新キャラを出す時はじっくり考えてからにしろ
グーテン・モルゲンと太陽は昇り、今日も変わらず朝が来た。
いや、今日からは何時もとは違う朝が来る。昨日から紅葉が下宿、同居……同棲? どう呼べばいいのかよく分からないが、とにかく同じ屋根の下で暮らすことになった。十年以上一人暮らしをしてたから、まだ家に赤の他人が居ることは慣れない。まぁ、そのうちどうにかなるだろ。
時刻は五時半。何時もと変わらぬ時間に起きた。さて、と。早く起きて始めますかね。
「…………」
どうしよう。布団達が俺を離してくれない。や、ヤバい……出られねぇよ。まじかよ俺のモテ期はここで来るのか。きっと今頃枕や敷布団達が俺の取り合いをしてるんだろうな。アホらし。さっさと目覚めろ。
ふわぁと一つ大欠伸と背伸びをして気分を切り替え、洗濯機へと向かう。背伸びをしたら背骨辺りから鳴っちゃダメな種類の音が聞こえた気がするけど、怖いから無視。なんか背中が痛い気がするのも気の所為。病は気からって言うし。
お次は洗剤と柔軟剤を投入して、スイッチを入れたら次は朝飯。
『朝は米と味噌汁に焼き鮭とかを食うべし〜』
なんて言う人もいるが、日本料理は塩分が割と高いので、余りおすすめはしない。ほんとに軽食でいいんだ。茶碗一杯の白米と茶漬けの素一袋あればそれでいい。
朝飯ついでに弁当を二人分作りつつ、頃合を見て紅葉を起こしに行く。
「紅葉ー、紅葉さんやーい。朝だぞ〜、飯だぞー」
扉をノックして呼ぶが返事がない。ただのしかばnじゃなかったねぼすけのようだ。
別の手段として、扉ノックを超高速で啄木鳥のようにやるも効果は無い。最後で打ち所間違えて思いっきり骨に響いたから痛てぇ。
「最後の呼び出しだー、紅葉ー、起きろー」
扉を運命の如くノックしても返事が無いので、扉を開けて入る。普通なら寝ている女の部屋に入るなんてイケナイ事のようだが、ここは仕方が無いということで。つーか紅葉の使ってる部屋元は俺が使ってた部屋だし。よし、正当化完了。コレで謎の罪悪感は消え去った。
部屋の中は、窓も閉めてあるから真っ暗。扉から入る光と、俺の百八の特技の一つ『暗視』を利用して見渡すと、前の家よりは綺麗に整っている。まぁ、間取りの問題もあるが。
ここは、この家に数少ない洋室なので、床が畳ではない。つまり、ベッドが設置しても問題無い部屋なのだが……目の前のベッドは想像を超える大きさだった。
紅葉が寝ているベッドは、普通にめちゃくちゃ大きかった。天幕があるとかお嬢様か何かかよ。そして多分キングサイズのベッド。
起こす為に天幕を捲ると、すやすやと寝息をたてている薄着の紅葉。
「おい、紅葉、起きろ。今起きないと、後悔するぞ」
それでも、紅葉は起きません。
呼んでも起きない。ならば揺らすか触ればいいと思うが、それはさすがに駄目だと思う。だから俺は、|対寝坊助装備(爆音ホーン)を取り出す。ついでに耳栓も取り出す。
「数多(主に三人)の寝坊助を夢の世界から引きずり出したこの爆音を聞くがいい……」
耳栓を耳に填めて、準備万端。
…………ファーーーン!!!!!!
