敵は本能寺じゃない、何時だってすぐ傍に居る
「……あら」
「……げっ」
今世紀最大級に会いたくない人にあってしまった。
長い黒髪と綺麗な顔立ちと薄いメイク。身に纏っているのは黒のスカートタイプのスーツに開かれた胸元から見える白いシャツ。そして俺が知る限り三次元でも上位に位置するであろう豊かな、豊かすぎる乳。ランキングで言うと『この人→ベル→紅葉→いもうと ? 悠ちゃん』 皐月さんと遥さんの二人は未計測なのでランキング外。いもうとに関しては確証が無いので、暫定。別の全寮制の所に行ってて暫く会ってないし、どうなってるかなぁ。身体も弱いし、心配だ。
「一体そこで突っ立ってどうしたんですか、先生?」
恐ろしいほどの丁寧口調で話し始める。いや、ラーメン伸びますよ? 俺の背筋は伸びてないけど。これでビビって背筋伸ばしてたらこの人には勝てない。
「先生はやめてください。今はプライベートなんで」
「私はそのつもりで来たのですが」
「……とりあえず、まずは食べ終わってからにしましょう」
少々強引に区切らせて、渋々隣の席に座って注文する。タッチパネルになったから店員さんと話さなくて便利だね。でも、「○○ラーメン一つ」って言うのも割と好き。難点は、俺が注文するまでに時間がかかること。人に何かを伝えるのは難しいよね。ただでさえモノローグ多めで発声との比率が8:2くらいなのに。そういや生徒会入ってから声を出す機会増えたな……
『人間は高度な知能を持ち、言葉を操りコミュニケーションを取る』なんてよく言われるけど、俺としちゃそこいらの野生生物の方が上手くやれてると思うけどな。同種内の言語の違いとか無さそうだし。ま、人間の俺には正確なことは分からないけどさ。
そして待つこと数分。普通に熱々だが、気にせず食べ始める。俺は猫舌じゃnうわっつ!
…………そうですよ猫舌じゃないとか説明しておいて思ったより熱くて反応しましたがそれが何か? いいんだ。男は常に見栄張って堂々と生きるものなんだ。猫舌じゃないのは本当だぞ。まだちょっと喉痛い……
だが、それでも食べる速度は落とせない。隣で早々に食べ終わった人がこっちを見ながら「早く食べ終われ」って念を送ってくるから。そして鉄と中華は熱いうちにってな。炒飯は冷めてからの方が美味いけど。冷めて油分とか色々固まってちょっとベトっとしている炒飯は、腹を満たすのに丁度いい。
俺が頼んだ、いわゆるノーマルラーメンと餃子+半チャーハンセットは俺的にご馳走だ。ほぼ千円が財布から消え去るけど。食費で一食千円はかなりのものだろう。俺の収入的にも、結構な金額である。いいなぁ紅葉。収入の面では、色々やってる俺より上だぜきっと。何やってるかはわかんねぇけど。
大分頼んだが、これくらいなら十分もあれば食べ終わる。
「ごちそうさまでした……」
食前と食後はしわとしわを合わせて……錬成!
とかはやらず、感謝を再び。後、俺は別に手を合わせても真理の扉とか見てねぇから錬成できねぇし、手合わせしてもパンツとか錬成できねぇし。あ、後半は作品違うな。
「……終わりました?」
「……」
いつの間にかいなくなっていることをちょっと期待したのにまだいるよこの人。もう無駄だとは思うけど、今すぐに帰ってくれないかな。
「いつまでもここにいては邪魔ですし、外に出ましょうか」
まだ少し余韻に浸りたい気分だが、有無を言わせぬ圧力に屈してお会計を済ませてお互い外に出る。あらヤダ俺ってば弱っちい! 時々思うけど、俺は弱いのか強いのかどっちなんだ? 多分弱いんだろうなぁ……
……属性的な問題と同じだと思えばいいか。ゲームのラスボスも、有利属性相手なら弱くなるじゃん? でも、ラスボスって大抵光属性か闇属性だから有利不利が同じだよな。ということは俺は全てにおいて有利であり、不利でもあるということ。言うなれば、全てにおいて強者であり、全てにおいて弱者であるということだな。違うか。違うな。バカじゃねぇの? バカだったな。
「これからのご予定は?」
「……百均に行ってそれ以降はずっと家ですが」
隣のスーパーに行こうかと思ったが、食材はもう買ってあるし、飲み物は離れた場所にある薬局の方が安い。
「なら、私も一緒に行きます」
サルが なかまに くわわった!
