男は何歳になっても精神年齢は大差無い
暫く俺はオタボーイと二人並んで読書したりちょっと話し合ったりしていたが、自由時間は終わりなので、片付けてクラスの時間というものらしい。
「次は何をするんですか?」
丁度近くにいた先生に勇気を振り絞って聞く。振り絞りすぎてちぎれそう。
「あ、次はみんなで似顔絵を描くから、園児たちが用意するのを手伝って貰える?」
「わかりました」とだけ言ってとりあえず何をするのかさっぱりわからんので彩乃に聞くことにした。
「なあ、あやのん」
「誰があやのんですか。その口はんだ付けして二度と喋れないようにしますよ?」
「おぉう……口悪ぅ……」
ボロくそ言われたが、俺のメンタルに傷は一つとしてない。舐めるな俺の超高度メンタル。高いのかよ。硬くなきゃダメじゃね?なお、ウルツァイト窒化ホウ素をも超えるレベル。わぁ硬い。
とりあえず俺だけじゃどうにもならないことがわかったので、他の三人を待つことにした。あ、ベルが帰ってきた。
外から帰ってきたベルは
「えへへ〜(∀`*ゞ)いっぱい遊んだデス」
「お前、一体何したらそこまで汚れる?」
土と泥汚れが所々につけてきた。洗濯大変だな……後、なんか顔文字入ってた気がするんだけど、それどうやって発音したの?
園児と絵を描いていた紅葉は
「……いっぱい描いた」
「……よくもまぁあんなに描けたな」
「ちょっと、描きすぎたかも」
「自由帳一冊全て使ってちょっとなのか」
正直、異常な速度で絵を描いたようだ。よく見れば、手が鉛筆で汚れまくっている。サポーターとか持ってか来なかったのか。
で、幼女に囲まれて『ビバ! 万里の長ーー』
いや違うな。アルカディアの間違いだな。やり直そう。
えー、コホン。
で、幼女に囲まれて『ビバ! アルカディア!』と言わんばかりに喜んでいたアリコンは……
「……私、今すぐにでも進路変更して保父になります」
「却下だ馬鹿。お前が保父になんてなったら何するかわからん。朝刊に関係者として俺と俺ん家が載るのは御免だ」
というかお前の場合、進路変更なんて早々できないだろ。仮にも専属ボディガードなんて本職持ってんだから。本当にボディガードなのか怪しいけど。
「し、死ぬかと思った……」
悠ちゃんがフラフラしながら戻ってきた。というか三人じゃなくて四人だ。すっかり忘れてた。
「あれ? 悠ちゃんどこいってたんだ?」
「ちょっと、そこまでな……あのガキ共、私の事見て『おねえちゃんどこのしょうがっこー?』『なんねんせーい?』とか聞いてきやがった……私は既に成人済みだ!」
どうやら、いつもの光景があったそうだ。それにしてもここで泣くなよ。俺の服が汚れるだろ。ほら、離れなさい。シガレットあげるから。タバコじゃないよ。シガレットだよ。タバコは身体を壊すから煙の出るおもちゃタバコを吸おうね。
後、悠ちゃんはその『見た目ロリ設定』は私生活で活用(という名の悪用)しまくってるんだから今更……気持ちの持ちようとかか?
何はともあれ、四人とも大きな問題事を起こすことも無く満喫したようだ。いや、し過ぎの間違いか。少なくとも自由時間のレベルじゃない。
ひとまず、全員揃ったのでおえかきーターイム! パーリラパリラパーリラふっふー
……ふぅ、疲れた。この顔でこんなこと考えてるけど、別に気が狂ったとかじゃない。俺は元々こんな感じ。悠ちゃん達からは無愛想だのなんだの言われるけど。俺はこの表情がデフォなのに。重要な事だから何度でも言う。
似顔絵は、園児同士二人一組のペアを作ってお互いを描くらしいが……
「はーい、皆好きな子と二人一組作ってくださーい」
「っ……」
ぐぁぁぁぁぁ!!!! 先生から言われる数ある暴言の中でもトップクラスにダメージのある一言が俺のウルツァ(ry メンタルが……
「……奏士?」
いきなり胸を抑え始めた俺を怪訝に思ったのか、ちょっと引きながら紅葉が聞いてくる。
「あ、ああ……大丈夫だ、問題ない」
「それは死亡フラグ」
「そんなフラグへし折ってやる」
何とか持ちこたえて、膝がガクガクだけど立ち上がる。いまのはいたかった……いたかったぞー!
