同棲は実際にやったらドキドキもワクワクも無い
茨城県某所ーー
ピーンポーン
とあるアパートの一室にチャイムの音が響き渡る。それに答えた声は少女の「はい」という最低限・最小限のみ。
「すぃゃっせー。お届けにあがりゃっしたー」
「……」
宅配便はマニュアル通りの対応をし、少女……紅葉はいつも通り無言で首を動かすだけのお礼を伝えると、受け取った大きな段ボール箱を自室へと運ぶ。
「……」
紅葉は心做しか目を輝かせ、多少の興奮が見れる。
段ボール箱を開けると、入って居たのはタペストリーと抱き枕カバー。よくある裏表でプリントが違うエロいやつだ。
「……」
紅葉はカバーとタペストリーを袋から取りだし、タペストリは新品専用スペースに掛け、カバーは天井から垂らしてある跡が残らない洗濯バサミに挟んで吊るし、一度拝んでからツイッターに上げる為の写真を取り出す。
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ……
もういいだろってくらい紅葉は写真を撮る。このグッズを買って写真を撮る行為は、紅葉の楽しみだった。
写真を撮り終えた紅葉は、グッズをもう一度同じ袋へと皺・擦れ・縒れ一つ無く、開封する前のように綺麗に仕舞い、保管場所へと向かう。が、当たりを見回して気付く。
「……スペース……足りない?」
そう。予め床を補強し、広めの3LDKにしておいたとはいえ、住み続けてかれこれ数年。既に最低限の生活スペース以外はオタグッズ等で溢れ、歩くための道一本を覗いて埋まっていた。一人暮らしで全部屋一人で使えるとはいえ、ここまで増えるとなると新たな部屋を探すしかないだろう。その後の部屋でも同じことが起こる気しかしないが。
「……なんとかしないと」
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「うぃーっす」
今日も今日とて生徒会。もうあの頃のようにバックれる気もしなくなった。というかできない。もしそんなことしたら悠ちゃんからの制裁が待っている。
それ自体は怖くない。ぶっちゃけ悠ちゃんの攻撃を食らっているのは普段だけだ。しっかりと構えればなんてことは無いんだけど……精神攻撃 (トラ)を蜂の巣になるレベルでかましてくるからそれだけは絶対に避けなければならない。
ちなみに、(トラ)とはネコ科のガオーって方じゃない。トラウマである。ちなみに読み方は黒歴史。ほんとマジやめて。全俺が泣いちゃう。そして全米が鼻で笑っちゃう。バカにすんなおい。
扉を開けると生徒会室にはいつものように紅葉が一人。いつもなら何か飲みながら読書(と言う名の発情が大半)をしているのだが……今日はパソコンと向き合っている。
「何やってんだお前」
返事がなかったので、机の向かい側に寄って問いかける。さすがにこの距離では気付いたようだ。
「おはよう奏士……と、理事長?」
紅葉が挨拶の途中で視線を下の方へ移す。その視線の先には我らが理事長。
俺の左手には現在、理事長が抱えられている。ついさっき来る途中でエンカして「ついでに連れてけ」と言われたので渋々……まぁ別に重くないからいいけど。
「オッス!オラ悟○!workworkするぞ!」
「あんたサ○ヤ人でもなんでもねぇだろ。それと、ちゃんと仕事はするから早よ退かんかい」
「じゃあ下ろせ」
「じゃ、手を離すぞ。「ちょっとま」はいそーれ」
「ぎゃふん!」
俺が解放すると同時に、重力に逆らえない悠ちゃんは床に腹から落ちる。ドスン!って音がした。なんかスッキリした。
「ま、このロリっ子は「おいコラ」ほっといて、何してんのお前」
「……部屋探し」
「なんでまた大学生一歩手前の夏休みみたいなことしてんの」
「……はっ!監禁場所……」
「はっ!じゃねぇよ」
悠ちゃんが狙い違いすぎて数打っても当たらなそうな回答をする。ちょっと黙ってろ。
「……部屋のスペース……足りなくなった」
「成程、グッズが溜まったか」
「ん」
有るよなーそういうの。いや、俺はまだまだスペース残ってるけど。今何部屋使ってるっけ……あ、自室抜いて二部屋か。良かった、まだ余裕はあるな。死ぬまでに使える部屋が全て埋まるかどうか知らんけど。
「一人暮らしって全ての部屋使えるから便利だよな」
「そ…………私、一人暮らしって言った?」
紅葉は何か言いかけるとちょっと引いた。そしてちょっと睨んできた。やめて傷つく。
「え、違うの?」
「……」
紅葉は無言で首を振る。……これ肯定ってことで良いの?一人暮らしってことで良いの?
