鳥群からはじまる 01
「……さっきまで漂っていた夢魔どもはどこに行ったんだ?」
幾匹かいたはずの夢魔が、どこにもいない。遠く離れているというわけではなく、消えたようにいなくなっていた。黒い道の隅に点々といた小さな夢魔も姿が消え、しんと静まり返っている。聞こえてくるのは、ラトスたち三人分の不規則な足音のみ。
ラトスは薄暗闇を見回しながら、頬を歪めた。本能が無意識に警戒を強めたのか、背から冷や汗が噴き出してくる。ラトスの声を受けてメリーも顔を上げると、不思議そうに首を傾げた。
「夢魔がいないなら、良いことではないですか?」
「……メリーさん。悪夢の回廊なんていう場所で、突然の変化があったんだ。良いことだと思うのか?」
「……お、脅かさないでくださいよ」
肩をすくめたメリーが、佩いている銀剣に手を伸ばす。カチカチと金属音が鳴り、震えているらしいことがラトスの耳に伝わってきた。しかし気遣ってやる余裕は、ラトスになかった。徐々に空気が張りつめていき、肌が痛いほどになっていく。
「ラトス」
笑うように高い声が鳴った。目だけ向けると、ペルゥが愉快そうな表情でラトスを見ていた。すぐ傍に怖れて震えているメリーの顔があるだけに、ペルゥの表情がいつもより不気味に感じる。
「なんだ、ペルゥ」
「道の下だよ」
「下っていうのは、どっちのほうだ」
「えーっと、……ああ、もう来たみたい、つまりその、足が向いているほう!」
ペルゥの声が高く鳴る。やはり笑い声のようだと思った直後、黒い石畳に大きな振動が走った。突き上げるような縦揺れに、メリーの悲鳴が重なって高くひびく。ラトスはとっさに身を屈め、両手を石畳に付けた。
手のひらに、大きな振動と、小さく細かな振動が伝わってくる。
そのうちに細かな振動が強くなり、石畳の下から烏のような鳴き声がひびきあがってきた。
「烏の夢魔か!?」
ラトスは、石畳の端に目を向ける。
黒い影が、ひとつ。いや、ふたつ。石畳の下から飛び上がってきた。
わずかの間を置いて、無数の黒い影が飛びだしてくる。同時に石畳の振動が最大になり、無数の黒い影よりもはるかに大きい影が姿を現した。
「これは大物だー! スータロスだよ!」
状況に反した明るい声で、ペルゥが黒い影を見上げる。
「スータロス? あの夢魔に名前があるのか?」
「んー。総称、みたいなものかな。小規模な群れの親をそう呼んでるんだよ」
「……これが、小規模だと?」
ラトスは、大きな影と夢魔の群れをにらみつけた。数十、いや数百近くの夢魔が飛び交っている。これを小規模というなら大規模となればどうなるのかと、ラトスは心の内に緊張を走らせた。その緊張を破るように、再び烏のような鳴き声がひびく。




