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時食みの騎士と若賢者




 ドシュウゥ――――。




「っ!?」

「なぁんだぁ!?」


 唐突に聞こえた聞きなれない音。

 それに対して、2人の男がそちらへ視線を送ると。


「…。」


 全身をドス黒い鎧で纏った『人』が、彼らの仲間の首を背後から刎ねていた所であった。


 鮮血が舞う中、ガシャンという音と共に黒鉄の大剣が舞い、


 グジュっと。もう一人の男の胸を潰した。


「ひ、ヒィ!」


 大の大人の背丈ほどの長さ、胴体ほどの幅をもった大剣。

 その大剣より少し低い程度の背しかない黒騎士は、それを片手で振り回していた。


 悪魔か竜を象ったようなヘルム。

 真っ黒な角や牙などが所々にあしらわれた、歪な重鎧。


 最後に残った男は、そこでようやく襲撃者の風体を知った。


(こい…つ――――!)


 知っていた。その『化け物』の事を。

 脳がその情報を引き出し、行動を起こそうとしたその男は。


「っ…?」


 ドガッという音と浮遊感を感じ。


 首が消えた自身の胴体を、視界に映した。






――――――――――――――――





「…3人でマトモなヤツの半分にも満たないとは。」


 鎧で籠っていることを考慮しても、異様に低い声が発せられる。



 林の中の小道にて。


 大剣の血を拭った黒騎士は自身の腰に刺さってあった片刃の大型ナイフを抜き、胸を潰された男性の頭部を切断する。


 そのまま所持品を漁る。―――刃物、小銭、少量の保存食。


「貴金属の類はナシか。」


 最後の一人への物色を終えて立ち上がる。


「ぁ、うぁ―――。」

「…?」


 何かの呻き声のようなものが聞こえ、そこで初めて腰を抜かした少女がいることに気付いた。


 褐色をした髪をウナジで切りそろえた、如何にも村民の娘のような子だった。

 何かの布で作った袋を肩掛けカバンのように身に着け、遠出している身なりだ。


 …最初の一人が馬鹿のように無防備だったことを思い出し、納得すると同時に頭痛を覚える。


(――勘弁してくれ。)


 転がっていた3つの生首を麻袋に突っ込み、そのまま少女を観察する。

 …暫くそのままだったが、向こうからアクションを起こされることはなかった。


「…。」


 そのまま立ち去ろうとして、


「あの!待って、下さい…。」


 背を向けたところで、声がとんできた。


(――――ふぅ。)


「何だ?」


 背を向けたまま、頭だけ横に向ける。

 少女の方は見えなかったが、「無視はしない」という意思表示にはなっただろう。


「え、あ、コレ(・・)は…。」


 茶色い瞳を地面の方に向けた少女が、戸惑うように尋ねる。

 コレ…。死体のことだろう。


「野獣や魔物が勝手に処理する。」

「でも、人の遺体を…。」


(…面倒なタイプだ。)


 少女に聞こえないよう、黒騎士は大きくため息を付いた。


 あの3人に襲われていたというのに、事が終わった途端にその外道共の遺体について心配するのだ。


 黒騎士にも並の道徳はある。

 職業柄割り切っているはいるが―――明らかにただの村民の少女が、助けられた身でありながら、それを指摘する。

 気分がいい訳がない。


「ならお前が処理しろ。」


 こう言えば、大抵の相手は引き下がる。


 確かに彼らを殺したのは自身だ。始末をするのであれば、自身がするべきなのだろう。

 だがこちらにはその意思はなく、向こうが勝手に提案しているのだ。

 「お前がしろ」と言うのは何も理不尽な物言いではない。


「っ。」


 少女が黙った。


(やはりな。)


 呆れると同時に安堵した黒騎士は、そのまま正面を向き。


「では、私が浄化だけでも。」


 その言葉で、今度はしっかり振り返った。


「…浄化?」

「ぁ、あ、何か問題が?」

「いや…。」


 浄化魔法は、場所によっては特段と珍しいわけではない。

 ただ、どこからどうみてもただの村民の彼女が「浄化する」と言ったことに面食らったのだ。


「…。」


 腰を抜かして座り込んでいた少女が、ヨロヨロと立ち上がる。

 少女は死体の前で膝を付き、手を組んで目を閉じた。


「―――。」


 同時に、死体から暖かな光が溢れ。

 転倒時に着いた土や傷口から溢れた血液の汚れが、綺麗に消え去った。


 浄化をしなければ、死体を媒介とした魔物が生まれることもある。

 …このような場所であれば、その前に飢えた獣の糧になるだろうが。


「祝詞は唱えなくて良かったのか?」

「? 祝詞…ですか?」


 神官たちが浄化を行う際、何かしら云々と面倒な詩を読んでいた姿を思い出す。

 …もしかすると神官以外が浄化をするときは、彼女のように手早く済ませているのかもしれない。


 わざわざ神の奇跡のように演じる必要があるのだろう、と神官たちの知られざる苦労を感じ取った。


「しかし…。」


 黒騎士は、少女の浄化を見て舌を巻いた。

 並の司祭や助祭が共同で行う大仰な儀式なんぞよりも、強力な魔力が発せられていた。


(どこかの村で有望な聖職者の候補でも見つけたのか?)


