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傀儡といしの蜃気楼 ~夢の世界のものがたり~  作者: 遠野月


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個からはじまる 02

「では、どうするのですか!?」



 焦りを隠すことなく、メリーの声が鳴った。ラトスは落ち着くよう目で諭したが、かえって苛立ちを募らせたらしく、口を尖らせる。そこへセウラザの腕が、静かに伸びた。メリーの視線より低く、手のひらを下へ向ける。



「別の道がある」


「どんなです!?」


「外殻以外のフィールドを通ればいい。先ほども言ったとおり、フィールドはいくつか存在する」



 そう言ったセウラザが、背負っている剣を拳で小突く。

 長い剣身で、手のひらより幅広い大剣。普通に振るうことすら叶わなそうに思える剣を見せつけてくる。夢の世界というものは、重さの概念が存在しないのだろうか。



「剣が、武器が必要になるフィールドなのか?」



 訝しむようにラトスは目を細める。セウラザがうなずき、静かにまばたきをした。



「危ない場所……というか、なにかと戦うのですか? そこで?」


「おそらくそうなるだろう」


「……そう、ならないこともあるかも?」


「一割ほどの確率で、そういうこともあるかもしれない」


「えええ……そんな、夢の世界なのに、そんなあ……」



 メリーの肩ががくりと落ちる。なんとも感情表現が忙しない。そろそろ突然泣き出すかもしれないなと想像して、ラトスは面倒臭そうな表情をメリーへ向けた。



「だがメリーさん。あんたは剣術くらい習っているのだろう?」



 ラトスはメリーが腰に佩いている剣を指差す。

 厳格な王侯貴族の社会で、女性が意味なく剣を佩けるはずがない。しかも王女の従者として剣を佩いているのだから、剣術の心得ぐらいあるだろう。



「剣術は……」



 肩を落としたまま、メリーが口を開く。細やか装飾がほどこされた剣鞘に手を当て、なにかを確かめるように小さくうなずいた。



「剣術はもちろん、出来ます」


「なら大丈夫だろう?」


「……ラトスさん、本当に分からないのですか?」


「なにがだ?」


「夢の世界ですよ。ここ」



 メリーが両手を広げ、左右に頭を振る。

 次いで表情が目まぐるしく変わり、怒っているような、怖がっているような、泣いているような、何ともいえない色を混ぜこんでラトスをにらんだ。にらむ目に、潤みが含まれている。いやこの様子だと、しばらく前から潤んでいたかもしれない。



「だから、なにが言いたい?」


「夢の世界で戦うって、危ないって、つまり、その、怪物とか! ゆ、幽霊? とか! そういう、その、悪夢みたいな! そういうことに違いありませんよ!」



 発狂に近い大声が、メリーの喉奥から吹きあがった。全身を震わせ、嫌悪感を表現している。そういえばと、ラトスはこれまでのメリーの言動を思い返した。どうやら目の前で怒り狂っている女性は幽霊などが心底嫌いであるらしい。



「……ということらしいが、セウラザ。どうなんだ?」



 ラトスはメリーから顔を背ける。面と向かって見つづけるには精神がすり減りそうな形相であった。そんなメリーをセウラザがじっと見つめる。腕を組み、何度かうなずき、一歩彼女へ近寄った。



「メリー。君の言葉は正しい」


「……え!?」


「君は、悪夢と言った。その通りだ。これから行く場所は……」



 そこまで言ったセウラザの両手が、メリーの両肩に乗る。無表情にメリーをのぞき込み、再びうなずいた。



「これから行く場所は、≪悪夢の回廊≫だ」



 近距離からのセウラザの言葉に、メリーの唇が強く結ばれていく。

 そして泣いてるのか怒っているのか分からない声を絞りだし、膝をかかえてうずくまった。

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