全然嬉しくねぇよ……これ仲間って言うより不快度的にキングボ○ビーだろ。俺桃鉄誰かとやったことないから自分同士の擦り付け合いやってるだけだけど。うまづら社長が強かったです。
「いや、だからプライベートなんで着いてこなくていですよ」
むしろ着いてくんな。このキ○グボンビーどうにかして別の社長に擦り付けたい。くっそ俺いつも桃鉄一人で四人操作だから結局変わらねぇじゃねぇか。さっきもやったなこの流れ。
「いえいえ、そんなこと仰らずに」
ニコニコ答えているが、背景の……なんだろうこの人影みたいなの。とりあえず便宜上『スタンド』と呼ぼう。怒られそう。
とりあえずこのスタンドが『いいからさっさと行きなさいよ。どうなるか分かるわね?』って言ってくるんだけど。なにこれ怖い。凄く怖い。どのくらいの怖さかって言うと、例えるならパッドをふんだんに使用した虚乳の某ペタン師のような感じ。これ伝わる人にしか伝わらんよなぁ……
とりあえず、逆らえない俺は二人並んで歩くことに。やべぇよ、こんな人と並んで歩いていたらドキドキが止まんねぇよ。恐怖心で。
おかしいな。こういう時って普通はドキドキのラブコメフラグとか立つような甘々な展開が繰り広げられるんじゃないの? 俺に問題があるのは認めるけど、こんな生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされるとかヒロインの舌がとろける(物理)料理を味わう時くらいじゃねぇの? やっぱり人生リセマラボタンどこにあるか探そうかな……水子は嫌だなぁ……すげぇ不謹慎
「それで先生、今日は何方へ?」
「……今日はさっきまで生徒会の仕事で幼稚園に」
「生徒会? 詳しく伺っても?」
そういやこの人にまだ言ってなかったな。
「実はかくかくしかじかで四角いM○VEでコンテが新登場……」
なんだかんだと聞かれたら答えてあげるが世の情けなので、お決まりの返答にアレンジを加えて見たのだが……
「巫山戯ているんですか、先・生?」
死のオーラを纏った笑みを浮かべ、俺の肩に手をやるサル。あ、肩外れちゃった。
「あっれぇー?」
不評でした。おっかしーな。そうか、新登場したのは随分前だからか。もう販売してないってwikiに書いてあったし。しょうがないから新バージョン作るか……
ついでに。流石に死にたくないので、肩を治しながら今度はちゃんと説明する。その間、必死で「殺さないで」を心の中で連呼した。命乞いしたのは久しぶりだよ。
なお、肩はちゃんと元通りにしておいた。痛くないのかって? この程度、痛くも痒くもない。
「如月さんの勧めで……成程、一歩踏み出せたようですね」
「……?」
何を言っているんだこの人は。多分よからぬことだと思う。
「そういえば猿渡さんは何故ここに? 家はこの近くじゃないどころか他県でしょあなた」
確か東京住まいだったはず。まさかお引越し? いや、そんな連絡来てねぇしな……そもそも連絡するかどうか知らねぇけど。というかこの人の場合、連絡無しで引っ越して最悪我が家に住み着く可能性まである。ある意味ですごい信頼。マイナスって意味で。
「先程申した通りですが? 先生に用があって来た、と」
「用、ですか……俺何かヘマやりました?」
記憶上はミスをした覚えはないし、そういうのはちゃんと確認しているからありえないはずだ。もし見逃しても、ちゃんと確認されて連絡があるはずだし……
というか話して考え事してたら、気がついた頃にはもう買い物終わってた。いつ商品持って行っていつ金払ったっけ……
とりあえず買った折り紙をポケットに仕舞う。鞄持ってくりゃ良かった。
ちなみに、幼稚園で読んでた本は上着の内側に収納場所を取り付けてある。勿論自作。他にも両袖に一つずつ、そして内側の収納九箇所とベルトを合わせて、全十二個の収納がある。分かりやすくすると、袖にナイフ二本、ベルトにワイヤーウィップ、内部収納に本が二冊とその他小物四つに、ペンサイズの細長いものが三本入る。今は流石にナイフを持ってない。捕まっちゃう。
ナイフもワイヤーウィップも護身用……というかナイフに関してはもはや身体の一部というか……思い出せる記憶の中では既に持っていたやつだからなんか手放せない。いつから持ってたっけ……
「先生、今日が何日かお忘れですか?」
「今日? 今日は……」
誕生日、違う。発売日、違う。あの日。絶対違う。命日、違う。俺の命日、違うと思いたい。
この間二秒。そして行き着きたくない結論に行き着いた。
「もしかして……いや、まさか、ですよね?」
震える声を出しながら、『ギ...ギ…ギ…』と音のしそうな感じで首を動かす。オイル差しとこ。
「ええ、そのまさかです」
にっこりいい笑顔で答えられたらもうおしまいだよ。裁判長の判決よりもやばいよ。あ、オイル差しミスった。勢い良すぎてちょっと漏れちゃったよ。何考えてんだこいつ。
「ネームの締切まで、後三日です」
瑠姫さんの一声。その一声は、死の予告と何ら変わらないものだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ただいまぁ!」
「おおぅ……おかえりデス」
大急ぎで帰った俺は、ベルの返事を聞くまもなく部屋へと駆け込む。
「ああっ、くそっ……最近大事件が起きすぎてすっかり忘れてた……」
部屋へ入ると同時に服を着替え、パソコンの電源を入れる。大丈夫だ、まだ三日ある。間に合うはずだ……いやあと三日しかねぇじゃん。んなもん描いてたらすぐ終わるわ。時間ねぇよ。
丁度準備が終わったところで、チャイムが鳴る。
「はいはいはーい!」
ダッシュで出ると、やはり猿渡さん。
「せ、先生……早すぎ、ます……」
肩で息をしているが、お構いなく部屋へと連れ込む。ヒールでよくそんなに走れましたね。外の砂利道で転ぶかと思ったのに。
「はぁっ……はぁっ……それで先生、後どれ位で終わりそうですか?」
「まずは息を整えてください」
息を整えながら一瞬で切り替えて恐怖の質問をしてくる猿渡さん。
「すんません! まじですんません! 後二日……いや、一日あれば終わりますんで!」
そして即座に頭を下げながら全力で謝罪する。俺はこの人にだけは絶対に勝てないと知っている。だから敬語で接するし、屈する。勝てない勝負はしない主義だ。
「そうですか……ではいつも通り、終わるまで待たせてもらいますね」
正座しながらにっこりと微笑む猿渡さん。それは、何も知らない人が見れば見る人を虜にする天使の微笑みだが、知る人が見れば悪魔の宣告となるのだ。要するに、俺はここから動けない。そして間に合わなければ死ぬ。死にたくなければ限界超えても脳と目と手を動かし続けなければならない。どうせこの人の荷物は予め置いてあるのだ。初めから泊まる気だろう。
突然だがここで解説!