 魔力量と魔操力は、それぞれ年齢に比例、反比例すると言われている。

 つまり、歳をとれば魔力が増える変わり、魔力を自在に操る力――魔操力が下がる、と。


 まだ若い彼女に、これほどの魔力が籠っているのであれば。

 魔操力をしっかりと英才教育すれば、将来が非常に楽しみな存在になるだろう。



 この可能性の卵を、都市へ呼び寄せた―――。

 いや、護衛…教会が必要ないと勝手に決めつけたか?


「お前、なぜこのような所にいる?

 ソレ(・・)以外にも、野獣や魔物に目を付けられることもあるだろう。」


 何か後ろ暗いことがあるのであれば、去っていこうとする者を呼び止めることはないだろう。

 …普通であれば不必要に踏み込もうとはしなかった。だが彼女の魔力に興味を惹かれ、つい尋ねてしまった。


「あ、え、と。 あの、街に出て、冒険者に。」

「冒険―――。」


 少女の返事に、黒騎士は耳を疑った。



 …彼女のような稀有な存在が。

 ―――自分と同じ職場に来る(・・・・・・・・・・)とは。



「えっと、…もしよければ、街に向かうのなら。」

「――――――。」


(まずい…。)


 こうなることは予想出来ていた筈なのに。

 …このような出会いで、こんな接点を作ってしまったのは何度目だろう。



「――――。」

「あ、っ!」


 黒騎士は少女から視線を外し、そのまま進みだした。


 ガシャ、ガシャという鎧の音。鎧の重量感からは考えられないほど、黒騎士はズンズン進んでいった。

 少女と歩幅を合わせるつもりのない速度であった。



(――――来るな。いや、別に街には来てもいいけれど。

 …どうか、来るな。)






―――――――――――――――――――――――





 夕暮れ。 

 荒れくれ者のような連中が、とある建物へ入っていく。


 冒険者ギルドだ。


 食い扶持に困った者。腕っぷしに自信のある者。正義の味方を目指す者や、名誉を欲する者。

 所属する者たちの目的は様々だ。



 『その日一日を生き延びること』という、当たり前の前提。

 勿論、日帰りの依頼だけではないため厳密には異なるが。


 自身の、次に仲間の、遅れて顔見知りの命が、無事であることを喜び。

 知人を。仲間を失ってしまった事を悲しみ―――――。

 





