力と速さと耐久力を併せ持った奴は最強
前回までの……ア○雪 前回ってなんだよついさっきだろ。 ついでに、あらすじとアナ○をかけたゴミギャグをほざくな。 そこ○で隠したらなんか違うものっぽくなっちゃうじゃん。
という訳でやってきましたTOHOシネマズに。 クルーズ行く前に定番の映画を見て時間を潰しましょう。
いや、知ってますよ悪手だってことは。 初めてのデートで最初に会話の無い空間に長時間行く事が悪手なのは知ってますとも。 無論、それが狙いだ。
ベルは俺の事を何かと知っている様だが、それは過去の俺の事。 今現在の俺の事は誰も知らない。 そして、大して知らない人と暗く、動けず、会話の出来ない空間に長時間居たらどうなるか。 まぁ、常人なら耐えられなくなるだろうな。
というか、デートと言ったら楽しい会話で笑い合いながら買い物やら食事やら遊びやらに行くものだと思うだろう。 そんな中、惚れた男がその全てを満たさない場所を選んだらどうなる? 最初は少し不快になって、徐々に好感度は下がり、軈て愛想を尽かして離れていくだろう。 そうなったら万々歳だ。 ではそのままおーきく息を吸って背伸びの運動ーと言うとでも思ったか。 一人で何やってんだ俺。
と、なんだーワンダー言ってみたけど、単純に俺が座って休憩したいだけなんだけどね。 そこ、「どうせクソみてぇな理由だろ」とか言わない。
だって坂道急なんだもん。だってだってなんだもん。カタカナ変換でナンダモンにすると一気にデ○モン感出る。 俺はア○モン派だけど。
我らが愛する茨城県、ぶっちゃけ言っちゃうと坂がクッソ急勾配。 その上、坂が有る場所と無い場所で別れていたりいなかったりで、急勾配が連続する箇所も珍しくない。 そして、ここジョイ本……めんどくせぇからクルーズ方面も纏めてジョイ本で良いや。 どうせ繋がってるし。
とにかく、俺の家からだと、ここに来るまでに割と長めな急勾配を使う必要がある。 遠回りすればそうでもないが、時間の問題で却下。
『じゃあ車持ってんだから使えばいいじゃん』と言われるかもだが、ドライブデートとか遠出でもないのに車移動はなんか違うと思ったからってのもあるんだけど、ベルが
『デートは歩いてイキマショー!』
と若干イラッとするレベルで煩かったから歩くことにした。
いや、楽なんだよ。 自分で運転すれば酔わないし。 梅酒の如く酔わないし。 酔わな酔わないし。 正確には『酔わな』じゃなくて『You wanna』らしいけど。
車使った方が楽なんだけど……デート教材の漫画ラノベアニメギャルゲーエロゲー同人誌、色々見たけど、どれもデートは歩いていたから車は辞めた。 ちょっと君たち歩き過ぎとちゃうん?
いや、正直創作の中のキャラって自転車使わないよね。 嫌ってほど歩く。 まだ日常生活は分かるけど、登下校も歩くじゃん。 チャリ使えよだから遅刻すんだろ。 でも歩かないと『一緒に登校イベント』が使えないしな……あーはいはいなるほどね。 完全に理解を放棄し損ねた。
そんな訳で普段の筋トレの成果を全て無に帰す俺は、疲れたから休憩したい訳ですよ。 いや、休憩場所はホテルじゃなくて映画館で。 だからスマホで近くのホテル調べるの辞めろ。
と、声に出すのもめんどくさかったから目で訴えるが、ベルには届かず。 とりあえずベルのスマホの電源はオフる。
「……で、どれ見る?」
「決まってないのに入ったデスカ!?」
早速入って上映表を見るが、俺は基本的に映画は好きな作品の奴か気になった作品しか観ないし、映画に割ける時間がそんなに無い事もあって殆ど知らん。 流石に有名どころやシリーズモノは知ってるが。
つーか、映画館自体滅多に行かん。 アニメ系は原作知ってるからグッズ目的でも映画館で観たい欲もあって行くけど、それ以外の実写系は大抵T○UTAYAでレンタル開始されたら見る。
という訳で、ベルも恐らく経験が浅いか未経験。 こっちに来たのもほぼ最近と言っていいし、お互い映画館初体験で良いだろう。 俺が行くの水戸駅の映画館だから、こっちの映画館は来た事無いし。
「ふーむ……どれが一番時間潰せるか」
「む〜……!」
俺が表の前で腕を組んで悩んでいると、隣のベルが手をポンと叩いた。 何、今度はどんなくだらねぇこと思いついたの。
「ソージソージ!」
