約束からはじまる 02
「なにかあったみたいですね」
「そのようだ」
「私も……早く動けるようになって、頑張って、役に立たないと……」
自らに言い聞かせるように声をこぼしたメリーの手が、再びラトスの服をつまんだ。先ほどより強く、握るようにつまんでいる。ラトスはその細い手を見て、小さく息を吐いた。
「頑張る必要はない」
ラトスはため息混じりに言ってみせると、背にいるメリーの身体がかすかに揺れた。
「……頑張っても、無駄ってことですか?」
「そうじゃない。出来ることを、出来る限りやっていけばいいんだ」
「それが、頑張るっていうことでは」
「違うな。あんたの言う『頑張る』って言葉は、『無理をしてでも良い結果を出す』って意味だろう」
真に信じられるのは、実力以内の力である。
無理やりに働き、偶発的に良い結果を生んだ力というものは信じるに値しない。それが次も出来るという可能性が低いためだ。しかし「頑張る」という呪いの言葉に縛られた者は、頑張ろうとして突飛な行動を起こす。呪いを祝いと信じて、良い結果だけを掴み取ろうとする。
「出来ることを出来る範囲でやっている奴のことは、周りが助けやすいってものだ。そいつのなにが不足しているか、分かっているからな」
「……そう、かもしれません」
「つまりなにが言いたいかっていうと、もう少し周りを見ろってことさ。そうすりゃ、動けなくなるまで疲れずに済むかもしれんからな」
「……面目ないです」
ラトスの背に、メリーが額を押し付ける。表情こそ見えないが、無理をしてスータロスと対峙したことを反省したらしい。ラトスは頭を後ろに引いてメリーの頭を小突くと、「言い過ぎたな」と言い加えた。説教をしたかったわけではないので、これで落ち込まれてしまっては困る。
「ラトスさんは……ラングシーブで、多くの経験を積んできたのですね」
「そんなところだ」
「私も、もっと外の世界を見れば……ラトスさんみたいになれるのでしょうか」
「さあな」
短く答えると、メリーの細い指がまたもラトスの服をつまんで、引っ張ってきた。突き放すように答えたのが気に食わなかったらしい。とはいえ気の利いた言葉を思い付けるわけでもないので、ラトスは服を弄り回してくるメリーの指を放置せざるを得なかった。
しばらく沈黙がつづく。
先行しているセウラザとペルゥが戻ってくる気配はない。未だになにかを探しながら、なにかを相談しつづけていた。
「私も、行って、見てみたいです」
囁くようにして、メリーの声がラトスの首元に落ちた。




