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輪廻のFate Line  作者: 怪人アホ面男
7……あー特に思いつかないからパス
77/133

ひっさびさの泉ちゃんside 主人公のモノローグは皆無!

突然ですが、私、逆無泉は昔から良くしてくださる柳奏士さんのお宅で厄介になっています。


というのも、事の始まりは夏休み直絶の終業式後。 奏士さんのお宅でお疲れ会を終えて帰宅しようとしたら玄関のドアに鍵がかかっていたので電話で確認しようとしたところ、私の母から「お父さんと1週間旅行に行ってくる。 その間は奏士さんのお宅に泊まれ。 許可は悠お姉ちゃんから得ている」といった内容のメールが入っており、紆余曲折あって奏士さんのお宅に泊まっております。


最初は奏士さんのお宅に泊まるということで少しあたふたしてしまいましたが、徐々に慣れ、今では生徒会の皆さんとも普通に話せるようになりました。 ……莇さんは少し苦手ですが。


莇青葉さん、ベルさんの護衛役で、奏士さんと同じクラス。 見た目はクールな執事といった感じなのですが、いかんせんご趣味がアレなようで。 私の容姿はそのご趣味と一致するらしく、出会ってまもない頃は狙われたこともあって苦手です。


このお家は奏士さんと一緒に遊んだ思い出の場所。 おじいちゃんはもう居ないですが、やっぱりどこか落ち着きます。 重政がまだ元気なのは驚きましたが。 奏士さんもその事は疑問に思いつつも、「元気に生きてんならなんだっていい」とそこまで重要視してない様子。 人間なら既に100歳を超えているのに、不思議です。


そんな私、逆無泉は、昔から変わらず良くしてくださる奏士さんのお力になりたいと常に思っています。


奏士さんはおじいちゃんが亡くなって以降、誰かを頼ること無く一人暮らしを続けているそうで、毎日忙しそうです。


大きなお家の家事に加えて生徒会のお仕事、それと何をしてるかは分かりませんが、時々「お仕事」と言って生徒会を休むのでアルバイトでもしているのでしょうか。 正直、奏士さん不在の生徒会はツッコミ役が居ないので無法地帯です。 でも、そんな時は2年生の小日向先輩や師走先輩、神無月先輩達が来て場を抑えてくれます。 ……莇さんがガールズトークに混ざれなくて1人隔離されてますが。


どうすれば奏士さんのお力になれるか。 それを実践に移せるこの絶好の機会を逃すわけにはいかない! と、昨日までの3日間頑張ってみたのですが……どれもが不発に終わりました。


まず一 1日目、早起きして朝の仕事を手伝おうとしましたが、私が起きた時には既に終わっていました。 洗濯も、朝ご飯も。


2日目、お料理で奏士さんのお手伝いは無理なので、(そもそも厨房に入れないので)お掃除面を手伝おうと奏士さんに持ちかけてみました。 ですが────


「いや、俺1人で手は足りるから、泉ちゃんは自由に過ごしてていいぞ。 なんなら、共用冷蔵庫にエクレアが冷やしてあるから紅葉とベルと分けて食べな」


……気がついたら私は紅葉さんとベルさんと一緒にお菓子を食べながら遊んでいしました。 3日目を頑張ります。


3日目、紅葉さんのお使いでお菓子を買いに行くと、奏士さんと出会いました。 それからは前回の通り、私は奏士さんと密着してしまってろくに動けず、逆に迷惑をかけてばかり。 夜のお手伝いをする間もなく、本日4日目に突入してしまいました。


ですが今日こそ! 今日こそはお役に立ちます!


そう覚悟を決めてお部屋を出て洗面所まで行きます。 何はともあれ、寝起きのみっともない姿を見られる訳にはいきません。


今日こそ!


─────────────────────────


朝、着替えた私は奏士さんが居るであろうお庭へ向かいました。 昨日までに得た情報だと、この時間は洗濯物を干した後畑で作業中です。


と、居ました。 お野菜の緑の中に麦わら帽子が見えます。 奏士さんです。


「お、おはようございます……奏士さん」


「ん、おはー」


私の声に気付いた奏士さんが作業の手を止めて立ち上がりました。 夏なのに長袖の作務衣を来ています。 暑くないのでしょうか。


なんとなくですが、長袖の作務衣を着て麦わら帽子をしている奏士さんは『田舎のお兄ちゃん』感があります。 畑に居るからでしょうか。


「何、していたんですか?」


「夏野菜の収穫。 夏は鮮度云々の関係で早朝とか涼しい時に採った方が良い(らしい)」


奏士さんは色んなことを知っています。 時々、どこから仕入れているのか分からないものもありますが。


ですが、これはチャンスです。 収穫と言えば、重労働かつ人手が必要なものの代表格。 今こそお力になる時!