「なんだよ。 映画館では静かにな」
そう言うと、ベルは「おっと」と言いながら口に手を当てる。
「カップルシート? というのに座りたいデス」
カップルシート……そういえば聞いたことがある。 場所は限られているが、二人並んで一緒の椅子に座って映画を観る椅子があると。 まぁ、もっぱら二次元なんですけどね。 というか漫画より同人誌の方が多い。 映画館でサイレントプレイってのが多かった。 クソどうでもいい。
「喜ばしいゲフンゲフン、喜ばしいことにこの映画館にはそんなもの無いみたいだぞ」
ついついーっとスマホで調べてみるが、そんな情報はどこにも無かった。 デートスポットとしてはかなり紹介されてた。 流石我らが天下の茨城だ。 魅力度ランキングで最下位常連どころか定位置過ぎて動く気配無かったけど。 この前動いちゃったんだよなぁ……逆に残念だけど、動いても動かなくても逆に注目されるから結果オーライだ。
話が大きくそれるが、茨城県はとても魅力ある場所だと思う。 特に「これ!」と言えるものが無いと言われるが、それは「何でもある」という事だ。オールマイティなのだ。
俺の茨城愛のほんの一部は今はさておき、話を戻そう。 外界の時間は止めておいたからセフセフ。 脳内の俺すげー
「咳したなら訂正するデス!」
ベルが再び声を大きくしてツッコミを入れるが、すまん聞いてなかった。 とりあえずしーね。
……あ、今のは『死ね』って意味じゃなくて、『静かにのしー』だから。 別に死ねとは思ってないから今は。 くたばれとは思ってるけど。 どっちにしろ同じ意味じゃねぇか。
「で、どれ見るんだ? 単独行動が主流の俺だが、今日だけはお前に付き合おう。 好きなの選んでいいぞ」
「むぅ……それならお言葉に甘えるデス」
ベルは少し不満そうにそう言うと、しゃがんで上映表を見る。 俺はその前に黙ってその場から一歩後ろへ。 ミニスカートでそのしゃがみ方だと前からパンツ見えるぞ。 そんな地面スレスレの隙間から覗くような奴は流石にこんな場所に居ないだろうけど。
「…………ピンクモノは無いデスか?」
「ある訳ねぇだろこんな一般映画館に」
ぶっちゃけ水戸に行けば今では珍しい成人映画館が有るのだが、今は関係ないから黙っておく。 こいつなら行きかねんし、何より成人映画館では色々あるらしいからもし巻き込まれたらたまったもんじゃない。 俺としてはその映画館に行ってみたいが。
勿論、映画目的じゃなくてその『成人映画館』という今はほぼ衰退したレア場所に興味があるから。 まだ営業してるなら世界遺産以上に保存しなければならないものとして貢献してこよう。
……興味無い内容の映画を見てられるかどうかはわからんが。
その後、誤用の意味で適当に映画を決めた。 チケット? 勿論、各自自腹で買った。 デートで奢るとか嫌だし、そもそもデート=女に払わせないみたいな暗黙の了解とか嫌いだし。 デートだろうとなんだろうと基本は各自負担、それが俺流。
「まだ上映まで時間あるな……軽食でも買うか?」
「YESデス。 Japan映画館のを買ってみたいデス」
ベルさんご本人はお望みの様子。 という訳で買い方だけ説明して見送ることに。
「じゃ、俺は後ろで見てるから好きに買ってきー」
ひらひらと手を振ってベルを見送る。
「あれっ? ソージは買わないデス?」
「いや、割高で金が勿体ないから俺は買わん」
前になんかの記事で読んだが、映画館の売上の大半は飲食物で、チケット代やグッズ代は、殆どがその映画の会社に持っていかれるらしい。 飲食物は全部映画館に売上が入るから、その分高い、と書いてあった。
というのと、『飲食物だけでは無理があるからチケット代高くしたり、色々な広告つけたり、小規模イベント会場として貸切にしたりして利益出してる』
って話もあった。 この二つが本当かどうかは俺が実際に見た聞いた事じゃ無いから信用半分疑い半分だが、とりあえずそんな訳で高いらしい。 節約男の俺は削れる部分は削る。 削った部分は出汁にでも使ってくだちい。 鰹節か何かかよ。
「ソージは変な所でmoneyを使わないデス」
「しょうがねぇだろ性分なんだから。 それに、俺の過去知ってる言ったなら分かんだろ」
「うっ……それはそうデスけど……『あーん』とか食べ合いっこしてみたかったデス」