部屋中に爆音が響き渡る。耳栓をしてても聞こえてくる音は目の前の寝坊助を起こすには十分な威力だったようだ。
「ふにゃぁぁぁぁ!!!」
猫みたいな声とともに、紅葉が飛び起きた。辺りをキョロキョロと警戒した猫のように見回し、情報整理をすること五秒。俺の存在に気づいた紅葉は、俺にガンを飛ばしてくる。
「奏士……夜這いにはまだ早い」
「まだ寝ぼけているようだな。もういっちょかましとくか?音がダメなら物理なんてどうだ?効果抜群だぞ」
紅葉はブンブンと頭がちぎれそうなくらい横に振る。最初から言わなきゃいいのに。
「朝飯だ。はよ来い」
「ん、ありがと」
紅葉は、微かな礼を言うと、ベットからのそのそと出て、そのままタンスへと向かう。
そして、そのまま服を脱ごうとしーー
「……何、してるの?」
服を脱ごうと掴んだ手の動きを止め、こちらをジト目で睨んでくる。
「何って……また寝ないように見張ってるんだけど?」
紅葉が遅刻したら俺の監督不行届として、俺が悠ちゃんから制裁をくらっちゃう。そうでなくても、俺は最後に出なければ行けないので、紅葉が出てくれないと俺が遅刻しちゃう。
「……着替えるから、出てって」
「……………………ああ、そういう事ね」
そういや、女も男も着替えを見られるのは恥ずかしいんだっけ。俺は一人暮らしで誰も居なかったし、悠ちゃんとか関係無しに脱ぎ始めるからそこら辺麻痺ってた。ちなみに、酔っても脱ぐ。他にも泣く・笑う・愚痴る・脱ぐ・泣く・甘える・抱きつく・吐く等がある。悠ちゃんにお酒はダメ。ゼッタイ。見た目的には完全に犯罪なんだよなぁ。脱ぐと泣くが二回あった気がするけど気にしない。
「部屋の前で耳栓して待ってるから、ちゃんと起きて出てこいよ」
「わかってるから、早く行って」
紅葉が身近な硬物に手を伸ばし始めたので、スタコラサッサと部屋を出る。そうだ、行き遅れの悠ちゃん達はともかく、紅葉は立派なお年頃。ちゃんとしなければ。
……アレ? お年頃って下ネタとか無遠慮に吐く人のこと言うんだっけ?
耳栓を填めて、着替えの音が聞こえても記憶に残さないように何も考えずポケ〜っと突っ立ってると、背後の扉が開き、制服姿の紅葉が出てくる。
「終わったか?」
「ん」
何時もの一文字返事を確認し、一応、うがいさせた後にリビングへと向かう。ほら、寝起きって口の中ベタベタするし。歯を磨くのがいいんだけど、今日はそんな時間無さそうだから。
今日の朝飯はハムエッグトーストとオニオンスープ。さっきあれほど「白米でいい……」とか言ってたのにパンを食うのは何となく食いたかったから。
「今更だけど、嫌いなものとかアレルギーがあった言えよ? 後は好みとか。考慮して作るから」
「ありがと。今日は大丈夫」
体内に入れる以上、ちゃんと配慮しないと大変なことになる。特にアレルギー。
「何か飲むか? フルーツジュース、マッ缶、コーヒー、MILKがあるぞ」
他にも裏メニューとしてドクペとかエナドリとかある。
「ミルクの発音……オリジナルブレンドのコーヒーで」
「サラッとメニューに無い注文しやがったこいつ……オリブレでいいんだな?時間少しかかるぞ」
「あるの?」
「あるよ」
HE○Oのおやっさんを真似して言ってみたが、紅葉には伝わらなかったようで、キョトンとしてる。くそっ、これが年代差ってやつか。多分同い年だろうけど。
と言うか実際、オリブレはある。配合は秘密だがな。
その昔、コーヒーと喫茶店ものにハマった時に作った。めちゃくちゃ時間をかけて。だって一から知識を入れて作ったんだもん。その変わり、個人的に気に入ってるけどな。後、徹夜とか色々役に立つ。