なーんて心の中で巫山戯てみたはいいものの、表情一つ動かさない俺では誰にも伝わらないだろう。いや、割とまじで心が痛い。ちょっと欠けたぞ。ボンドボンド……ア○ンアルファは何処かいな? というかそれで元に戻るのかね?
取り乱したが、二人一組と言うならベルと紅葉、悠ちゃんとその他一名の二組ができるな。そして、園児は偶数だから俺が余って合法的サボれる。YES! ナイスアンサー! ジャストミートは福○アナウンサー! 関連性は無い!
「さて、私はやることがあるからお前たちで組んでくれ」
あっれぇー悠ちゃんやらないの? 俺の穴だらけパーフェクトプランが……パーフェクト要素は考えの浅さが完璧な所。
「ソージソージ! 一緒にペアるデス!」
「新しい言葉を聞いたぞ今」
またベル特有の戯言か? とにかくベルは危険だからパス。ついでにこの変態も女児が近寄って来そうだからパス。どっちにしろ結果は一つ。
「紅葉、描こうぜ」
「……わかった」
「そんなぁ!?」
紅葉は頷き、ベルは崩れ落ち、主人を励ますことなくその姿をスマホのカメラで撮り続ける莇。なにこれ。
「皆決まったかなー? それじゃ、学園生の皆さんにお手本を見せてもらいましょうか」
え、先生何ほざいてんの?
いけないけない。咄嗟に口が悪くなってしまった。あの先生は何を言ってるのかな? 誰か教えて?
「……集」
俺の一声で集まる三人。ノリが良くて結構。
「おい、この中で絵に自信のある奴、無言で挙手」
円陣を組むように四人しゃがんでヒソヒソと話し始めるのを見て不審に思わない人は居ないだろうが、ここは仕方ない。園児たちの視線が痛いが仕方ない。俺を見るな。
手が上がったのは俺と紅葉とベルの三人。
「……莇、お前は?」
「下手って訳じゃないでしょうが……私が似顔絵を描いたとすると『あー言われるとそう見える〜』の腕です」
「そうか……ベルは?」
「ワタシも下手ではないデスヨ」
「……ちょっとこれに描いてみろ」
そう言って近くにあった紙と鉛筆を手渡す。
「……できたデス」
一分程してベルが渡してきた紙には二足歩行の生物が。
「一応聞いておくが、これはなんだ?」
「それはモチのロン、チュパ「チュパカブラとか言うなよ?」カブラ……」
ベルの声が徐々に小さくなる。どうやら当たりだったようだ。それにしてもチョイスよ。もっと他に無かったのか。
……無かったんだろうなぁ。コイツの残念なおつむじゃ。
「どっちにしろ、これじゃ手本にはダメそうだな」
ベルの絵は、良くも悪くもノートの端っこ等に描くような凄く可愛らしい絵だった。チュパカブラがものすごくファンシーになってる。悪くは無いんだが……園児の手本には向かないか。いや、むしろ逆にちょっと下手な園児と同レベルの画力の方が分かりやすいか? でも近すぎると落胆するやつとかボロくそ言うガキが出てくるからな……と言うかこのチュパカブラなんで「俺が背負ってやるよ。つっても、俺の背中はトゲだらけだけどな!」ってセリフ付きなんだよ。なんでこいつこんな愉快なんだよ。見た目考えろ。
「紅葉は……聞くまでもないか」
「……ん」
紅葉の腕は知っている。こうなったらやはり俺と紅葉がお互いの顔を描くしかないか。
「あ、あの〜……そろそろいいかしら?」
「はい、もう大丈夫です」
「……問題無い」
先生は「そ、そう?」とだけ言うとすぐに引っ込んでしまった。俺の表情大人にまで影響あるの? そろそろ目の下のクマを消そうかな……コンシーラー買うのめんどくせぇな。
とりあえず、大人用の椅子を二つ借りて、画板……は無いそうなのでスケブを借りて描き始める。
「……」
「……」
皆が注目する中、お互い無言で描く。なお、俺はこの時本気で脱出したいと思っていた。あ、紅葉がちょっと赤くなってる。
「……」
「……」
ペンを走らせる音以外聴こえない空間がそこにはあった。最初は気になった視線も意識も、絵に集中してしまえば気にならない。とは言え、今俺の意識は中にも向いてるから完全な集中とは言えないが。
絵を描く、と言ってもせいぜいが簡単な似顔絵を描く程度だ。ものの十分程度で終わってしまう。
そうして張り出された絵は……
「おねえちゃんうまーい」
「すごーい。じょうずー」
紅葉の方は絶賛されていました。一方の俺の方はと言うと……
「暗いおにいちゃんの絵はにてなーい」
「おねえちゃんはこんな顔してないよー」