おっとこれはいけませんよ? ベルの恋する乙女side発揮で俺の心を揺さぶりに来ましたよ来んなしマジで。
俺にこういう態度は効果抜群ですよ別の意味で。
俺の数あるモットーの一つはご存知の通り『最低限で最大限・望む結果を』だ。 今のベルの様に、面倒な相手と相対するのは非効率だから、基本的には俺の可能な限り言うことに従うのが最も効率が良く結果もそこそこ望ましい。 断って必要以上に険悪になるよりも、お互いそれなりに無関心なままでいる方が楽なのだ。
まぁ、だから悠ちゃんに「お前は若干ワーカホリック気味だ」って言われるんだけどさ。 だったら仕事手伝わせんなって話なんだけど。
というか、今更だけど従弟とはいえ創設者の一族の者とはいえ、部外者も同義の俺が手伝っちゃダメだろ。 機密文書とか結構見ちゃってるぞ。 後ついでに悠ちゃんの検索履歴とか。知ったら誰もが自然と目を逸らして見なかったことにする。 俺はとりあえずスマホで写真撮って保存しておいたけど。
とにかく、このうだうだやってる時間が勿体ないし、ある程度予想していた出費だから俺も買うとしよう。 あーんとかはやりたくないけど。 映画館でそんな事やってる異性のカップルが居たら俺は先ず間違いなくそいつらに地味に嫌な不幸が三連続で襲いかかる呪いをかける。
まぁ、かけるってか、以前実行した。 呪具を使う系じゃなくて、念だけど。 仕方ない、 映画見に映画館来てるのにイチャついてる異性のカップルが悪い。 あ、その隣の百合ップルには手を合わせて拝んでおいた。 何もしてないから俺は無罪。 百合の間に挟まる男にはなってないから殺さないで。
という訳で、俺も買うことにした。今更言うのも面倒だし、黙って列に並ぶ。 幸いというかなんというか、偶然にも俺が並んだ列は即座に捌かれ、俺の番が回ってきた。 とりあえずポップコーンとドリンク二つ、チュリトスも2本購入。
そしてトレーに乗ったそれを持って後ろのベルの元へ。 しまったナンパ対策として一緒に並ぶべきだった。 流石に映画館の、こんな公でやるとは……いや、ナンパするような輩はこういう所でも容赦無くやるな。 対応の面倒くささが、焼肉食べ放題の店に毎日夕方の同じ時間に一人で来て延々と酒だけ飲んで帰るおじいちゃん並だ。 ちな、俺の実体験。
昔気紛れというか、趣味で描いてた漫画の参考になればとバイトしてみた時の事だ。 あの人結局なんだったんだろ……
「ほれ、味とかは思考放棄で選んだから嫌なら言っていいぞ」
言われたから何かする訳でもないがな。 言うだけ聞くだけ。
「悪いデスよソージ、ちゃんとワタシの分は払うデス」
ベルはそう言いながら慌てて鞄から高そうな財布を取り出す。 金持ちめ……
「いや、俺の気紛れだから気にすんな」
俺はそれを手で制す。 財布出すより手を出して受け取って欲しいんだけど。
「デート誘ったんだし奢りだと思ってありがたーく受け取れ。 持つ手が震えてきたから割とマジで」
「おおっと……あ、ありがとデス」
申し訳なさそうに財布をしまい、両手で受け取るベル。 うーん無断でやって成功するのはやはり創作の中だけか……
「……ふへ」
ベルが手に持った軽食を見てにやける。 そんなに嬉しいか奢りが。 冗談です知ってます。
「そろそろ頃合だな。 ほら、ルーム行くぞー」
「oops! ソージ、ワタシを暗がりに連れ込んで何する、もといナニするつもりデス!」
さーてさっさと椅子にすーわろ。
ベルを置いてスタスタと先に行く。 もーう知らん。 ナンパするか難破しろ。
「待つデスソージ!」
しかしベルは慣れてきたのか、最近正気に戻るのが早くなってきたよクソが。
「はい、お二人ですね。 チケットの提示をお願いします」
券売機で買ったチケットを店員に渡して返され、そのままシアタールームへ。 えーっとF-12はどこだろなっと。
「あ、あったあった」
席に座って少し伸びをして筋肉を解す。 うい〜……あ、なんかゴキっていった。
そのままベルも隣の席に座り、映画が始まるまで少し話しつつツッコミ入れつつ待つ。
そしてふと気付く。 何やら周囲の客の話してる内容が似ている事に。
ちょっと辺りを見回す。 右むきゃカップル左もカップル前もカップル後ろはスマホを見るふりして画面の反射で見るとカップルガッテム!