「……知ってるあたり、やっぱりストー」
「カーじゃねぇって前にも言っただろ。そして前にもやったぞこのネタ」
「お前自分でネタって言ったな」
悠ちゃんが何か言ってるけど無視だ無視。
「態々学生が部屋探しとかしてんならそれは大抵一人暮らしだろ。普通の引越しなら、親が勝手に決めるもんなんじゃねぇの?知らんけど」
「……まぁ別にいい」
「いいのかよ」
こういうざっくりしてるところは割と便利ですよね。皆も後を引き摺らず、サクッと行きましょうね。
by 十年以上黒歴史を引き摺る男
何この説得力の微塵も無い言葉。どっかの新聞かよ。
ちなみにウチは茨城新聞派。超どうでもいい。
「ずっと探してるけど……今住んでる場所よりも良い場所はなかなか無い」
「ちなみに、今の条件は?」
「今住んでるのが3LDKだから……4か5は欲しい。あとはなるべく角部屋・一階・床補強」
「結構良い所に住んでるな……家賃は?」
「別に気にしない」
「まぁ、茨城は割と家賃安いからな……前に調べたら、紅葉が住んでるような環境で六万行かないくらいだったし」
「どっちにしろ、自分で払えるから大丈夫」
「それならいいか……つっても、ここらのアパートは基本、学生レベルだったり、赤子連れの三人家族レベルだからな……」
「……あ!」
突然、今の今まで寝っ転がっていた悠ちゃんが起き上がり、なんか言ってる。怖い。この人がこんなことする時は大抵ろくでもない。
「どうした悠ちゃん。構って貰えなくてとうとう壊れたか?」
「ちゃうわ! そうじゃなくて……一つあるぞ」
「そんな物件あったかなぁ」
暇つぶしにここらの物件見ることはよくあるけど、なかったはずだが。そして俺は相変わらず暇だなぁ。
「奏士、お前の家だ!」
「よし、俺はちょっと耳がおかしいみたいだ。もう一度言ってくれ」
「奏士、お前の家だ!」
「あれぇ? まだおかしいな。もう一度言ってくれ」
「奏士、お前の家だ!」
「……もうい」
「いい加減現実を受け止めろバカタレ」
良かった。ちゃんと区切りつけてくれた。このまま無限ループするところだった。
「じゃなくて、バカ言うな悠ちゃん。俺の家は俺のテリトリーだ。随意領域だ。対精霊装備だ。そんなところに他人が居るとか断固拒否する!」
「……こんな男の家に年頃の美少女が住むなんて考えたくない。理事長、何かあってからは遅い。考え直すべき」
「何も無いことは私が保証するから安心しろ。それに、奏士の家は馬鹿みたいに広いくせに一人暮らしだから部屋が余りまくって仕方ないんだ。だったら、同居って形で住めばいいだろ」
「同居ってか居候だろ。生活費はどうすんだよ。細かい仕分けとかめんどくさいぞ。電気代・ガス代・水道代……使う量は個々人違うんだから払う金も変わってくるだろ」
「そうさな……あ、じゃあ、毎月の初めに生活費諸々徴収して、その時にどれくらい使ったか確認して、その後差額分返せば?」
「ぶっちゃけ引き落としだから面倒臭いが……まぁそこら辺は後々か」
なんなら、俺が全て払うことも出来なくはないが……こういうのはしっかりと金払わせた方がめんどくさくないからなぁ……下手したら払わないことをいいことに使い放題なんてこともあるかもだし。
「奏士の家は部屋も多いし学園からも近い。そして家主は女に手を出さないチキンだ」
「チキンって言うな。興味無いことになぜ手を出す必要があるんだよ」
「な?」