もうね、大絶賛(笑)されてました。そこ、カッコ笑いじゃなくてカッコ悪って言ったやつ、今すぐ表出ろや。女子どもでも容赦しねぇぞ。
「ソージのもクレハのも上手デスよ?」
「私にはあまり分かりませんが……お二人共よくかけていると思いますよ? 奏士殿のはベクトル違いだと思いますが」
だってしょうがないじゃん。俺人物画描くとどうしても二次絵になっちゃうんだもん。もうちょっと意識して、時間もかければリアルなの描けるけど。俺の専門的にそうなっちゃう。
「ん〜?」
俺と紅葉の絵を見てベルがなんか唸っている。
「どないした」
「んー……二人の絵の描き方、何処かで見た気が……」
まずい、ベルが疑っている。俺の正体を知られる訳には行かない。
「そんなわけないだろ。お前の前で絵を描いたのはこれが初めてだぞ」
「んー……やっぱり、木の精デス?」
「気の所為、な。ドリュアスか」
でも、やっぱり紅葉の絵はどっかで見たんだよなぁ……もしかして…………いや、まさかな。
その後は皆ペアを組んで絵を描いて鑑賞会となった。あ、彩乃の絵意外と上手いな。
鑑賞会が終わっても、まだ時刻昼飯には遠い。お次は何をするのかしら。
「はーい、みんな〜」
と、そこで先生からの答えがやってきた。
「お次は、お外で運動でーす。着替えて、帽子を被ってお外に集合しましょう」
園児は「はーい」と元気よく手を挙げて返事する。うるせえ。
俺たちは先に着替えて行って準備をすることに。この幼稚園は広く、校舎と遊び場が一体になった第1園庭と、別棟の第3庭園、運動場の第2庭園の三つがあるらしい。いやー、広いな。道路挟んで三つか。
その第2庭園に着くと、先に運動着姿の大人が数名。あれがさっき説明された体育教室から来た先生か。
「よろしくお願いしまーす」
「はい、よろしくお願いします」
見た感じ中老過ぎか? それでも体育教室で動けるのか……
遅れて園児たちが到着する。ワラワラと雑魚どもが……この巫山戯はやめよう。
「おー 鉄棒が園児sizeデス」
「ちいせぇな」
俺の身長じゃやり辛いな……前転なんかやったらまず間違いなく背骨と足と尾てい骨が逝く。
「まぁ、この鉄棒でプルプルしている女児を眺めるのも一興じゃないですか」
「黙れ変態」
隣の変態を全力で消し去りたい。もしくは声帯を切り取りたい。出会ってからそんなに時間は経ってないけど、そう常に思っている。
「それじゃあ皆、まずは準備運動からやってみよう!」
笑顔の老人先生。なんか熱血と言うよりはただ単に運動が好きな人に思える。随分と健康的なこって。
準備運動を終え、皆で逆上がりの練習との事だが、サイズ的にお手本は出来ないな。これはサポート一択だ。
あ、ちなみに俺とベルと紅葉の三人は学園の体操服だが、まだ転入の手続きをしていないらしい莇は、一人だけ違うジャージを来ている。なんか……顔がいいと何着ても似合うのは本当なんだな。芋ジャージ着てもなんか似合ってる。ちなみに深緑色。
まぁその後はわかるよな? 三人がボケて、俺がツッコミ入れて、園児たちの手伝いして、途中アドリブ入れられて。予想通り前転して着地の瞬間足とかやって。超痛い。
あ、彩乃は……結構動けるみたい。以外……ではないな。何となく予想してた。
運動の後、園児は飯の時間だと言うので俺たちも飯にすることに。
昼飯は皆並んで食べるようで、園児たちは自分の机を一箇所に並べて大テーブルを作っていた。
「……」
変態が、俺の隣で目を見開きながら女児をガン見している。通報しないと。スマホスマホ……
「どうした。手を出すなよ? 色んな意味で」
俺たち手伝い組は、園児たちの自主性を尊重する的な意味で、こういう手伝いはしないようにしている。要すれば、めんどいから自分でやってほしい。
そんなんで俺ら二人、机移動中は邪魔にならないところで見守っている。紅葉とベルと悠ちゃんの三人は先生の手伝いに行ってる。
「いえ、一生懸命頑張って運んでいる女児は目の保養になるなと……」
「思ったよりまともな感想で安心したと思ったが、一瞬だけだった。 さっさとヨダレと涙拭けよ」
目を見開きすぎて、充血してるし涙とヨダレを出てるしで顔面がカオス。変人の隣にこれ以上居たくないので、そっと離れよう。俺は変人ではない。決して、変人ではない。大事な事なので2回言いました。大事な事なので2回言いました!