俺が何故こんな状況に陥っているのか。それは俺が作家で、締切間近だからに他ならない。
俺はラブコメラノベ、『その神話の名は』の作者であるーー
訳では無い! みんなアレが伏線だと思ったか? 残念だが、人生そんな予想通りではないぞ。
俺はしがない一人のラブコメ漫画家だ。実の兄妹のラブコメ作品だ。そしてこの人はもうご存知猿渡瑠姫さん。俺の担当編集である。何故荷物があるのかは、それはこの人が俺のじいさんの頃からの付き合いだからだ。なんでも、その昔、じいさんに世話になったそうで、じいさん亡き後、まだ子供だった俺は世話になったのだ。担当編集と俺の過去を知り、世話になった恩人。凄いや、頭が上がらない三拍子揃ってら。身長は俺の方が高いから頭の位置は上だけど。
こんなことを考えている間にも、全てをフル活用して手元の液タブにペンを走らせる。この人の笑顔がまだ悪魔でいる間に終わらせないとやばい。般若になったら……
俺は一度だけ、一度だけ締切をちょっと過ぎてしまったことがある。あの時の猿渡さんは……もう言葉では表せない恐ろしさがあった。あの時は何とか作画の方で間に合って掲載できたが、二度とやらないと決めた。だってまだ生きたいもん。漫画描いていたいもん。この話終わらせたいもん。でも、せめて殺すなら苦しまずに死にたい。溺死と餓死と焼死と壊死と窒息死とエトセトラは嫌だな。安楽死とかもヤダ。やったぜ老衰だ。いや、それって孤独死って意味だな。なんだ、結果はどれも変わらずか。
「ところで先生」
「ちょっ、唐突になんですか!?」
いきなり瑠姫さんが声をかけてきたが、俺は振り返ることもできず、ペンを動かす速度を変えずに返事だけする。
「つまらない作品とかけまして、締切を守らない作家の処分方法と解きます」
「その心は?」
「何方も、【打ち切り《撃ち切り》】です」
「上手くねぇんだよ。いきなり何とんでもないこと言い出してんだあんた」
それはあれか? 俺をこの後殴って蹴って撃って切って裂いて開いて閉じてガってやって最後は爆破の暴行とかで一方的にやる感じ? 某恐竜天使戦士達のように。俺さすがに残機とか無いからコンテニューできない。ボタン連打とかそんなことできないし、ふっかつのじゅもんとか知らねぇし。とりあえずあんぱんで復活できる? というかあれ本当に何を復活させる呪文なんだよ。
「いえ、別に他意はありません。整えただけです」
「俺は『息を整えろ』って言ったんだよ。何整えてくれてんだてめぇは」
「まだそんな口がきけるとは、これは良いネームを期待してます」
瑠姫さんがとてつもなく良い笑顔をしている感じがする。この感じはヤバス。俺の灯火が消されちゃう。
「クソっ、あんた後で覚えてろよ……」
「すみません、もう忘れました」
「性悪女め……だから未だに結婚願望だけは高いくせに処女の独身なんだよ」
「ふふっ、何か言いましたか?」
『古来より、小声で言っても女は聞いている』とあるが、やはり聴こえていたようだ。これは消火確定かな。多分蝋燭の火を消す為に山火事消化レベルの放水とか消化剤ぶち込んでくる。要するにOVKだ。響き的にもOBKになりそう。VとBの違いって発音的には似てるし。でも、その場合の分類は何霊なんだろうか。
「ヴェッ、マリモ!」
「そうですか……とりあえず、ネームが上がったら生きて日の目を見れるとは思わないでくださいね」
はーい俺の人生オタワじゃなかったオワタ。俺は今、死のカウントダウンを加速させているのか……終わらなかったら死ぬ。終わったら死ぬ。あ、最初から詰んでら。遺書書いといて良かった。
途中、猿渡さんが出ていこうとしたが、ほかの奴らに何言うか分からんし、何されるかたまったもんじゃないから頭下げて俺の部屋に居てもらった。普段は俺と重政以外立ち入り禁止の俺の部屋に。ベルは……扉の文字が読めなかったんだろうな。あんなにもデカデカと『断絶結界発動! 何人たりとも立ち入り不可能 用があるなら事前連絡ちょーだい』と書いてあるのに。しかも俺の、漫画家のイラスト入りで。やっぱり俺の実力不足なのかね。
途中、洗濯物を取り込む時間と飯を作る時間はくれたので大急ぎで畳んで大急ぎで作った。俺が食べないことを不審に思われたが、『今日は部屋でやる事あるから、自室で食うわ 』と言っておいた。『やる事』に反応した紅葉とベルは絶対に変な想像してる……
ログボは午前中に取っておいたから良いとして、アニメはリアタイ諦めるしかないな……この俺が見過ごすことになるとは……そうならないようにちゃんと調整していたのにな。
そういえばさっき玄関開けに行った時、ベル達がなんか言って居たけど今は構っていられない。部屋に戻る際、なんか約束しちゃったような気がするけどまじで気にしていられない。
「お、終っ、た……」
大急ぎで書き続けてからどれだけ経過しているだろうか。窓からは朝日が差し込み、鳥の囀りが聞こえ、俺の身体からは悲鳴が聞こえる。逆算しておよそ半日以上の時間描いていたな……さすがに殆ど終わっていない訳ではなく、基本的になる早で終わらせておく主義だったから残りは微量だったし、念の為にと思ってその時のネタとか注意書きをメモに残しておいた俺マジでGJ
ただ、指と眼と頭がすげぇ痛い。多分さっきまでの俺はタイピング速度世界一獲得できた。いや、ネームだから手描きでも良かったんだけど、俺字が汚ぇからな……講座受けようかな。いや、絶対に途中で飽きて辞めるから止めとこう。
ちなみに「え、これ速記?」と間違われるくらいの文字。
「お疲れ様でした、先生」