「「「「乾ぱああぁああぁあい!」」」」



 ガァラアァンという音と、少し強かったらしくこぼれてしまう液体。


 その一日が無事に過ぎた喜びを分かち合い、召され消えた命を弔い。

 騒がしくも、ある意味神聖な光景であった。




「東の方への護衛依頼は来てないか?」

「へへっ見ろ!タスクボアの牙だ!」

「カタコンベの調査報告を。」

「お、暫く見なかったが!生きてたか!」

「暫くて…お前が遠征に行ってたんだから当然だろ。」

「そりゃそうだがな!がっはっは!」


 受付に報告に来る、たくさんの冒険者。

 単なる報告だけでなく、自身が生存している証明でもある大切な行程。


 たくさんの冒険者や、受付の者たちの絶え間ない応酬が続く中――――。



 ガドガション。



「「「「――――――。」」」」


 全員の視線が、入り口に向く。

 ギルドの「時」が、止まったような錯覚に陥った。


 ガション、ガション。


 黒騎士が、報告用の受付の列へ並ぼうとする。

 …同時に、並んでいた冒険者全員が、避けるように列から外れていった。


「…首3つ。911番から913番。」


 黒騎士は麻布からゴトゴトと「ソレ」を落とし、受付に静かに告げる。


「―――っ! ぇあ、へ、は。」


 そして運悪く、まだ「耐性」のなかった受付の女性がそれに対応し、顔を真っ青にしてしまった。



 賞金首。


 受付の中には「こういったもの」に十分な耐性のない者も少なからず居る。

 そういった受付への配慮の為、普通の冒険者であれば番号を告げて袋を渡すだけなのだが。


「「「…。」」」


 冒険者たちはその光景に様々な反応を示す。無遠慮な態度に対する怒り、非常識さに対する批判。受付の者への同情。

 だが直接何かを言う者は、既にいなくなっていた。


「…報酬は、後日貰いに来る。」


 受付の対応に配慮してか、黒騎士はそれだけ言い残し。


 ドガション、ガションと音をたて、黒騎士は消えていった。







「―――おいおいギルドは無能かよ!?」

「賞金首が張られたってのに!なんでアイツが来るのを警戒しなかったんだよ!?」


 やがて静まっていた酒場がまた動き出した。


 勿論、黒騎士の行動について野次を跳ばす者たちもいたが、決して彼を批判する者は一切いなかった。

 「恐れ」―――もあるのだろうけれど。大部分が「諦め」であった。「ああいうヤツなのだ」と。


 荒れくれ者の多い冒険者だ。あの黒騎士の態度に対して悶着がある…筈だが。

 誰もが返り討ちに会い、多額の賞金が掛かていった首を全て狩り尽くし、無双の力を証明している化け物。

 理詰めで正そうとした者もいなくはなかったが、それが通用しているのならばこうはなっていなかっただろう。


 生き残ることが最優先である冒険者達が決して組しようとは思えないほどに、黒騎士は孤立した存在になっていた。



 ――――その孤立こそが、黒騎士の望む物なのだが。






――――――――――――――――――――――――――





 日が沈み。街が魔灯に照らされ始める頃。


 ガション、ガションという音が深夜に響き渡る。

 人通りの少ないその道は昼夜問わずに静寂で、その鎧の音を阻むものはなかった。



 「人がいない」というのは、黒騎士にとって都合がよかった。

 その上、人気のない宿が借りられたこともまた、僥倖であった。


(稼げる首が減ってきた。そろそろ別の街に移るか?

 いや…金には困っていない。悪名が消えない程度に、雲隠れしようか…?)


 宿へ向かいながら鎧の音を背景音にして思考を巡らす。


(―――あの少女は。 冒険者になると言っていたが…。)


 思考の海の中に、ふと少女が過る。

 めったに見られない魔力。冒険者となればそこそこ大成するだろうが。


(田舎に(にしき)を送りたいというのなら…あの魔力があるのなら、宮廷魔術師か神官になればいい筈だが。)


 ガションガションという音と共に、思考は巡り続ける。


(冒険者を「誰でも手軽に稼げるお仕事」として考えているのか?)


 魔術師やら神官やらに比べて、冒険者という職業がとっつきやすいのは否定できない。

 だが、才能があるのであれば話は別だ。


 もし宮廷魔術師や神官の道を知らなかったのであれば、それを教えてやればよかったか?

 その方が自身との接点を減らせたであろうし。



(あんな子の一人旅。よくご両親が許したな。)


 今後の予定の計画から、出会った少女についてへと思考が向いていた。

 余り好ましいことではないのだが。どうしても少女の事を思ってしまう。


 言葉を数回交わしただけの相手だというのに。―――自身が飢えているのを自覚してしまう。

 最後にまともなやり取りをしたのは――――そう。56年も前(・・・・・)だった。



 56年前。それと連鎖して、過去のことを思い出した。


(彼女は…ああそうだ。彼女のせいで、狩猟やら護衛やらを受注するのを避けていたんだったな。

 その前は――はぁ、そうだったそうだった。北上したのはアイツのせいだったか。)


 黒騎士の脳裏に過去に交流した――してしまった人たちの顔が浮かぶ。

 何度も自覚し、何度も後悔し、それでもまたこうして交流を欲している。



 しかし、今度は上手く拒絶できたはずである。

 このまま彼女のことを忘れ、別の街に向かえば――――。





「あ、あの!」





(―――!―――――!!―――――――!!!)