「お、お手伝いしますっ!」


「ん、いやもう終わるから大丈夫だぞ。 何より、今の泉ちゃんなんも保護されてないし」


あう、そこを言われると弱いです。 確かに今の私はピンクの半袖ショーパン。 それにサンダルと、土弄りには不向きな格好です。 日焼け止めも塗ってません。


急いで着替えてくれば間に合うかと思いましたが、そういえば私の着替えはお姉ちゃんから借りてるので私服がありません。 いっそこのままとも思いましたが、借り物なので汚す訳にもいきません。


何より、奏士さんは凄い速さで収穫を進めていて、本当にもう終わる勢いなので、畑仕事はお力になれなそうです。


……次こそは!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


5日目


5日目、もう残り3日です。 お父さんとお母さんは7日目、つまり明後日の夕方には帰ってくる予定なので、実質2日しかありません。


結局、この4日間はなんの力にもなれませんでした。 何をしようにもあと1歩遅くて、間に合っても断られて。


ここまで来ると、私が奏士さんのお力になろうとすることは奏士さんからすると迷惑なんじゃないかと不安になってきます。 奏士さんの性格からして。


奏士さんはやると決めたら徹底的にやる人です。 凝り性とも言います。 かつて、まだ奏士さんのおじいちゃんが存命だった頃、奏士さんはふと「寿司……握りてぇ」と思い、独学で調べ尽くした後、料理人の上かつてお寿司屋で大将だったおじいちゃんに弟子入りしたそうです。 改めて、奏士さんのおじいちゃんは多才です。


別の話では、料理を学び始めたのも一人暮らしに向けてではなく、ただ単に「料理がしてみたい」だけだったそうです。 それで高価な器具も集めて、腕前もプロ級に慣れてしまうのですから、奏士さんの徹底さが伺えます。


その徹底さから、人手を借りると逆に足でまといになってしまったり、途中で抜けられて仕事が増えるなんてこともあるのでしょう。 だからこそ、奏士さんは始めから1人でやるのだと思います。


ですが、私はその徹底さでは無く、別の要因があると思います。徹底さも含まれてはいると思いますが。


物事には『区切り』があります。 本で言えばジャンル、生き物で言えば種族、仕事で言えば割り振りエトセトラ。 全てのことに区切りがあり、それは人と人との領域も同じです。


奏士さんは、その人との区切りが特に強いです。 例えば、人なら誰もがある『絶対不可侵領域』というもの。 読んで字の如く、他人を絶対に入れない場所のことです。 それは物理的な場所であったり、心だったり。


そんな不可侵領域が、奏士さんは特に強い。 今では生徒会の皆さんと一緒に住んでいますが、奏士さんが誰かと住むなんて絶対有り得ない事です。 私はそう思ってました。


この家は奏士さんにとって唯一安らげる空間であり、最後の砦。 何より、大切な思い出の場所です。 そんな場所に他人を受けいれたことが、私は少し嬉しい反面ちょっと遠くに感じる反面。


それでも、奏士さんと再開して一緒に居る時間が長くなっていくにつれ、奏士さんの『自分とそれ以外』という考えは変わってないと感じました。 とあるホストさんみたいな事を言っていますが、奏士さんは本当に自分と他人としか見てません。 自己中という訳ではなく、本当に『家族・仲間・友達』といった概念が存在しないのでしょう。


勿論、奏士さんにも大切にしている人はいます。 悠お姉ちゃんや、霜月先生。 瑠姫さんに、紅葉さん、ベルさんといった生徒会の方々。 私も大切にされている自覚はあります。


でも、その誰もが奏士さんにとっては『別に居なくてもいい』程度です。 多分、本当の意味で大切にしていて『側に居て欲しい』のは重政だけです。 重政だけは、奏士さんも特別に見ています。