振り向くと、そこには最初に見たときと変わらない猿渡さんが。いや、一部が明らかに違う。
「……猿渡さん、また寝なかったんですね?」
目の下に隈ができて、ちょっとフラフラしている。さすがに俺ほど濃くはないが、目で見てわかるくらいの隈だ。俺のは年季が違うからな……軽く二桁だし。年単位で二桁。
「当たり前です。先生を見張る義務もありますし、一人戦っているのに自分だけ休む真似はできませんから」
この人は変に真面目というかなんと言うか……昔からこうなのだ。
「それに、先生がこの作品に込める想いは私が一番理解しているおつもりですから」
「……そうですか」
本当にこの人は……せっかくの美人が目の下に隈まで作って。いや、性格悪いしなぁ……美人で性格悪いってあんたはあれか? どこぞの狗神か? やめてよこの人本気出したら普通に呪ってきそう。ついでに殺しても死なない気がする。
俺はその想いとやらの一部が込められた原稿データを渡す。
「では、こちらは拝見させて頂きます」
「その前に、猿渡さんは風呂入ってきてください。俺はその間に準備しておくので」
後、ちょっと臭います。あんた化粧落とさないでいたでしょ。ついでに化粧そのものの匂いも俺苦手なんでさっさとメイク落とし使ってください。その後の手入れは俺の化粧水とか使っていいから。乳液は生憎切らしてるから買いに行く必要があるけど。
「そうですか。ではありがたくいただきます」
お互いフラフラになりながら部屋を出る。幸い、まだ全員寝ているようだ。いや、あの男はもしかしたら起きているかもしれない。気をつけないと。もし見つかったら確実に玩具にされる。そうなったら始末しないとな……血で汚れるのは嫌だなぁ
一番気をつけないと行けないのは紅葉だ。俺の予想が正しければ、一番めんどくさい事になる。
猿渡さんが風呂に入っている隙に、まずは着替えの準備。これは、予め家に置いてあるセットの中に入っている。下着? そんなもの三次元じゃただの布でしょ? これくらいで動揺はしない。ところでなぜこの人はこんな清楚なものを身に付けているんだ? てっきり俺は赤とか紫とか黒とか結構ギリギリを着けてると思ってた。知らないことも有るもんだなぁ……
いや落ち着け俺。何回もパンツもブラも見ているはずだ。覚えてないということは、その度に記憶が消えているということか。誰の仕業だ? もしかして瑠姫さんが毎回記憶消去を? まさかな。
そのあとは着替えて日課の鍛錬と素振り。流石に少し軸がぶれている。
そろそろみんなが起き始める頃なので、朝飯の準備。なお、猿渡さんは俺の部屋で原稿チェックをしている。仕事が早いから助かるぜ……あの人基本その日の内に連絡くれるからな。
「おはようございます」
「おはようデ〜ス……」
寝起きの良いBGと寝起きの悪いお嬢様。二人は対照的だ。
「……ベル、お前またTシャツ一枚で寝て……なにか羽織るかしないと風邪引くぞ」
「えへへ〜……ソージがいつリビドーを爆発させても良いように、初めから〜 薄着で居るんデスよぉ〜」
「一応言うと、もし不注意で風邪ひいても看病は一切しないからな」
「そんな冷たいこと言ってもぉ〜 最後はなんだかんだ面倒を見るデスよぉ〜」
このように、寝ぼけているベルは口調がふわふわしている。ついでに寝癖もふわふわしている。ついでに重心もグラグラしている。そして目は殆ど開いてない。ついでに涎の跡が見える。
ちなみに、こんな服装に至った経緯にこんなことがあった。
『ベル、入るぞ』
ベルの部屋の扉を三回ノックするが返事はない。何かあったのか、それとも寝ているのか、ベルもお年頃だし、常に脳内十八禁なのだから、自室だし慰め中なのかと思い、そっと扉を開ける。今思うと開けない方が良かった。
『およ? ソージ、どうしたデス?』
『あ。うん。用があったんだけど、たった今追加された。服着ろや』
ベッドに寝っ転がりながら情報誌を読んでいるベルは、布一枚どころか糸一本すら纏わぬ裸体だった。こちらからはうつ伏せ+俺の立ち位置が後ろ+長い髪のおかげで大事なところはモザイクを入れる必要なく見えていないという状況だ。足は全て丸見えの状態だった。良かった修正が楽で。違う、そうじゃない。
『ソージは何を言ってるデス?』
『お前こそ何言ってんだ。全て一人だけならともかく、他人に見られて恥ずかしいとは思わないのか?』
『何を言うかと思えば……愚問デス』
ベルが「まだまだお子ちゃまだな」感を出しながら笑うが、すげえ腹立つ。やっぱりこいつも嫌い。英語で言うとマイン。機雷だこれ。
『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』
『確かに全裸はもう吹っ切れてるからな。羞恥心まで吹っ切れちゃダメだとは思うが。でもな……なお恥ずかしいだろ』
もう全裸を見られて恥ずかしいとは思わなくなったら世捨て人でもなれよ。もしくは完全一人暮らしの空間でやれ。裸族は許容するけど人前でやるなバカ。
『ここは自室デス。言わばワタシだけの空間、ワタシが支配する自由な空間デス。このでやってることについて、迷惑をかけてる訳でもないのに不本意デス。そもそも、人は元はと言えば服を着ていないデスよ? ワタシはそれに見習って全裸という開放感を味わっているにすぎないのデス』
『うるせぇ服を着ろ』
『それに、ソージになら観られると興奮するデス』
『しまったこいつ変態だった……悪いが見ては居ないから興奮できないな』
『見られても興奮しマース』
『こいつもう末期じゃん……』
じゃあほっとけばいいのか?