 後方から、声が聞こえて来た。

 黒騎士は苦しみ悶えた。ほんの少しでも歓喜の念を覚えてしまった自身に。


「…。」


 ガションガション。


「待ってください!ちょっと!」


 ガショガショガショ。


「あ、走っ!待ってください!」

「…。」


 ガション、ガション。ガショ…。


 黒騎士は立ち止まった。


 走って撒いても良かったが、この様子だと撒いてもしつこく探してくるだろう。

 はっきりと拒絶の意図を伝えるべきだ、と。


「…冒険者ギルドに行くのではなかったのか?」


 睨むように(ヘルムで隠れているからほぼ意味ないが)少女を向き、少々怒気を込めた声で尋ねる。


「えと、先に宿をとってからと思って…。」

「ギルドの近くや商店街にある筈では?」

「その、懐に余裕がなくって。安い宿を。」

「…。」


 立地のせいか低価格だったことを思い出す黒騎士。

 金額に対して一切気にしてはいなかったが、まさかこんな形で牙を剥くとは。


「お前の浄化を見た、率直な意見になるが。」

「?」

「ごろつきもどきの頂点になるよりも、魔術師の職場や聖職者の階位を持った方が稼げる魔力のように思えるが。」

「稼ぐ…いえ、あの。そうでなくて。」


 田舎から少年少女が、様々な思いを馳せて冒険者となるため、街に出る。よくある話だ。

 単純に金ではなかったということだ。ならば無理にそれらの職を薦めても意味はないだろう。


「その…私のおばあちゃんが、幼かった頃に、すごい冒険者が助けにきたって。

 おばあちゃんだけじゃなくて、村の皆が、とてもすごい冒険者さんだったって、それはもう、しつこいくらいに。」


 村の皆の様子を思い出したようで、少女は苦笑いを浮かべていた。


「それで…その冒険者ほどではないらしいけど、私は、強いらしくて、だから。

 私も、ずっと『冒険者はすごい』って言われていたせいか、憧れを…。」


 恥ずかしそうにうつむく少女。

 黒騎士は少女の話を要点だけ聞くようにし、とりあえず「憧れ」だということだけ理解した。


「なぜ、私にわざわざ声を掛けた? 宿の場所を知ってるんだろう?」

「だいたいの場所だけで。 あー、宿の話もですけれど、それと、その…。」


 …少女が何を言おうとしているのか察した黒騎士は、しかし逃げる口実が浮かばず。


「…もしよろしかったら、冒険者の先輩として沢山教えてください…なんて。」


 ―――言わせてしまった。


「…。」


 黒騎士は暫く動かなかった。

 それは、とある覚悟のために必要な間だったのだ。


「…なぜ私なんだ?」

「え?」

「冒険者ギルドに行けば、お前と同年代の連中もいる。

 見ての通り私は単独でしか行動しない。誰かと行動しながら―――指導しながらなんぞ論外だ。」

「…。」

「それに私は、賞金首を中心に潰している。私が跳ばした首を見て目を白黒させてたお前が、付いてこれるのか?」

「それは、なら、より私を連れていくべきです!」

「…ぁ。」


 諦めさせようとして、「賞金狩りを中心にしている」と言ったのは失言だったと気付いた。


「あなたが賞金狩りの為に出してしまった死体を、私が浄化します!

 それにあの時は、襲われたせいで動けなかっただけで、首にビックリしたわけじゃなくて…!」

「…。」


 「私も浄化魔法は使える、お前の手を借りる必要などない。」と、正直に述べたとしても。

 死体の処理を彼女に任せてしまった時点で「使えたとしても放っておく」と考えるのは当然の帰結。


 そもそも、ここまで食い下がられるような相手には、黒騎士も意を決するしかない。


 黒騎士は、既に諦めかけていた。

 この手の輩は、何を言っても聞かない、と。


「今一度問う。なぜ私なんだ?」

「――あの、あなたの事を、ギルドで聞きました。」

「――――。」


 知っている人が限られているあの安宿を知っていた時点で、既にギルドでいくつかの聞き取りをしたのだろう。

 その内に、黒騎士の話も出て来ただけの話だ。


「でも、あなたはこうして、私に親身になって。 何も話さない不気味な人なんかじゃなくて。」

「…。」

「何か、何か理由があって、でも、私だけには大丈夫なのかなって。」

「……。」

「だから―――その、こんなこと、言う立場じゃないけど、…。 あなたを、助けたくて。」

「………。」


 …。




 「あなたを、助けたい。」




 黒騎士は、2人の友人を思い出していた。

 一人は、誰にでも優しかった「調薬師」。

 一人は、どこにも属さなかった「治癒術師」。






 ああ。 彼女も、私の「友人」になるのか。

 いや。 彼女は。 「友人」になる前に――――。






「はぁ。言わせてもらう。」

「…。」


 黒騎士が、悪魔或いは竜を象ったヘルムの(アギト)部分に手を当てた。


「お前が特別だったから、声を掛けたわけではない。 単なる偶然だ。」


 ガゴッという音と共に、ヘルムの顎部分を外した。

 白い綺麗な肌をしていた。


「そして。」

「えっ!?」


 先ほどまでは、低い壮年を連想させる声色。

 顎を外した黒騎士のソレは、若い――いや、幼い女性の物であった。


 下手をすれば、少女よりも僅かに未成熟な。


「私が人を寄せ付けないのは、それ相応の事情があるからだ。

 どんな大魔導士(アークメイジ)大司教(アークビショップ)にも、解決できないトンデモない事情がな。」


 顎を鎧の胸部の窪みにはめ込み、大きく息を吸った。


「どうしても…私を諦めないつもりか?」


 それは最後の警告だった。無駄だとわかっていても、黒騎士は諦めたくなかった。





「私は…私は、あなたを、助けたい。助けられなくても、いつか、絶対に。」





「―――――とぅはぁ。」


 呆れ諦めた吐息だった。



「…。」


 黒騎士は何も言わず、顎の部分だけを晒すような形になったヘルムを、両手でつかんだ。


 ゆっくりとヘルムが持ち上がり、ヘルムの中に埋まっていた、綺麗な黒髪が広がった。

 やがてヘルムが完全に解かれた時。その美しい長髪は、腰まで伸びていた。


「っ!」


 少女は息を呑んだ。


 ガッチガチの禍々しい、ゴツい黒鎧。

 背中に背負っている、大の大人と同じ大きさの大剣。


 …こんな重装備をしているのが。







 日の暮れた闇夜でも輝く白い肌。髪の色と同じ、黒い瞳。

 こんなに美しい女性だったなんて。








(武器や防具に比べてちょっと小柄…?