注文通り、コーヒーを入れ、紅葉には固茹で、俺はターンオーバーの目玉焼きを作り、朝食にする。
「……」
「……」
この時、一切喋らないのが俺たち。昨日の夕飯も無言だった。
別に、気まずいとかじゃない。むしろ、飯は黙って感謝して食うべきだと思っている。まじこどグルリスペクト。
飯を食い、紅葉は食器を流しに置いて洗面所へ。俺は食器の片付けを。
紅葉のように、ほんとに小さい事だけど食器を片付けてくれるってありがたい。悠ちゃんとか食っても片付けない。むしろ、俺がつい代わりにやってしまう。もしかしたら、悠ちゃんが結婚できない原因の一つは俺が甘やかしたからかもなぁ。
でも、あれで家事はちゃんとできるんだよ?後片付けをしないから「休日に家事を手伝うも、余計に仕事増す夫」みたいな感じだけど。
※これはあくまでわかりやすいようにしたイメージです。別に夫=家事できないと差別している訳では無いので、そこんとこよろしく。
でもなぁ……うちの一族、女より男の方がしっかりしている割合多いんだよな。あ、うちの親父は例外。あれは正真正銘人間のクズ。
現在、八時半。お互いに、朝やることは終わらせたので、紅葉は学園、俺はギリギリまで自宅待機。ほら、一緒に行くと噂とかうざいし。主に『あの人誰?』とか。
ちなみに、洗濯物は一応気を使って、紅葉の分は自分で干してもらった。ほら、俺は平気でも相手は年頃な訳だし……下着とか単なる布でしかないと思うのは俺だけかなぁ?
あ、二次元の下着は単なる布じゃない。聖なる……性なる布だ。ちょっと上手いこと言った。
朝は時間が過ぎるのが早く、気がつけばもう出る時間になっていた。
戸締りを確認し、靴を履いて外に出る。そして玄関に振り向き、
「行ってきます」
その一言は一度も言い忘れたことが無い。祖父と二人暮ししていた頃、あのころは俺も小さかったので、家に誰かが待っていてくれるというのはとてもありがたかった。祖父は、俺が帰ると「おかえり」と言い、俺が出ると「行ってらっしゃい」と笑顔で言ってくれる人だった。もう、祖父は他界した為その声は聞こえないが、これだけはずっと欠かさないようにと、あの日、祖父が俺を引き取った日に決めた。これは、何もしてやれなかった俺が出来るせめてもの報いだ。
自転車に跨り、学園へと向かう。紅葉とは一日目にしてなんやかんやあったが、今日も変わらぬ一日が始まる。
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そして放課後
ほんとに何も無かったから一気にCUT!!で放課後へ。
今日も今日とて生徒会に休みは無い。休日出勤も余裕であるとかブラックだ。リクルートサイトでも見ようかなぁ……学園のリクルートサイトとかただの学園公式サイトだな。
現在、生徒会は会長と副会長の二人しか存在しないので、会計の仕事などは俺達がやることになる。単純計算は大得意だから別に苦でもないのだが……多いな。部活予算に学園予算、特に、部活予算は毎回要請が耐えないらしい。
俺も任期は短いが、目安箱に毎回入ってた。そして皆欲深い。中には無関係の予算申請も入っているから余計にイラつく。
とにかく目安箱は終わったのだが、金額計算がまだ残っている。めんどくせぇ……
「奏士、手が止まってる」
「んああ、悪い。ちょっと考え事をな」
軽く流して仕事に戻る。
目の前には大量の書類と記入書。それと長時間の計算。
さすがに俺一人では電卓を使っても時間がかかるな。さて……出番だ
(……お呼びかい?)
ああ、ちょいとお前の分を借りるぞ。
(さっさとやれよ?)
