変装するなら身も心も変えるべし
別行動を始めて約十分、片思いカップルのデートは恙無く無事に対象を捕捉し追跡を開始。対象は現在、駅前のサザコで休憩中。任務を続行する。
ふう、報告ごっこはこんな感じで良いか。つーかあいつらあんなにイチャついて、本当に片想いなのかしら……
俺は現在、影からこっそりじゃなくて、店前のバス停のベンチに座っている。こういうのは堂々としなくちゃ。『隠れる』ってこと自体が違和感を生み出すからな。
ちなみに、ちゃんと変装はしている。俺の格好は現在、長い髪はカツラで隠し、制服はトイレで脱いでベージュのチェックシャツと灰色のズボンにハット+メガネ型カメラというおじいちゃんファッションになっている。ちなみに顔はメイクでクマを隠してシワを追加している。何かあった時のために、前もって変装道具一式を用意しておいた甲斐があった。いや、用意した俺自身、何を想定していたのか覚えてないんだけど。
バッグも学園用のバッグじゃなくて、リュックに変えてある。杖は怪しまれるし、用具入れに入らなかったから持っていない。ハット+メイク&メガネで顔は分からないはずだし、じっと二人を観るのではなくて、『歩き疲れたので休憩がてら読書をする老人』を装っているからバレないはずだ……いや、今の俺は装っているのでは無い。俺は老人、一人の老人……よし、儂は義教、しがない暇人じゃよ。
本を読むふりをしつつ、二人を観察する。ふむ、コーヒーを飲みながら相変わらずイチャイチャしてやがる。皐月さんが禍塚にドヤ顔でマウントを取り、禍塚はそれを利用して即座に皐月さんを赤面させる。照れた皐月さんは禍塚に近付くも、やはり照れてすぐさま席に戻る……やっぱり禍塚死なねぇかな。帰り道とかで車に轢かれて死なねぇかな。ここ茨城は殆ど独自の交通ルールで走ってるも同然だから、えげつないぞ。特にここは駅前だし。あ、店を出たな。少し遅れてから後を追うか……というか動きだけでここまでわかりやすいのってある意味凄いな。
「ねぇ恭平、次はどこ行く? 私、行きたいところがあるんだけどさ」
「今日は皐月が行きたい場所について行くよ。僕から誘ったんだしね」
「だったら、ちょっとドンキ行こ!」
「良いけど、そんなに急ぐと危ないよ」
はしゃいで先を歩く皐月さんをすぐ側で見守る様に後ろを歩く禍塚……本当に俺居るのかなぁ……何このカップル、死ねよ。爆ぜろよ。砕け散れ。
しかし、俺がどれだけ怨嗟の炎を燃やしても状況が変わる訳では無い。というか頼金達二人がさっきから見当たらねぇ……どこにいんだよ。
さて、と。あの二人は放っておいて、まずは目の前の対象に集中しないとな……
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そして今は、二人がボウリング場に行くと言うことで、俺もこっそりと……とは言っても、俺が実際にやる訳には行かないので、後ろで見ているか、それか多少のハプニングイベントのきっかけを作るか……よし、仕事開始だ。そういやなんでこんなことしてるんだっけ?
「おおっと……」
二人の席の後ろにある自販機に小銭を入れるフリして落とす。落ちた小銭はクルクルと回転しながら二人の席の方へ。計算通りだ。
「んー? おじいちゃん、これ落としたよ」
「お爺さん、どうぞ」
ジュースを飲んでいた皐月さんと、ボールを磨いていた禍塚の二人が、その動きを止めて足元に転がってきた小銭を拾って俺に手渡ししてくる。あっぶね……バレる時は手でバレるって聞くが、皐月さんは兎も角、禍塚は危ない。
「ほっほ、これは丁寧にどうもどうも……ありがとうのぉ、お優しいカップルさん」
表情はさほど変えず、目を細めて声を少し高くし、笑うふりをする。『目は口ほどに物を言う』と言うが、要するに声色と目さえそれらしく変えてしまえばごまかせるということだ。声は俺の特技の一つ『無類変声』で変えている。やろうと思えば美少女の声も出せる。声と見た目があって無さすぎてすげぇキモかったけどな。前に自室でやったら、隣で聞いてたのか聞こえたのかは分からんけど、重政がドン引きしてた。
「カッ、カップル!? そそそそんなんじゃないし!」
即座に赤面して驚く皐月さん。う〜ん……こうも予測通りに行くと逆に怖いな。不穏分子は無いのかねぇ……
「おや、違うのかい? そんなにお似合いお二人のことだから、儂はてっきり恋人同士だと思ったんだが……」
「ち、違います! 私たちはまだカップルなんかじゃ……」
皐月さんが顔を真っ赤にしながら手を振って否定する。が、耳まで赤くなっているし、頬を抑えて小声で「お、お似合い……フヘ」と言っていたのを俺は聞き逃さなかった。ちょっと彼氏さん……もとい主人公ー? これを見てもなお気づかないとか酷いぞ。というか皐月さん敬語使えたのね。相変わらず根っこは良い子だね。それが本性かは知らねぇけど。こういうのはあえて詮索しない方が楽だ。毎度毎度疑って、探って、切り捨てて……もう飽きたしな。それでもまず最初にそういうことをやってしまうのは俺の悪癖であるが、生憎と俺はそれ以外にやり方を知らん。残念だねぇ……