どうやら俺のお気に入りの場所、通称前通路の真ん中席を選んで静かに映画を楽しもうと思ったら、カップルだらけの席だったようだ。 滅べ。
てめぇらイチャつきに来てんのか映画見に来てんのかどっちだよ帰れや。 映画始まってもイチャついてたらマジで柳一族に伝わる『対象に地味に嫌な不幸が二度三度降りかかる呪い』をかけるぞ。
「暗くなってきたデス」
俺がカップルを呪うために小声で恨みを込めて呪文を唱えていると、ルームの照明が消えていく。
「……世界は慟哭の海へと沈む、デス」
隣のベルが光を失う天井を見上げながら呟いた。
「もしかしてお前ってダゴンだったりする?」
「ふふん、どーっちだ♡」
「よぉし、切って確かめよう」
「ベルですベルですワタシはフェルナンデス!」
俺が手刀を振りかざすと、ベルが慌てて否定する。 いや、最後違う人になったけど。 お前女だろ。 フェルナンデスって『フェルナンドの息子』って意味だぞ。
「どっちだよお前」
映画が始まるからぼそっとツッコミを入れつつ、スクリーンに身体を向ける。 肘掛けに手を置くとベルがすかさず手を重ねてくるから、俺の左手は現在膝の上。
「……!」
隣のベルの興奮とか喜びとか色々伝わってくる。 なんかキラキラのエフェクトがサクッと刺さりまくって痛いんだけど、これって疼痛? それとも幻痛?
開始のブザーが鳴る。 映画館って地味に音デカいからちょっとびっくりする。 音量もう少し下げてくれないかなぁ……
「……ソージ、興奮して勃っちゃったら言ってくれてダイジョーブデスよ」
「映画始まるから心臓も静かにしましょうね」
「死ねと!?」
というかコソッと言ってくる内容でもなかろうに。 そういう一言が無ければ比較的マシだと思うのになぁ……
まぁあくまで『比較的』だから恋愛対象範囲外な事に変わりは無いけどな。
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映画も終わり、各々が談笑しながら席を立って外へ出る。 俺も外に出る。 ちょっと催したから御手洗へ。
「ちょっと手洗い言ってくるからあー……その入口付近の角で待っててくれ」
「OKYES! でも……そこだとトイレから遠いデスよ?」
「いや、トイレ付近よりはマシだからそこで待っててくれ。 俺が楽」
主にナンパ対策として。 トイレは奥の行き止まり付近にあって、そこら辺で女一人で待っているとナンパされた時に逃げ出しにくい。 背後は壁で人が少ない行き止まりよりも、人が多くて助けを呼べる入口付近の方が安全だと思った。 以上。
ということを直接本人に言うと調子に乗るだろうから言わない。 というか『OKYES!』って何?
「……ふぅ」
出した後はペーパーで拭いて便座から立つ。 俺は大も小も便座派。 だって立つの面倒臭いから。 いや、勃つのが面倒臭いとかじゃなくて。 流石にそこまで年寄りじゃない。
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……ソージ、おしっこ出す時皮に引っかかって大変そうデスね……
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おい誰だ今『皮に引っかかってしまった後に出そう』とか言ったの。 とっくにむけとるわ。 おい、お前に言ってんだよベル。
……はっ! つい反射的にツッコミを入れてしまった。 いや、ベルが何かした訳でも無いのに入れてしまうという事は、ベルが今そう思ったってことか。 俺の直感はよく当たるからな。 暇潰しに記号記入型100問テストで思考放棄してやってみたら、78点だったし。
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……はっ! なんか今ソージにツッコミ入れられた気がするデス! およ? 知らない男性集団が近付いてくるデス。 まさか男子トイレで集団playデスか! ソージのア○ル処女が危ないデス! 危険が危ないデス!