ですが、重政は猫で奏士さんは人間。 寿命が違う以上、重政しか居ない奏士さんはやがて本当に独りになってしまいます。 奏士さんならむしろ独りを満喫していそうですが、心が独りになってしまったらいずれ壊れてしまいます。


そうならない為にも、奏士さんには寄り添える人を見つけて欲しいですが、そう上手くはいかないものです。 私がそれになれたなら、ずっと奏士さんと仲良く暮らせて幸せなのでしょうが、私では奏士さんのお力になれるかどうか悩むので精一杯なので無理そうです。


ですが、せめて奏士さんのお力に! 自己満足混じりですが、それでも奏士さんには少しでも休まる時間が増えて欲しいのは紛れも無い本音です。


そうと決まったら今日も頑張りましょう。 今日こそはお役にたちます!


─────────────────────────


6日目


あんなこと言っておきながら5日目は何の成果も得られませんでした。 代わりと言ったらあれですが、奏士さんから井戸水で冷やした採れたてトマトを食べさせて貰えました。 何の成果も得られませんでしたが、トマトという青果は得られました。 美味しかったです。


ですが! 本当に今日こそはお役に立たなくては! そうしないと私、何もしない穀潰しと同じです。 実際、この1週間の生活費を私は1円もお支払いしていません。 お母さんは「私が何とかしとく」って言ってたけど……大丈夫かなぁ……


─────────────────────────


「うっ!」


「……ベル、発作?」


「いや、なんか胸にグサッときたデス……」


「……?」


─────────────────────────


昨日までの5日間は奏士さんから頂いたお菓子を食べてばかり。


……ちょっとだけ幸せですけど今は別です。


ですが、今日の私はひと味もふた味も違います。 何がなんでもお手伝いします。 これはもう何かしらの意地です。


という訳で\くぅぅぅぅ……/




…………という訳でお昼ごはんを食べてからお手伝いします。 奏士さんの作るご飯はとても美味しいです。 いつも作ってくれてるお母さんには悪いけど、朝昼晩と奏士さんの手作りご飯を食べられる皆さんが羨ましいです。 勿論、お母さんのご飯も負けず劣らず美味しいです。


……頑張りますっ。


─────────────────────────


「あの……このゴミ袋持ちますっ!」

「いや、汚れるから大丈夫」


「これは何処に運べば……」

「ああそれ結構重いから俺が運ぶし、そこ放置でいいよ」


「食材の買い出しなら私が……」

「いや、他にも行くとこあるから俺が行く」


「私も」

「大丈夫だから、冷蔵庫のフルーツタルトを3人で分け合って食べな」

「あの……私まだ何も言ってません」


……


…………


……………………


撃・沈!


尽く断られました。 これはもうタイミングが悪いとかそんなんじゃなくて、遠回しに「何もするな」と言われてる気がしてきました。


確かに、このお手伝いは私の自己満足ですし、奏士さんの労力からすれば微々たるものですが……それでも、何もしない、何も出来ないのはなんだか悔しいです。


奏士さんは仕事が忙しいらしく、最低限の家事をやったら部屋に籠って出てこなくなりました。 紅葉さんも忙しいらしく、ベルさんもお友達とお出かけで莇さんは朝から居ないので、私は重政と過ごしています。


「なぁーお」


「ふふっ、こっち? それともこっちを撫でて欲しいの?」


「なー」


「そう、こっちなんだ。 じゃあここを……」


「なっ、なっ」


重政を撫でているとなんだか落ち着きます。 アニマルセラピーというやつでしょうか。 奏士さんが特別扱いする理由の一つがわかった気がします。


奏士さんはかなりの動物好きです。 そして、動物に懐かれやすいです。 以前、生徒会の仕事の一環で迷子の子猫探しをした時も、野鳥や野良犬野良猫、それと、どこから来たのか分からないお猿さんを呼んで子猫を見つけてもらうといった、最早人間離れした事をしていました。 私も動物は好きですが、近所に住む吠えてくる犬にすら怯えてしまうので、懐かれる事は少ないです。


今は奏士さんが用意してくれた客間に居ます。 お姉ちゃんと霜月先生はお仕事があるので早々に帰りました。


……特にすることがありません。


奏士さんが部屋に籠る前に置いていってくれたゲーム機などが置いてありますが、私はゲームを殆どしないのでやり方が分かりません。 この白黒の大きなゲーム機とコントローラーらしきものはどうやって遊ぶのでしょうか。


