尖った奴はなんだかんだで相性が良い
結果、俺の勝ち勝ち山
まーた実況無しかよと思われるかもしれないが、そんなこと知ったこっちゃない。こちとら割とガチで禍塚に勝とうとしてたんだから、そんなことやってる余裕なんぞ有る訳ナッシング。
いや、俺もマジで今回は禍塚に勝とうとして、そんで途中まで互角だったんだよ。お互いにミスなしオールパーフェクトの互角中の互角、ミス一つ、タッチの差で勝敗が決する状況だったんだよな。うん。
で、問題が起こったのは開始から48秒後。お互いに集中が切れ始め、余裕ができ始めた辺りだ。
人というのは、気を紛らわそうとなにかする時、真っ先に出るのは声を出すことらしい。過去の黒歴史を思い出して発狂、恐怖や緊張を紛らわすために独り言、孤独や現実から目を背ける為の会話等、とにかく声を出すのだ。それは俺も禍塚も例外じゃない。ちなみに俺の声を出す原因ランキング第1位が発狂である。黒歴史とかどうして突然思い出しちゃうんだろうね。困ったものだよ『連想力』を持ってしまうのは。完全自業自得なんだけどさ。
で、話は戻る。口を動かしても動きが止まったり、思考を他に移す訳では無い。寧ろ、逆に研ぎ澄まされていく。記憶通りの譜面、それを予測と観測から腕を動かす。
と、そこで横の禍塚が話しかけてきた。
「今日は急に悪いね。君にも予定があっただろうに」
俺は画面から目線を動かさずに答える。
「さっきも言ったが、今日は大丈夫だから心配すんな。それより、俺に話しかけるなんて随分余裕だな」
「そんなことないさ。これでもだいぶギリギリだよ。やっぱり君と競うのは楽しいね。実を言うと、前に君を見てからずっとこうしてみたかったんだ」
「そりゃ御大層なこって。俺は前にお前を見てからずっとこうしてみたくなかったけどな」
「君は手厳しいね……でも、だからこそ戦いがいがある。悪いけど、この勝負、勝たせてもらうよ」
「俺はただの暇潰しだから、そんな覚悟で来られてもな……お前に何があるのか知らんけど、俺に向かってくるなら容赦はしねぇよ」
禍塚の覚悟は受け取った。あいつの事は知らん。何を抱えてるのかも、このどうでもいい勝負の先に何があるのかも。
クソ面倒臭いが、俺に向かってくるなら徹底的に。俺に何もしないなら俺は何もしない。俺に危害を加えないなら俺も危害を加えない。
しかし、挑んで来るなら叩き潰す。陣に入ったなら切り伏せる。禍塚という挑戦者には礼儀を以て相対する。こちとらこれでも武術と呼べるのかは怪しいが、一流派の師範代だ。しっかり相手をしてやるよ。
ここからは俺も本気でやろう。
そして俺は、首を三回鳴らす。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
で、結果があれってこと。とんでもない戦いみたいに表現しておいて、内容はただのゲームだ。クソしょうもないしそんなに凄そうには見えねぇし。語彙力がご臨終で語臨終death。 くだんね。
「……ふぅ、負けたよ」
画面に表示された結果を観た禍塚は、息を吐きながら俺を見て笑顔で手を差し出してくる。え、何? 戦後の握手? やだよお前の掌とか汗でべっとりしてそうだから。
「最初から結果は決まってただろうが。後、更に手を近付けるな指と爪の隙間にチョコソース塗り込んで乾燥させるぞ」
「それちょっとモヤモヤして終わりじゃないか?」
禍塚は苦笑い。なるほど、俺の言い回しは他人ウケがとても悪いみたいだな。次からもっと分かりやすくしよう。
「……で、勝負は終わったけど、次どうする?」
「うーん……」
このゲーセンだと、未経験でも可能な対戦系が音ゲーかメダルゲームの最終枚数くらいだ。で、音ゲーはなんかさっきの勝負の密度が凄かったから一旦お終い。メダルゲームは時間がかかるから却下。どうしようかねぇ。
