去る日からはじまる 01
風鳴が這いあがり、広がっている。
中央区画を目指すラトスたちは、巨大な穴を大きく迂回していた。
自身の夢の世界と分かっても、この穴だけは慣れそうもない。風鳴のような音を聞くたびに、不快感が襲ってくるからだ。ラトスは目を細めつつ、心の内で耳を閉ざした。そうしてもラトスの耳を貫く風鳴が、思い出したくもない記憶を呼び起こしつづけた。
「けっこう離れているのに、よく聞こえてきますね」
嫌悪感を隠すことなく表情に出すメリーが、吐き捨てるように言った。戦場の音と気付いてはいないようであったが、風鳴に含まれる悲痛な声などが耳に障るらしい。
「……そうだな」
「ラトスさんは本当に平気そうですね」
「平気なものか。あんたほど顔に出さないだけだ」
ラトスは遠く離れている穴から、耳だけでなく目も背ける。
直後、風鳴の音が大きく噴きあがった。耳と頬を殴りつけるようにして、震えながら広くひびいていった。驚いたメリーが跳ねあがり、傍にいたラトスの腕を握ってくる。あまりに強く握るので、ラトスは音よりも腕の痛みに顔を歪めた。
「さっさと行こう。こいつに囚われるのはごめんだ」
ラトスは顔を歪めたまま足を速めていく。腕を掴んでいたメリーを引きずる形となったが、彼女が手を離すことはなかった。ラトスもあえて振り払うことなく、風鳴を後にした。
そうして再び足を踏み入れた中央区画は、思いのほか明るく感じられた。
ラトスの家がある区域と比べてしまうこともあり、淀んだ空ですら好ましい。
しかし見渡してみると、暗闇がないわけでもなかった。生まれ出てもすぐに、周囲の淡い光が飲み込んでいるらしい。その光と暗闇が混ざりあう流れにより、上空の淀みも作られているのか。ラトスは顔を上げつつ、複雑な思いを宿した。