私の手持ちは終業式の時のものなので、学生服と鞄しかありません。 鞄の中は貰ったプリントと筆箱。 お財布、ハンカチティッシュ等が入ったポーチとスマホ、それとお友達から頂いた奏士さんの隠し撮り写真しかありません。 この写真だけは誰にも見つかってはいけません。


「重政は私がどうすればいいのか分かる?」


「なー⤴︎」


「そうだよね……重政猫だから分からないよね。 ごめんね変なこと聞いちゃって」


「なー⤵︎」


重政がどこか残念そうな表情を見せます。 撫でる箇所が悪かったのでしょうか。


「やることないし……お散歩、行く?」


「なー」


「うん、じゃあ行こっか。はい、重政こっち来て」


「なー」


重政を持ち上げて頭の上に乗せてみます。 思ったより重くて、落ちないようにするどころか頭を固定させるのも大変です。 バランスが取り辛くて難しいです。 奏士さんは軽々やっていましたけど、その裏では練習したのでしょうか。


「やっぱり普通に歩いて行こっか」


「なー」


重政を床に降ろすと、重政はトコトコ歩いて着いてきてくれました。 猫と一緒に歩いてお散歩をしてみたかったので、思わぬ所で夢が1つ叶いました。


「書き置きを残して……」


机の上に行ってくる旨を書いた紙を置いて、スマホとお財布だけ持って家を出ます。 どこまでお散歩しようかな。


「重政はどこ行きたい?」


「なー」


「……やっぱり分からない」


奏士さんはどうやって重政と意思疎通を図ってるのでしょうか。 少なくとも、私には重政がただ鳴いてるだけにしか聞こえません。


「とりあえず通りに出よっか」


重政同伴だとお店には入れないけど、公園とかお外なら幾らでも行く場所があるのがここいらの良い所。


もうすぐ日が暮れるからあまり長い時間のお散歩は出来ないけど、夏だから完全に日が落ちるまで時間があるのでちょっと遠くに行くことはできます。


「懐かしいなぁ……」


子供の頃は住んでた町を歩く。 あの頃はお母さんに頼まれて柚希と一緒にお使いに行ったり、奏士さんと一緒にお出かけしたり。 柚希は全寮制の学校に行ってるけど、帰ってきた時はまた3人で歩きたいなぁ。


「勿論、重政も一緒にね」


「な?」


やっぱり重政に言っても伝わりません。 重政はキョトンとした顔で見上げるだけです。


そのまま目的も無く散歩を続けます。 重政と一緒に歩いていると、猫がリードも無しにフラフラしたり走り出したりせず隣を歩くのが珍しいのかいつもより人の視線を感じます。 時々、触りたそうにしている子どもや近付いてきて触ってくる女性の方と遭遇しました。 何故か分かりませんが、その方から棒付きの飴を貰いました。 触った代金代わりということなのでしょうか。


「そろそろ暗くなってきたし、帰ろっか」


「なー」


目的も無く歩いていたので、ここがどの辺か分からず、帰り道を探すためにスマホで現在地を確認しようとしたところ、辺りが急に暗くなりました。


ちょうどスマホを見るために下向きだったので目線をずらしてそのまま地面の影を確認すると、私の影の上に人影が3つ……いえ、その3つの人影に紛れて更にもう1つの影があります。 動かず横目で確認すると、太陽はまだ落ちきっていない夕日。 ですが、ここは住宅街から離れて人通りが少ないので、辺りには私と人影以外には人の気配はありません。


間違いの可能性も考えて、スマホから手は離さず、直ぐに電話ができる状態にしてからポケットに仕舞ってゆっくりと後ろを振り向くと、私のすぐ目の前に男性が3人、その後ろに黒いタンクトップから鍛え抜かれた筋肉が見える男性が1人。


一瞬、誘拐目的のチンピラかそれとも無理やり襲うタイプのチンピラか。 それとも、キンピラのお裾分けに来た人の3択が浮かんだが、人を見た目で完全判断するのは良くないと思い踏みとどまった。 もしかしたら私は無関係かもしれませんし。