俺を呼び出して脳の計算領域を借りる。昔練習したかいがあったぜ。これさえ出来れば家計簿をつけるのも楽々だぜ!俺家計簿つけてないけど。
まずは書類の数字を読み取って脳へと送る。それを次々に俺の計算機に入力して整理する。その数値を記入していく。一見すると書類を観て直ぐに書いているように見えるが、こんなことをやっているのだ。この時、自分を″生物″では無く″機械″だと認識させる必要がある。それと、もう一つ問題がある。それは『一度途切れると全てやり直し』ということだ。
計算の答えはあくまで一瞬の間記憶しているに過ぎないので、直ぐに他のもので上書きされてしまうのだ。しかも、大量の数字を一度に読み取って記憶し、計算は連続して高速でされているので答えが出た瞬間に記録しないと直ぐに忘れる。しかし、その記録をする前に他のことに気を取られたり、計算を一瞬でも停止させると忘れてしまう。結構な欠点があったりするのだ。どんな凄いことも、欠点無しってのは無いのだ。某第一位だって触らなければ効果無しってやつがあるし。
他のやり方があるとか普通に電卓使えとか言われるだろうけどさ……こっちの方がなんかいいじゃん。電卓とか使うより早いし、買い物の計算にもなる。
と、俺が並列思考を行っているうちに俺の仕事は終わった。先に始めた紅葉も終わったようだ。
「奏士は終わった?」
「今終わった。茶でも飲むか?」
紅葉は無言で頷く。隣の給湯室には色んな飲み物と小型の冷蔵庫が置いてある。ちなみに、役員が自分で持ってきて置いても良いそうだ。
私物の茶葉の中から気分で選んでポットに湯を注いで蒸らす。この時、ちゃんとカップも温めておく。
「出来たぞ」
出来たらポットとカップを盆に乗せて机まで持っていく。そして注ぐ。この瞬間ってなんかワクワクするよね。
「あ、そうだ。ついでに……」
今日食べようと作って来たマドレーヌをカバンから取り出す。お菓子作りは好きなのです。なんせケーキをワンホール自作して平らげるレベル。糖尿病は気をつけてます。
と、視線を感じてふと見ると、紅葉が目を輝かせてこっちを見ている。仲間になりたいのか? 普通に違うな。
「……食うか?」
紅葉が無言でコクコクと頷く。上機嫌な紅葉さんですこと。
菓子と紅茶という役者は揃った。ならば放課後ティータイムにしましょう。
と、紅茶を飲もうとカップを持ち上げた瞬間、生徒会室の扉が勢いよく開いた。
「失礼しますわ!」
なんかとんでもなく濃いヤツが来た。
見た目は黒髪ロングで姫カットのお嬢様で、口調もお嬢様。そこは清楚な丁寧語であれよ。なんで口調だけアントワ? それが元祖がどうかは知らんが。
紅葉は無言で立ち上がる。そして来訪者の両肩を掴んで
「帰って」
そう言って押し返した。扉を閉めて鍵までかけた。
「あれ!? 開きませんわ! 紅葉さん!開けてくださいまし!」
ガチャガチャとノブをひねる音とドンドンと扉を叩く音が響く。紅葉は無視してマドレーヌを食べ始める。分かるぞ。お前、さっきあと数センチで食べられたもんな。
と、外は無視して俺も再開すると、鍵が開く音が聞こえた。おかしい。鍵はここにあって、他に無いはずだ。
「まったく、鍵まで閉めるなんてどういうおつもりですの?」
「まずあんたがどういうおつもりだよ」
何故か再び入ってきたこの女。よく見ると、右手にピッキングツールを持っている。なにしてんのこいつ。
「おい、そこの不法侵入者。今すぐそのツールを置いて帰れ」
「お断りしますわ! それに、これは淑女の嗜みですの」
「淑女ってのは空き巣のことを言うのかよ」
淑女がいつピッキングを使うのだろうか。夜這いしか思いつかない。
案外肉食なのかと思ったけど、清楚系お嬢様は肉食系なのが多いことを思い出した。それじゃあ仕方ないな。それよりもーー
「これ誰?」
「……風紀委員長」