と、そこで誰かの腹が鳴る。だれだ だれだ だれだ〜
それはガ○チャマンだな。白い翼とか四人全員誰一人として持ってねぇし。レ○ドブル飲めばいけるかしら。
「あ、悪ぃ俺だ」
音の犯人は不知火──の腹の虫だった。そうか、そういやそんな時間か。紅葉達が来るまでは、飯なんて『腹減ったら食う』方式で食ってたから時間とか気にしたこと無かった。
「じゃ、とりあえず適当にどっか行くか。近いしミスド行くか?」
「そこ飯屋じゃねぇよ!? 向かいのマクド行こうぜ」
不知火が腹を擦りながらつっこむ。やだ、この子ったら俺の代わりになってくれそうだわ。今から育てないと。ツッコミ役として。
「では、そこにしましょうか。 私、そういう所に行ったこと無いので、少々楽しみです」
莇もそれに賛成する。そうか、こいつこれでもベルの第一護衛だったな。
……いや、イギリスにもマックはあるだろ。ということはベルも食べた事ないとか? 確かにあいつ良いとこのお嬢様みたいだしな。お嬢様なら尚更食べたことあるだろという謎の自信というかテンプレというかお約束というか……うん、莇が食べたことないだけにしておこう。ベルのことは知らん。
「なら、尚更マクド行こうぜ。あれを食ったことないとかだいぶ損してるぞ」
「そうだね。じゃ、早速マック行こうか」
「「…………」」
禍塚と不知火が無言でお互いの目を見て固まる。え、何? 唐突な街中BLはやめてホントマジで。
「マックだろ?」
「いやいや、マクドでしょ」
「僕の地域ではマックなんだけど」
「俺の地域ではマクドが普通だ」
「あぁ確かに若葉の地域ではそうかもねフォーマルハウトとか」
それは魚座の一等星だろ。地球外出身なのか不知火は。
「それ何処だよ!? とにかく次『マック』と言ったら侵略するからな!」
ヤバい不知火がまさかのマックマクド戦争ガチ勢だった。そして「侵略」の単語が出る時点で地球外出身だった。 というかお前ら幼なじみだろ生まれた地域一緒じゃねぇのか。
ちなみに、この戦争に意味は無い。だってマックもマクドも創設者のマクドナルド兄弟の片割れ、モーリス・マック・マクドナルドの中に入ってるもの。よってどうでもいいからポテト食おうぜ。Lポテ5個食ったらどうでも良くなるから。食いすぎとかのコメントは受け付けません。
それを教えてあげようと思ったが、今ジュース飲んでて口が塞がってるし面倒臭いから辞めた。
「じゃ、あのバカふたりは放置して俺は先行ってるわ。莇はどうする?」
「いや、どうするも何も……」
「あれっ!? あれって……」
と、俺がさっさと食いに行こうとしていると、唐突に声をかけられた。街で俺に声をかけてくる女とかティッシュ宗教痴漢冤罪美人局くらいしかない。またなの? またやってもない痴漢の罪に問われなきゃいけないの? こんな街中で触らねぇし頼まれても触らねえってハズレババアが。何が「痴漢しそうな顔」だてめぇを置換すんぞコラ。それはそうと『ティシュ宗教』って繋げると新手のカルト教団みたい。
俺が過去の出来事を振り返って愚痴りながら声のした方を振り返ると、そこには見知った顔の少女が四人とその他が一人。その内の一人の、染めた金髪をワンサイドアップ・レフトにした少女が、こちらを指さしている。なるほど声をかけたのはこの人か。あらま。 この時々出てくるマダムは誰やねん。
「ちょっとあんた達ここで何してんの!?」
こちらを指さした少女がつかつかと近付いてくる。思わず悲鳴をあげて逃げ出したくなる。ヤバいあの頃のトラウマが……
「ちょっと! 無視しないでよ! 〜っ! 恭平!」
その声にやっと気付いたのか、目線を不知火から声のする方へ向ける禍塚。
「あ、あれ……皐月!?」