『放置playも興味がアリアリデス』
『しまった逃げ場が無ェ』
頭痛のする頭に手を当てて悩む俺。この歩く18禁どうしてくれよう。某生ける炎や某重巡洋艦に某練習巡洋艦のように需要がある訳でもないし……こいつが泳いだら泳ぐ18禁になるのかな……俺としては19より26の方が好き。勘違いされては困るが、19も好き。ちゃんと上記の二人も好き。そういや目の前のこいつ、若干某重巡洋艦に似てるな……でも、髪色はこいつの方が明るい感じがするし、こっちの方が髪長いし、やっぱり気のせいか。なお、上記の三人の内で誰が一番かと聴かれたらやはり某練習巡洋艦である。理由は名前の由来が茨城の神宮だから。あとは髪色。正直髪色は色素薄めが好きなんだよね……銀か金かで聴かれたら銀を選び、緑か青かで聴かれたら青を選ぶ。青と緑の違いなんて大差ないけど、要はそういうことだ。限定フィギュア、欲しかっなぁ……
『別に自室で服を着ないのはまだ良いとして、せめて誰か入って来たら服を着ようぜ。ブラは……形を保つためにしない人が居るらしいからそこは譲渡して自由にするが、パンツとTシャツだけでもいいから着ろ。いや、ついでに二プレスも使え。ブラか二プレスかは選ばせてやるからちゃんと着ろ』
改めて思い出すとこの発言割とアウアウライン超えてるよな。
『しょうがないデスねー……全く、ソージのC-boy』
『人を童貞呼ばわりするとはいい度胸だなくそビッチ』
『それはさておき「おいコラ」ワタシ、下まで隠せるようなTシャツ持ってないデスヨ』
『要は、太ももまである服ならいいんだよな……ワンピは?』
『ないデス』
『バスローブ』
『Nothing!』
『えーっと……あ、ロングTシャツ』
『……主旨大丈夫デスか?』
だよなぁ。そもそもそれが無ェって話だもんな。とは言え、なんでこいつ『この人頭大丈夫か?』みたいな表情出来んの? お前の話だぞ? あっ、そういえば
『俺のサイズが合わなくてもう着れないやつが有るけ『着マス!』おお、食いつき凄っ』
何なのこいつ。ギルなの? サンフィッシュ科の淡水魚の一種なの? それ結局ギルと同じだな。
『とりあえず今から持ってきてやるから、その間にパンツ履いてろ』
『はーい! デス』
こいつ今付け足さなかった? もしかして、やっぱりキャラ付けのために言ってないよね? もしカタコト属性が消えたらこいつただの痴女だぞ。帰国痴女だぞ。 あ、いやこいつ外国人だったな……そしたらもう単なる痴女じゃん。フォローの隙もない痴女じゃん。ダメだこりゃ。
とまあ、なんてことがあった訳ですよ。あれ以来俺のお古の文字入りシャツを愛用しているけど、俺『朝ごはんまーだー?』なんて文字入りの服持ってたっけ? ここ暫く作務衣ばっかり着てるし、買った服なんてオタオタしてる二次キャラ入りのやつくらいだから覚えてねぇや。
「おふぁよーっす」
欠伸をしながら出てきたのは悠ちゃん。クマのぬいぐるみ、名称 『サクリファイスベアくん』を連れて。初めて聞いた時、ぬいぐるみにつける名前じゃないと思った。何を以てサクリファイスとしたのだろう。
『…………』
誰もがその姿を見ないように目を背ける。ほら、一応配慮して、ね? 悠ちゃんにも大人のプライドとかあるかもしれないし。多分もう砕け散ってると思うけど。砕いた本人が言うのもなんだけどさ。
「……おはよ」
そして目を擦りながら最後に起きてきた紅葉。こいつは寝起き直後は悪い癖に、一度起きたらしっかりしてる。いや、起きたら起きたで電波だけど。
まだ同居初めてそんなに経っていないが、最近は自分で起きる回数が増えてきたから助かる。そんなに寝坊ギリギリなのに、今までは一人暮らしでどうしてたのか聞いたところ、「一人で暮らしていた時は自然と目覚めた」との事。慣れない環境だから起きれなかったのかねぇ。
そうして起きてきた全員を席に座らせて、飯も出して準備完了。
「っと、普通に忘れてた」
猿渡さん呼んでこないと。でも、紅葉とベルがな……とりあえず誤魔化すか。
「猿渡さん、入りますよ?」
一応ノックして入る。入ると、真剣な表情で原稿を見ている猿渡さん。そして恐ろしい速度でに修正箇所にペンを入れていく。あわわわわ……
この人、普段は超がつくほどふざけていて、俺で遊んでいるくせに仕事の時はこうして普段の面影が無くなるほどに真剣なのだ。俺も、そこは多少の好感が持てる。願わくば、普段もそのままでいて欲しい。
「あ、先生」
五分ほどして、ようやく気づいたように顔を上げる猿渡さん。俺なんでずっと立ってたの? 座ればよかったな。
「今回も玉稿、承りました」
もう確認終わったのか。相変わらず早いな。適当に読んでるのかと思うが、しっかりとした意見をくれるもんだから楽でいい。
「今回は大丈夫ですか」
「いえ、念の為にちょっとここの辺りを聴いておきたいのですが……」
「何処ですか?」
「ここの、このヒロインが風呂場へ潜入するシーンなのですが……」
瑠姫さんが開いたページは、疲れた主人公を癒すために妹達が風呂場へ突入するシーンだ。打ち合わせの時に力説した箇所だ。ここはめちゃくちゃ筆が乗った。乗りすぎてかなり時間を使った。
「あ、ここはタオルを巻くんじゃなくて、身体がはみ出るくらいの大きさタオルを前にかけてる感じで……」
「なるほど……」
「このタオルなんですけど、こう……一応前をタオルで隠しているけど、ギリギリ見えるか見えないかという感じです。逆に二愛は普通にタオル巻いて隠している感じで……あ、表情なんですけど、このヒロインは割とノリノリだけどちょっと頬が赤いという感じで、二愛はぶすっとそっぽ向いてるけどものすごく恥ずかしくて赤い感じです」
「なるほど、了解しました。では、そのように伝えておきます」
「よろしくお願いします」
やったー無事に終わったー
脳内の我ら議会が喜んでるぞ。主にコメント欄で。見た感じで表せないのは俺だから。自分、不器用なもので……
それにしても、さっきの話をもう一度言うとは思わなかった……打ち合わせの時にも言ったと思ったんだけどな……もう一度確認しておきたかったって事か?