「ほら重政、ごねてないでそろそろ帰ろ? ご飯の時間だよ」


「んにゃっ」


重政が何を言っているのかは分からないけど、私の意図を汲み取ったんだと思う。 重政は塀の上から降りると、私の足元に近寄って来た。


そうして何事も無く帰ろうとしたけど────


「おいおい嬢ちゃん。 そうあっさりされちゃ俺たちが可哀想だぜ」


お相手方は帰してくれません。 3人の男性は、それぞれ手馴れた動きで私の正面、横、後ろを取って進路を妨害します。


そのままジリジリと塀まで移動させられて私は囲まれてしまいました。


「ねぇねぇかわいいお嬢ちゃん。 オレらと一緒に遊ばね?」


私の正面に居るフィッシャーマンキャップを被った男性が言いました。 それに続いて左右の男性らも続けて「そうそうぜってえ楽しーからさァ」「ちょうどドタキャンされてオレら暇なんだよねー」と言いました。


「ぜってー何もしねぇからさァ。 オレらと一緒に来いよ」


嘘です。 今どき「何もしないから」で誘われる人なんて余程の世間知らずか逆にそれ目的の人しか居ません。


何より、3人とも同じく下卑た笑みを浮かべています。 私が1番嫌う顔です。


龍珠りゅうじゅさーん! ちゃんと人来ないか見張ってて下さいよー? それと逃げた時の壁としてさァー!」


「……フン」


龍珠と呼ばれたタンクトップの男はそれだけで何も言わず、腕を組んで道の真ん中に立っているだけで動かない。 雇われだろうか。


どうしましょうか。 人通りは少なく、辺りに民家も無い。 声を出して助けを呼べる気配はありませんし、下手に声を出すとこの人達に逆上される可能性もあります。


何より、私は平静を装って隙を見せないようにしていますが、人見知りが激しくて臆病な私は同性ですら躊躇うのに男性、しかも年上となると声も出せません。 その代わりと言ったらアレですが、足元の重政が全力の威嚇状態です。


私はもしもに備えて、ポケット内のスマホの通話ボタンをONにしました。 布越しかつスピーカーモードじゃないので声を拾えない可能性もありますが、念の為に。


私はこれでも最低限の護身術として、奏士さんのおじいちゃんから長くて名前が思い出せない独自流派の技を学んであります。 奏士さんと私だけの秘伝の技です。


なので、ある程度の体格差までなら無傷で倒すことは出来ます。 おじいちゃんと奏士さんのお墨付きです。 お父さんにも勝ちました。


私がそれを必要とするのは大抵男性相手です。 でも、私は男性相手だと怯えてしまうので結局使うことはあまりありません。 最終手段です。


私が何も言わないのを曲解したのか、キャップを被った男性は私の肩を掴もうと手を伸ばしてきました。 私はそれを見てつい、反射的にその手首を掴んでしまいました。


「は?」


予想外の対応に驚いた男性はその手を引っ込めようと力を込め、自分側へ引きました。 軽い私ではそれに対抗して踏ん張ることは出来ないので、その力に乗って、更に地面────では無く後ろの塀を蹴って加速。 そのまま手首を上に投げるように離して、男性の鳩尾部分に肘を入れる。


「うごっ!?」


男性が少し動きを止めた隙に、肘を入れた体制から拳を下ろして申し訳ないけどそのまま金的。


「うっ!?」


痛む急所を思わず手で抑えた瞬間、体制的に頭も下がるから、その下がってきた顎に向かってアッパーカット。


脳を揺らされた男性は股間を抑えたまま顔から倒れた。


それを見た左右の男性は揃って股間を抑えて震える。


私は────────


……やっちゃったと震える。


つい身体に叩き込んだ流れに乗ってやりすぎてしまった。 いくら体格差と性別の違いがあるとは言え、これは正当防衛と過剰防衛のスレスレだ。 これを警察に伝えたとして、どこまで免除されるか……