 もしかして私より―――――っ!!!!!?)


 黒騎士の素顔に見とれていた少女は、



「あ、ゲ、ギャ、ぎゃあがあああああ”ああ”あ”あ”あ”ああ!!!?」



 唐突に顔を両手で抑え、地面に倒れこんだ。


「…ああ。やはり、こうなったか。」


 黒騎士は少女が七転八倒する様を冷え切った瞳で一瞥し、再びヘルムを被った。

 腰まで伸びる長髪を一瞬で仕舞った様子から、ヘルムの着脱には慣れているようであった。


「へ、げ、へ、げ、げ、げ、げ、」


 やがて悶えも収まってきた少女に、黒騎士は歩み寄った。


「…愚問だが一応尋ねる。 大丈夫か?」

「へぁ、ぁぁ…な”に”が、どヴな”っで…?」


 立とうとして、地面に手をついた少女は、


「…あ”、ぁ”?」


 シミまみれの、骨と皮だけになった自分の手を見、言葉を失った。


「―――――。」


 何が起こったのか。力の入らない体に無理やり力を籠め、震えながら黒騎士を見上げる。


「私に掛かっている、おぞましい呪いさ。

 『私に対してどのような形ででも「若い」と思った者は、私に寿命を食われる』という、な。」


 黒騎士から発せられた言葉は、理解できても受け入れがたいものだった。


「この呪いの製作者は随分とひねくれていてな。

 『呪いの内容を匂わせることを言った場合、問答無用で発動する』。忠告すらさせてもらえないのだ。」


 「あらかじめ言って理解をしてもらえば」。

 そう言おうとした少女は、黒騎士が付け加えたその制約に閉口した。


「そして。吸いだした寿命は、呪いの主の最も活発な肉体年齢を維持するために消化される。

 私のこの姿、50年近く成長が止まってるわけだが。」


 そう言って、胸元にはめて居た顎を取り外し、ヘルムに装着した。


「…この禍々しい鎧も。声を変えるよう術を掛けた口当ても。この鎧を纏うために鍛えた体も。

 全部私の犠牲者が現れないようにするため。

 ギルドで孤立するよう動いたのも。最低限のやり取りしか行わないのも。全て、この為だのに。」


 それだけ言って、黒騎士は立ち去ろうとした。




「…ヒドィ”…。」




 うずくまったままの少女は、呻いた。

 理不尽さ、憤り、口惜しさ。負の感情が込められた、憎悪の言葉であった。


「…。」


 どうやら、聞こえた様子で。

 黒騎士が振り返った。



「…最初に謝っておく。これは全て私の自業自得に対する八つ当たりであり、お前に一切の非はない。

 それを全て承知の上でぶつける私の短慮さを、申し訳ない。

 『隠密と沈黙の契りを』。静寂(クワイエス)。」




 簡単な隠密魔法を周囲に展開し、顎を外して、黒騎士は大きく息を吸った。








「ヒドイ!?ええそうねヒドイよね!

 何も事情を知らないあなた達を巻き込んで!あなた達の未来を奪って!

 私がどれだけ苦しんでいるかも知らずに、ズカズカと私に近づいてきたあなた達に!

 勝手に体から伸びるトゲに、こっちは何も忠告せずに!あなた達を貫かせて私はその血で生き続ける!

 これほどドチャグソなことはないよね!?」


 空間をカチ割るかのような大音声で、黒騎士は叫ぶ。


「全部!私のせいなの!

 全部、ゼーンブ自業自得なんだよ! 本当、本当に、あなた達は何も悪くない!悪くないの…!

 誰も巻き込みたくない、だからこんな恐ろしくて怖い風体をして!

 人が集まるところでは、怖い非常識な人間を装って!

 そのクセ…そのクセ!誰かと話したいって――――、一人が嫌だって!他人を殺すことになるのに、そんなことも忘れて、自分の寂しさを紛らわせるために!中途半端に他人と触れ合って!結局呪い殺して!

 『だから避けたのに』『私は嫌だった』なんて、被害者面して!

 近づいたのはそっちだろって、理不尽な文句で正当化して!!

 何度も後悔して何度も自己正当して何度も『私を想ってくれた人』を呪い殺して!!