「それで、どのようなご要件で?」
「ああ、飯ができたんで呼びに来たんですけど……その前に、もうその口調辞めません? もう仕事は終わったんですし」
「……そうですね。いや、そうね。ありがとう奏士」
元の口調に戻る猿渡、いや、瑠姫さん。
仕事の時はこうして、呼び方も口調も変えるこの人はオンオフがものすごく激しい。そして俺もそれに習って仕事は苗字で、普段は名前で呼ぶようにしている。というか普段も苗字で呼んでたら「他人行儀すぎるから、普段くらいお姉ちゃんのことは名前で呼びなさい」と命令された。しょうがない。弟は、姉と妹には勝てないらしいから。実際、俺は姉(仮)といもうとには勝てるイメージが思いつかない。会議を開いたが、即座に不可能判定を出された。無念。
「それで、だ。瑠姫さん」
「なぁに奏士。 お姉ちゃんになんの用?」
またか……
この人は時々自分を「お姉ちゃん」と呼ぶ時がある。なんでも、「あんたの世話してきて歳も近いんだし、悠には敵わないけど『第二のお姉ちゃん』って感じだと思ってるんだけど……」と言っていた。お姉ちゃんと呼ばせることでまだ若くいたいのだrコフッ!
「その失礼な思考を早く止めないとアンタこのままお姉ちゃんの腕の中で永遠におねんねすることになるわよ」
思いっきり抱かれる。いや、これはハグはハグでもベアハッグだ。
「くっ、苦しっ……すんません! 大人の若作りは痛々しいとか思ってすんません!」
なお、この時瑠姫さんは薄地の寝巻き姿なので、ベアハッグをするとほぼダイレクトに豊かすぎる胸の感触とか女特有の柔らかい身体とかの感触が伝わって羨ましいと思うかもしれないが、実際は「痛みと生死>>>>>>>>感触」だからそんな余裕ない。あぁ、俺は両利きだから片腕潰れても差程問題は無いが、両腕一気に潰されると何もできなくなっちゃうよ。漫画も描けないし家事もできないくなっちゃうよ。と言うか折れる折れる折れる肘の関節と肋骨がヤバい。
ほんと、普段冷静沈着で落ち着いている無口な孤高の俺が、全力で慌てふためき大声を出すおそらく唯一の人。虫は近寄ってきたもの全てが対象。害虫は俺のテリトリーに存在するだけで敵。
えっ? ただの根暗でぼっちでコミュ障なだけ? それを言っちゃお終いよ。
「アンタ、そんなこと思ってたの……」
何とか開放されたが、普通に息は荒い。肋も何本かイカれた様な気がする。まじで俺の中で「女= ゴリラ並の筋力の持ち主」の式が完成しかけている。ゴリラと違う部分は、別にゴリラのように神経質じゃなくて無神経質だということ。俺が腹壊しちゃうよ。
「そ、そんなことより瑠姫さん……一つお願いが……」
脇腹を押さえながら、息も絶え絶えに声を絞り出す。本当に折れたかもしれない。
「何よ、言ってみなさい」
「我が家に居る間は、俺たちの関係を「作家と編集」じゃなくて「祖父繋がりの恩人とお孫さん」ってことにしてもらいたいのですけど……」
「ふぅん? どうして?」
「実は、他の奴らには俺が作家やっていることを秘密にしてて、その中に瑠姫さんが編集だって知ると面倒なことになるやつが一人いるんですよ……」
「それって、紅葉ちゃん?」
「……やっぱり、知っているんですね?」
「ええ、顔馴染みだもの」
成程のぉ……的中してしまったか……尚更ダメだな。
「とにかく、俺に話を合わせて、変なこと言わないでください。マジで」
「はいはい、それくらいならやってあげるわ」
「……マジですか? てっきり、なにか要求してくるもんかと……」
「何言ってるの? そんなもの頭りえでしょ?」
誰だよりえちゃん。『当たり前』だろ。この人も寝不足でだいぶ頭がいかれているようだ。
「それ相応の対価は後できっちりと頂くわ」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべながら俺を指さすサル。畜生本当は頼みたくなかったのに!