驚く禍塚に迫る皐月さんを見ていると、浮気発覚現場を見ているようでメシウマなんですけど。食いもん無いからジュースをドリンクするけど。
浮気発覚……うーわその御相手って不知火じゃん。女に飽きて男同士……吐き気を催す『邪悪』とはこのことか……違うな、うん。とりあえず飲んだジュースを下からじゃなくて上から出しそう。
『……うぷっ』
今脳内に浮かんだ、真っ青な顔で絵を描いているのは吐き気を催す『写楽』 つってね。 とりあえずこんなゴミみてぇなクソギャグを浮かべた脳内の俺はあの世にGo To トラベルして欲しい。無論、切符は片道。 俺は一人で何してんだ……
「どうしてここに……今日は予定がある筈じゃ」
「それはこっちのセリフよ! なんであんたがここに居んのよ! それに不知火達まで……」
「やっほー皐月ちゃん。遥ちゃんもよっすよっす」
「不知火くんこんちには〜」
不知火と遥さんは、目が合うとヒラヒラと手を振る。うわぁ……左が浮気発覚現場で、右が恋人の待ち合わせ……両方くたばり散らせ。
恭×皐カップルを放置し、隣で雑談を始める遥×若カップル。カップリングの変更申し付けは現在受け付けておりませんのでご了承ください。ご了承頂けない方が居たら口を塞ぐ。俺自身の。カップリングは自由だから。
……あ、いやあれ談笑してねぇ。不知火の奴、遥さんの話は聞きつつチラチラ見てやがる。大きめなサイズのカーディガンを着ているにもかかわらずはっきりと分かる小山超えて大山こえて瑠姫さんとタメ張れるか凌駕するオリンポス山、通称遥っぱいを。 不知火よ、多分どころか確実に遥さんは気付いてるぞ。 自分に向けられる視線って直ぐ分かるし。 そして俺のこの思考もだいぶ失礼だな。 消去消去。纏めてゴミ箱へポイして『空にする』にカーソルを移動させて──あ、やっべズレて隣の『元へ戻す』押しちった。 よくある事だし、気にしなーい。
閑話休題
さて、『これ以上ここに居ると面倒な事になる』と、俺の直感が告げている。俺はあの四人+残りの二人+その他一人を無視してそっと飯を食いに行こうと場を離れることにした。俺の単独行動スキルはA+相当だ。磨き上げた隠密性能は誰にも見破れない。
多分、きっと、恐らく。自信のうなってきたわ。何故に方言……
「ソージ発見! 突撃の〜ラーヴィンハァァァグッ!」
俺が人混みに紛れてその場からエスケープしようとしたが、その寸前に何者かが俺に向かって突進してくる声と気配と足音と嫌な予感が。いや、既に知ってるんだけどさ。だってこんなこと街中でするのも、そもそも俺を「ソージ」なんて呼ぶのも一人しか居ない。
というかラーヴィンってなんだよ。Love inか? Love in hugはハグの中の愛だろ意味わかんねぇ。
「お前の技は見切った!」
俺が突進してくるベルを避けようと、対抗魔法をキャストする。実際にはしてないからイメージ。ただ避けるだけだし。
「という夢を見たのさ!」
しかしここでベルがまさかの魔法無効カードをキャスト。要するに突進の途中で軌道修正したってこと。ベル、運動はそこそこの筈なのに、とんでもない速さで走り、そして見事な体捌き。お見事と言わざるを得ない。
なんて呑気に説明してみたけどこれヤバくね? 俺避けきれなくね?
「カルパッチョっ!」
予想通り、ベルの突進という名の愛情たっぷりな鯖折りを避けきれなかった。しかし俺も男、踏ん張って衝撃を堪え、何とか受け止める。うーんこいつ今すぐ膝で蹴り上げてやろうか。
そんなこと脳内で言っている間にも、ベルはハグの力を緩めるどころか更に強め、俺の胸板──と言えば聞こえはいいが、超痛い鳩尾に入った頭をグリグリと動かして身体を擦り付ける。 あ、背骨から嫌な音がした。これもしかして愛情表現とかじゃなくて本気で背骨折りに来てね?
