大蛇からはじまる 01
枝葉の隙間から陽の光がこぼれ、地面をチラチラと照らしている。
昨日より顔色の良いメリーが、木漏れ日の中を軽やかに歩いていく。今日は発破をかけなくとも一日中歩いてくれるだろうと、ラトスは少し安心した。
森に入って二日。ずいぶんと森の奥へ足を踏み入れている。しかしまだ人の足が入っている痕跡がいくつか見られた。ラトスはなるべくその痕跡を辿りつつ、目的の場所へ進んでいった。人の気配があるところには、人慣れしていない獣であれば近付いてこないからである。休憩するにしても進むにしても、安全に越したことはない。
それでも正午を過ぎ、陽がかたむきはじめるころまで歩くと、人が入っているような場所は明らかに少なくなっていった。
「このあたりの感じは、何だか、見覚えがあります」
メリーが辺りを見回し、何度かうなずいた。
なるほどと、ラトスもうなずく。たしかにこの辺りから、街道までの距離が遠くなっていくはずだった。ならば今夜か明日には、目的の場所に着くかもしれない。見覚えがある風景になったからか、メリーの足取りがさらに軽くなった。
進むにつれて、森が深まり、重々しくなっていく。
目的の場所には沼があるはずだ。近くまでいけば水の流れる音が聞こえるか、匂いがするかもしれないとラトスは予想していた。しかしどれほど進んでも、それらは感じられなかった。風が流れて葉がすれあう音と、じとりとした土の匂い以外、特に目立った感覚は得られない。
存外途方もないなと、ラトスは眉根を寄せた。
すると隣を歩いていたメリーが立ち止まり、大きな声をあげた。
「倒木か」
「そうですね」
息を飲む二人の前に、巨大な木が倒れていた。それもひとつやふたつではない。広範囲にわたって古い木々がいくつも折りかさなり、倒れていた。木々の隙間には新たな草木が生えて出ていて、隙間ひとつ見えない。大きく迂回しなければ、先へ進むことができそうになかった。
それでも一縷の望みにかけ、メリーが倒木の隙間を探し回る。「行けそうか?」とラトスが声をかけると、がっかりした様子でメリーの頭が横に振られた。
直後、倒木の隙間に生いしげった雑草がかすかにゆれた。
風ではない。意思のある揺らめき。
驚いたメリーの足が止まる。ラトスは草葉の揺らぎから一歩距離を取り、倒木の隙間をのぞき込んだ。次第に草葉の揺らぎが大きくなる。明らかに生き物が潜んでいて、距離を詰めてきている。
「……ひっ」
やがてゆっくりと顔を出したその生き物に、メリーの声が引きつった。
身体を硬直させ、両肩をすくめる。
現れた生物は、巨大な蛇であった。未だ頭しか見えていないが、その頭の大きさだけでも全長の巨大さを想像できる。すでに二人に対して警戒してる大蛇がさらにゆっくり寄りはじめると、メリーの引きつった声が再びふるえた。