 解ってる―――。私は―――ただの人食いの化け物だって。」


 天を仰ぎ、咆哮するかのように慟哭した黒騎士は、がっくりと頭を垂れた。


「自分から。望んで呪いに掛かった。『些細な不自由に、強力な力』なんて甘い言葉に誘われて。

 自身の何かを失う程度ならなんて。なのに…。

 ―――――ふぅ。」


 黒騎士は、ゆっくりと少女の元へ向かい、屈みこんだ。


「ごめん。 山に籠るなり何なりして人の世界に入らければ。 あなたのような人はもう出ないのに。

 …私には、それが出来ないの。

 『時』を奪う度に。奪った『時』を無駄にしていいのか。世の為に時を刻まないといけないって。

 そう――――言い訳して。

 ごめんなさい…。」


 顔を伏せ、黒騎士は黙り込んでしまった。






「…。」


 黒騎士の長い独白。

 ―――少女の憎悪を拭うことは、まったくなかった。


 当然だ。




「ヴゲ…ナい”ぇ―――!」


 少女が震える手が、黒騎士の顔へ伸びる。


「あ”、あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”――――。」

「…。」


 黒騎士は、じっと静止した。その手を払うことなんて、絶対に出来なかった。

 爪を立てられ、皮を剥かれ。眼を抉られても歯を抜かれても。彼女はそれを受け入れるつもりだった。


 そして少女のシミ塗れの手が、黒騎士の元へ届き。








 そっと。頬を伝う涙を拭った。



「―――ぇ。」

「あ”、あ”あ”あ”…。」




 余りにも理不尽だった。

 周囲の者たちを苦しめるような、呪い。



 余りにも腹立たしいことだった。

 強くなりたいという純粋な思いを踏みにじった、呪い。



 余りにも口惜しいことだった。

 呪われた本人をも、永遠と苦しめ続ける、呪い。




 少女の憎悪が拭えるわけがなかった。


 黒騎士の独白で。

 そのクソッタレな呪いが、黒騎士の元から消えるわけでもなんでもなかったから。




 そして、それ以上に。



「う”ぅ”…。」



 この、自分と同い年か、それよりも幼い黒騎士(少女)が。

 その呪いの罪を、全て背負おうとしていることが。


 たまらなく悲しかった。








「ぁ、なん―――で?」

「ア、う”…。」


 少女は、黒騎士の涙で手を濡らし、そして自身に限界が近いことを焦った。


 ダメだ。彼女を1人にしてはいけない。

 これ以上、彼女を孤独にしてはいけない。


 …。


「――――。」


 急速に寿命を迎える肉体。

 霞掛かり始めた思考に、一つの考えが浮かんだ。


「う、あうう”…!」

「え、え?」


 少女が、伸ばしていた手を力なく地面に落としたかと思うと。


「あ、アアアア―――。」


 もう片方の手で、手を組み。

 

「…浄化?」

「ア――――――あああ”あ”あ”あああああああああアアアアあああアアアアあ”ア”あ―――――!」


 まるで、命を燃やすように。

 先ほどの黒騎士の絶叫に負けないほどの、大きな悲鳴を上げた。


 その咆哮の音圧が可視化したかのように。

 目視できるほどの莫大な魔力が、少女から一気に解き放たれた。



「う、わああああ!」


 あまりの魔力の奔流に、黒騎士は吹き飛ばされる。

 顔の大部分を隠していたヘルムも、顎を外していたせいで軽々しく吹っ飛んだ。


「ア”、ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!」


 足りない。

 どれほど自身魔力をかき集めても。この呪いは浄化しきれない。


 自身の全魔力を搾り取り、祈りを捧げ続ける。


「あ”、ああああああああああ!っ!」


 足りない。

 その時、自身の体外にも、魔力が漂っていることを感じ取った。浄化を始める直前まで(・・・・・・・)なかった感覚だ。


 それも、吸収する。


「っ!私の静寂(クワイエス)が!?」


 この大騒動、外に漏らすわけにはいかない。近所迷惑は勿論、自身の呪いの拡散など、面倒が山積みになるに違いない。

 黒騎士は崩壊し始める自身の静寂領域を、超速で修復し始める。


「は、はあああああああああ!」


 足りない。

 魔力を、いや、周囲の魔力は吸えるだけ吸い取った。それでもこの呪いは打ち消せなかった。



 自身の浄化では、救えな――――――。





――――――――――――――――――――――――――――




「祝詞は唱えなくて良かったのか?」

「? 祝詞…ですか?」




――――――――――――――――――――――――――――




 祝詞。祝詞!


 魔法の詠唱のようなものだろうか!?

 だとすれば!望むことをそのまま言葉にすればいい!!


「ああ、あああ!!偉大なる神様!どうか彼女を!彼女を苦しめ縛り付ける呪いを!

 我が魔力を!摩耗しきった私の命と共に捧げます!

 どうか、彼女を!彼女を助けてください!」

「!!!?あ、なた!何を言って―――!」


 黒騎士は、教会神官どもの祝詞には詳しくない。

 それでも少女の祝詞の内容があまりにも自滅を誘う詩だったために、強引に止めに入った。


「だ、ダメ!そんな!か、神!神様! 彼女の命を奪わないで! お願いぃ!!!」


 かつて自身に降りかかった呪いを解呪しようとして、複数人の高名な神官の寿命を奪い。

 それっきり教会から敵視され、自身を救ってくれなかった神を恨み続けていた。


 少女の神頼みが移ったように、つい神に祈りをささげていた。

 恨み憎む神に願いを垂れることなんて御免であったが、それ以上に。

 彼女の自滅なんて、許せなかった。


「神様っ!神さ…神――――。神。」


 だが―――過去に神に救ってもらえなかった黒騎士は、一瞬で気を取り直した。


(―――馬鹿馬鹿しい。神頼みなんて意味ない。

 奇跡なんて期待するな。彼女の魔法を―――妨害するんだ。)


 寿命を奪われたものは、その場でばったり逝ってしまう他に、その後2~3年生きる者もいる。

 彼女はそれを知らず、恐らく直死だと思い込み、こんな無謀な祝詞を唱えたのだ。


(――――!!)