「お、おい大丈夫かよ飂風るふ


どうやらこのキャップの男性は飂風さんと言うらしいです。 親御さんは風が好きなのでしょうか。 それともロック鳥から取ったのでしょうか。


「……こ、この……クソアマがァ……」


脳震盪の効きが悪かったのか、飂風さんは鼻を抑えながらフラフラと立ち上がりました。


「弱そうだからと近付いてみれば調子乗りやがって……」


どう考えても悪いのはそっちなのに完全な八つ当たりです。


「こりゃあちったァ分からせてやらねぇとダメみてぇだな……」


そう言いながら再び手を伸ばして私の肩を掴んで、壁に押し付けてきました。 左右の男も、仲間が無事だと分かった途端に再び下衆の顔に。


「今から俺らが教えてやるからよ……覚悟しろよクソアマがっ!!?」


そう言い終わる前に、顔と胸の両方を足で蹴られて飂風さんは吹っ飛んでいきました。 そしてその蹴った主は着地を失敗して私の足元で腰を摩っています。


「よっ、助けに来たよぉ!」


奏士さんです。 ゴ○エちゃん宛らのドロップキックで間一髪助けに来てくれました。 セリフもゴ○エちゃんリスペクトです。 声もちょっと似せてます。


「んだテメェ!」


「関係無い奴はすっこんでろ!」


「おーおー今どきこんなコテコテのやられ役居るなんて世界は広いな」


激高してナイフを取り出すチンピラ2人と対面しても奏士さんは小粋なジョークを述べます。 余裕たっぷりです。


「お二人さん刃物持っていいのは料理人だけだよー? 料理される側が刃物持っちゃいけません」


奏士さんの物言いに更に激高するチンピラ。 奏士さんなんでそんなに煽るようなこと……


「という訳で刃物は有料で回収してあげるから渡しなさい。 料金は拳に熱烈なキッスでご勘弁してやるよっ!」


「ふべっ!?」


奏士さんは話をしながら前置き無しで右の男性の顔を容赦無く殴りました。 私も左のチンピラもぽかんとしてます。


気が付けば、奏士さんの足元にはナイフが二本と顔がボロボロになった男性が転がっていました。


「という訳で料金は頂きすぎたからな……君には快適な空の旅をプレゼントforYou!」


「ぐがっ!?」


目にも止まらぬ速さで近付いた奏士さんは1発アッパーでダウンさせると、レンジャーロールの様に持ち上げると


「当飛行機はたった今墜落しますので目を閉じて諦めてください!」


と言いながら地面に背中から叩きつけた。 ついでに顔を踏みました。 男性2人はピクリとも動かなくなった。


「っと……お客様、飛行中に外に出られては困りますよ」


奏士さんが振り向いた方を見ると、先程ドロップキックを食らった飂風さんが再び立ち上がった。 ボクシングなら大歓声が沸き起こるガッツです。


「て、てめぇ……俺の仲間をよくも……」


「あっ、もしかしてエコノミークラスじゃなくて特別席のお客様ですか? そこハネノミークラスって言うんですけど」


奏士さんは雑談を辞めない。 何かで読んだが、戦いの最中に冗談を言う人は強い理論は本当なのかもしれない。


「さっきからゴチャゴチャうるせぇぞ! おい龍珠さん! なんでこいつ通したんだよ!」


しかしどれだけ待っても龍珠と呼ばれた男の返事は無い。


「お、おい……なんで龍珠さんが定位置に居ねぇんだよ……お前! 龍珠さんをどこへやった!」


「ん、ああ。あのブラックきんに君? アイツならフライト前に飛行機のエンジンにぶち込んだけど」


どうやら奏士さんの中では飛行機ジョークが流行ってる様子。 つまり既に倒したってことなんですね……


「まぁ冗談はさておき、あのブラックきんに君ならたぶんこうなってる」


奏士さんは足元の黒い物体を掴んで持ち上げる。 それは先程「……フン」と強者感を出していた龍珠さんだった。


というかブラックきんに君って……黒いタンクトップ着てるからそう名付けたんでしょうか。 奏士さんのネーミングセンスは相変わらずイマイチです。


「こいつすげーな。 筋肉すげーと思ったけど、見掛け倒しだし口調と雰囲気だけは強者感あるしでもうね。 弱い。 作者もこいつとの戦闘シーン書かなかったくらい弱い」


龍珠さんは既にボコボコにされていて、奏士さんは無傷どころか息すら上がってない。 まるで羽虫を払うが如く、軽々と4人を相手に圧勝していた。


龍珠さんは弱かったと奏士さんは言っているが、少なくともこのチンピラ3人を相手取っても余裕で勝てる実力はあっただろう。 でも、奏士さんはそれでも余裕勝ちするほどの力量差があった。