こんなのが風紀委員長やってるとか世も末だなと思ったけど、|紅葉(生徒会長)も似たり寄ったりだということを思い出した。
その風紀委員長は手を前に翳してポーズを作って堂々と自己紹介を始めた。
「その通り! 私は二年の日向小百合、紅葉さんのライバルですわ!」
「と、仰ってますが本当は?」
「別に、そんなことは無い……」
紅葉に聞いてみたが、やっぱりこの人の一方通行だったようだ。可哀想に。
と、俺が委員長を哀れんでいるとその背後から一人の男が現れた。
「やぁ、そろそろ僕もいいかな?」
「っ!」
委員長の後ろから現れたのは糸目でくせっ毛の男。こいつはヤバい。俺の危険信号が鳴り響いている。
「僕はこの人と同じ風紀委員の二年、神鳴だよ。よろしく」
「私を″この人″呼びは辞めなさいと何度言ったら分かりますの!?」
すかさずツッコミを入れる委員長。そしてその姿を観て笑っている付き人。やはりこいつはーー
「ね? この人ちゃんと律儀に反応してくれるから面白いでしょ?」
ドSだな。しかも、上司で遊ぶけど仕事は出来る厄介型の。
「で、何用だ? 俺はこれから放課後ティータイムなんだが」
「あら、それはごめんあそばせ」
あっさりと謝るお嬢様。いい教育してんなー。
「ごめんねぇうちのKYが。どうしても行くって聞かなくてさ〜」
糸目の男は委員長を擁護するフリして容赦なくdisる。その精神、嫌いじゃない。
どうやらこのドSは、人を痛めつけることよりも、人をじわじわと言葉やら動きやらで責めるのが好きな誘導責めタイプのようだ。わかる。人を痛めつけるのってなんか嫌だもんね。言葉責めならやりやすいし、俺の作通りに追い詰められていく人を見ていると……ゾクゾクする。
「要件を言え。早くしないと紅茶が冷めるし紅葉のイライラがMAXで限界突破するぞ」
「そうでしたわ……別に、要件なんてありませんわ」
「じゃあ帰れよ。つーか来んなよ」
何しに来たんだこの人達。
「いやねぇ、なんか『あの紅葉さんが生徒会に新しい人を入れたですって!? 一つ、お顔を拝見に行きますわよ! 神鳴』って言い出してここまで僕を無理やり……」
「何勝手にバラしてますの神鳴! それと、貴方サラッと嘘を混ぜないでくださいまし!?」
何やらコントが始まった。これくらいじゃ俺は笑わねぇぞ。
「ま、まぁ神鳴の処罰は後々……それよりも貴方ですわ! 奏士さん」
おーい奏士さーん? お呼びですよ〜
「あ、な、た、ですわ!」
折り畳んだ扇子で頬をグリグリされた。地味に痛い。
「そうか、とりあえずこれあげるから帰ってくれ。出口は回れ右してすぐだから」
「これくらいで私がーーこれはっ!」
お嬢様に渡したのはマドレーヌ。表情を見る限り、どうやらお気に召したようだ。
「あ、これはあんたにも」
「おやおや、これはどうも」
一応隣の従者にも。
「では、こちらからもお近付きの印に」
従者が何か取り出ーーそうとしたところで見覚えのある外装を見て止める。
「待てやコラ。その缶詰を今すぐしまえ」
「おや、バレちゃった。残念残念」
ドSはケラケラと笑いながらその缶を隣のお嬢様に渡した。
「なんですのこれは」
「シュールストレミング」
慌ててお嬢様が缶を持った手を上にあげる。上に上がった缶はそのまま重力に逆らうことなく落下する。それを床に着地するスレスレでキャッチする。
「受け取ったね? それを」
しまった。やつはここまで計算していたのか。確かに、一度受けとった物を返すのは失礼だ。受け取ろう。
「まぁ、有難く受け取っておくよ。でも、後で覚えておけ」
「いや〜怖い怖い」
笑うドSが一人と、その後ろでそれを睨むお嬢様。
と言うかなんだか手のひらの缶詰から異様な威圧感を感じるんですけど。これ、開けた瞬間エンカウントとか無いよね?俺ひのきのぼうすら装備してないんですけど。
「しっかしどうやって食おうか…………紅葉、食うか?」
「いらない」