 幸い、今の彼女は老衰した状態。

 魔力量は莫大になっているだろうが、魔操力は一気に低下している筈。


 そして黒騎士は、呪いの力で全盛期の肉体状態を維持している。

 加齢での魔力増加はなくとも、鍛錬の増加は蓄積されているし、魔操力は高いまま。


(止める! 絶対にっ―――!)






 寿命を奪われた者たちの反応は、千差万別であった。



   「勘違いさせて時を奪う詐欺師が」。


   「ずっと伝えようとしていたのに。すまない」。


   「あなたを残すことだけが、心残りです」。


   「出会うんじゃなかった、あなたなんかと」。


   「消えてしまえ、良心を弄ぶ化け物め」。


   「永久を生きる、魔女め」。




 全て受け止めた。

 謝罪も、慰めも、誹りも。


 黒騎士にはただ、受け止めるしか出来なかった。




 でも、今度は違う。

 ほんの少しだけしかないけれど。

 自身が大部分を奪ってしまった、少女の命だけれど。

 まだ消えていないその命を、とどめることが出来る――――――。




「ダメ!あなたの命は、あなたの物だから!」

「でも!あなたの呪いは!」

「あなたは生きるの!私の為に!生きて!」

「――もういいの!私は、私は、あの時、救われたから! 私の恩人に、私の命を捧げて――!」

「ぁ、何を言って!!私は―――!」

「枝、折ってくれたでしょう?」

「――――。」


 黒騎士は少女のその言葉に、動きを止められた。


「私が追いかけやすいようにって。あんなにひどい悪路で、わざわざ私の高さの枝は全部。」

「――――。」

「あなたのおかげで、冒険者の皆さんと沢山お話できた。

 皆さん、あなたを『恐ろしい化け物』とか『お前も気を付けろ』とか、乱暴でしたけど、親切で。」

「――――。」

「勇気を、貰いました。たった一人で、不安で、この街でやっていけるのかって。

 あなたが、ギルドでひどい謂れ様で、あなたのような人でも、欠点があるって。」

「―――なんとも喜び辛い報告ね。」

「だから――――っ!!」






「あなたも、もう、一人にしたくない――――!」





「いいから、おとなしく――――?????」


 そこでようやく。

 黒騎士は、圧倒的な異変が起きていることに気付いた。


「嫌です!あなたの呪いを、絶対に解いて!」

「――――???????」

「あなたの孤独を!私が終わらせます!ですから!」

「ねぇ、ちょっと。」

「ですから!止めないで―――。」

「ま、ストップ!スタアアアップ!!」


 パパパパパパパパパパパパパパッ


「アイタタタタタタ!―――ふぇ?」


 双頬を黒騎士に(ゴッツいガントレットで)叩かれて、少女も異変に気付いた。


「…あれ?私…体…。」


 とりあえず、うずくまっていた体勢を整え、ペタン座り。


 最初に目に入った、自身の手。


 先ほどのシミ塗れの骨の皮だけの手ではなく。

 いや、むしろ呪いを受ける以前の手より、綺麗な肌になっていた。


 そして、自身の毛髪。

 恐らく、老衰で一気に色が抜けて白髪になっていた髪。

 それが輝きを取り戻し、まるで美しい新雪のような純白になっていた。


「あなた…その目…。」

「目?」

「えっと、待って。 反射術用の媒介の手鏡が―――あったぁった。」


 黒騎士が懐から取り出した手鏡に、少女の顔が映る。

 そこには。


「―――。」


 毛髪と同じ、茶色い瞳だったはず。

 そこには、銀色の光を纏った、美しく輝く双眸が瞬いていいた。





「あの、え、えと、あの、私、どうなって…。」


 生まれて十数年しか生きていない少女には、自身の身に何が起こったのか、さっぱり見当がつかない。


「…。」


 だが、少女の百数倍を軽く生きている黒騎士には。

 今現在発生してしまった現象に、心当たりがあった。


「…過去に、聞いたことがあるってだけだけれど。

 加齢とともに失われ、どう足掻いても損失量の減量しかできない魔操力を、永遠に維持する研究があったとされているの。」

「魔操力―――えと、幼いころに強くて、歳をとると弱くなる。」

「そう、それ。

 さんざん意見が飛んだ中『なら永遠に若ければいい』という、馬鹿みたいな意見が出て。

 …実際に実現した変態がいるらしい。」

「変た…。」

「変態でしょう。うん、変態変態。

 …その時に必要だった過程が。大上魔導士(グランドメイジ)25人の魔力を用いた、三日三晩の肉体錬成術だったらしいの。