「てめぇ……ぶち殺してやる!」


飂風さんはそう言うと、ナイフを2本取り出してそれを突き刺すように向かってきた。


「おいおいそこは『リアルオブクラッシャー』って言えよ……悪いが俺今夜のアニメ神回だと思うから死ねないんだわ。だから……」


奏士さんはそう言うと、何か特別なことをする訳でもなく普通に相手のお腹を蹴った。


「うごぇぇ……」


「君はナイフを持たない方がイナフだからこれはボッシュートとなります。 代わりにひとし君人形1/60京スケールをあげるから」


「そ、そのサイズはみえねぇじゃね、ねか……」


そのまま飂風さんはガクりと意識を落とした。 蹴りがクリーンヒットしたのだろう。


奏士さんは「さて」と手をパンパンして土埃を落とす。 ついでに黒タンクトップで拭く。


「うわ汗臭っ」


すぐさま捨てた。 なぜ臭いを嗅いだのか。


それでも、奏士さんが助けに来てくれたことには変わりない。 私は奏士さんに無事を知らせるために駆け寄ろうとしたが、足が動かなかった。


「へっ?」


そのままガクンと力が抜けてペタリと座り込んでしまった。


「ん、ああ緊張が解けて抜けちまったんだろ。 ちょっと待ってて」


そう言うと、奏士さんは男4人が気絶したことを確認すると荷物を全て取り上げて一纏めにした後、どこから取り出したのかロープで男4人を拘束して警察に通報した。


「あ、もしもし警察ですか? 道歩いてたらいきなりナイフ向けられまして。 ええ、拘束してあります。 場所は────」


奏士さんが通報を終えると、拘束した男4人を道の端に投げ捨てて私の方にやってきた。


そうしてしゃがんで私と目線を合わせると


「すまん!」


と謝ってきた。


「ぇっ、えっ!?」


私は何が何だか動揺して分からない。 今日は色々ありすぎた。


「危ない目にさせちまった。 今回は間に合ったが、二度とそうさせないって言ったのに破って悪い」


「え、えっと……」


私はどうすればいいのかテンパリ過ぎてまともな返しが出来ない。 えっとこういう時は……そうだ! この前読んだ漫画に似たようなシーンが。


「わ、私が危ない時、は……必ず奏士さんが助けてくれるって信じているので……だ、大丈夫、です」


奏士さんは一瞬目を丸くすると、無言でワシワシと頭を撫でてきた。


「あ、あの……」


「…………はいっ」


奏士さんは手を離すと、私のボサボサになった髪を整え始めた。


「うん、まぁそうか……うん。 でも、危ない目に遭わせたのは事実だ。 代わりと言っちゃなんだが、なんでも言ってくれ。 可能な限りその願いを叶える」


「ふぇっ!? い、いえあの……」


私がどうするべきか再びテンパっていると、今まで空気だった重政がトコトコ寄ってきた。


「なー」


「お前は何もしてねぇだろ」


「ふしゃーっ!」


「あーはいはい威嚇して牽制したのね。 今度高級猫缶買ってきますって」


「ふー」


やっぱり奏士さんは重政の言ってることがわかるみたいです。 重政が威嚇したことなんて、あの場を見てないと分からないです。


「それで、泉ちゃんはなんか願い決まった? なんでもいいぞ。 なんなら口座の金全部寄越せでもいい」


「いえあのそれは流石に……ひとまず、そろそろ立たせて貰ってもいいでしょうか」


「…………悪い普通に忘れてた。 はいよ」


奏士さんが差し出してくれた手を恐る恐る握って立ち上がる。 私をいつも助けてくれて撫でてくれる大きな手です。


「きゃっ」


立てはしたものの、私はまだ力が入り切らずバランスを崩し、奏士さんにもたれ掛かってしまった。


「まだ立てない、か……どうする? タクシー呼ぶか?」


それよりも奏士さんと密着してしまったことに動揺する私。 えーとえーと……


その時、私の脳内で天使と悪魔が出現して言い争いをしました。


「ダメよ私! 奏士さんにこれ以上迷惑はかけられない!」


確かに天使の言う通りです。 私は既に迷惑かけまくりの身、これ以上はさすがにです。


「奏士さんがそう言ってるんだし、もう少し我儘言ってもいいんじゃない?」


悪魔の言うことも一理あります。 普段から奏士さんには甘えっぱなしですが、もう少し分かりやすい甘え方をしてみたいのも本音。


「でも、奏士さんに嫌われたりしたら……」


「大丈夫。 奏士さんはとても優しいから、これくらいなら嫌いになったりしないよ」


「……確かに」


ごめんなさい奏士さん。 泉は悪い子です。


