武器からはじまる 01
飾り気のない店内は、想像以上に広く、数多くの武器や防具があった。
陳列されず、乱雑に重ね置かれている物もある。しかしそれらもすべて丁寧に手入れされていた。刃には曇りひとつなく、防具には綻びひとつない。
「これって、どういうものですか?」
傍にいたメリーが、品物のひとつを指差す。見ると、ガラス球にいくつかの細い糸が繋げられていた物が置かれていた。
「……まったく分からない」
「ラトスさんの夢の中なのに?」
「だが、初めて見たという気もしない。妙な気分だ」
ラトスはガラス球に腕を伸ばす。しかし寸でで手を止めた。あまり触れないほうがいいと、心の内でなにかが警告を発しはじめたからである。ラトスは数瞬思考を巡らし、店の奥へ足を進めているセウラザに視線を向けた。するとセウラザの目がラトスの手を見ていた。彼もまた、触れないほうがいいと警告しているようであった。
ガラス球以外にも、奇妙な武具はここそこにあった。
わざと剣身を砕いた剣や、玩具のように小さな弓もある。いずれも、ごく普通の武具と共に並べ置かれていた。どうやら奇妙な形というだけで、特別な武具ではないらしい。
「二人は、どのような武具が欲しいのだ?」
しばらくの間様子を見ていたセウラザが声をかけてきた。馴染みのない武具が多いために選び難いと気付いたのだろうか。これまでより幾分、声圧が低く感じる。
「慣れた得物のほうがいいな。メリーさんもそうだろう?」
「そうですね……、使い方が分からないものはちょっと……」
「なるほど。ラトスは短剣で、メリーは細剣といったところか」
セウラザの視線が、二人の腰付近へ交互に振られる。
ラトスの腰の裏には、短剣が二本納められていた。どちらも使いこまれているが、手入れを欠かしたことはない。引き抜いてみせると、刃こぼれも、曇りもなかった。
次いでメリーの腰には、細やかな装飾がほどこされた細剣が下がっていた。柄頭から鞘の先端まで、銀の細工と細かな宝石が散りばめられている。実戦的なものというよりは、貴族の権威を飾る剣のようであった。
二人の武器を確認したセウラザが、棚のひとつから小さな剣を選び取った。
「これはどうか?」
手渡された剣は、柄も刃も白い石のようなもので出来ていた。細部まで丁寧に磨かれていて、刃にいたっては金属のように輝いている。ラトスの持つ短剣とは違い、柄と刃はずいぶんと長かった。
「……俺の要望と違うようだが」
「それは問題ない。君の願いを剣に伝えてみるといい」
「剣に……? 馬鹿にしてるのか?」
ラトスは渡された白剣をセウラザに突き返す。しかしセウラザが受け取らないので、渋々白剣を握りしめ、じっと剣身をのぞき込んだ。
冷静になって考えてみれば、ここは夢の世界なのだ。願いを剣に伝えることなど、おかしなことではないのかもしれない。ラトスは自身に言い聞かせるようにして、白剣の柄を強く握る。すると剣全体がわずかに震えた。同時に剣身と柄が短くなっていく。
「なんだ、これは?」
「柄と刃を自在に伸縮できる剣のようだ。短剣にも、槍にもなるだろう」
「はは、これは面白い」
白剣を何度も握り直し、剣身の長さを変えていく。そのたびに風を切るような音が鳴った。もしや柔らかい素材なのかと、ラトスは刃に触れてみる。しかし硬く冷たい金属の感触が、指先に伝わってきた。押したり引いたりすることでも、伸縮する様子はない。
「ここにあるものはすべて、君にとって扱いやすいものばかりのはずだ」
そう言ったセウラザの手が、いくつかの棚を指し示す。
ラトスはうなずき、触れても良さそうなものをひとつひとつ手に取り、確かめていった。