「そうですよ、僕らは恋人同士じゃないですよ。ただの友達です」
そして、皐月さんの心境を知ってか知らずか、禍塚は普通に否定しやがった。お、お前……隣で皐月さんが「ただの……友達……」ってボソボソ言いながらすげぇ落ち込んでるぞ。さすがに今ここでそれは……
「ほっほっほ、これはこれは失敬した。じゃが……」
そう言いながらそっと禍塚に近づいて、耳打ちした。
「こんな娘は他にそうそう居ない。絶対に逃すのじゃないぞ。年上からの忠告じゃ」
そっと離れると、禍塚はいつものように「ハハ」と愛想笑いした。お前そんなに「ハハハ」言うとかどこのネズミだよ。お前は著作権の代名詞か? あ? 帰り道は背後に気を付けな。
「お嬢さんも、この男を逃すんじゃないぞ。ただ、もう少しスキンシップは減らした方が良い。年寄りからのアドバイスじゃ」
「はっ、はひっ!」
おぉ〜 照れてる照れてる。うん、だんだん面白くなってきたな。こんなことしてる俺が馬鹿みたいに思えてきた。いや、こんなことしてる時点で馬鹿同然なんだけどさ。
「それじゃ、また何時か何処かでの〜」
そう言いながら後ろ手に手を振り、二人から離れた。後ろの二人をそっと手鏡を取り出して反射させて見ると、皐月さんは元気に手を振り、禍塚は軽く手を振っていた。なにあの子達、良い子? 良い子なのか? 良い子だな。禍塚を除いて。それって一人しか居ねぇな。よし、俺のバリアフィルターにおいて、禍塚をLv.8、皐月さんをLv.6に設定しよう。
さて、と。お次はどこへ行くのかねぇ……とりあえず、ラッキースケベイベントとかハプニングイベントくらい起こってくれたらめっちゃ楽。どっからか、スカートだけを上手い具合に捲り上げる神風とか吹かないかなぁ……そのイベントはラブコメに置いて定番だと思う。問題は、相手が紅葉やベルの様に『見られても特に恥ずかしがらない』タイプの場合。その点、皐月さんはめっちゃ動揺するだろうから安心だ。
はぁ……喉乾いた。さっきの自販機でなんか買っとけゃよかった。
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結局、二人はあの後本屋に行ってそのまま帰宅した。禍塚のやつ……一応彼女(仮)を家まで送るって手段は使うんだな。これで多少好感度アップが有ると良いが……今更か。
一方俺は、二人の別れを確認した後はスーパーに寄って帰路についてる。写真云々については、後日プリントして手渡し、そこで報酬の受け取りをする手筈になっている。はぁ……荷物重い。車で来れる明日とか、休日にすればよかった……
「たでーまー」
「……岡江理香子宛の殺害予告」
ちょうど部屋に戻る途中の紅葉が反応した。うん、何その怖い返事。理香子に何があった。
「およ、やっとソージが帰ったデス?」
紅葉に続いてベルとエンカウントした。コマンド欄に『にげる』が無いんだけど。いや、今回は何もしてねぇけどさ。
「おう、たでーま」
「岡江理香子の殺害現場、デス!」
理香子死んじゃったよ。行動早いな犯人。
「おや、奏士殿」
「おう、た(ry」
めんどくさくなって途中で切った。
「理香子殺しの真犯人です」
展開早いなぁ……結局誰なんだろう。そして既に挨拶に合わせる気ねぇじゃん。というか全員と遭遇したよ。およ、重政が見当たらないぞい。
「な〜」
キョロキョロと目だけ動かして重政を探していたら、ひょこっと姿を現した。
「お、よしよし……帰ったぞい」
荷物を床に置いて寄ってきた重政を持ち上げる。もふもふ、もふもふ……アニマルセラピーだ……
「なーう」
「すぐに夕飯準備するから待っててくれ」
「なー」
重政の腹をくしくし撫でて、ゴロゴロ顎を撫でてを床に置くと、たたっと走って俺の部屋に戻って行った。扉の鍵はかかっているが、下の方に重政専用の入口を作ってある。こんなもの作れちゃうなんて、奏士くんってば相変わらずスペックだけは高い。キャー! こっち見ないでー! 何だこの酷すぎる対応。
さて、と。飯作ってカメラのSDカードのデータをプリントして……あ、漫画も描かないと。あとは家計簿書いて、依頼されたやつも処理して……今日もやることは盛り沢山だな。一日の休みは次いつ来るかいな?
そういや、結局あの二人見かけなかったけど、どこに居たんだろうな……
なんてことを思考領域の端で考えながら、
『とりあえずトイレ行きてぇな……』
そう思った。
なお、無事に間に合った。ファイナルブラスト現象は回避出来た。あれ地味に痛いんだよな……
リア充爆ぜろ! 四散しろ! そんな思いを込めたり、込めなかったり。今回は前回の+α的な話だったり、むしろ前回が長すぎたり……まぁそんなわけで短めです。まだまだ続きます。具体的には、あと3話位は続きます。次回、今年最後の投稿!




