2話
ざわざわと、それほどうるさくはない雑音が部屋を満たしている。
ある者は見知った者と話し、あるいは社交性のある人物が見知らぬ者に話しかけたり、または見知らぬ者に、緊張し押し黙る者。そう、初学年、高校1年の教室である。
その中で俺―― 1年2組出席番号1番、天夜 識は持ち前の人見知りを発揮し、1番前の席で黙っていたのだった。
斜め右後ろ、煉のいる方を振り向けば、案の定初対面、この学校に今日から入ってくるものに声をかけている。周りには女子も数人いて、まだ初日なのに割と多い人数で会話をしている。 一方で、俺は話せない。別に、人見知り以外での特別な理由とかではない。話せる相手がまだ来ていないだけのことである。早く来い。
そんな風にもんもんとしながら、少し手前の方の斜めを見ると、幼なじみ、鳴がいる。見たところ女子何人かで仲良くしゃべっているようだ。横にいるやつは..あれ、確か去年同じクラスだったやつか、あいつも大概だな、などと思いながら見ていると、あいつがこちらを見る。目が合う。そらす。
......恥ずかしい。目が合ったことにではない。いや、目が合ったのも少しは恥ずかしいが。そんなことより、誰とも話していないところを見られたのが恥ずかしい。あいつの中でぼっちの高校生という象で俺が認識されてしまうからである。昔からの知り合いに。
このあまりの状況に羞恥心を感じて、机に顔を埋めると、
「そこの1人ぼっちの高校生くん、大丈夫かな?」
と声をかけられる。鳴だ。
「.....俺はぼっちじゃない。」
「ほっちでしょ」
「友達いますけど?」
「今は?」
「来てないだけだよ!」
思わず顔を上げる。
「友達いないとかじゃなくて?」
「いや、ちゃんといる、ほんとに」
「じゃあなんで誰とも話してないの」
「知らない人と会話なんてできん、それに知ってるやつまだ来てないし」
「....陰キャじゃん」
「ニヤニヤしながら言うのやめろ、傷つく。
というか、さっきまで会話してたろ。抜けてきていいのか」
「別にいいでしょ、最初はこんなもんだと思うけど」
「.....わからない.....」
「昔っからその人見知りっぽいとこ、変わんないね」
「うるさい.... って、ちょっと待て、抜けて俺のとこ来たのか?」
「そうだけど」
「あらやだ奥さん、勘違いされるやつじゃないですか」
「誰が奥さんよ、それに、誰とも話してないのを気遣って来てあげたんですけど?」
「勘違いの部分にも言及してくれ、怖いから」
「気にしすぎでしょ。会ったばかりで誰が誰好きーとか考えて見てる人なんていないだろうし」
「コミュ強者の正論殴りやめてくれない?痛いんだが」
「痛いなら知らない人と喋ってみよう、それいけあまやん」
「それはいやです」
「また夫婦漫才やってるの?やめてよ」
と、煉がいつの間にかこちらに来て会話に割り込んでくる。
「いや、違うわ。ってか、俺とお前もいつもこんな感じだろ。それと一緒だよ」
「さっきのは傍から見たら夫婦漫才にしか見えないよ」
「よかったね天夜、私が嫁だよ」
「チェンジで」
「なんでよ」
「いや.....ないなって....」
「............」
「煉、怖いぞ!?なんだその目は」
「イラッときたから燃やすか凍らすかどっちにしようかと思ってたんだけど」
「理由は分からないけど許してください」
と、話していると、教員が教室へと入ってくる。恐らく担任かなにかだ。
それを見て、他の生徒がゆっくりと席につきだす。それに合わせて、
「じゃあ識、また後でね」
と、鳴が離れる。
「識....」
「な、なんすか煉さん」
「あとで燃やすね」
と、怖い捨て台詞で煉は立ち去るのだった。
その後、簡単な説明があり、体育館へ移動して入学式を終える。そして、あるものの確認作業が行われる、という次第になった。
「それじゃあ、1人ずつ䏏の確認をして行くから、順番に廊下に来てくれ。 天夜。」
「はい」
名前を呼ばれたので、廊下に出る。䏏とは、別名は第六感で、人によっては怪力になったり、傷の治りが早かったりする。ちなみに、煉は物を燃やしたり凍らせたりできる。こわい。
「天夜は....確か『観測』だそうだな?」
資料を見ながら担任が問う。
「はい、そうですね。ただ見るだけですけど。」
「害はなさそうだが、一応確認しておく。何かそれで弊害とか、他の人に影響とかは、与えていないよな?」
「はい...他人を傷つけるような使い方はしてない..というか出来ませんが」
「ならよし、次のやつを呼んできてもらえるか?」
「分かりました。」
これで確認は終わる。入学前に提出した資料を元に、䏏の害と内容を確認する。そうすることで学校として適切な援助をうんたら、というものらしい。
まあ自分の場合、目に入るものをはっきりと把握出来るくらいだ。例えば空を飛ぶ鳥を見て、それをじっと見ると、ズームしたように鳥が近くで見えるようになるレベルのもので、全然なのだが。
そんなことを思いながら、自分の席へと移動し次の番の人へと声をかける。
―――――
そうこうして、全員の確認が終わったため、解散となった。
鞄を手に取り、煉と一緒に下校しようと教室を出ると、
煉はこの一日でもう人気を得たようで、女子の集団に声をかけられ、一緒に下校することになった。なので、他に誰か一緒に下校できるやついないかなと思っていると、
「ねえ、久しぶりだし、一緒に帰らない?方向ほぼ一緒だし」
と、鳴に声を掛けられた。恥ずかしいので、
「やだよ...他にお前は帰るやついるだろ?」
というと、
「冷洌くんが全部お持ち帰りしたからいないんだよねえ」
「その言い方は語弊があると思うぞ」
「もう、そういう意味じゃないよ? それより、私も帰る相手いないし、どう?同じいなくなった同士として」
「.....わかった、帰ればいいんだろ?」
「そうですよ〜、じゃあ帰ろっか」
「そうだな」
と、2人で帰ることになった。
䏏は実際には にみ と読みません
この漢字がにくづきで意味も見つからなかったので当て字としてちょうどいいかなと思って使いやした
䏏(にみ)で異能力です、覚えてやってください!