ベルを見てて前から思っていたが、紅葉が猫もしくは子犬とするなら、ベルはかなりの大型犬だな。身体を擦り付けるのは、甘えの証らしいし。あれ、そしたらこの前重政が毛繕いしたばかりの唾液たっぷりな前脚を俺の服に擦り付けてきたのはそういう意味か? あの時は涎が思ったより多く着いちゃって、拭くために擦り付けてんのか駄猫かと思って全力で撫で回したけど……なんだよ甘えたかったならもっと全力で撫で回してやったのに。
「く、くふっ……いきなり何しやがるてめぇ」
これ以上引っ付かれていると、通行人の注目を浴びて視聴率100%になっちゃうし、俺の命もそろそろ終わりそうだから全力で、それでいてそっと引っペがす。いや、力任せでやると、バランス崩した時とか危ないから……ベル、ヒール付きじゃなくてスニーカーだけど。ヒール付きは皐月さん。ベルはヒール俺はヒール俺の身体を癒してよヒール。流石俺、こんな時でも韻踏んでる余裕はあるみたいだ。
いや、俺は悪を演じてなどいない。俺ほど純粋無垢な聖人君子は居ない。ということを悠ちゃんに冗談で言ったら「純粋無垢な聖人君子に対する名誉毀損だろ」と言われた。流石に酷くね? 否定はしないけど。しないんかい。
そして何度も言うが、ベルはヒールじゃない。じゃああの韻違ぇじゃん。
「何って……ふふん。 愛する夫を見かけたら、身体が勝手に……これも愛の為せる技デス」
「そんな愛なんてティッシュで包んでロケットに積み込んで離陸ミスって大地へポイしてしまえ」
「何その大惨事からの軽い感じ!?」
なんでこの女こんなに堂々と胸を張って言えるんだ? 俺、自分がイカれてる自覚はあったけど、もしかしたらベルは俺以上にイカれてるかもしれない。 だって俺でさえ最低限の常識とマナーはあるし。どんぐりの背比べとか言うな。争底辺の争いなんて醜いもんだから。
「……で、多分こん中で一番まともな答えが出そうな紅葉に聞くが……何してんのお前ら。 いや、大体想像つくけど」
紅葉、ベル、皐月さんと遥さん、そして何故か居る焔。 年頃の乙女……乙女? 乙女じゃない奴が三人程混じってるけど、少女が休日に私服で街を出歩いている。そして買い物袋を持っていることから察するに、買い物だろう。さっきも、ベルが俺に突進する際、手に持っていた袋を紅葉に手渡してたし。
「多分、奏士の想像通り」
「なんだやっぱりか。定番だしそうか」
「……ホテルで百合4P」
「あーれそう解釈しちゃう?」
というか焔だけ外で待機とか生殺しにも程がある。ダブルミーニングで、『なかにいれたれ』
「銀髪ハーフの肉付きのいい美少女、スレンダーな美脚ギャル、ふんわり豊かな天然美少女……選り取りみどりデス!」
「お前が選ぶ側なんかい。 つーかやっぱり焔入ってねぇのかよ何しに行った」
「私は……絵が捗った」
「ちょっと待って実際にやってないよな?」
どうしよう、紅葉とベルの会話が真実味を帯びてきたんだけど。わかりやすいベルはともかく、常にぼーっとしてるというか表情の変化が分かりにくいというか……紅葉から嘘を読み取るのは面倒臭い。まぁいいや。
「……おい不知火、もしかしてお前が言ってたのはこれか?」
遥さんとの雑談も終わったのか、禍塚と皐月さんのやり取りを傍観していた不知火に近寄って、小声で話しかける。
「……何それ」
しかし、不知火からは予想外の反応が返ってきた。あれ、もしかしてお前の社長は本日お休み? デュエルしてないで休日出勤しろよ海馬。
「お前が電話口で言ったんだろうが」
「ん? ……あ、あーそれね。そういう事か……ウ・ソ」
「博士みてぇに言ってんじゃねぇよくたばり散らせ」