何はともあれ多少の犠牲で俺の秘密が守られるなら安いものだ。この人も、流石に変なことは……いや、この人なら『ストリップショーやりなさい』とか言いそうだな。とりあえず俺の肉体美を披露することまでは許容する。奏士は…………条件次第。いや普通にアウアウだよな。いくら姉弟(仮)でも流石に見せないよな。二次元じゃあるまいし。
俺がそんな葛藤と覚悟を繰り返している時、この人は「重ちゃ〜ん」「な〜う♡」とかやっている。重政を手玉に取るとは……流石魔性の女。いや、重政が美人と美少女に弱いだけなんだけどさ。ついでにこいつは美幼女にも弱い。
『見た目良ければなんでもありかこいつ』とは俺は言えないよなぁ……だって俺も見た目重視だもの。二次元だけだから、基本見た目は良いんだけどさ。三次元とかクソで御座候。
恐る恐る部屋を出て、リビングへと向かう。先に食べ始めているよう言ってあるから、そろそろ食べ終わっている頃か……
「ふぁ〜ふぉーひ、あふぉいへす」
ベルがなにか言っているが、食べながらなので分からん。語感で判断すれば、要するに遅いって言ってるのだろうが……
「……何してたの?」
「大したことじゃねぇよ」
紅葉の問にはそう返事して暖簾をくぐる。勿論、二次グッズ。この暖簾に描かれているキャラを理解している人はここに何人居るのかな? というか暖簾て隠れてたのに俺ってよく分かったな……あ、この家に残ってるの俺だけか。
「それにしてはじ……かん、が……」
ベルがなにか言いかけてそのままフェードアウトする。どうしたはっきり言え。
「……奏士、後ろの人は?」
「後ろの人?」
紅葉に聞かれて振り向くと、重政を抱いて連れてきた瑠姫さんが。あれ? 部屋に置いてきた筈なんだけどな……いや、あんたは振り向いても誰もいないから。アンタだよ。重政は振り向いても瑠姫さんの乳しか無いから。お前はわざとだろ。ただ顔をうずめたいだけだろ。
大急ぎで暖簾の外に瑠姫さんを連れて出て、小声で話しかける。
「ちょっとあんた、なんで出てきちゃったんですか」
「何よ、私も昨日ラーメン食べて以来何も食べてないからお腹空いてるのよ? ご飯食べたいじゃない」
なんてことだ……それくらいなら後で部屋に持っていくから大人しくしていて欲しかった。いや、予め言っていなかった俺も悪いな。
「……朝飯は食べさせてあげますから、さっきの約束、守ってくださいよ?」
「分かってるわよそれくらい。本当は、あんたの嫌がる顔が見たかっただ・け♡」
この顔面に拳を三発入れたい。心底そう思った。
「でもやっぱり駄目ね。あんた表情一つ変えないんだもの」
そりゃ、俺の特技の一つだからな。
「あ、でも見た目は変わってなくても、中身は意外と激しいってあるわよね」
「……何が言いたいんですか?」
面倒ごとは避けたい。そして、俺にとって面倒事の頂点と同等なのがこの人だ。いっそ、この人を……
「別に〜」
振り向きながら「フフん」と機嫌が良さそうにウインクしながら鼻を鳴らす瑠姫さん。やはり、この人はどうにも苦手だ。俺の状況操作が通用しない。
ともかく、意を決して再び暖簾をくぐる。
「それでソージ……その人は誰デス?」
ベルが首を傾けながら聞いてくる。あの、ベルさん。目が怖いです。ハイライトが……というかお前一夫多妻は許容するんじゃ無いのかよ。
「あー、この人は……」
「奏士のお姉ちゃんの、猿渡瑠姫でっす☆」
俺が言おうとしたら台詞を取って改竄して自分でやりやがった。良い歳して何が「でっす☆」だよ。
俺がそう思うと、みんなから見えない角度から俺の腰を摘もうとするも、筋肉質な俺の身体をつまめなくてちょっと戸惑う瑠姫さん。何がしたいんだあんた。
「……瑠姫さん」
「あら、紅葉ちゃん。久しぶりね」
「二人は知り合いデスか?」
「ちょっと縁があってね〜」
ベルの問にもさらりと受け流す瑠姫さん。恐ろしや。
「悠ちゃんもおひさ〜」
食後のミルクをあたかもコーヒーを飲んでいるかの様に新聞を読みながら飲んでいる悠ちゃんに、手をヒラヒラとさせて挨拶を続ける瑠姫さん。だからそれ俺の新聞……もういいや。
「はぁ……瑠姫さん、いい加減『悠ちゃん』はやめてくださいと言っているでしょう」
「奏士が真似して定着しちゃったじゃないですか」と付け足す悠ちゃん。でもなぁ……
「「悠ちゃんは『悠ちゃん』って感じがするし」じゃない」
ハモる俺ら。ガックシと首を落とす悠ちゃん。ごめんね悠ちゃん。自称第二の姉が。
……いや、首落としちゃダメだな。落としたのは頭の高度だし。正しく変えるなら、『頭を下げた』か? 漫画家兼学年首席が……とにかく表現がすぐに思いつかない。
「もう、本当に悠ちゃんはちっちゃくて可愛いわね〜」
「ふむっ!? 苦し……」
悠ちゃんに抱きつく瑠姫さん。まさかここでも百合が発生するとは……なんかベルも紅葉にハグしてるし、紅葉も満更じゃ無さそうだし、何だこの状況。男二人に女四人居て、何故女四人がゆるゆりしてんだ。そしてなんでお前はこの状況を無視して飯を食ってんだ。そういや、お前かなりの幼女以外に興味なかったな。
古来より、『百合の狭間に男が入ることは国家転覆以上の大罪』とされているので、先に飯を食い終えている重政を撫でる俺。さらにカオス。ほら、『百合の邪魔になる男絶対殺しタル・ランサー』って言うし。言わない? まぁあれコラだし。でも言う事にしといて。
百合の間に入るのは大罪だけど、百合作品に出てくるキャラって大抵めっちゃ好みで、どうしてもNLが見たくなるんだよな……仕方ないから誰にも見せない自分用に同人描いたりしてるけど。これって罪ですか?
