレクトするのが柳流。
─────────────────────────
「2人で何してたデスカ?」
「……奏士に、声が我慢できなくなるくらい肌をまさぐられて、全身ヌルヌルの液体まみれにされた」
「表現考え直せ」
「その手があったかー!!!」
「俺はもうやらねぇぞ」
というかこいつ自分から話すとか何考えてんの? 秘密云々はどうなった。
─────────────────────────
「爆・殺☆スイカ割りー!」
「うぉぉぉぉぉ!」
「……いえーい」
「い、いえ〜い」
「というか、爆殺したら可食部無くないですか?」
夏といえばスイカ割り。 ということで悠ちゃんが用意したスイカと木刀をベルが頭上に掲げる。 スイカが3つあります。 そして悠ちゃん雄叫びうるさい。 水中でやれ。 そして溺死しろ。
「ルール説明! を、ソージにお願いするデス!」
「何も知らない人に丸投げしたらそれはもう投擲武器だと思う」
俺スイカ割りの正規ルール知らないんだけど。 ローカルルールしか知らない。
「じゃあ柳流スイカ割りで良いか?」
「いや、柳流は初心者には厳しい。 ここは如月流にしよう」
「えスイカ割りって流派とかあるデス?」
「……そんなのは、無い」
「そもそも柳流って絶対ろくなルールないですよね」
「えっと……せめて平和に……」
「そうですよ。 海くらい平和に遊びましょう」
…………え?
「待て、なんで頼金がここに居る。 誰よこんなの連れてきたの」
「こんなのとは失礼ですね先輩。 私は理事長さん直々の依頼で来たんですよ」
悠ちゃん? ふむ……
「おいロリババア。 説明しろ」
「説明してやるがお前後で殺す。 頼金は親睦旅行の写真係だな。 記録に残すためにも、写真部且つ面識のある頼金に依頼した」
「という事です。 早速ですが先輩脱いでくれませんか?」
「ここヌーディストビーチじゃないんだけど」
「いえ、別に先輩の小枝「あ?」には興味無くてですね。 度々噂になってる『柳奏士いい身体説』に決着つけるべく、いっそ写真に撮ってしまおうかと」
「それ以前に何処だよ噂の出元」
「そこにいるお2人ですけど」
そう言うと頼金はベルと紅葉を指さした。 2人は明後日の方を見た。
「そうか。 今夜はピーマン祭りか」
「……待って」
「そうデス! せめて味噌きゅうりも一緒に出すデス!」
「……そっちじゃない」
まぁ二人の刑は後で決めるとして……
「俺の美しい裸体に興味があるならそう言え。 写真禁止の見るだけだ」
「いえだから先輩のだらしない身体に興味ありませんって」
「なんだこいつ」
そう言いながらもパーカーを脱ぐ。 刮目せよ我が肉体美!
「……おぉ……」
「これは……」
紅葉とベルが何やら目を輝かせている。 美しいか?
「……「男の子の乳首ってなんか興奮する」」
「馬鹿じゃないの?」
馬鹿だったわ。 なんなんだこの2人。
「おー先輩腹筋割れてるんですね。 お尻は割れてますか?」
「割れてなかったら奇形だと思うぞ」
「まあまあ。 ほら、泉ちゃんもなんか言ってあげなよ」
「えぇっ!? い、いやいや私は別に……」
「そう言いながらも顔を真っ赤にして先輩の身体を見る泉ちゃんであった……」
「なんだそのナレーション」
頼金と泉ちゃん仲良いなぁ……友達は選んだ方がいいぞ泉ちゃん。
「なんだ奏士。 お前前より筋肉ついたんじゃないか?」
「悠ちゃんは筋肉も脂肪もついてないみたいだな」
「あ? 殺すぞ」
「怖」
「なんで脂肪って不要箇所にばっか集中するんだろうな」
「従姉の性事情聞きたくないんだけど」
「まぁ聞け。 私の結婚のために」
「もう諦めろ。 そういうキャラ付になった時点であんたは一生独身だ」
「主人公とはゴールインできない負けヒロインみたいにか?」
「そうベルみたいに」
「あれなんで今ワタシの名前を出した?」
ベルは無視する方針で。
「莇的に悠ちゃんの未発達身体はどうなんだ? 身体だけならお前の好みだろ」
「そう言われると私がとんでもないゲスに聞こえるのですが」
「何言ってんだお前は疑う余地のないゲスだろ」
「ゲスだな」
「ゲスデス」
「なるほど御三方が私をどう思ってるかよく分かりました。 とりあえずお嬢様の仕送りは今後不要と伝えておきます」
「おっと先ずは話し合おうデス」
こいつら年中無休でうるせぇな。 静かな一日が欲しい。
「じゃあ先輩の乳首の色も確認できたので、早速集合写真を1枚、如何ですか?」
「その前に乳首云々についてを問いただしたい」
「あ、先輩の要望は却下ですので。 では撮りますよー?」
「おい聞けよ」
「まぁまぁ、そうカッカしないデスよソージ」
「……怒ると寿命が縮む」
「まずこうなった原因はお前らなんだけどな」
そう言いながら皆が集合する中、俺はサラッとフェードアウト。
「させないデス」
「……捕獲」
出来ませんでした。 紅葉とベルに両肘の関節を決められた。
だがしかし! 俺は関節を外して逃げる秘技がある! 今使うと次使えないから使わないがな!
「はーい笑ってくださーい。 先輩スマイルスマイルー」
「そんなこと言ったって笑顔なんて作れねぇぞ」
「あー……やっぱそのままでいいです。 先輩の見た目で笑顔は少々アレなので」
「は?」
「あ、皆さんもうちょっと寄ってください。 そうそう、泉ちゃんももっと先輩に近付いて」
「し、失礼します……」
「はーい後3カウント〜 3から行きますよー」
そう言うと、頼金はカメラを3脚に設置してこちらに向かってくる。 お前も入んの? 後、お前なんでスク水なの?
「はーいギメル、ベート、アレフ、チーズ!」
こういう時のカウントは普通3、2、1じゃなかろうか。 なぜヘブライ数字なんだ。
各々ポーズをとる。 俺ほ棒立ち。 棒立ちというか、両肘を固定されてるから動けない。 助けて。 俺は写真が苦手なんだ。 助けて○ュオーラ。
皆が撮れた写真を確認しに行く。 俺はその輪の外で見守る。 若人の力は凄いね。
あれ、でも今の俺すっごい青春してね? だっる。
時間が無いので手短に。 チャッカマンのバナナを氷でバニシングするとエターナルな水筒がアスパラガスですよね。 自分で書いててなんですけど頭おかしいんじゃないですかね。 次回は04/10ですからお忘れなく。




