第四話 魔物
イノシシが草むらの中にいた俺を嗅覚で探し出し焦点を合わせて少し低姿勢になり勢いをつける姿勢を取る
その時俺は全力で走るのを辞め足を遅らせていた
イノシシが獰猛な鳴き声を上げ頭から草むらに突っ込む
ドスンドスンと地を踏む音が脳に響く、この時になってようやく俺がその狙いに気づき焦る
全身から汗が吹き出し目が見開かれる
無論焦るだけで無く全力で体を動かしイノシシの突進を避けようを躍起するが時既に遅し
イノシシの頭が俺を捉える
腹を額で突かれ鈍い音を出す
何本か肋骨が折れる気配がした、その勢いの間体に頭を押し付けられながら真っ直ぐ猛進する
「ぐ…ハッッッーーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
足が宙に浮きくの字になる
進んでいる間思考が固まる、ただ恐怖と痛みが頭を交差するだけだ
骨が更に何本か折れた所で木に激突する
「ガハッッッ‼︎‼︎」
血の塊を吐き出して悲痛な声を漏らす
木に体が押し付けられゴキゴキと何本も骨が折れる
皮膚が潰れ中からぐちゃぐちゃになった内臓が飛び出す
俺は無くなりかけた意識に中我武者羅に抵抗を続ける
イノシシを殴る、しばらくしてもう一度手を振り上げて殴る
噛み付いたり、身を捩ったり抵抗を続けた
何度も、何度も
だが死にかけの弱々しい力ではイノシシにダメージ等通らない、そのまま意識を手放して行き……
視界が霞む、痛い、痛い、死にたく無い
こんな糞みたいな世界
糞、糞、死ぬ…嫌だ……死にたく無い
視界が暗転する、抵抗を続けていた腕がだらんと下がり目から光が無くなる
閃光が走る
イノシシの頭から脳味噌と血が飛び出して瞳孔が開く
イノシシが倒れて俺を無造作に地面に落とすとぐしゃりと音を立てて内臓と大量の血液が地面に溢れる
破れた皮膚に間から体の中の欠損した部位に及ぶまで一様に反応を見せる
肉の繊維がチロチロと伸び、他の繊維とくっつく
意識は無い
小石が多く転がる地面に横たわる、ずっと、ずっと
―――
「う…」
何が?
俺は確か……ッ
ここは?
死んだのか?
死……あ?
掌にガサガサとした何かが触れる感触がしてその方向を見る
そこには頭を穿たれて息絶えるイノシシ
穿たれた所から出て来たと思われる血はカラカラに乾いていて死んでから時間が経っているという事が分かる
一日位か?
でも、何で俺は生きてる?
体はもう痛くない、怪我はもう無いのか
服を捲ろうとする
たが、血が張り付いてなかなか取れない
ベリっという音と共に服が剥がれて体を露わにする
傷は無い、汚れて見えないけど多分無傷
何でだ?
イノシシは死んでるし、傷は治っている
ホント何なんだ?
腹が、減った
喉も乾いたし何処かにないか?
食べるか?これ?
……………まだ少し余裕はある、持ち歩くか
問題は水、これは歩いて探すしか無いだろうな
そうと決まれば始めよう
疑問は尽きない
この世界は何なのか
あの魔女は何でだ俺を喚び出したのか
イノシシが死んでる理由
俺が……生きている理由
でも、今を生きるしか無い
この糞みたいな世界を生き抜いてやる
生き抜いて宮川を殺したあいつを……
殺してやる
その為にも生きる
人とも関わりを持とう、一人では生きられない
そしてあわよくば恋人を……
いやぁ、煩悩煩悩
まぁ、でも今は生きるしか無いだろ
行こう
っと、その前に
手頃な石を割り鋭くした簡易ナイフを作り、イノシシの死骸に近寄る
皮膚の薄い所を探し出し簡易ナイフを当てるが
「はぁ、ある程度予想してたけど……
目の当たりにすると堪えるものがあるな、ははは」
イノシシの表皮は硬く切れる気配が微塵もしなかった
全力で引き千切ろうとしても失敗
紐で吊し上げ地面に叩きつけようとしても重すぎて失敗
穿たれたの箇所から穴を広げようとしても失敗
もう駄目かなこれは、硬すぎて話にならんぞ
この調子だと中身の肉も硬いんだろうな
腹はまだある程度耐えれるけど喉はもうそろそろ限界だ
確か人間は二日か三日水を取らないと死ぬんだっけ?
急がないと死ぬぞ、俺
そう思い森を駆ける、幸い体力が尽きることは無かった
この体はメッチャ高性能だ
もしかしたら水が無くても生きられるかもしれない……それは無いか
無闇に歩き回るのは危険だが留まってもどうにもなら無い
なら行くしかないか
歩く、歩く、偶に走る
魔物はあれからスライム三匹にイノシシ一匹と木の魔物にあった
イノシシは体に泥を浴びてたら案外バレなかったのでやり過ごした
ときより狼の様な遠吠えが聞こえたからその方向は迂回した
森の出口は案外近かった、一日も寝る事なく辿り着いた
初めは少し木が減ってきた
「何か違和感がする、何だ?」
気付かない、違和感はするがそれだけ
まぁ、そんなに大差無かったしねしゃーないしゃーない
次に明らかに木が無くなってきた、最早木々の隙間から光が差し込むレベル
というかそれが普通なんだけどね、魔物の森は木があり過ぎて下に光全く来ない、そんなんでどうやって光合成してるんだって言う感じだけど異世界だもんね、気にしない気にしない
次第に木が減ってゆき木も大分小さくなった
4メートル位か?
森の境目は良く分かった、そこを堺にパッタリと木が無くなった
光が差し込み視界が広がったそこは草原だった
「草原か?ここにも魔物いるのかな?」
魔物も人も居ないな、とりあえずあの魔女からは早く離れたい、真っ直ぐ行くか
それにしても何も無いな
「おーい誰かいるかー」
ま、居ないよな
『ヒュンッ』
「え?」
光が飛んできた地面は焼けている
焦げて草は無くなっている
『ヒュン』
「やっばい」
光が飛んできた方を向くといくつもの光が飛んできた。
「逃げろ逃げろ」
その光が来た方向と反対の方に逃げる逃げる。
「早いって、無理!無理!死ぬから!ちょっと!?聞いてんの!?
だーもうッ!この世界に来て死にそうな目にあってばっかじゃねーかよ‼‼」
右に、左に、地面に光が沈む
そこは黒く焦げていて喰らったら不味いという事を俺に如実に伝える
「クッッソがーーー!
んだよお前はーーーーーッッッッ!!」
太腿に光が当たる
痛く、無い?
当たった箇所を見てみる
服はチリヂリに破けている、赤白く光り扇げば炎が出そうになっている
その服の中身は、無傷
当たったという感触と少し熱いと言う感触はある
だが痛みは無い
もしかして俺って結構硬い?
「魔女の使い魔めっ、ここが貴様の墓場だぞ」
振り返ると長身で神経質そうな顔の男がいた
何だろう、この溢れ出る小物感は……