「っ…………ぷはぁ!」
開放された悠ちゃんは虫の息だ。
「奏士……ヤバいぞ」
目を見開いて、身体を震わせながら息も絶え絶えに悠ちゃんが声を発するが、すげーどうでもいいこと言う気がする。
「……興味無いけど一応聞いてみる。何が?」
「おっぱいが……おっぱいがヤバい」
ほら、超どうでもいいことだった。そりゃ、あの瑠姫さんにハグされて、それも身長差的に丁度悠ちゃんの頭が瑠姫さんの胸あたりにくるんだからそうなるでしょ……瑠姫さんは瑠姫さんでなんか満足気だし。そういやあの人小さくて可愛いもの好きだったな。自分が色々大きいから。態度とか。
ひとまず場を整えるために、全員黙って飯を食い終わらせて話はそれからと言うことに。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「改めて自己紹介をするわ。私は猿渡瑠姫、奏士の……言うなれば第二のお姉ちゃんね」
瑠姫さんが立ち上がって自己紹介。最後にウインク必要? 要らないよね? ね? ちなみに、みんなの自己紹介は済ませてある。
「はいはーい! 質問デス!」
そして元気よく手を上げるベル。飯食った後で元気だね。
「良いわよ」
「御二人はどのような繋がりで?」
「そうね……」
先程はああ言っていたが、やはり先手を打つしかない。予防線は張り巡らせておくのだ。
「瑠姫さんは俺の爺さんのお世話になって、それで爺さんが死んだ後まだガキだった俺を世話してくれた人だ」
「むぅ〜」
頬を膨らませてもダメです。年齢が足りません。あっ、足を蹴ってねじって踏むのやめて。痛くないけど振動で怪しまれる。
「成程……それじゃあ第二の質問デス!」
まだあるのか
「どうぞ?」
「……何食べたらそんなに大きくなれるデスか?」
一瞬身長ことかと思ったが、ベルの視線が胸に行っていることに気付いた。いや、お前……
「ベルさん、だっけ? 十分大きいと思うのだけど……」
瑠姫さんが爆とするならベルは爆と巨の狭間。十分大きい。
紅葉は巨で、悠ちゃんは……残念だが、ツルペタ。なだらかである。如月大平原がそこにある。前にこのこと言ったら顔面殴られたあとアッパー食らった。あの早技を避けるのは至難だ……下手すれば、音速を超えていた。生物的にありえないけど。要はそれくらいやばかった。ここままだと俺の未来がヤバい。神頼みしすぎて無いのにヤバい。
「実は最近成長が止まってきた気がするデス……」
自分の胸を押し上げて主張するベル。やめなさい紅葉さん。こっそりと写真を撮るのやめなさい。そしてベルの対面に居る俺にスマホを渡して写真を要求するのやめなさい。俺が写真撮ったらこいつ最悪脱ぎ出すからやめて。そして悠ちゃんはちょっと喜ぶのみっともないからやめて。今更ベルの成長が止まっても、悠ちゃんとの差が広がらなくなっただけだから。差は縮まらないから。
「それに、この前ソージに押し付けたりしても、反応一つ無かったデス……それで、ソージが見慣れているであろうルキのサイズを超えれば!」
「押し付けたって……なぁに奏士、あんたそんな一大イベントあったの?」
瑠姫さんがこっちを見ながらニヤニヤしてくる。成程、こういう弟を揶揄うところが姉っぽいと言うことなのか。いや、俺の姉像の基準が二次元だし、一応身内の姉位置の悠ちゃんは『姉』って感じがしないしな……あれ、これ俺悪く無くね? そもそも俺弟じゃねぇし。弟ポジではあるらしいけど。
「はいはい、そういうデリケートなやつは後で自分の部屋でぬっぽりしっぽりずっぽりとやってくれ。次は?」
「……はい」
紅葉が手をちょこっとあげる。いがーい。
「はい、紅葉さん!」
ノリよく紅葉を指さす瑠姫さん。
「今日は、何故ここに?」
この質問は想定内だ。予め瑠姫に答えを伝えてある。
「ちょっとこっちに仕事で用があったのよ。それで久しぶりに弟の顔でも見てみようと思ったら……同棲していたんだもの」
それらに関しては何も伝えてないもん。だって伝えたら「面白そうね、ちょっと見せなさい」とか言って来るじゃん。
「……いつまで、居るおつもりで?」
「そうね……後一日二日位滞在する気でいるわ」
「えっ?」
「えっ?」
瑠姫さんの一声に思わず声が出てしまった。いや、俺に聞き返すなよ。
「いや、聞いてないんですけど」
「当たり前よ、今言ったんだもん」
いや、もう仕事終わったから帰ってくれよ。そして編集部にはよ行け。あとその年で「だもん」は無理があるだろ。
「しょうがないでしょ、まだ仕事は残ってるんもん」
それこそ編集部でやってくれ。帰りの運賃出すから帰れ。
って言っても帰らないんだろうなぁ……俺の知っている女は皆、だいぶ強引だ。
「……客人じゃなくて、一住民として扱いますよ?」
「おkおk、それで良いわよ」
「……まじで帰ってくれないかな」
「そんなこと言うならいつもより厳しめに修正出しますよ?」
「よっしゃドンと来い。俺は全て受け止める」
「なら早速」
「すんません後でにしてくれません?」
「分かれば良いのよ」
笑いながら返事をする瑠姫さん。せっかく幼稚園で胃が無事だったのに……
こうして、再び俺の胃が痛み出した。
……ついでに肋と腰と肘もズキズキしてきた。さっきのダメージが遅れてきた。
新キャラ再び登場で、登場しまくりの新キャラPUガチャ引けそうです。作者のガチャ運じゃあ天井まで引いてもでなそうです。次回もお楽しみに。
……あっ、この締切云々は、調べた結果を纏めたものなので、信ぴょう性はありません。さすがの作者も、知り合いに編集さんは居ませんでした……orz




