森からはじまる 02
嘘か、まことか。メリーは自身のことを王女の従者と明かした。そして王女を捜すために同行させてほしいと、出会ったばかりのラトスに嘆願してきたのだ。
ラトスにはメリーの身分の真偽を見抜く術がなかったが、憔悴しきっていたメリーが嘘をついているようには見えなかった。なにより、メリーの力ない瞳が演技と思えなかった。少なくとも依頼を請けたばかりのラトスに王女捜索の同行を願い出てきたのだから、城中でそれなりの立場にある者であることは間違いない。
となれば、これは好機だ。
ラトスは面倒な振りをしたうえで、メリーの同行を許すことにした。
まず欲しいのは、確たる情報である。占い師の言うあやふやなものではなく、王女失踪にかかわる本物の情報が必要だ。仮にメリーのすべてを信用するとすれば、望むものの多くが手に入ることになる。加えて、城中に仕えているメリーを利用すれば、本来の目的である復讐にも役立つかもしれない。
「信じているさ。お前が王女の最後の目撃者なのだろう?」
「……そうです」
「今の俺には、お前の言葉を覆す意味が無い。真偽を確かめるまでは信じておくさ」
「それって信じているって言います?」
「さあな。それは俺が決めることだ」
ラトスは頭を横に振り、再び森の中を歩きだした。
王女の最後を目撃したらしいメリーが言うには、王女がいなくなったのは森の中だという。それも、占い師が指示した「隠された場所」で姿を消したと言うのだ。どうやら王女とメリーも占い師の助言を得て、隠された場所へ秘かに赴いたらしい。何の目的でそこへ行ったのかラトスは問いかけたが、口外できないことであるようで、メリーの口がその問いに答えることはなかった。
ラトスを追うようにして歩くメリーの顔が、ゆがんでいる。
疲れているのか。それとも、ラトスには伝えることができない何かのために苦しんでいるのか。どちらにせよ、メリーには後がないはずであった。王女を目の前で見失っただけでなく、従者の身でありながらただ独りで城へ戻ったからだ。王女の命令で秘かに行動していたことも災いして、王女が消えた今、彼女の結果を弁護する者はどこにもいない。