そんなこんなで給食が運ばれて来て、園児たちは弁当組と給食組に別れた。給食組がちょっと多いな。
「私たちはどうしましょうか」
「俺たちは弁当だ。ほれ」
そう言って、俺は持ってきた鞄の中から六人分の弁当を取り出す。
「……なぜ六人分も?」
「だって、俺・お前・ベル・悠ちゃん・紅葉・紅葉で、六人分だろ?」
暮らしてわかった事がある。紅葉は意外と食べるのだ。多い時は、成人男性の数倍レベルを。一度だけ、紅葉と一緒に住む……と言うより、顔合わせをする前に一度だけ食堂で見かけたことがあるのだが……テーブルに大量の飯を広げて、それを全て一人で食べているのを見たのを思い出した。滅多に行かない食堂で、一番に目に入ったのがそれだったから変に記憶に残ったんだろう。大食漢……いや、女だから大食女か? あんだけ食って身体を壊さず、大した運動もしないであの体型を維持しているのだから、大した能力だ。一体どこに消えているのだろうか。カロリーは忘れた頃にやってくると聞くし、調整には今後も気を付けよう。
とにかく、紅葉が来た事+入居者が一気に増えたことによって、我が家のエンゲル係数は爆増しているのだ。一人暮らししてた頃は腹が減って、気分次第で作る感じだったから、毎月の食費なんて下手すりゃ一日一食もしくは週に三食の連続で一万を下回ったこともある。長期休みとか。まぁ、前にも言ったかもしれんが、普段も安く抑えるためにやってるから一般よりは少ないんだけどさ。それに、毎日三食作るのってやっぱり面倒臭いけど、食べる人がいる以上は厨房の主として作らにゃならんし。こういうのも他人と一緒に生活することの難しさというやつなのかね。あれ、やっぱり同じようなこと前にも言った気がする。正しくは心の声というかモノローグ的なものだから言ってはいないんだけどさ。
「そういえば、昨日も結構食べてましたね」
「だろ? 俺には無理だな」
まず、俺の身体は少量で十分だし、元から代謝も良くないから太りやすい。そんなんで、毎日訓練してこの肉体美を維持しているのに……ちょっとうらやま。何度も言うが、肉体美()じゃないぞ。ちゃんと筋肉がある。首から上が雑コラなんじゃないかってくらいにはある。
何はともあれ、こればかりはどうしようもないことなのでしょうがない。切り替えよう。
「……私達は、どこに座る?」
配膳から戻ってきた紅葉達三人にも弁当を渡すが、飯があっても食う場所が無い。
「あっ、それなら皆さんは園児たちと一緒に食べてもらっても宜しいですか?」
気づいた先生が提案してくる。それしかないな。
俺たちが纏まっても仕方ないので、全員バラバラになり、分かりやすく先程まで遊んでいた奴らの所に行った。俺は勿論一人しかいないので当然あいつのところだ。
「……」
「……また会いましたね」
先程まで本を読んでいた少年、名前は確か……ああ、彩乃、だったか。この短時間で思い出さないと行けないほどに名前を忘れるとは……流石俺。いや、少なくとも思い出そうとしている時点で多少の興味は有るのだからマシな方だ。
「ここまで僕に付きまとうなんて、奏士さんはショタコンですか?」
そう言いながらも箸は止めない彩乃。
「寝言は寝てから言うのがマナーだ。いっそ永眠してからあの世で言え。ただの飯場探してここに辿り着いただけだ」
「ま、ここは空いてますし」
彩乃の隣は不自然と言える程に空席だ。ただ単に欠席の偶然とも思えるが、先程から、自由に遊んでいた時も、ペア組の時も、外で運動している時も誰も居ないとなると故意的なものを感じる。それが、自分で選んで一人で入るならともかく、故意的に一人にされてそれを甘んじて受け入れているなら何とかする必要がある。そんなこと俺が言う資格も助ける資格も無いが。
「周りに誰も居ない場所は広々と使えるのは良いな。隣、失礼するぞ」
「……ご自由に」
そう言って腰を下ろすが、流石に園児用の椅子は使えないので机の高さ的に正座になる。俺の足は正座ごときで痺れはせぬ。
「……いただきます」
弁当を開け、食べる前に両手を合わせて一言挨拶。超大事。
「……そのお弁当、随分と綺麗ですが母親が作ったんですか?」