回想終了でこちらの世界に戻ってくる。 ごめんね天使の私。 次はいいことをするから今回は悪魔を優先させて。


「でしたら……」


勇気を出して奏士さんに言う。


「あの……立てないので……おんっ……おんぶをしてもらっても……いい、です、か?」


「……………ん、ああうん。 それくらいでいいのか?」


どうやら私の決死の覚悟は軽かった様です。 確かに、奏士さんならおんぶくらいなんてことないですよね……


「ああ気を悪くしたなら悪い。 あの二人ならとんでもないこと要求するから、それに慣れてた」


あの二人……というと、紅葉さんとベルさんでしょうか。 確かに、お2人ならもっと凄いことを言いそうです。


「じゃあ……はい」


奏士さんが私に背を向けました。 恐る恐るその背に身体を預けると、奏士さんが持ち上げて一気に視界が高くなります。


「どこか痛かったりする? 持つ場所とか」


「い、いえ何も……大丈夫です」


奏士さんの細身ながら逞しい背中に触れる。 暖かくて、広くて。 とても大きな背中。 私が危ない時は、いつも駆けつけてくれて、安心させてくれた大きな背中。


思わず頬をピトっとつけてしまい、正気に戻る。 私今何を……っ!


でも、なんだかポカポカして落ち着きます。 私も娘も、こんな気持ちになるのかなぁ……


……ん? 私の娘? 私の娘が奏士さんにおんぶされてるってことは、パパは────


「〜〜〜っ!!」


「うおっ、なんかすげー熱い! 誰だ室温140℃に上げたの」


奏士さんが見当違いのことを言うが、たぶん気付いているけど触れないでくれているのだろう。 そう思うことにした。


「んなー」


ふと先を見ると、重政がひと鳴きして走って消えた。 私は何言ってるのか分からなかったが、奏士さんは「何言ってんだアイツ」といった表情だ。


「なんて言ってたんですか?」


「『邪魔者はさっそうと消えるぜ。 死ねクソ野郎』って言われた。 なんだアイツ」


私は猫に気を使われるほど分かりやすかった様です。


でも、場を作ってくれた重政には後で何かお礼のプレゼントを渡しましょう。


「あ、やべそういや警察に『居ろ』って言われてたな……泉ちゃんちょっと戻るか────」


「んっ……」


せっかく奏士さんが「なんでも言うことを聞く」って言ってくれたんだし、もうちょっとだけ我儘になっても良い、よね?


奏士さんが振り向いた瞬間に頬に軽く触れる。 何処とは言わない。


「えっと……お礼、です!」


「…………」


しかし奏士さんはピクリとも動かない。 よく耳を傾けてみれば、心音も聞こえない。 えっと……これはつまり。


すると、奏士さんが白くなったかと思うと、サラサラサラ……と粉? になって消えた。


「奏士さん!?」


警察が来るまでの時間。 私は奏士さんの蘇生に時間を費やし、結局取り調べを受けてパトカーで帰ることになった。


なお、皆さんの反応はというと


「取り調べ受けてて遅れたわ」


「……ついに」


「やっちゃったデスカ」


「いつかやると思ってました」


「あの……皆さん少しは信頼を……」


奏士さんが罪を犯した事を疑う人は居なかった。 奏士さん……

おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ


えー、お見苦しい所をお見せしましたおぇぇぇぇぇぇ


大丈夫ですか?


おぇぇぇぇ


嘔吐で応答する作者です。


まぁゴミギャグはさておき、今回は珍しく泉回です。 今回は狂気が皆無なので体調崩して吐いてしまったんですねぇ……やっぱり狂気が足りないのは精神衛生上良くないです。 普通は無い方が良いとか言わない。


キャラ作っておいでなんですが、私の中で運用が1番難しいキャラというのが泉でして。


というのも、泉は基本敬語キャラなので文字入力が面倒なのです。


まぁそれも含みますが、とにかく主人公奏士との関係性というか距離が不明なので、感情表現が難しいキャラなのです。


まぁそのうち慣れますよねはっはっは。


では次回、18か19日に。 9日投稿は割ときついですね。 毎日投稿してる他の人はすごいなって思います。 文字数の違いでしょうか。


あ、6日目が予想外に時間かかったので、7日目は次回です。 私の指の筋肉の勝負です。 ちなみに私はきんに君好きです。

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