第二話 許さない
その日俺はいつも通り昼間大学に行って授業を受けて
いつも通り皆と遊んで、騒いで、飯食って
いつも通り疲れて帰って来てパパッと風呂に入って、課題を終わらせて
気付いたら12時越してて
いつも通りベットに潜って、寝た
だが、その日起きたら暗闇の中にいた
途方もない暗闇に連れて行かれて行か恐怖した
更には地獄を味わった、体が裂ける痛みを味わった
その苦痛の最中、ぼんやりとした頭で考える
これをしたのは十中八九誘拐犯
でもそんな事を考えても仕方ない何故ならもう俺は死ぬ
悪足掻きだと分かってる、無意味な事だというのも
でも叫ばずには居られなかった、必死に出した声はか細く叫ぶ等と呼べる代物では無かった
だが確かに言い放った、聞こえる声で
「魔女…め…殺して…やる…ぶっ…殺して…やる」
——―
終わりは唐突だった
痛みは引き、長い苦痛に満ちた時間は終わりを迎えた
「ぁかっ、は、はぁはぁ」
痛みが引いてから込み上げる衝動に任せて咳を零す
喉の奥につっかえていた物が飛び出して楽になる
「良かった、落ち着いたみたいだね」
こいつは何を言っている?こんなのにしたのはお前だろうが
矛盾してる、人の事を苦しめてそれが治まったら良かった?
分かってた事だがこいつは飛んだ異端者だ
「そんなに睨まないでくれよ確かに僕は君に酷な事をしたかもしれない、だが、これからは君を大切にすると誓うよ」
何だよ、散々苦しい思いにしておいて今更大切にするとか……
信じれない、信じられる訳がない
俺は我慢強くないんだ、そんな事言われて
こんな事されて……
「ふざけるな…ふざけるな!名前どころか顔も分からない相手にそれも突然苦しめてきた奴に今更大切にすると言われてい納得出来るかっ!!」
思わず怒鳴る、そりゃそうだこんな事されて黙ってる程俺は良い奴じゃない
この時はそう怒鳴るのが危険だとは頭から抜けていた
「済まない、名乗り遅れたな」
「は?違う俺が言ってるのは」
魔女は手を叩いて「これでいいかい?」といった
瞬間、魔女の周りから光が部屋を包んだ、そしてそこに現れたのは、透き通るような金髪碧眼で色白頰らかであり、何処か鋭い目付きをした、整った顔に白黒の服を着た高校生位の少女だった
何だ……よ、これ
魔法かよどんな種だ?
「私の名前はクルル、魔物の森の魔女クルル・ジェファー、君の名前は?」
「今のは、何だ」
「私は名乗ったんだから君も名乗るのが礼儀なんじゃないのかい?」
「魔物の森の魔女……?
ふっ……異世界かよ」
こいつは魔女だだが、俺がこいつを魔女だと呼んだのはその精神性から、だが、こいつが自分のことを魔女だと自称したのは、しかもこいつはさっき手を叩いて光を出した
これは魔法か?いや、只のマゾだなファンタジーぶって満足鋭だけの
「おーい、聞いてるかい?」
こいつが本当の魔女で魔術や魔法が使えるとしたら、いいや冷静になれ俺、そんなことあるわけないよな?
「ここまで無視されると流石の私でも傷つくなぁ」
魔女はわざとらしく肩を竦めた、何処までも苛つく女だ
「おい、ここってどこだ?」
「そうだねー、教えてあげても良いけど」
「ここは何処だッッ‼︎教えろッ‼︎」
再度、怒鳴る先程よりもずっと強く、大きく怒鳴る
「確かにここに連れて来られて焦る気持ち分かるさ、だからこそ教えな」
「ギッッッツ‼︎」
歯嚙みをする、ギリッと強く歯が欠ける程強く
もしここが日本ではなく外国ですらなかったら…
そう考えると寒気がする
魔女は心底嫌そうな顔をして、ため息を吐き、
「ここは、モーリス帝国領土北方の魔物の森だよ」
知らない、そんな場所は、世辞にも国の名前には詳しくなかったが少なくとも魔物の森とかそんなファンジーな名前、聞き覚え位はある筈
つまりモーリス帝国だとか魔物の森だろかはこいつの狂言だろ
その筈だ
「俺をどうやってここに連れてきた、教えろ」
「召喚、かな?」
妄言だな、話しが通じる相手じゃ無い分かってた事だ
だうするどうやって抜ける、如何すれば
そうだ、皆は、宮川は加藤はもし居るなら一緒に
「俺以外に連れてきた奴は居るか?」
「何人かね、昨日叫び声とか聞こえなかったかい?」
そうだった、その人今如何して居るのだろか?
考えても仕方がない俺が生きてるって事はその人も生きてるって事だろ
人が多く居るのは良い事だ、其奴と一緒にここを出てってやる
「連れてきた奴の中に宮川か加藤か土本とかいう名前の奴は居たか?」
「いちいち名前なんて知らないよ」
「俺には散々聞いてきたのにか?」
「君は別だよ、君は適合者だからね」
適合者、今は良いどうせ妄言だ
「じゃあ、今から名前を聞いてきてくれ」
「残念だけど、イエスとは言えないよ」
「何でだ?」
「死んでるから」
………は?