箸を止めた彩乃がちらっと見ながら聞いてくる。
「馬鹿言え。母親が飯なんて作るか。これは俺の自作だよ」
これは朝、いつもより早く起きて拵えたものだ。やはりきゅうりのキューちゃんは最強。梅鰹の沢庵に並ぶ。
「普通は親のどちらかが作るものだと思うのですが……そこら辺は他所の家ですし、放っておきます」
親がそんなことする訳ないだろうが。親が作るのは敵と傷と借金と絶望と子供だけだ。
「そうしろそうしろ。下手につっこんで、痛い目とか色んなもの見ないようにしとけ」
俺も飯を食いながら答える。いや、忠告か。
そのまま食いながら四人を一瞥するが、まぁ普通に接していられるようだ。あのアリコンが女児が隣に居るのに手を出さないのは意外だな。あ、悠ちゃんおかず取られてる。そして紅葉は二人前食って驚かれてら。
「…………ごちそうさん」
箸を置いて手を合わせてご挨拶。量間違えて俺のだけ冷凍食品だらけになったけど、やっぱり冷凍食品は上手いな。生産工場の愛がつまってる。 ……愛なのかそれは? いや、つまってるのは愛じゃなくて欲望だな。これだけの欲があれば、強力なヤミーとか作れそう。
「……早すぎないですか?」
同じタイミングで食べ終わった彩乃も手を合わせながら俺を見ている。まだ食べ始めてから十分も経過していない。
「俺にとって食事はあくまで栄養摂取手段の一つだからな。時間かけてらんないのよ」
ぶっちゃけ、栄養取れるなら虫でもいいかと思っている。触れないけど栄養価は超高いらしいし、それに小さいからすぐ食えるし。虫は死体でも触れないけど。
あ、コーヒーとか本来必要無いものは嗜好品扱いだからセーフ。嗜好品は手間暇かけないと。
「そうですか。効率重視な生き方してますね」
「時間は有限だからな。不必要な無駄はしちゃいけないのよ」
限りある人生、その中でも満足に動けるのはさらに短い。だったらその短い間を満足しようと思うのは普通のことだと思う。俺の場合早死するだろうし。
その後は、皆が食べ終わる二十分程待って皆で「ごちそうさまでした」とか言っては・み・が・き・上手かなっ?♪ の時間。これ覚えてる人どれだけ居る?
あとは帰りの時間だと言うので、俺も一息入れて座り込む。無論、すぐ動けるようにしている。
「ふぅ……流石に疲れたデス」
「あれだけはしゃいでりゃな。それで、だ」
「どしたデス?」
近寄ってくるベル。
「なぜ、隣に座る」
「そりゃモチのロン、ソージの隣に居たいからデス」
さらに近寄ってくるベル。
「そうか、俺は居たくないから別の場所に行くわ」
そう言って立ち上がるが、ベルに袖を掴まれ、引き止められる。
「なら、名前だけでも隣にしてほしいデス。さぁ、この紙に書いてあるワタシの名前の隣にソージの名を……」
そう言ってベルが取り出して見せてきた紙には婚姻届と書いてある。なんと、俺の欄以外全て埋まっていらっしゃる。おかしい……【同居を始めたとき】ここはまだいいとして……いや、本当はダメなんだけど。なぜ、証人の欄までも埋まっているのだろう……
「ちょっとその紙渡せ」
「どうぞデス」
素直に渡すベル。馬鹿め。
「はい、おしまい」
「そんなぁ!?」
一瞬でビリビリに破き、紙くずへと変貌させる。これでこの婚姻届は無効だ。
「人の知らん内に用意しやがって……」
「そんな……ひどいデスソージ……まぁいいデス。あれは所詮コピーデス」
何…だと…
「その原本も渡せ」
「絶対嫌デス! また破る気デス! 破るならワタシの膜だけにするデス!」
「ゴタゴタ抜かすなくそビッチが」
だいたい、お前の処○膜はどうせもう存在していないだろうか。
今すぐに取り上げたい。しかし、この状況を園児に見られるのはまずい。諦めるか……
即座に引き上げて何をしようか考えていると、笑顔で向かってくる人影が一つ。
「奏士殿〜」
うわぁいい笑顔。そうだ、ちょっと八つ当たりさせてもらおう。
「……ほれっ」
近くの隅に落ちてた片付け忘れのLEG○ブロックを指で弾いて滑らせる。そして丁度そこに足をーー
「あっはぁーっ!?」
丁度そこに足を踏み入れた奴は、人類化学の恩恵を受けたブロックによる地雷攻撃を受け、叫び声を上げて床を転がりながら悶えている。やったぜ。