つまりあれか、俺が深読みしすぎて騙されたってことか? いや、でもさぁ……まだ顔と名前を知ってからそんなに経ってないやつからそう言われたら、共通の人物の話だと思うじゃん。俺に関係あるって言うと、禍塚と皐月さんが思い浮かぶけど、禍塚だったら不知火本人がやればいいしでそうなるじゃん。うーわ騙されるのって久しぶりだわ悔しい以前に普通にイラッとくるな。
「皐月さん、不知火埋めちゃっていいかー?」
「好きにしちゃっていいわよそんな奴」
「皐月ちゃんちょっと待って! 前から思ってたけど、俺の扱いが雑過ぎない!?」
「さあね、自分の行いを振り返ってみなさい」
「えーっと……海でナンパ、川辺のBBQで濡れ透け撮影、夏祭りで浴衣から浮き出たラインを凝視etc……特にこれといって何もしてない!」
皐月さんに言われた不知火が、指折り数え始める。待って3週目行くか普通。最低20個以上ってことか……
「お前すげぇな。 欲望に忠実過ぎる」
今この瞬間、俺の知ってる人の中で俺が一番マトモ説が立証されかけてる。 なんつーか……どっちもどっちだな。不知火は、とりあえず遥さんに謝った方がいい。しゃーざい、しゃーざい。
「取り敢えず皐月さんは手を離してやったらどうだ? 意識高い系の禍塚が、意識レベル低い系になってる」
そう言われて忘れてたように禍塚の襟から手を離す皐月さん。余裕の無い禍塚を見ていると……あれだな。なんかすげぇ気分が良い。
「つーか、そんな気にする事か? 休日に恭平に会ったからって」
「ばっかお前あれだぞ。皐月さんはかなりの恋する乙女なんだから、『好きな人と会うならもっとしっかりしたコーデとメイクしてから』という感じだろ。家に居る時はラフな格好してるくせに、お家デートとなるとめちゃくちゃ整えちゃうタイプだぞ皐月さんは」
「そうだよ。皐月ちゃん、今日下着売場でめちゃくちゃ熟考してたんだから。 もうね、すんごいの買ってた。 対禍塚用の勝負下着だよあれ」
不知火の失言をフォローする俺ちゃんはだいぶ成長したと思う。前まではガン無視のエスケープが当たり前だったから。
そして俺に続くように本日の乙女な皐月さん情報を公開する焔。お前まさかそこまで行ったのか。 羨ましいとか全く思わないけど、とりあえず後で処分しないと。
「なんで男のあんたが乙女心を語ってんのよ。 大体合ってるのがムカつく……あと滝鞠! あんた次にそれを誰かに言ったら潰すわよ!」
皐月さんが恥ずかしそうに頬を赤らめながらも不満げな御様子。でも、俺個人の感想だけど、今の服装も十分洒落てると思うけどな。ベルがグレーのパーカーと白のプリーツミニスカートとスニーカーというどこかスポーティーというか活発さを感じる服装なのに対して、皐月さんはオフショルダーのトップスに黒のショートパンツとブーツという、まんまギャル感満載のファッション。
漫画やイラスト描く過程で、俺の皆無なファッションセンスを補う為に調べたりアドバイス貰ったりキャラと歳が近いであろう紅葉達をこっそりと参考にしたりでやっているが、ぶっちゃけ似合ってると思う。ま、俺がどう思おうと、恋する乙女の向上心と見られたい欲は止まることを知らないんだけどさ。
「潰すって……一体何を潰すのかな〜? もしかして、ナニ?」
そして、これ勝機と見たのか、口元に手を当てて笑みを隠しながら皐月さんに迫る焔。 お前、何故自分から導火線に火をつける様な真似を……
「潰すってそれは……お、おち……〜!!」
いつも以上に顔を真っ赤にする皐月さん。あ〜……なんか分かんないけど、良いモノ見れた気がする。とりあえず焔グッジョブ。 お礼に処分は保留にしてやる。命拾いしたなぁ!