「君以外は不適合者だったから」
なんだよそれ、俺も殺されるのか?
適合者、そうだ適合者!俺がその役だとして生きられるのか?
俺だけ?他の奴らは如何なる、不適合者とか言ってて
本当に死んでるのか?確認だけでも
魔女は俺の顔を見て何を思ったのか
「ああ、ちょっと待っててね」
魔女は俺を置いて出て行った、今逃げるか?
俺は決意した目で
「出てこう」
と呟き正面の扉に手をかける、『ガチャリ』と音を立てて扉が開くとそこには上目遣いで背中に何かを隠した魔女が居た
「どこに行くのかな?」
「あ……」
終わった、戻って来るのが早かった
役を演じない役者、こういう類の人間には要らない存在なのでは
「大丈夫、私が君に危害を加える事は無いよ」
「何を」
もう駄目だ、こいつは何を言っても意味が無い
出て行こう、今すぐ!
「出てくのは良いけど、君のお友達が居ないか見たいんじゃないのかい」
そう言う魔女の肩をグッと押して部屋から出て行こうとする
「ちょ、まだもうちょっと待ってよ
もう、そんなせっかちな君に、ジャーン」
魔女が背に隠していた手を見せる
その手に握られていたのは生首だった、髪の毛を掴んで左右で7人
「うっ……」
それを見て手で顔を抑える、そのせいで魔女の肩から手が外れる
吐き気がした、吐くまでは行かないが気持ち悪い、こいつは何をしたいんだ
俺ももうすぐあれの仲間入りするのか
「この中に君の友達はいない?」
顔を上げる、その生首を一つ一つじっくりと見ていくと、知っている顔が一つあった
「宮…川……」
「居たのかい?」
「あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎!」
膝から泣き崩れる、泣いて泣いて何度も泣く
死んだ、死んだのだ知人が、俺の友達が
昨日まで一緒に話してたのに……
それをしたのはこの魔女
憎しみを二重分に掛けた視線で魔女を睨む、鋭く、涙で赤く腫れた瞳が魔女を捉える
このままでは死ぬという焦燥感と友達が死んでしまった悲しみとそれを成した魔女への憎悪で感情がぐちゃぐちゃになる
「許さ…ねえ、殺す、生き延びて殺す、絶対に殺す」
殺すには生きなければ、生きてここから出て行って、殺してやる
でも俺は仮にここから抜け出せたとしても生きていく事ができるだろうか
そんな事はもう今は考えるな、ここを出なきゃ絶対に死ぬ
逃げ出すならば、正面のこいつを押し退けて突き抜けるしかないか…
「取り合えず私が君にした事を説明しよう」
そうだ、俺の身体は引き千切られて、まだ生きている?
何故だ、なんで
幻覚?
「鏡を見てきなよ、ほらそこにあるから」
俺は立ち上がり魔女に言われるがまま鏡へと向かった
「これは」
傷一つ無かった、何時ものとうり眉毛に掛からない程度の前髪、どこにでも居るような目、鼻、口。あの苦痛は錯覚だったのか、何かの影響が見せた幻想だったのか。
「少し前まで君の体はぐちゃぐちゃになっていたよ、でもそれは君が自己修復した」
「どういう事だ」
「私打った血は生き物を魔女の使い魔、化物にさせるものだ、君にはその血の適性があっただから、君はもう人ではない」
「死んどけよッ」
「出来る事なら私もそいしたいね」
「殺す、宮川を殺した事、他にも何人も殺した事、後悔しろよお前に与えられた苦痛を10倍にいいや、100倍にして返してやる
禄に生きて行けると思うなよ」
「ああ、そうだね」
何だよこいつはッこんなに飄々としやがって!
憎い、憎い憎い憎い憎い
宮川を殺して、親友を……殺しやがって
今ここでッ
魔女の首を掴む
「無駄だ」
このままこの首を折ってやる。
白くて細い少女の首だ。
『ゴギッ』
「ハッ、呆気ない」
手を離した。
「死んでるよな」
そう言った瞬間、鈍い音を立てて魔女の首が元に戻っていく
「ゴホッ…ゴホッ…ゲホッ…… ッ…はあ、結構、痛かったよでも、言ったでしょ無駄だって」
確かに首を折った、なのにこいつは
「化け物」
「君も同じようなものだよ」
どうすれば殺せる息の根を絶てる
「この森を出て行って僕を殺せる方法を探して来たらいい私以外の魔女達に助けを求めても良いだろう
まぁ無理だろうけね」
「助言ありがとうよ、言われるまでもねえ、とっととこんなとこでてってやる」
そのまま魔女をほっぽり出して部屋から出る、案外囚われていた家は小さく直ぐに外に出れた
今思えばまんまとこの魔女の口車に乗せられていたのだろう、だが、これでよかった思う
少なくとも今は
「ごめんね、でも……でも……………」
魔女は、クルルは辛そうな顔でそう話す