「どうしたどうしたいきなり。なにかあったのか」
さも心配しているように偽装して問いかける。
「……白々しい」
よってきた紅葉がジト目で見ているが、無視無視。
「あっ、足がっ……人類化学の恩恵がっ……」
足を押さえながらなにか言っているが、何言ってるのか分からない。
「ダメだ……意識がはっきりしていない。おい、大丈夫か」
しょうがないから服を掴んだ揺らしたり、頬を叩いて反応を見る。
「へぶぅ!? あの……ちょっ……く、苦し……」
「どうやら意識がはっきりしてきたようだな……ちっ」
「い、今……舌打ちを……」
「して無いぞ?」
「あ……あう、うぅ……」
なにかつぶやこうとしたのか口をパクパクと動かした後、ガクリと動かなくなった。
「せめて、安らかに眠れるように葬ってやるよ」
「……外道」
「ゲスの行いデス」
二人が引きながら再び冷たい視線を浴びせてくる。だって、温厚で人に優しい聖人君子で知られない俺だって、人に当たることはあるんだよ。それがたまたま、全員分がコイツに向かっただけなんだよ。改めて聞くとかなりクズ。
「ほら、そこで寝てると皆の邪魔だから起きるか退け」
仕方なく近付いて手を引こうとしたその時ーー
「……あはぁん」
その時、世界から白黒灰色以外の色が消え去り、俺の身体に電流走る。足の裏から激痛がBダッシュだ。ついでに変な声出しながら崩れ落ちた。
「〜〜〜〜!」
痛みを堪えながら、さっきまで足があった場所を見ると、そこには先程俺がホリゾンタル・ドライブを使って飛ばしたブロックだった。それにしても語感がカッコイイものってに 訳すとダサいのはなんでだろう。さっきのだって直訳すると『水平走行』だし
「お、おぉ……」
「……因果応報」
「自業自得デス」
未だ冷めた目で見てくる二人。
足のっ、足の土踏まずがっ……俺殴る蹴る切る折る捻る捻じる引っ張るとかの物理ダメージにはかなりの耐性あるけど、これ系の地味痛耐性は殆ど無いのよぉぉぉん……
こうして、男二人の死体が出来上がった。
死体と言っても、痛みを堪えているだけなのだから、すぐに起き上がってなんでもないように立っている。痛みを我慢しているとかそんなんじゃなく、もう慣れた。
俺たちが巫山戯ている間に、帰りの会ももう終わる。
「おいお前ら、最後にお前らから一言貰いたいそうだからちょっと来い」
悠ちゃんが手招きしている。招き悠にゃん。家につけネコミミとつけしっぽあったかしら。今度出す屋台でマスコットとして雇おうかな。
「はい、そろそろお別れの時間ですが……ここで、学園の皆さんから一言挨拶があるそうで〜す」
……そろそろ、というか割と初めからこの口調イラッとくるな。俺ってば意外と短気? イラッとポイントは多いけど抑え込めるタイプかな。ならばよし!
「……今日はとても楽しかった。普段は一人で絵を描いていることが多かったから、誰かに教えながら描くのも新しくていい経験になった。ありがとう」
最後にぺこりと軽く頭を下げて、いつもと変わらぬ挨拶をする紅葉。
「みんな今日はアリガトデス! 幼稚園はもう十年以上前に行って以来デスが、一緒に遊べでとても楽しかったデス! 見ての通りワタシは外国からキマシタけど、気にせず接してくれてありがとうデス」
ベルは最後に思いっきり頭を下げる……お辞儀? お辞儀だな。お辞儀をして挨拶を終える。文字通り頭を思いっきり下げただけだから、腕は思いっきり開いて、髪もちょっと乱れる、例えるなら某虫退治漫画の主人公の挨拶みたいなやつだが、それでも感謝は伝わったようだ。
「私は、都合上年中気を張っていないと行けないので、『休み』というのは滅多に存在しないのですが……ここではそんなことを気にすることなく羽を伸ばすことが出来ました。本当に、ありがとうございました」
莇は、二人とは対照的に綺麗なお辞儀を見せる。というかお前、明らかに生徒会室に居た時とか家に居る時とか気を緩めていただろ。じゃなきゃさっきのブロックは回避出来ただろうに。まぁわかっていたとしても回避不能ってよくあるからね。落としたのは見えてるのに身体は動かない時とか。その時は大抵「おっと」って言う一声のみ出る。
