第一話 最悪の朝
本小説は29話を持ちまして連載を中止しております
それでも良いという方は見て行ったください
「頼んだ、じゃあな」
「うん、また会おう」
夢の様な感覚、自分の事なのに遠くから見てる様な
そこには少しだけ老いて、純白の翼の生えた俺が少女に抱き着いて大言壮語を囁く、少女はうんうんと相槌を打っている
胸が締め付けられるようだ、懐かしいこの感じ
安心する
悪くはない、寧ろ気分が良い
ずっとこのままで居たいずっと……ずっと————―
しかしやらなくてはならない事がある、それは俺がしたい事であり少女が望む事である
だがそれは少女がやろうとしている手段とは一回りも二回りも違う手段で
少女から離れて最後にその唇に唇を重ね六百年間思い続けて居たことを叫ぶ
心の奥底から想うことであり、全ての行動の源であるその言葉……
「愛してる、■■!」
「うん、私もだよ」
俺の名前を呟きお互いの思いを確認しあう
少女の頬には一筋、涙が滴る
少女から視線を外しすぐそばにいる親友と愛娘に告げる
「頼む、やってくれ■■、■■」
「ああ、分かった」
「了~解」
愛娘が俺に手を向けて術式を一つ一つ紡ぐ
俺は重厚な箱、棺、棚ともどれとも言えない魔道具の中心に大きく開いたすっぽりはまる場所に身を包む
親友はただ見ているだけだ
翼で体を覆い、魔道具からは顔しか見えない、準備は整った
「いくぞ」
「お前は見てるだけだけどな。頼む」
「まだ時間あるけど~、も~うやるの?」
「ああ」
「そ」
親友と愛娘と遣り取りを交わしあった後、少女の方に目をやる
決意に満ちた目で
「待ってろよ、俺が必ずお前を————―殺してやる」
その瞬間、意識が暗転した
——
俺は目を覚ました最悪の日の始まりだ
目が覚める、腕に違和感を感じてその方向を見ようと腕を見ようと動かそうとする
「ん、ぁ?うご…けない………は?」
腕は縄でぐるぐる巻きにされている
朝起きたら縄で縛り付けられてるとか、何の冗談だよ。
此処は、家じゃ無いよな
右を見る、暗い。左を見る、暗闇が広がっている。首を上にあげる、暗がりだ
これはあれだな誘拐ってやつかな、成程あーはいはいわかりました
これってっ結構やばくね
鼓動が早くなるのが分かる、こんな事マジであるの?
親とも疎遠だったから助けてくれる可能性は薄い……一縷の望みもあるけど無理かな?
電話帳の中身は、宮川に加藤に渡辺に土本に田辺にブツブツ…俺ってマジ大学生活エンジョイしてる~、じゃなくて宮川あたりなら助けてくれるか?
俺を誘拐しても大した身代金出ませんよー
あっても友達の金ですよー
友達、親友とも呼べるやつを巻き込むのは気が引けるが万事急須だもんな
多分許してはくれるさ。不可抗力って奴だな
それでも出来るだけ自分から出てかないとな、危ない?
うーん、近くに人の気配は無い、よな。よし、か八か
「誰かーヘルミーヘルプミー助けてーおーい…」
ま、期待なんか最初からなか——―
「嫌だ!死にたくない!
やめて、お願い、お願いします。まだ、まだーーーーーッ!」
その瞬間、彼女の心臓は潰れた
何?悲鳴?なんか叫んでたし、これって猟奇犯かよ
本当に……死んだのか?死、死!
なんだそれ、やべぇ死ぬこのままじゃ俺も死ぬクッソ解けろよこの紐っ、ビクともしねえ抜けろ抜けろ抜けろきつ過ぎだろうが!
「コツン」
少女の擬音を口に出す声が聞こえる、鈴が鳴るような声音でただのいたいけな少女の声にしか思えない
だがこの少女は人を殺している、そう考えると可憐な声音が恐怖の象徴のように思えてならない
っやばいぞ何でこいつはこんな事を、変態の思考なんて分かるかよ!
今は目の前のことに集中!集中!
「コツン」
再度少女の声が聞こえる
おどろおどろしい空間でロシア人形が純朴な子供の声で喋る怖さがそこにはあった
楽しく、微笑ましい声だからこそより恐怖を倍増させる
近いってどうすればいい考えろ、考えろ紐は切れないし抜け出せない、暗くて周りもよく分からない、誘拐犯はすぐそこに来ているあいつが来れば俺は死ぬ
なら来る前に方をつけるしか……どうやって?
足掻け、男だろ!
ここで終わって堪るか
「コツン」
最後、少女の声が目前までやってくる
最早足は止まっているが口でコツンと言う様は狂気の沙汰としか思えてならない
暗がりに居る、顔は見えないけどそこに居る
手が届く距離にそいつは来てる
何なんだよ、これ
嗚呼、嫌な人生だったな親と喧嘩別れして、それはいい、あんなちんぴらの元に居なくて正解だ
最後には友達多かったもんなぁ
俺が死んだらどれだけの人が悲しんでくれる?
結構多いだろう
でも彼女なんて人生で一度もいた事がない、彼女欲しかったな、童貞か……
でももう死ぬ、死ぬのか?
嫌だ
嫌だ生きろ、生きろ生きたらチャンスなんかいっぱい転がってる!
死にたくない、痛いのも嫌だ!
こんな所で終わって堪るかッ!
出ろよ!火事場の馬鹿力ァァァッ!
「アあああああああッッッッッッーーーーーー」
叫ぶ、全力で、体の底から
望む、生きる事を、心の底から
『ドクン』
な!?体の奥から何かが湧き出てーーーーー
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
体が裂ける裂けて何かが出てくる
それは今までの人生の無意味を告げる鐘、それは新しい自分を喜ぶ鐘
彼方に飛ばした何かが少しだけ分かった気がする
そんな事もつかの間、激痛が俺を幾度となく襲う
「ぁ」
声がした、女の声だ少し赤らんだ、恋をしている少女の声が、罪悪感と悲しみと焦燥の混じった濃すぎて不可知にもなる声が……
その間にも俺の体は裂けていく骨が押しつぶされ皮膚を突き抜ける、体の至る所に裂傷がつき、眼球が飛出し垂れ下がる、痛みをとおり越しもう既に何も感じない
だが、まだ生きている普通なら死ぬような傷はいくつもある、だが生きている意識もある、何故だかはわからない、ただただ辛い
そして俺は途切れ途切れの声で呟いた
「魔女…め…殺して…やる…ぶっ…殺して…やる」
目の前の女は、魔女は笑っていたと思う
慈しむ様な、慈母の笑み、慈善を体現したような姿
これを見てそんな笑みを漏らすのは頭のネジが飛んだ異常者だけだ
「うん、シン」
生き残りたい、絶望した思考でそんな事を考える
魔女の言葉を聞かずに