紅葉は離れた場所でプルプルと首を振る。奴め、逃げやがったな。
それよりもーー
「あんたら異様に中がいいけど、幼なじみか何かか?」
さっきからちょいちょい喧嘩(軽くあしらわれているけど)してる二人だけど、お互いにこの状況を楽しんでいるように思える。
「なんだ、そんなことですの」
「そういや言ってなかったね」
二人は、いつもの事のように答えた。
「知っての通り、私の家は由緒正しき家系ですの。俗に言うお嬢様ですわ。そして、彼は私の言わば従者。傍付きですの」
「僕の家計は、代々この人の家計のボディガード的な事をやっていてね。昔からの知り合いだし、幼なじみというのもあながち間違ってないのさ」
「ふーん」
成程ね……傍付きか……主人を玩具にする傍付きも居るんだなぁ。
「ちなみに、僕達は許嫁でもあるよ」
「許嫁ねぇ……許嫁?」
「ええ、私たちの親が決めた婚約者ですの」
成程……お互いに相性は良さそうだし……将来安泰のリア充か。ならば話は変わってくるな。
「つまりあれか? お前達態々生徒会室にイチャつきに来たのか? ならば今ここで殺す」
「違いますわ! 私はもっと二人きりのほうがーー」
と、言いかけて真っ赤になる自爆お嬢様。成程、人気のない場所がご希望と。
と、従者が近寄って耳元で話しかけてくる。
「ね? 彼女、弄りがいがあるでしょ?」
「お前、いい性格してるわ……」
「後、これは選別だよ」
「選別?」
そう言うと、従者君はポケットから藁人形を取り出した。
「え、何? まさかの想いの籠ったプレゼント?」
「君とは同族の匂いがするからねぇ……今後ともよろしくってことで」
藁人形を受け取る。軽いはずなのになんか凄く重いんですけど。後、なんか黒い。色自体は藁の色なんだけど、オーラ的なものが黒い。
「それじゃあ僕達はそろそろ帰るよ。バイバーイ」
床にうずくまって顔を真っ赤にしている主人を引き摺って部屋を出る従者。雑だなぁ。
「何しに来たんだあいつら……」
なんかどっと疲れた。もう帰りたい。
「紅茶……冷めちゃった」
紅葉の呟きでカップの紅茶を見てみると、湯気はすっかり消えて若干塵が浮かんでいた。
捨てるのも入れ直すのももったいないので、カップの紅茶を飲み干して、口直しにマドレーヌを入れる。うん、美味い。
一息ついていると、放課後のチャイムが鳴る。これで合法的に帰れる。
「そんじゃ、帰るか」
俺がそう言いながら立つと、紅葉は慌てて食べかけのマドレーヌを口に入れる。一応待ってやるって。
「今日の夕飯に何か食いたいのあるか?」
「……麻婆豆腐」
「だったら、豆腐買いにセイミヤ寄って帰るか。鍵、渡しとくか?」
「大丈夫、私もスーパーに用がある」
二人並んで廊下を歩きながらする何気ない会話。今までに経験したことの無い状況に若干戸惑うが、今までに培ってきた|経験(妄想)で何とか対応する。うん、やっぱり俺の人生にこれ以上新キャラとか要らない。名持ちは数名で十分だな。疲れるし。こんなイベントとかめんどくさいし。
その後、スーパーで紅葉と買い物をしていると妙な視線を感じた。というか、レジのおばちゃんに『同棲してるの? 最近の子は積極的ねぇ』という変な勘ぐりされた。そんなんじゃないですとは言えないのが悔しい。
夕飯を食べて、何気ないやり取りをして、この前のようなイベント発生もなく、お互いに床に就く。
俺が寝る頃には、すっかり二時半を回っていた。草木も眠る丑三つ時だ。
それにしても許嫁ねぇ……今どきは殆ど無いと思っていたけど、まだ残ってるもんなんだな。しかも、美男(という訳では無いが、少なくともフツメン以上)美女(確定)の学生カップル……死ねばいいのに。
その日の夜中に、何故か『カーン、カーン』という、謎の音が鳴り響いたとか、二つの燃える人魂を見たとかそんな噂が広まったが、俺は何も知らない。
次回は二十日の0時更新! お楽しみに




