影からはじまる 03
長い時間をかけ、ようやく赤い明かりに近寄る。
明かりの正体は、小さな家からこぼれでるわずかな光であった。木戸の隙間に、ちらちらと赤がゆれている。暖炉のようなものがあるのだろう。
「入ります?」
明かりをのぞきこむメリーの頬に、かすかな赤が射す。
「……ああ、そうだな」
「……? どうかしました?」
「……いや。見覚えのある家だと思ってな」
ラトスは顔をしかめ、こぼれでた明かりに浮かぶ家を眺めまわした。釣られてメリーも家とその周囲を見回す。
「それって、どういう……?」
「これは……俺の家だ」
吐き捨てるように言ったラトスに、メリーがおどろく。「まさか!」と声をあげ、隙間のある木戸に目を向けた。隙間からこぼれる赤が、強くゆれている。少しの間を置いて、火の爆ぜるような音が聞こえた。
「……えっと、ラトスさん……は、この変てこな世界の出身なのですか」
「そんなわけあるか」
「でも、ラトスさんの家? なのでしょう?」
「そのようだ。だが、どうしてここにあるんだ……?」
ラトスは腕を組み、首をかしげる。すると木戸の隙間からこぼれでる赤が、再び強くゆれた。先ほどより大きい、火の爆ぜる音も聞こえる。その音を聞いた直後、ラトスは木戸から半歩退いた。
誰かが、中にいる。
火の爆ぜる音と同時に、木の軋む音が鳴ったのをラトスは聞き逃さなかった。
ラトスは腰にある短剣に手をかけ、さらに一歩退く。
「どうしました?」
メリーの声が、間抜けたように聞こえた。ラトスは彼女に手のひらを向けると、静かにするよう促した。
木戸の前で、二人が息を飲みこむ。
意を決し、ラトスが木戸に手を伸ばした。
ギイと、丁番の軋む音が鳴る。
明かりが大きくもれだし、ラトスとメリーの身体を照らしていった。