あらヤダ私ったらまた余計な事を言ってしまったみたいね。ここらで引くとするわね。口調が引っ張られてる。だから誰だよこのマダム。
「じゃ、俺達はここで。また学園でな」
「stop! stayソージ!」
女グループと別れようとしたら、ベルと紅葉に挟まれて止められた。サルガッソーとかしないでよね。俺ドリブル技とか持ってないから。ステータス高いけど技持ってないタイプのキャラだから。
「何々何なのなんか用?」
「此処であんたが百人目……」
「既に99人の犠牲者が出てんのかよ。紅葉、ベルの謎言語を翻訳しろ」
俺の背後に未だ佇んでいる紅葉に令呪をもって命ずる。やめて『厨二病時代に手の甲に描いたやつだろ?』とか言わないで。男は誰だって厨二病なんだから。あと俺邪気眼系じゃないし。そもそもそんな痛いやつじゃないし。
「……要約すると、『一緒に遊ぼ』」
紅葉の方へ振り向きながら言うと、その紅葉が淡々と答える。思ったより紅葉の顔が近くてびっくらこいた。というか待って、そんなに近付いて何する気だったの貴女。
それにしてもなるほどな。一緒に、か……面倒いからや・だ☆
誰こいつくたばんねぇかな。
いや、それは置いといて、だ。俺がキモイのは今日に限ったことじゃない。さて、どうするか……
ここで断って一人で帰ることは容易い。 多分、きっと、恐らく。 俺は帰れる。 多分帰れる。帰れるんじゃないかな。 関白宣言の真似っ子してる余裕は有るみたいだ。関白宣言知ってる人居るかなぁ……悠ちゃん辺りなら通じるんだけど。 ネタの種類が若干古いのよ俺。 何しろ、今までまともに付き合ってきた人が悠ちゃんやら瑠姫さんやらも助やら年上ばかりだから、自然と入ってくる知識も若干古い。 うん、考えんのやめとこ。
で、だ。考えなくてもわかるが、俺がここで帰るのは悪手だな。 まず最初に、こいつらとの関係が悪くなる。 いや、とりあえず理由作って帰ることは出来るかもしれんが、ここには紅葉にベル、そして莇が居る。下宿のことは口外禁止にしてあるから嘘だとは言えないとは思うが……アイツらがそれを守るとは限らんし。 リスクは極力減らすのが得策。
それに何より、一番の問題は紅葉だ。これがどうやっても一番の障壁だ。 その障壁は、多分小学生のバリア並に強固。
紅葉の機嫌が最低許容基準を下回るのは俺にとっても困る事だ。その理由は紅葉が、伊吹童子先生が俺の相方だからに他ならない。 『伊吹童子』は、 俺の相方にして、俺の最推しである。
俺がまだ、漫画家として駆け出しどころか位置についてレベルだった頃の事だ。漫画家としては無名、少数のファンと大多数の中間、残りはアンチというそこそこの売れ行きの漫画家だったあの頃。そんな俺に、瑠姫さんから『コンビで仕事してみませんか?』と話が来た。最初は断った。俺に個人行動以外は無理なのを自覚しているから。
でも、予想以上に瑠姫さんが押してきて……
『とりあえず一回だけ』
そういう契約で俺も了承した。
そして、俺は原作、相方が作画としてやることになったのだが……そこで、何の気まぐれかは知らんが、『超有名人気絵師、伊吹童子先生』が、『漫画家としては殆ど無名、千面童子先生』の作画担当の仕事を引き受けてくれたのだ。
いや、それを知った時は流石の冷静沈着な俺も驚いた。なんせ、伊吹童子先生は超人気絵師だ。仕事は忙しく、幾つか掛け持ちし、ぶっちゃけ引き受ける余裕は無いと思っていた。そして一番の理由が、伊吹童子先生は『超』が付く気まぐれで知られる。