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さて、問題が発生した。 手を洗ってトイレから出ると、予想通りベルが日焼けしたヤリ○ンらしきXY染色体に囲まれてた。 しかも入口付近からこっちに移動してるし、人は見て見ぬふりしてるし。
それにしても難波慣れしてそうな奴らだな……『なんぱ』じゃなくて『なにわ』じゃただの大阪の土地勘がある人になっちゃうじゃん。 難波じゃなくて難破だクソくだんね。
幸か不幸か、俺に気付いた様子は無い。 これなら背後から不意打ちで驚かせて一瞬だけ動きを止められるから、その間にベルを連れて逃げられるな。
……いや、それだとナンパボーイズ……とりあえず見た目が似てるからKBSトリオと呼ぼう。 似てるってか、コピーレベルでそっくりなんだけど。 館内に車は止まってませんよ御三方。
とりあえず、あのトリオに極力関わらずにベルを連れ出す方法……ぶっちゃけ不意打ち後頭部なら楽なんだけど、それだと面倒だ。 救出あるある『俺の女になんか用か?』は使いたくない。 だって嘘でも言いたくないから。 というか普通に見破られそうだから。 俺の童貞力を。
「あら、奏士くんじゃない」
急に名を呼ばれて背後を振り向くと、そこには大人サイズの女児服を来た筋肉が。 いや違う、近所に住むプロレスラーのアマンダ・プレミアムさんだ。 見た目は筋肉中身は乙女。もっと言うと、女装趣味のガチゲイの巨漢。 更にもっと言うとリングネームじゃなくて本名らしい。
物凄く高い声と分厚いタラコ唇と恋しさとせつなさと心強さが特徴的なアマンダさん。 最後の三つは無関係だから無視の方向で。
筋肉を纏う俊敏なゲイという、一度狙われたら逃げられない恐怖という事を除けば、物凄くいい人だ。 俺も引越し挨拶にこの人が来た時は狙われかけた。 同じ武人として非公式異種格闘技戦でお互いバトって勝ってからは狙われなくなった。 俺を武人と呼んでいいのかは定かではない。
異種格闘技戦と言っても、アマンダさんに狙われたらから全力でボコっただけだけどさ。 怖かった。 別の意味で怖かった。
「あら、あそこの可愛いお嬢さんは貴方の彼女? ウフッ、隅に置けないわね」
アマンダさんがぶっとい指で絡まれてるベルを指さす。 違いますあれは居候です。 妻を名乗る不審者です。 そういえばネイル可愛いですね。 今日はオズの魔法使いモチーフですか?
ちなみに、アマンダさんは俺が何も言わなくても、身振り素振りと表情で分かるのか話を進めてくれるから楽。 流石武人……
「それにしてもあの三人……貴方、助けに行けなくてもいいの?」
その方法を今考えてるところです。
と、アマンダさんに伝える。 こんな余裕たっぷりに見えても、割と必死なんです。
なんて模索していると、ベルが愛想笑いしながら断り続ける事に業を煮やしたのか、トリオのBがベルの肩に手を回して逃げられないようにする。 身体を触れられたベルの表情が変わる。 今までの笑みを浮かべつつ内側は拒否から、恐怖と拒絶へ。
「あらあら……」
それを見たアマンダさんの声色が変わった。 高い声から、ドスの利いた声に。 その見た目でその声だと色々ヤバいんでやめてくれません? とは言えない。 怖いから。
なんて思ったが、それを見た俺も今まで周囲や後々を考えた選択肢を捨てる事にした。 『覚悟を決めた』だとか、『身体が勝手に動いた』って言えればカッコイイんだろうが、俺のはただの思考放棄でしか無いからダサいことこの上ない。 パッパラパーだから。