「ん。チキン。プライドチキン」
悠ちゃんの問に紅葉はあっさり肯定する。
「お前らムカつく。何? こいつら殴っていい?俺は女だろうと戸惑いなく顔面を殴れる男でありたいと思っているぞ」
「そんなことできないくせに何言ってんだ。まぁ落ち着け。ついでに餅つけ」
あ、ぺったんこ。ぺったんこ。悠のお胸はぺったn
「バレットパンチ!」
「効果はいまひとつ!」
悠ちゃんに思いっきり顔面を殴られそうになったので、全力で避ける。さながら顔のパーツとか帽子とか置き去りにするスピードで。別に帽子持ってないけど。
「まぁ落ち着け奏士。何も悪い話じゃないぞ。ちょっと耳かせ」
「あ?なんだよ」
悠ちゃんの高さに合わせてしゃがむと耳に口を近づけて
「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「てめぇ耳元でそれやりたかっただけなら今すぐ泣かすぞ」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」
日々、グリップやら包丁やら柄やらムスコやら握って鍛えた握力MAXで悠ちゃんの頭蓋骨を握りつぶす。さすがに加減してめちゃくちゃ痛い程度にしてるけど。そもそも俺の握力で頭蓋骨割れるのか知らねぇし。
……………………いや日々ムスコ握ってる訳じゃねぇぞ?あれだ、言葉の綾ってやつだ。丁度いい例えがあったから付けたってやつだ。
「はぁ、ま、まぁ、ぜぇ、今度こそちゃんとするから……」
本当かよ。
開放された悠ちゃんは肩で息をし、俺は指をコキコキ鳴らす。
再び悠ちゃんが俺の耳に近付いて
「(お前、そろそろ他人との生活に慣れろ。お姉ちゃんとしてはせっかくできた関係をもっと伸ばして欲しいと思うわけよ)」
「(誰が姉じゃ馬鹿者。他人との生活とかあんたらがしょっちゅう俺の家に泊まるだろ。それで慣れたわ)」
「(私達は昔から知ってるんだからノーカンだ。身近でもなんでもない赤の他人と多少の関係を持ってみろ。お前、未だに私達+花伝以外とまともに話してないだろ)」
「(人間関係なんて必要最低限で十分だろ。第一、人が気にかけていられるのは六人くらいまでらしいぞ。既に六人達成してるからなもういいわ)」
「(ゴチャゴチャ言ってないで同年代の女と同棲してみろ!お前はただでさえ他人と距離取りすぎてるんだから、もう同棲レベルのクロスレンジじゃないとお前、どうせそのうちフェードアウトするだろ。現実の女に恋をしろとか恋人になれとまでは言わないから、せめて、まともに話せるレベルにまでなれ!)」
「(紅葉とは普通に話せてるだろ)」
「(あれは傍から見れば口喧嘩しているように見えるぞ)」
「(マジかー)」
俺らってそんなふうに見えてたのね。俺としては普通に話してる感じだったし、紅葉もそんなニュアンスで接していたからてっきり……
「(待て、俺と紅葉の関係知ってるのって俺たち三人とあとはこの前の依頼主とあとは投書の知らん人と教員の数名しか居ないだろ)」
「(そうだ。その数名の代表の私が見て、そう思ったんだ)」
「(クソが)」
とりあえず、俺の方はわかった。本当は嫌だけど、本気で勘弁して欲しいけど、しょうがない。頼む、紅葉さんは拒否ってくれ。
「紅葉、悠ちゃんの言う通り俺の家に越してくるか?断っても別にいいんだぜ? むしろ推奨」
「…………分かった」