曰く、『気分が良ければこれ以上ない作品を作り、気分が悪いと筆を握らない』
曰く、『先生に仕事を引き受けて貰えた者はかなりの豪運だ』
etc……
なんて言われるくらい、気分次第な人だ。その正体の紅葉を見て、生徒会長としての責務も含めてそうなのだと認識を改めたが、確かに紅葉は気分屋である。 いや、気分屋というより、幼いというか……うん。段々わかんなくなってきた。
要するに、だ。 そんな伊吹童子先生に引き受けて頂いて、俺は最高潮絶好調ア○アゲハって訳だ。 それに、紅葉は、伊吹童子先生は誰が最初に始めたのか不明だが、『付き合いたい絵師ランキング(性別不問)』とかそんなやつの上位、それもTOP10に必ず入っている様な存在だ。これは関係無いな。俺にとってはどうでもいいし。
で、俺の今描いてる漫画の人気と売上だが……言いたくない。言いたかないが、8:2くらいで伊吹童子先生が大半を占めている。不甲斐ない。
そんな訳で、伊吹童子先生に、紅葉が不機嫌になったりして、絵を描いてくれないと色々不味い訳ですよ。生活とか売上とか俺のモチベーションとか。
だってさ、伊吹童子は俺の相方で、俺の最推し。そして、二人で一本の漫画を作ってる。つまり、俺の考えた話に最推し絵師が絵を描いてくれて、それを俺は『見本誌』という形で読者の誰よりも先に読めるって訳だ。 もうね、それだけで感謝感激雨霰エ○ーナルブリザードだ。最後の方意味わかんねぇけど、つまりはそういうことだ。
後、紅葉が不機嫌になると色々やりにくいというか、平常時でさえ掴みづらいのに、不機嫌になって触れにくくなった紅葉はどうなるか……分からん。あ、ついでにベルが不機嫌になると『ストレス発散』という名目で色々してきそうだから、それ防止でもある。
では、上記を簡潔にまとめよ。
はい、答えは『機嫌悪い女は面倒臭いし、俺もせっかく掴んだ特等席から降りたくない』でした。じゃ、戻しまーす。どっから入ってきた。
「……」
この間ざっと数秒、紅葉は俺の目を「じぃぃぃ〜」っと見ている。前から思ってたけど、紅葉の青い眼って綺麗だな。
「……分かった。俺に決定権は無いからアイツらに聞け」
とうとう俺が折れた。いや、本当に俺に決定権とか無いから聞かないで欲しかったんだけどさ。将を以下略ってことか? 真相は知らんけどさ。確かめようがないし。聞くのめんどい。
俺の意思は伝わったのか、紅葉とベルは禍塚や皐月さん達がいる方へ行く。やっとこさ解放された……
それにしても……
そう心の中で呟きながら紅葉達が向かった方、皆が集まって談笑している方を向く。
ほんの1ヶ月ちょっと前まで常に一人で行動していた俺が、こんなにも大勢の人と関わって、しかも休日に遊びに行くとはな……成長、とは言えないか。これは悠ちゃんが用意したのと同じだし。結局、俺から声掛けたのは誰一人として存在しない。悠ちゃんが俺を紅葉一人の生徒会に入れて、悠ちゃんがベルをこっちに連れてきて俺と合わせて、莇はベルに連れられてこっちに来て、禍塚達は生徒会の依頼で出会って……ほんと何もしてねぇな俺。まじでぬるま湯。こんな風呂に入ったら風邪引いちまう。
「ソージー」
ベルが向こうで手を振りながら俺を呼ぶ声が聞こえる。気がつけば、全員が俺を見て、何処か迎え入れているように見えた。落ち着け、どうせ幻覚偽り胡蝶の夢、暫くしたら消えてなくなる。いずれ消えてなくなる儚い縁、ちょっと引っ張ればプツンと切れて二度と戻らぬ細い縁。今まで山ほど切ってきたんだ。今回も同じようにすれば楽なんだ。