しかし、流石に俺一人でやるのはちと面倒だ。 力で解決なら楽だし、そこらのチンピラ程度なら5、6人は余裕で対応できるが……あ、バッチグーな方法あるじゃない。
それを思いついた瞬間行動に移す。 アマンダさんを宥めて、ここで立っていることをジェスチャーで伝える。 アマンダさんは俺の策を理解したのか、直ぐに落ち着いて笑顔で頷く。 敵になれば恐ろしいが、敵だろうと俺が安全なら頼もしい。
アマンダさんに指示した後は俺次第。 俺が上手くやれば全てが上手くいく。 アマンダさんに伝わってるかはもう知らん。
そっと傍を通る一般人の様に、通学路を歩く学生の様に近付く。 三人はベルに意識を向けてるし、ベルは俯いてるから俺に気付いていない。
「ちょっといいですか御三方」
最初はベルと三人との距離がトリオの腕の範囲外になるように移動させる。 ベルの肩に手を回しているBの背後に立ち、肩に手を置く。
「あ? 誰よ兄ちゃん。 俺たち今忙しいの分かる? 分かったらさっさと消えなでででででででででっ!?」
「あー俺は別に用事ないから喋らなくていい。 俺はあくまで伝言を伝えに来ただけだからな」
肩に手を置くつもりが、力加減を間違えてしまったらしい。 人間って脆い……やったぜ人生で言ってみたかったセリフ187位を言えた。
まぁ力加減云々はさておきだ。 これで三人の意識は俺に向いた。次に移行しよう。
「……あっ」
俺が気付いたようにアマンダさんの方を見ながら指を指すと、三人もつられて同じ場所を見る。 ベル、お前は見なくていい。
「ヤダ〜可愛い坊ちゃん達じゃない♡」
巨体のアマンダさんが身体をくねらせてオネエ口調で言うのは果てしなくキモイが、作戦成功のために我慢する。 うえっぷ……
「さ・ん・に・ん・と・もっ! 私とおデートしなぁ〜い?」
「「「いえ、結構です!!!」」」
徐々に近寄るアマンダさんという恐怖に恐れたのか、三人は全て同じタイミングで同じ動きをし、ハモらせて逃げ出す。 アマンダさんはその三人を素早い動きで追う。 ベルも別種の恐怖を感じたのか、俺の陰に隠れて俺の左腕を抱きしめる。 ちょっとベルちゃん力強いかな。 だんだん感覚無くなって来たんですけど。
そのまま離れようとしないベルを引っ張って映画館の外に出る。 何やら物陰から悲鳴とアマンダさんの歓声が聞こえた気がするが、自業自得だから無視する。
アマンダさん曰く、「ああいうちょっとチャラついた男はタイプ」らしい。 屈服調教でもするのかしら。 怖い、アマンダさん怖い。
「…………」
普段は煩いベルが一言も話さない。 話さない代わりに俺の腕からしがみついて離れない。 物凄く歩きにくいから離れて欲しいんだけど……
「…………」
「…………」
お互い無言が続く。 ベルはともかく俺は自分から人に話しかけるタイプじゃないし。 というかかける言葉が見つからない。
触れてほしくないなら何も言わない。 慰めて欲しいなら──あれ、俺慰める時の方法知らない。 撫ポン? そんな方法できるか。
そもそも頼る人が居なかったってのもあるけど、俺は悩み事は他人に相談しないで自分で解決するタイプだ。 そして悩みとか愚痴を聞くのが嫌いだ。 その理由は理解出来ても仕組みが理解出来ん。誰かに聞いてもらうことで楽になると聞くが、そんな時間あったらさっさと解決した方がいい。
そんな訳で、自力解決が多い俺は他人を慰める方法を知らん。
話をそらすのに便利な「とりあえず飯でも食うか」戦法は使えんし、そもそもフードコートで昼飯食うつもりだったから、この後はどうしようかねぇ……しょうがない、プランZAG-7に移行しよう。 で、そのプランって何すんの?