 25人はしっかり記録に残ってるけど、三日三晩の方は多分誇張表現じゃないかな。」

「肉体錬成術…。」


 オウム返しのようにしか話さなくなった少女の顔を、黒騎士はふにふにとつつき始めた。


「それで、えと。よく解んないんだけど。 なんでもその術の構成に、神官が助言をしていたらしくて。」

「神官?」

「そう。…随分と綺麗な肌ね。

 ああえっと。今起きた現象を踏まえた私の勝手な妄想も入るんだけど…その肉体錬成の根本が、あなたの使った『浄化』と同じなのかな~って。」

「…。?? え、え!? つぅ、まり、その、グラタンメイジ?25人が頑張って行使した」

「グランドメイジ。」

「――あ、えーと、グランドメイジの人が25人集まって、神官さんが首突っ込んで、ようやく完成したその、肉体錬成を、私と、あなたで?」

「…記憶が正しければ、今現在グランドメイジの数は7名。

 その儀式での負担がでかすぎて5人が即死、10人が再起不能。残り3人は天寿で、って。」

「そんな、術を?」

「で、だけど。」


 思う存分少女の頬をフニフニして満足した黒騎士が、立ち上がった。


「その、唯一の肉体錬成術を成功させた変態が『賢者』と呼ばれる、魔術師協会のトップになってる。」

「賢者。」

「ええ。まぁ、不老の術の構築なんて、賢いなんてレベルの偉業じゃないと思うけど。

 言うなればあなたは、そんな賢い術式を無意識で起こしちゃう、天然賢者だね。」

「…。」


 黒騎士が気軽な様子で言っているため少女は気付けていないわけだが。

 彼女の存在を現賢者が知れば何が何でも手元に置こうとするほどの逸材になってしまったのである。

 単独て賢者の儀式を模倣できたという実績もそうだが、…何も、悠遠の孤独に苦しんでいるのは、黒騎士だけではないのだ。


「そういえば…呪いはどうなるんですか?その、賢者は不老って。」

「あ、あー。どうなんだろう。えっと、ずっと吸い続けるのかな…。」

「え、え!?」

「まぁ、まま、私が若いまま云々は私の問題だし、えっと、そのー。」


 黒騎士が手を伸ばす。

 その手を、少女が握り、立ち上がった。


「…改めて、ごめんなさい。あなたの一生を、私のおかしな呪いで歪めてしまって。」

「え、や、ええ、そんな。えと、ずっと私を離そうとしてたのに、私が無理やり押しかけて。」

「…。」


 立ち上がった少女の手を放し、背を向ける黒騎士。


「っ。え、ちょ。」

「――その。 あなたを救えたのは、よかったけれど。 結局私の呪いは残ったままだし。

 私と一緒に居たら、きっと面倒に巻き込んでしまう。せっかくあなたに新しい可能性が広がっ」

「もおおおおおおおお!!」


 ポカッと、少女が黒騎士の頭を叩いた。


「アイッ!? な、何を――。」


 抗議のために振り返った黒騎士に、少女は食って掛かる。


「ちょっと! ああああもう! あなたにはまだ、責任を取ってもらってないよ!」

「責ぃ?」

「わた、私!賢者とか言われてもよく解らないし!そ、れに。私に呪いが通じないなら、別に一緒に居てもいいでしょう?」

「一緒…。」

「いいでしょう?」

「え、へ、い、緒? 一緒。え、へへ。」

「いいでしょう!?」

「う、うん!もち、勿論!」

「なら!」


 黒騎士の手を取って、少女は微笑んだ。


「お願いします! 私を、冒険者後輩としてご指導お願いします!」

「―――こう、ハイ。」


 未知の感覚、黒騎士の世界に電撃が走る。


 呪いを受け。孤立し。


 まともな仲間を得ようとして、殺してしまい。

 人と接点を得ようとして、殺してしまい。


 生の9割以上を孤独に生きた黒騎士に。

 「後輩」というワードは圧倒的な特効を持っていた。




「は、う、うううううううううう~~!」


 顔を真っ赤にした黒騎士は、そのまま少女の手を振りほどき、顔を両手で抑えながら宿の方へ走っていった。


「あ、頭!ヘルム!つけなくていいんですか!?ちょっと!!あ、あはは!ああもう!」


 話を聞くに、彼女はただの村民の自分よりも百数倍単位で年上だ。

 そんな彼女が自身よりも年下にしか見えなかった光景に、少女は――若賢者は、笑顔を抑えきれなかった。

なんか書きたくなって書いてしまった。

その後とかいろいろ自分で妄想してるけど、上手くまとまりそうにないので短編。

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