しかし、そんなことを考えても、俺の足は自然と皆の方へ向かって歩みを進めていた。参ったな……まさか意思に逆らうとは。
でも、ま。 今くらいはこのぬるま湯に浸かるか。熱湯冷水偏ってちゃ身体壊すしな。水道代勿体無いしそもそもそんなに時間使いたくないから、俺シャワー派だけど。
「どうしたのですか奏士殿、そんな場所で突っ立ってると通行人の邪魔ですよ」
後ろから聞こえてきた声に振り向くと、莇が居た。なんか食ってる。
「あれ、お前どこ行ってた? え、マジでどこ行ってた?」
「いえ、私は……」
そう言いながら手に持った物を見せてくる。ポテトの容器……
「スマホって便利ですよね。調べれば注文方法からおすすめまで出てきましたよ」
莇がポテト片手にスマホを眺めている。なんというか……はじめてのおつかい感がすごい。買えてよかったな。
というか最初の目的忘れてた。この人数……えーっと、九人か。これは中で食えるか? まあいい。
ポテトをもぐもぐ摘んで食べてる莇を後ろに、再び足を動かす。そういえば、莇って人生で初めての歳の近い知り合いかもな。だからどうとかはないが。
「あーっ! アオバどこ行ってたデスカー!」
「申し訳ございませんお嬢様、ちょっとポテト食べてました」
「そうだ、俺たち軽く食いに行く途中だった。遥ちゃん達も一緒に行かね?」
「あ、良いの〜? それじゃあ、ご一緒させてもらってもいいかな〜」
「皐月、何か食べたいものとかあるか? よく分からないけど……僕が原因で機嫌悪いみたいだし、奢るよ。 可愛い服を着た皐月を見せてもらったお礼も含めて、ね」
「〜っ! じゃ、じゃあ……いや、今日奢るとかナシでいいから、今度の休み付き合ってよ。 その時はあんたの奢りでね」
「会長さん! 聞きそびれたけど、さっき買ってたチャイナ服って──」
「……資料用」
各々自由に話してやがる。 こうもまぁ、個性的な面々が集まって……俺という無個性なイケメンは埋もれてしまうな。あ、違う? そう。 一応聞くけど何処が? 『どこもかしこも』? 全否定ですか。
ふと思って空を見上げる。雲がもくもく太陽さんさん青いお空は海の如し。入水自殺とか多そう。空の入水自殺はパラシュートが無いスカイダイビングだな。もしくは飛行機の海へ胴体着陸。いやこれは違う。
正直、帰りたい。なんか今日は疲れた。人と触れ合いすぎて、慣れないことをして疲れた。疲労困憊コンパイラ。落としてるのは言語水準だけじゃないな。
しかし、どこか身体が軽い気がする。 なんというか、疲れているのに疲れが取れたような……確かに俺は平日休日関係無く忙しいが、俺なりに休めてると思ったんだけどな。休息は身体だけじゃなくて心も必要ってことか? 心が休んだ気配は無いが。 引き続き検証するか。丁度、俺を帰してはくれなそうな人手がこんなにも。
「ソージー!」
「……奏士」
俺を呼ぶベルと紅葉の声。 しゃーなし、行くとするか。
「こんな公共の場で大声出すな。迷惑だろ」
俺の人生初めての休日は、まだ終わりそうにない。
終わった。 もう滅べよ。絶滅しろよ。消し飛べ。
はい、若干鬱気味の作者です。Twitterを見てくれている人は知ってるかもしれませんが、この話、一度消えてるんですよね。それで色々抉られて今日ギリギリに完成したった訳です。 本当に、叫びました。怒られました。泣きました。
はい、見直しとかしてる時間無いんで、明日やります。とりあえず今日はこれで一区切りです。完成版が気になる人は、金曜日の0時頃に読みに来てください。なんというか……本当にごめんなさい。