「…………とりあえずクルーズ入ってウィンドウショッピングでもするか?」
「いい加減に慰めるデス!」
俯いていたベルは、急に顔を上げて叫ぶ。 煩い色々煩い。
「なんなのお前」
人が気を使って提案してやったのに、当の本人はなんか企んでいた様子。ガクガク揺らすな気持ち悪い。
「『トイレに行ってる隙にナンパされてたら助けてその後色々慰めてくれる作戦』を実行したと言うのに!」
「色々言いたいことはあるけど今すぐ死んでクレメンス」
ベルは心底悔しそうにしている。 なんだよこいつほんとにくたばんねぇかな。 人が割と勇気出して助けたのに……やはり放置しておくべきだった。
と、ベルを普段通り物理的にも精神的にも見下す。 甘い、甘いぞベルさんよ。
まず、声から使わる感情の誤魔化しが未熟だ。 それに、隠すように強く握られた拳と、微かに震えている身体が物語っている。 嘘をつく事に関してはプロの俺を騙そうとは何年か早い。 ふむ……
ベルはさっきの事を冗談として流したい様だし、ここは気付かないフリして次の話に移行していこう。 という言い訳でどうにかなりませんかね。
「じゃ、とりあえず買い物行くか」
「イエーイ! ソージを悩殺する下着を買っちゃうデスヨー!」
それを本人が居る前で言ってしまうのはどうかと思う。 という事も面倒臭いから黙っておいた。 でも「とりあえずくたばれ」と念を送った。 跳ね除けられた。
とりあえずベルの気は逸れたみたいだし、面倒な話を長々と引き摺るのは性分に合わないからこれでいいのだ。 つっても、俺は一度受けた怨みを忘れた事ないけど。 絶対許さない。
という訳で買い物に行こう。 どうせ買うのはベルだけだろうから、俺はベルの提示してくる選択肢を選ぶのに専念しよう。 千年専念何すんねんつって。あんまし面白くねぇな。
映画の感想? それは各自見てから想像しろ。 ぶっちゃけ言うと、ベルがちょいちょい隣から仕掛けてくるからそれを回避するのに忙しくて殆ど映画見てなかった。 金無駄にした……
今回の内容とか色々書きたいことはあるのですが、それ以上に書きたいことがあったのでそれを。
私には1人の愛する訳でもないというか嫌い寄りの姉が居るのですが、その姉が珍しく対応が優しかった時にした会話です。
「次あんた風呂入れや」
「りー(了解の略) 風呂状況どうなってるー?」
「お湯貼ってある」
「バブ入れた?」
「入れた」
ここまでは普通の会話なのですが、私はついつい小ボケを入れたくなる性格でして……
「ボブ入れたー?」
とついでに聞いてみました。すると──
「ボブ入ってる」
まさかの返しです。 どうやら我が家には見知らぬ筋肉マッチョでスキンヘッドな黒人男性が居候しているようです。 そして我が姉はまだまだ続けます。
「ジェイソンも入ってる」
まさかの殺人鬼入りのお風呂です。 流石の私も今は残機が足りません。
「あ、マイケルも入ってるから」
驚きの三人目です。 そこまでいくと、我が家の狭い風呂場では成人男性三人(そのうち二人は確実に巨漢)はキツイでしょう。 巨漢だとすると、二人で5人分のスペースを使うことになるので、これで最低6人分です。
とりあえず話に乗って、
「あ、ジョーダン入ってんのね」
と返しました。しかし
「あ? ジョーダンは今日入ってないわ。 明日なら入ってる」
どうやらアルバイトのシフト感覚で風呂に入ってることが決まってる様です。 作者も流石に困惑。
「あ、じゃあジャクソン?」
「ジャクソンは金曜日」
一応他にも候補はあったのですが、会話に飽きた私は終わらせてお風呂に入ろうと正体を聞いてみることにしました。すると、我が姉の口からまさかの結果が。
「じゃあマイケルって誰よその男」
「なんか翼が生えてる」
まさかの天使長入浴中です。 というか、翼込みだと折り畳んでもスペースは二人分です。これで合計8人分です。 我が家のお風呂場は定員オーバーです。 普通に家庭の風呂場スペースでは足りません。 それこそ、主人公の住む柳宅の様な一般男性8人が交互に入れる様な浴槽と、4人分のシャワースペースが無いと満足に入ることもできないでしょう。
「へー」
私はそのままとりあえずの返事だけしてお風呂場へ行きました。 天使長が入っているならさぞ暖かいお風呂なのか、それとも殺人鬼入りなら血液のフレグランス()でしょうか。
まぁ、結果は物凄く冷えたお湯……お湯? お湯だったものでしたが。 我が姉は1度入ると1時間前出てきません。
『キンキンに冷えてやがる……』
思わず心の中でそう叫びました。 そこまで冷えてはないですが、入ってて若干不快なぬるま湯でした。 以上です。 これといったオチはありません。それではまた次回。
あ、ベルのセリフに「か」と「カ」、「よ」と「ヨ」が違う部分がありますが、それは仕様なので隠れミッスーではないです。 イントネーションの違いだと思ってください。