「お、拒否だな?よし、当の本人がそういうならしょうがないな。ということでこの話は無かったことにーー」
「……お前、これ以上無いくらい嬉しそうなオーラだな。せめてその不満顔変えてから出せ」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」
だってデフォだもの。
「わかった。奏士は手を出さないのは接してわかってきたからそこは信じる」
「あ……あのぉー紅葉サン?」
「奏士の家に引っ越す」
「早まるな!決断をよく見直せ!」
「奏士の家は広い。そして部屋は有り余ってる。家主はリアルガールに興味無し。なら、同居してもいい。背に腹は変えられない」
「お前今腹守るために頭でガードしてるぞ」
「それじゃ、この話は決定ってことで」
「待って悠ちゃん!終わらせたらアカン!」
「大丈夫、私、これでも生徒会長を数年やってきた。人を見る目は有るつもり。奏士なら大丈夫……たぶん大丈夫。大丈夫だと思う」
「関白宣言か」
そこで自信無くすなよ。俺は自信たっぷりに言えるぞ。
「今どきのやつに伝わらないツッコミはよせ。ただ滑るだけだ」
「うるせぇ」
「奏士はほっといて、引越しの手続きとか準備しないとな」
「ん。日程とかも」
「忙しくなりそうだなー」
「とりあえず、業者に予約入れてくる」
「ねぇちょっと?家主抜きで進めないで?」
なんだよけものは居てものけものは居ないんじゃなかったのかよ。ここにのけもの居ますよ〜誰かー僕はここだよー
「あ、奏士」
「ンだよ」
紅葉がいつものようにぽやんというかなんというか雲のように掴めない表情で話しかけてくる。俺は警戒する。もうこれ以上面倒ごとは増やしたくない。
「引越しの準備。グッズで溢れかえってるから、手伝って」
「はぁ?」
思わず全てが四角い世界の村人さんみたいな声が出た。なんで俺は「村人狩りじゃぁ!!」とか言って皆殺しにして村乗っ取りとかやってたんだろう。後はわざと敵を引き付けて「ヒャッハークソAIMどもが」とか考えながら舐めプしてた。ほんとに何してたんだ俺は。
「1人じゃ、終わらない……後、サボり防止のために」
「…………はぁぁぁぁぁ。わっーた。わーったよ。やるよやればいいんだろ。手伝えばいいんだろ」
鼻から俺に選択肢は存在しなかったようです。何このクソゲー。選択肢ないならシナリオとかグラフィックがいいはずだろ?くそシナリオにリアルすぎるグラフィックとか売れねぇわ。でも、全人類が所持してんだよなぁ。
「一応確認だが、グッズだけでいいんだな?」
「ん。タブとか私服とかそっちは自分でやる。グッズの方を手伝って。指示は出す」
「……了解」
良かった。ちゃんとやるところは指定してくれた。これで「全部」なんて言われたら困惑しちゃうぜ。主にこいつの羞恥心とか危機管理能力が心配になる。
「それじゃ、大した仕事もないし、今日は解散!」
「おつかれしゃーったー」
「お疲れ様でした」
決まったことは仕方がない。過去を変えるには時を遡るか未来を操るしか無いのだから。俺には時計型の精霊も、支配能力も無い。従うしかないだろう。あ、帰りにメロブ寄っていこう。
つーか最初に仕事って言ってたのに今日の仕事無かったのな。なんだったんだよアレは。
…………多分その場のノリだろうなぁ
今回は投稿できないと思っていたけど、頑張れば何とかできるものだね。忙しかったけど、何とか特急でかけてよかった〜