そして最後は俺の番。最初みたいに忘れてくれればよかったのに……
「……あー、えー……」
正直特に、いや、全くと言っていいほど感想なんて無いし、そもそも用意してない。さて、どう取り繕おうか……
「あー……こほん。 皆知っての通り、俺はここに来てなんもしてない。驚くくらいなんもしてない。息を吸って酸素を消費して、吐いて二酸化炭素を生成したことくらいしかしてない。関わったやつなんて一人しか居ない。だから、対して言うことも無いんだが……一つだけ」
よし、人前で話すとか未だに死にたくなるけど、とりあえず後で死ねばいいからここは何とか我慢しよう。そう思い、途中だけど息を吐いてまた吸って。よし、普通に吐きそうだけど、何とか行けそう。
「今日は一日、ありがとう」
少々早口に言い、ちょっと頭を下げてすぐさま元の位置に戻る。とりあえず、誰かエチケット袋持ってない? 吐く時は修正でモザイク処理と規制音入れとくから今すぐ楽になりたい。
そんな俺を観た悠ちゃんは『ならば私が今すぐに楽にしてやろう』みたいな目をしてくる。殺す気か貴様。
今日の俺を褒めてやりたいところだ。べた褒めだ。なんせ、クラスのやつがちょっと話しかけてきただけで、警戒して、声が出せなくなって無言になって、身体の動きだけで対応するくらいのコミュ力しかない俺が、こんな見知らぬ場所で、こんな大勢の前で話せたのだから。声に出さなくても意思疎通を取れる俺って実はコミュ力お化けなのではないだろうか。違う? 違うな。違うかー
ご褒美に、今日は帰りにラーメン食って帰ろう。そうだ、幸楽苑が良いな。あそこのハーフ&ハーフの餃子は美味い。マックではLポテ二つとMドリの六百円メニューが俺的最適解。安くて上手くて腹一杯で満足。ナゲットはお好みで。滅多に食えないが、ポテナゲは神。
満足ぅぅぅ! ごまんえきゅぅぅぅぅ!!!
ひよ○ん的に訳すならこんな感じ。細かいところまで合っているかは定かではない。そして吐きそうな時に考える内容じゃない。
俺的に豪勢な食事ランキングを作るとすると、『1. 牛丼系の外食 2. 外食ラーメン 3. その他外食』となる。牛丼系って量の割に金がかかる……だけど、時々キングサイズとか食べに行っちゃう。やだ、摂取カロリー超えちゃう。でもその分運動とかする。あらヤダ健康的〜
…………健康的? とりあえず俺の中でオネエ口調の何かがまた出てきた。ずっと思うが一体誰だこいつ。
なんか俺に拍手が贈られているが、当の本人はそんなこと気にすることも無く、吐き気と戦いながら現実から光を超える速度で逃げていたのだった。ちゃんちゃん。
さぁ帰ろう。今すぐ帰ろう。すぐ帰ろう。あったかい我が家が待っている。いや、『あったかいラーメンが待っている』だな。そもそも我が家セ○スイじゃねぇし。
そして帰りの会は終わり、全員解散で、園児はバスと親待ちで、俺たちは帰ることに。
「お兄ちゃんまたいっしょにあそぼーね」
「おねえちゃんもまたきてくれよな!」
「ええ、またいつか」
「ハイ! またいつか来ることがあったら遊ぶデス!」
園児たちは遊んでくれたお兄ちゃんお姉ちゃんになんか手紙と折り紙か何かをちょっと涙目で渡している。いや、お前はなんでそんなに号泣してんだよ。別れが惜しいのは予想できるが、俺の知らないうちに幼稚園に近づくなよ? もし『幼稚園の付近で怪しい男性を発見した』なんて報告があったらお前をまず最初に疑うからな。
「あ、あの……」
ちょいちょい、と裾を引っ張られる感覚。振り向くとそこには再び登場彩乃きゅん。
「こ、これ……どうぞ」
「なにこれ。まさかあやのんからの愛の手紙? ごめんな……俺、お前の気持ちに気づいてやれなくて……でも、答えることは出来ないわ。俺さすがにノン気だし」
「何ほざいてるんですか? 馬鹿だ馬鹿だと思っていましたが、ここまで馬鹿だとは……後、あやのんはやめてください」
これはもしかしてツンデレか? それとも明確な殺意か? 後者だよなぁ。なんか殺意の波動みたいなの見えるし。こうなったら俺も使うしかないか……究極の土下座をぉ!
「じゃあ……やっぱり彩乃きゅんの方が良かった?」
「……あやのんで結構です」
額に手を当ててため息をつく彩乃きゅん。 うん、俺キモイな。そして使わなかったな土下座。
「とにかく、これを受け取ってください」
「手紙はわかるんだが……何この折り紙」
渡された折り紙は何故か人型で、二足歩行可能な形状をしている。
「鶴ですが?」
「……鶴って、こんな進化論ガン無視の進化してたっけ」
俺の知る限り、人型の鶴は居ない。
「これは鶴星人です」
「……ああ、そういやそんなやつ居たな」
確か折り紙で作る上級者どころか達人向けのやつだっけか? よくそんなの作ったな。
「ふむ……なるほどな。これくらいなら俺でも折れそうだな」
「なんですと?」
ぴくりと動きを止めるあやのん。
「俺でも折れそうだなって。なんなら、これ以上の作品を作れるぞ多分」
そして悪手だと言った後に気づく俺。
「ほぉーう? そんなに言うならやってみてくださいよ」
さらに挑発してくる彩乃。
「良いのか? お前のちっちゃなショタプライドが原子になるレベルで砕け散っちゃうぞ?」
馬鹿らしくその挑発に乗る俺。俺は幼稚園児と何をしているんだ……
「良いでしょう。期限は一週間後、どちらがより上手い物を折れるか勝負です」
「舐めるなよガキ。年上の本気ってやつを見せてやるよ」
こうして、謎の火蓋が切って落とされたのだった。あ、火蓋ちょっと切りきれてない。ちぎっとこ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「本当に、今日はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる先生。この人頭下げてばっかたな。
「いえいえ、今後も、なにか用があったら対応出来る時は力になりますよ」
そして俺らの代わりに答えてしまう悠ちゃん。ちょっと何してんのあんた。
「そういや、急に人手が足りなくなったのはどうしてなんです?」
ちょっと気になっていたことだ。普通はそんなにないだろうに。
「実は、ほかの先生の産休や怪我の入院などが急に重なってしまって……代わりの先生も足らなくて……」
それはまたすごい偶然だな。偶然かどうかは知らないけど。偶然なんてものは存在しないと俺は思ってるし。全ては必然。行動一つで全てが変わる必然也。ということは、俺たちが今日ここに来ることは最初から決まっていたということか。運命を変えるなんてバカバカしい。
「そうですか……それでは、私たちはこれで」
「あっはい。 本日は本当に、ありがとうございました」
またしても頭下げてお礼を言う先生。そのまま一周してしまいそうだ。結構体柔らかいのね。
帰るために悠ちゃんの車に乗るが、俺は丁度やることがある。
「あ、先に帰っててくれ。俺は帰りに行くところがあるから、歩きで帰るわ」
「そうか。乗せてくぞ?」
いえ、結構です。せっかく乗らない大義名分を手に入れたのに、態々自殺志願する気は無い。
そんなんで車を見送り、俺は歩いてまずは幸楽苑へ。歩くのめんどくせー
ちょっと前に弁当食ったばっかりだけど、なんか腹減ってんだよな。まぁ、たまにあるし。基本的に飯は少量で活動しているけど、ただの栄養不足とかじゃないはず。ほら、育ち盛りだから。少々、育ちすぎな気もするけど。そろそろ鴨居とかドア枠にに頭ぶつけそう。
そんなこんなでトコトコ歩いて着きました幸楽苑。歩くの疲れた……やっぱり家帰ってチャリに乗って来れば良かったかな。歩いた距離は短いけど、疲労がすごいのは俺が普段歩かないから。そう思いたい。運動不足じゃ無い。むしろ人より運動はしている。
何はともあれまずはラーメンだ。ラーメン食って忘れよう。
そう思い、いつも通り一人でカウンター席へ。俺はいつもセルフサービスの水を座ったまま確保するため、給水器が置いてある近くに座る。
今日もいつもの席に座ろうと向かったのだがーー
「……あら」
「げっ、サル……」
「はい?」
「……猿渡さん」
「よろしい」
その席の隣に、見知った顔を見つけてしまった。
幼稚園編、終了です。ちょっと長くなりました。次回からちょっとした新キャラと騒ぎが起きます。珍しく奏士の胃は無事です。良かったね
そうそう、文字だけじゃ分かりにくいかもしれませんが、この幼稚園のモデルは作者の母が通っていた幼稚園です。ついでに舞台は祖母の地元です。もし文字だけでどこか特定出来たらあなたは凄い人です。まぁわかりやすいのが所々にありましたが。




